第260話 領地漫遊の始まり

文字数 1,839文字

 てな訳で、僕は鉱山都市イデュルマへ行ってみることにした。
 大仰にご領主様のお成りぃ、なんてことにしたら大事ななにかを隠されてしまうかと思案して少数の供周りだけを連れて行くことにしたんだけど、人選には一苦労だ。
 側室になったキャラは二人目を妊娠中なので連れて行くわけに行かないし、オギンも一人目の出産が間近。
 そんなオギンの旦那であるトビーを連れ回すとオギンに恨まれそうだ。
 余談ながらサラもご懐妊ですとつい先日クレタに言われてる。
 そういえば二月ほど月のものが来ていないって言ってたものな。

「誰を連れて行くのがいいだろうか?」

 と、キャラとサラに相談しているところに運よくジョーが()(こう)してきて

「それならヤッチシと助さん格さんを連れてくといい」

 と、言ってくれた。
 ヤッチシはジョーのキャラバンの諜報を一手に担っているヤッチシ・ホイルピンのこと。
 いつの間にか助さん格さんと呼ぶようになった二人はブロー・スッケサンとノーシ・カーススというジョーの護衛だ。

「それはありがたいけど、キャラバンはどうするんだ?」

「これでもお前(お館様)の政商だぞ。本来、城下にどっしり居を構えてふんぞりかえっている身分だ。けどそんな暮らしは性に合わん。キャラバンは情報収集を兼ねた逃避だ」

「それで回ってるんなら、よっぽと優秀な部下が揃ってるんだろうな」

「まぁな。とはいえ、いつまでも逃げ回っているわけにもいかん。一度じっくり腰を落ち着ける頃合いだったんだ。だから、三人ともお供に使ってくれ。仕事がある方が彼らも喜ぶだろうからな」

「じゃあ、ありがたく三人を借りるよ」

 と言うことで四人で出かけようと旅支度で城下町に降りたところで、珍しい男にばったり出会ってしまった。

「あれ? お館様、お出かけですか?」

 声をかけてきたのはべハッチ・セザン。
 言わずと知れたセザン村の村長である。

「村長が村を離れてなにかあったのか?」

「いえね、もうすっかり村も発展しまして、最近じゃあろくにやることもなくって、嫁に旅にでも行ってらっしゃいと送り出されてきたんですよ」

 奥さんをはじめ村人からも「うっかりベハッチ」なんて呼ばれているくらいだから、もしかしたら奥さんに体よく追い出されたんじゃねぇの?
 今頃奥さん鬼の居ぬ間に命の洗濯と洒落込んでるに違いない。

「とはいえ目的もありませんので、とりあえずお館様にご挨拶にでも行こうかって思いまして」

 そのお館様を目の前に「とりあえず」なんてつけるあたりうっかりがすぎると思うんだけどな。

 …………!

「じゃあ、暇なんだな?」

「え? ええ、まぁ暇っちゃ暇ですね」

「よしついて来い」

「はい?」

「これからちょっとイデュルマに行くところなんだ。供を許すぞ。というか、ついて来い」

 と、無理やりべハッチをお供に加えて連れ出すことにした。
 これで諸国漫遊の初期メンバー勢揃いだ。
 でも、僕はどう見たってご隠居ってわけにいかないしな……。

「いいか、みんな、これはお忍び旅だ。僕はゼニナルの反物問屋の若旦那。いいな」

「へへ、面白そうですな。じゃああっしは無宿の渡世人としてつかず離れずお供しやしょう」

 と、ヤッチシがいえば

「ワタシたちは番頭と手代、べハッチは身の回りの世話をする下男あたりでどうでしょう?」

 と、ノーシがいう。

「どっちが手代だよ?」

「そりゃあお前、ブローが手代でワタシが番頭だろう」

「なんだと?」

「それより、アッシが下男ってなんですか。これでも村長ですよ」

「ところで、お名前はどうしやすんで? まさかジャン様ってわけにもいかねぇでしょう?」

 あー、そうだね。
 パッと思いついたのはジャン・ロイから宇宙刑事の名前二つなんだけど、そういうわけにもいかないか。

「安直にトミーとかマックとか? あー、ヒョーゴってのもいいな」

「ヒョーゴってのはどっから出てきたんです? その中ならアッシはヒョーゴ様ってのが呼びやすくていいですね」

 と、べハッチが言うのでヒョーゴで通すことに決めた。

「それじゃあスケさん」

「はい」

「カクさん」

「え、ワタシですか?」

 なんだ? 助さん格さんってジョーは呼んでたけど、あれは陰でってことだったのか?
 ま、いいけど。

「まいりましょう」

 と、歩き出すと、べハッチが

「あ、お館様。アッシのことは呼んでくれないんですか? ね、ちょっと」

 と、追いかけてくる。

「ハッチ、お館様じゃない。ゼニナルの反物問屋の若旦那、ヒョーゴですよ。ヒョーゴ」

「ヒョーゴ様ぁ」

 道中、面白くなりそうだ。
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