第123話 街道の襲撃戦
文字数 2,459文字
秋の収穫を終え、僕らは動き出した。
悪党働きに出陣である。
ボット村から出発したのは総勢四十七名。
ハンジー町までは街道を四日の旅程で進軍、現在は旧第二中の村から横道に逸れた森の中で野営中だ。
すでにオギンを斥候に出している。
夏のうちにハンジー町に派遣していたキキョウとコチョウとともに交代で連絡が来る。
どうやって軍を見つけているのか正確に連絡が入るのだから大したもんだ。
軍に同行しているヤッチシとの間で企業秘密の手段があるんだろう。
旧第二中の村から第三先の村までは徒歩二日の距離なので、途中に野営に使われている場所がある。
襲撃予定地点はそこの少し手前あたり。
総大将は僕。
主力部隊なので主だった戦力がこちらに集中している。
僕の左右には今回助っ人としてジョーから借り受けたブローとノーシが控えている。
騎兵は僕らの他にルビレルとルビンス。
弓兵としてバンバを大将にカレン、ザイーダ、イラードほか五名。
槍隊の大将にサビー、副将にガーブラを配してそれぞれ十名をつけて左右に展開。
それに新しい魔法を試したいとラバナルが従軍している。
別働隊の大将はカイジョーだ。
騎乗しているのはカイジョー一人だけど、もともと傭兵部隊で気心のしれたシメイとペギー、オーダイ、アーシカの四人にブンタを加えた六人が、戦利品を奪うためのハンジー町で徴用した輜重人足二十名を連れて街道を挟んだ反対側を、襲撃予定地点まで進軍させている。
僕らが野営を開始して二日後、徴税隊がハンジー町にやってきたという連絡がキキョウからもたらされた。
慣例的に周辺三ヶ村からコロニーの中心地「町」に集められていたものを受け取り、オグマリー市まで運んでいくらしい。
「で、戦力は?」
「はい、騎兵五騎に剣兵五十。昨年と同程度の規模のようです」
僕が反旗を翻してから警護が厚くなったらしいけど、まだまだだね。
むしろ、重税に不満を募らせている村人に対する示威として兵を揃えていると考えた方がいい人数だ。
町にはモンスターなどへの対策に傭兵などを駐屯させている。
五百人を超える住人全てが戦闘員でないとしても相当数が戦闘に動員できるだろうに、コロニーの中心であるその町が裏切らないと思っている能天気な思考回路が平和ボケとしか言いようがない。
「お館様」
昼を過ぎた頃、ヤッチシがオギンと共に僕の前に現れた。
つまり旧第二中の村を出発したという報告だ。
「準備にかかれ」
「はっ」
頭を下げて二人がいなくなる。
ヤッチシが街道の反対側にいる部隊に知らせに行き、オギンはキキョウとコチョウの元へ戻る。
僕のそばに控えていた各部隊長がそれぞれの部隊の準備にかかる。
右軍のガーブラ隊を残し、本軍と左軍が第三先の村側へ移動を開始する。
半時間ほど進んで弓隊を含めた本軍は行軍を停止、左軍はさらに半時間進んだところに待機する手筈になっている。
じりじりと待つこと三時間くらいだろうか?
日が傾いてきた頃、今度はコチョウが現れた。
標的が右軍の前を通り過ぎたという報せだ。
報告を終えたコチョウは、斥候として荷駄が接近するのを確認するため街道脇までラバナルをともなって移動する。
オギンは右軍に残ってタイミングを合わせる手筈になっている。
さらに四半時間、パンという柏手を打ったような音が大きく大きく響く。
ラバナルの魔法で増幅されたコチョウの合図だ。
「おお!」と鬨の声が上がる。
荷駄の後方から大声を上げながらガーブラ隊が槍を構えて街道に出てきたのだ。
「前進!」
僕の合図で街道脇まで軍を前進させる。
街道が見えるところまで進むと、バンバ隊が一列に並んで矢をつがえる。
ほどなくガラガラと荷車の音が聞こえてくる。
その姿が見える前にオギンが姿を現した。
「お館様」
「報告を」
「はい。ガーブラ隊の足止めに剣兵二十を残してこちらへ向かっています」
相手はあまり賢くないようだ。
僕はガーブラ隊をすりつぶすために全軍で攻めるかもと思っていた。
剣兵二十対槍兵十ならいい勝負だろう。
問題は騎兵が二対一だってことだな。
ガーブラは大丈夫だろうか?
「護衛は騎兵三騎に剣兵三十」
「間違いありません」
それを聞いたバンバが弓兵に命令を出す。
「構え!」
先頭には一騎、剣兵二十。
荷駄の後方に二騎と剣兵十。
荷列が通り過ぎるまでしばし、
「射て!」
号令一下、九人の弓手が後方の剣兵めがけて矢を射込む。
「構え」
僕の合図で僕以下、ルビレル、ルビンス、プローにノーシが弓を構える。
「射て!」
一射目と同じ標的に矢を射ると、サッと騎乗して街道をハンジー町方面に走らせる。
ちらりと見た限り、二度の斉射で後衛の剣兵は大体戦闘不能にしたはずだ。
「追え! いや、先を急ぐぞ!」
という声が後ろから聞こえてくる。
いやいや、怖いくらい順調過ぎませんかね?
襲撃はこの後ラバナルが新作魔法をお試して、サビー隊とカイジョー隊が挟撃して荷を奪う手筈になっている。
残りは騎兵三騎に剣兵約二十。
残した弓隊もあることだし、目的は達成できるはずだ。
あとはまだ戦闘の音が聞こえるガーブラ隊を救うこと。
「叫べ!」
号令一下、五騎の騎兵が雄叫び上げて剣兵に突っ込む。
後方から不意をうたれた剣兵は均衡が破れてあっさり戦意を喪失、二対一でガーブラに勝ちきれなかった騎士の二人も降伏した。
「カーブラ、ルビレル。あとは任せた。騎兵は続け!」
僕は素早く取って返す。
三人も心得たもので遅れずについてくる。
すぐに弓隊と合流してさらに追撃すると、すでに大勢が決している戦場が見えてくる。
そこには荷車にしがみ付いて震えている人足と討たれた剣士たちと騎士が一人、降伏した数名の剣士が残っていた。
うん、戦場の習いとは言え、惨いことだ。
この襲撃戦は味方の死者一名重傷者は……ラバナルが魔法で治したんでなし、敵方は戦死騎士一名、剣兵三十一名、捕虜騎士二名、剣兵十九名という結果になった。
不意打ちとは言えずいぶんな圧勝だったな。
悪党働きに出陣である。
ボット村から出発したのは総勢四十七名。
ハンジー町までは街道を四日の旅程で進軍、現在は旧第二中の村から横道に逸れた森の中で野営中だ。
すでにオギンを斥候に出している。
夏のうちにハンジー町に派遣していたキキョウとコチョウとともに交代で連絡が来る。
どうやって軍を見つけているのか正確に連絡が入るのだから大したもんだ。
軍に同行しているヤッチシとの間で企業秘密の手段があるんだろう。
旧第二中の村から第三先の村までは徒歩二日の距離なので、途中に野営に使われている場所がある。
襲撃予定地点はそこの少し手前あたり。
総大将は僕。
主力部隊なので主だった戦力がこちらに集中している。
僕の左右には今回助っ人としてジョーから借り受けたブローとノーシが控えている。
騎兵は僕らの他にルビレルとルビンス。
弓兵としてバンバを大将にカレン、ザイーダ、イラードほか五名。
槍隊の大将にサビー、副将にガーブラを配してそれぞれ十名をつけて左右に展開。
それに新しい魔法を試したいとラバナルが従軍している。
別働隊の大将はカイジョーだ。
騎乗しているのはカイジョー一人だけど、もともと傭兵部隊で気心のしれたシメイとペギー、オーダイ、アーシカの四人にブンタを加えた六人が、戦利品を奪うためのハンジー町で徴用した輜重人足二十名を連れて街道を挟んだ反対側を、襲撃予定地点まで進軍させている。
僕らが野営を開始して二日後、徴税隊がハンジー町にやってきたという連絡がキキョウからもたらされた。
慣例的に周辺三ヶ村からコロニーの中心地「町」に集められていたものを受け取り、オグマリー市まで運んでいくらしい。
「で、戦力は?」
「はい、騎兵五騎に剣兵五十。昨年と同程度の規模のようです」
僕が反旗を翻してから警護が厚くなったらしいけど、まだまだだね。
むしろ、重税に不満を募らせている村人に対する示威として兵を揃えていると考えた方がいい人数だ。
町にはモンスターなどへの対策に傭兵などを駐屯させている。
五百人を超える住人全てが戦闘員でないとしても相当数が戦闘に動員できるだろうに、コロニーの中心であるその町が裏切らないと思っている能天気な思考回路が平和ボケとしか言いようがない。
「お館様」
昼を過ぎた頃、ヤッチシがオギンと共に僕の前に現れた。
つまり旧第二中の村を出発したという報告だ。
「準備にかかれ」
「はっ」
頭を下げて二人がいなくなる。
ヤッチシが街道の反対側にいる部隊に知らせに行き、オギンはキキョウとコチョウの元へ戻る。
僕のそばに控えていた各部隊長がそれぞれの部隊の準備にかかる。
右軍のガーブラ隊を残し、本軍と左軍が第三先の村側へ移動を開始する。
半時間ほど進んで弓隊を含めた本軍は行軍を停止、左軍はさらに半時間進んだところに待機する手筈になっている。
じりじりと待つこと三時間くらいだろうか?
日が傾いてきた頃、今度はコチョウが現れた。
標的が右軍の前を通り過ぎたという報せだ。
報告を終えたコチョウは、斥候として荷駄が接近するのを確認するため街道脇までラバナルをともなって移動する。
オギンは右軍に残ってタイミングを合わせる手筈になっている。
さらに四半時間、パンという柏手を打ったような音が大きく大きく響く。
ラバナルの魔法で増幅されたコチョウの合図だ。
「おお!」と鬨の声が上がる。
荷駄の後方から大声を上げながらガーブラ隊が槍を構えて街道に出てきたのだ。
「前進!」
僕の合図で街道脇まで軍を前進させる。
街道が見えるところまで進むと、バンバ隊が一列に並んで矢をつがえる。
ほどなくガラガラと荷車の音が聞こえてくる。
その姿が見える前にオギンが姿を現した。
「お館様」
「報告を」
「はい。ガーブラ隊の足止めに剣兵二十を残してこちらへ向かっています」
相手はあまり賢くないようだ。
僕はガーブラ隊をすりつぶすために全軍で攻めるかもと思っていた。
剣兵二十対槍兵十ならいい勝負だろう。
問題は騎兵が二対一だってことだな。
ガーブラは大丈夫だろうか?
「護衛は騎兵三騎に剣兵三十」
「間違いありません」
それを聞いたバンバが弓兵に命令を出す。
「構え!」
先頭には一騎、剣兵二十。
荷駄の後方に二騎と剣兵十。
荷列が通り過ぎるまでしばし、
「射て!」
号令一下、九人の弓手が後方の剣兵めがけて矢を射込む。
「構え」
僕の合図で僕以下、ルビレル、ルビンス、プローにノーシが弓を構える。
「射て!」
一射目と同じ標的に矢を射ると、サッと騎乗して街道をハンジー町方面に走らせる。
ちらりと見た限り、二度の斉射で後衛の剣兵は大体戦闘不能にしたはずだ。
「追え! いや、先を急ぐぞ!」
という声が後ろから聞こえてくる。
いやいや、怖いくらい順調過ぎませんかね?
襲撃はこの後ラバナルが新作魔法をお試して、サビー隊とカイジョー隊が挟撃して荷を奪う手筈になっている。
残りは騎兵三騎に剣兵約二十。
残した弓隊もあることだし、目的は達成できるはずだ。
あとはまだ戦闘の音が聞こえるガーブラ隊を救うこと。
「叫べ!」
号令一下、五騎の騎兵が雄叫び上げて剣兵に突っ込む。
後方から不意をうたれた剣兵は均衡が破れてあっさり戦意を喪失、二対一でガーブラに勝ちきれなかった騎士の二人も降伏した。
「カーブラ、ルビレル。あとは任せた。騎兵は続け!」
僕は素早く取って返す。
三人も心得たもので遅れずについてくる。
すぐに弓隊と合流してさらに追撃すると、すでに大勢が決している戦場が見えてくる。
そこには荷車にしがみ付いて震えている人足と討たれた剣士たちと騎士が一人、降伏した数名の剣士が残っていた。
うん、戦場の習いとは言え、惨いことだ。
この襲撃戦は味方の死者一名重傷者は……ラバナルが魔法で治したんでなし、敵方は戦死騎士一名、剣兵三十一名、捕虜騎士二名、剣兵十九名という結果になった。
不意打ちとは言えずいぶんな圧勝だったな。