第136話 オグマリー市攻城戦 4

文字数 1,806文字

 ぐるりと戦況を見渡すと、すでにガーブラとルビレルが一対一の勝負に勝利して助太刀に動こうとしていた。

「ガーブラ! 歩兵を蹴散らせ!」

「合点!」

 こちらの歩兵戦力は基本、槍兵なんで槍ぶすまで敵の進撃を食い止めている。
 けれど、槍は取り回しが難しく接近戦が苦手だ。
 だからがっぷり四つに組み合ってしまうと不利になりかねないんで、適度にガーブラに敵兵をひっぺがしてもらおうっていう目論見だ。

(あなたはどうするの?)

(もちろん助太刀に入るさ)

 騎兵同士の戦いで劣勢なのはサビーくらいかな?
 あとは寝返ったばかりでやりにくそうなホーク。
 たぶん、サビーはあえてリーダー格の騎士を選んで激突したんだろう。
 案外そういうところあるんだよね。
 自信があるのか、ひりつく危険が好きなのか?
 あっちはまだ大丈夫だ。
 なにせ笑みを浮かべながら戦っている。
 むしろ、まだ本気を出していないのかと思っちゃうくらいに見える。
 拍車を掛けてホークの助太刀に向かう。

「下郎め」

 罵ってくれて構わんよ、一対一なんて所詮は自己満足だ。
 しかし敵もさるもの、防戦一方になってもなかなか負けてくれない。
 防御に徹していると隙ってのは簡単には生まれないもんなんだなぁ。

(そうだ)

「やあやあ我こそは()(たび)の戦の(しゅ)(かい)、最奥が村のジャン・ロイなり! オルバック家の命運はとうに尽きたり、志ある者は我が軍門に降りたまえ!」

 精一杯の大音声で叫ぶと、近くにいた敵の意識がこちらに向く。

「隙あり!」

 特に目の前の騎兵は驚愕の表情を浮かべて僕の顔を見た。
 そんなところを戦士が見逃すはずもなく、ホークの突きが脇の下の鎧がないところを刺し貫く。

「む、無念……」

「なにをしてくれてるんですかっ!」

 慌てて、駆け寄ってきたのはルビレルとルビンスだった。

「なに?」

「なにではございませんぞ、お館様。敵が、大将首を狙いに殺到するとは思わなかったのですか?」

(あ……)

(思わなかったんだ)

「退け!」

 敵の大将らしい男が叫ぶ。
 やっぱりサビーが相手にしていたのがこの軍の大将だったらしい。
 彼だけは、僕の名乗りに惑わされていなかったらしく、きっちりサビーの攻撃をしのいでなお戦況を確認する余裕があったと見える。
 騎兵の大半が手負いになったと見てとったんだな。
 突破を諦めて、戦力温存を選択したんだろう。
 ここであっさり返すなんて愚策だな。
 多少の犠牲は止むを得ない。
 
「追え! 一兵でも多く討ち取るんだ!!

 僕も声の限りに叫ぶ。
 戦場が押し出される。

「父上、殿(しんがり)に」

「判っておる」

 なにを判ってんの?
 そこに一時的に指揮を離れてきたカイジョーが合流する。

「追撃を止めてくれ! ありゃダメだ」

「どういうことだ?」

「殿を任されているのはジャパヌの隊だ」

「ジャパヌ?」

「傭兵隊です。リーダーのジャパヌを筆頭にフラヌス、ケーニャ、クッサーク、アメリアと一騎当千の猛者(もさ)がいる一団です」

 おっと、ルビレルの説明を聞いてると踊りながら戦いそうな奴らだな。

「あいつら相手に一般兵が太刀打ちなんかできるわけがない。こちらの損害が甚大になるだけです。あんな奴らがいるなんて聞いてないぜ」

 確かに事前情報ではそんな奴らがいるなんて聞いていなかった。

「判った。任せる」

「任せれた」

 すぐさまジャンジャンと撤退の鐘がなる。

「厄介ですな」

「そこまでか」

「実力で言うならカシオペアの五人に匹敵するかと」

 そりゃ大変だ。
 そこにサビーが戻ってきた。

「オレと戦っていた奴の名前、判るか?」

 僕に訊いたんじゃないだろうな。

「彼の名はダイモンド・アイザー。たぶん、今のオルバック軍で三本の指に入る実力者だよ」

「あんなのが後二人もいるのか」

 言葉とは裏腹に楽しそうだな、サビー。

「後の二人ってのは?」

「はい、オクサ・バニキッタ、ラビティア・バニキッタ兄弟です」

「ルビンスとどっちが強いんだ?」

「容赦ないな、サビーは。十回やれば三度は勝てる」

 分が悪いな、おい。

「判った。戦果と被害の確認をして休息を取ろう」

「再度攻撃に来ませんか?」

「うーん……」

 僕の見立てじゃ、ない。
 けど、だからと言って対策を疎かにするのは愚の骨頂だろうな。

「警戒は怠るな」

 としか言えないか。

「はっ」

 その後、一時間ほどでこの一戦の結果が報告される。
 敵兵死者騎兵六騎、歩兵二十八、捕虜歩兵十一。
 味方歩兵二十二名。

 ……さて、今後はどうしたものか。
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