第313話 覚悟の違い
文字数 2,113文字
(このまま突っ込むつもり!?)
疾駆する僕の隣を並走(飛んでるんだけど)しながらリリムが訊ねる。
(まさか、いくら腕に自信があるからって単身軍の只中に突っ込むほど僕は無謀じゃない)
走りながら僕は右手にそれていく。
それに釣られるように敵軍も動く。
左翼がより左に拡がり、右翼は僕を覆い囲むように動く。
兵はよく訓練され指揮官は相当優秀なのだろう。。
あれだけ雷撃で被害を受けているのによくこれほど速やかに建て直せるものだ。
この部隊、丸ごと欲しいな。
しかし、こちらの味方もよく訓練されているぞ。
僕ひとりを取り囲もうとするあまり、軍の存在をおろそかにするものだから、右翼の部隊が銃兵の恰好の的として銃撃に曝されている。
特に狙いを定めず間断なく放たれる銃弾に進軍速度を落とされた敵右翼は僕を容易に囲めない。
その間にウータ率いる騎兵隊が敵右翼の側面にまわって突撃をかける。
僕を囲もうとして左を向く形になっていた後ろから攻めたようなものだから効果はてきめんだ。
僕はといえばぐるりと右旋回をして包囲の虎口を脱して右翼の兵と数合斬り結んでは左へ左へとホルスを走らせ、ついに味方の騎兵隊に合流する。
合流さえできてしまえばこっちのものだ。
味方かせ背後や側面を守ってくれる安心感よ。
これで思う存分戦える。
能力向上改の効果も手伝って雑兵などはものの数じゃない。
槍で突いて、払って寄せつけない。
そうこうしているうちに混戦になってしまったがそれもいい。
一時間ほど戦っていると、敵将からの降伏の使者がくる。
誰の指揮だったのかは知らないけれど、いつの間にか味方の兵がぐるりと取り囲んでいたようだ。
特に町への退路を分厚く遮っているあたり、なかなか巧みな用兵だ。
それにしても、敵将だよ。
魔法の雷撃に動揺する兵を落ち着かせて僕を囲むように傭兵した手腕、囲まれたと見るや被害の少ないうちに降伏する決断力。
そんな将が、なぜ見え見えの誘いに釣り出されて町から出てきたんだ?
そんなことを疑問に持ちつつ敵兵の武装解除を待っていると、ウータに連れられて二人の男が僕の前に来る。
顔が似ているから兄弟だろうか。
ひとりは膝をつき恭順を示し、もう一人は胸を張って仁王立ち。
「アシックサル軍オッカメー侵攻軍別働隊隊長アゲールです」
「同じく副隊長サゲール」
副隊長の方が偉そうだな。
チラリとサゲールを見上げるアゲールの恨めしそうな顔で、だいたい判った。
無謀にも出撃したのがサゲールで、降伏の決断をしたのがアゲールだったのだろう。
サゲールに対してはなにも言わず、目を伏せてアゲールが続ける。
「このたびは降伏を受け入れてくださりありがとうございます」
それに対してサゲールは奥歯を噛み締めている。
よっぽど不本意なのだろう。
不本意なのはむしろ隊長であるアゲールの方だろうに。
「勝負のついている戦で無駄に兵を損ずるのは愚の骨頂。よき判断だ」
と、声をかけるとアゲールはさらにこうべを下げ、サゲールは僕を睨みつけてくる。
「さて、投降した兵は武装解除を完了し次第このまま国へ帰すつもりでいるのだが、問題は将である貴様らの処分だ」
と、ここでわざと長い沈黙を作る。
沈黙に耐えかねたのかサゲールが喚く。
「すでに覚悟はできている。一思いに首を刎ねたらどうだ。なにをもったいぶっている」
敗軍の将ってのは性格が出るなぁ。
「アゲールも同じ思いか?」
「敗軍の将として勝軍の処断に従う覚悟はございます」
二人の覚悟は似て非なるものだ。
サゲールの覚悟は死ぬ覚悟だけだが、アゲールの覚悟は恥辱にまみれても生きる覚悟もできている。
やはり好もしい。
「いいだろう。サゲールは自刃せよ。ウータ、連れて行け」
と、天幕からサゲールを退出させると、改めてアゲールを見つめる。
殊勝にも目を伏せてそのまま無言で待ち続けているアゲールに
「やはり、町を出たのはサゲールか?」
彼は無言で頷く。
「用兵の指示もサゲールが?」
「ロイ殿を囲ませたようとしたことを指しているのであればワタシの指示です。武運拙いのか、ロイ殿の巧みな手綱捌きによるものか、失敗に終わりましたが」
「判断は悪くない。兵の練度が足りなかっただけだろう」
「そう言っていただけると、天国での自慢の種になります」
「気が早いな」
「は?」
「その知略、我が軍でふるってみる気はないか?」
返事を待つと、長い長い沈黙が天幕の中を支配する。
「一つ、お訊ねしても?」
「なんなりと」
「ロイ殿は下剋上領主であると聞いております。なにを求めて戦をしておられるのでしょうや?」
「私自身が天寿をまっとうするため」
「天寿……?」
表情が険しくなったな。
「アゲール、長生きする秘訣は知っているか?」
「よいものを食べることでしょうか?」
「それもあるだろうな」
うちの領内なら教育が進んでいるからもう少し理解が早いんだろうけど、ここは丁寧に説明しなければならないのだろう。
「よいか、長生きをするためには必要な栄養を過不足なく摂取し、適度に運動をして清潔でいることだ。心労を感じない生活ができればなおいい」
「半分も理解できません」
……ああ、そう。
疾駆する僕の隣を並走(飛んでるんだけど)しながらリリムが訊ねる。
(まさか、いくら腕に自信があるからって単身軍の只中に突っ込むほど僕は無謀じゃない)
走りながら僕は右手にそれていく。
それに釣られるように敵軍も動く。
左翼がより左に拡がり、右翼は僕を覆い囲むように動く。
兵はよく訓練され指揮官は相当優秀なのだろう。。
あれだけ雷撃で被害を受けているのによくこれほど速やかに建て直せるものだ。
この部隊、丸ごと欲しいな。
しかし、こちらの味方もよく訓練されているぞ。
僕ひとりを取り囲もうとするあまり、軍の存在をおろそかにするものだから、右翼の部隊が銃兵の恰好の的として銃撃に曝されている。
特に狙いを定めず間断なく放たれる銃弾に進軍速度を落とされた敵右翼は僕を容易に囲めない。
その間にウータ率いる騎兵隊が敵右翼の側面にまわって突撃をかける。
僕を囲もうとして左を向く形になっていた後ろから攻めたようなものだから効果はてきめんだ。
僕はといえばぐるりと右旋回をして包囲の虎口を脱して右翼の兵と数合斬り結んでは左へ左へとホルスを走らせ、ついに味方の騎兵隊に合流する。
合流さえできてしまえばこっちのものだ。
味方かせ背後や側面を守ってくれる安心感よ。
これで思う存分戦える。
能力向上改の効果も手伝って雑兵などはものの数じゃない。
槍で突いて、払って寄せつけない。
そうこうしているうちに混戦になってしまったがそれもいい。
一時間ほど戦っていると、敵将からの降伏の使者がくる。
誰の指揮だったのかは知らないけれど、いつの間にか味方の兵がぐるりと取り囲んでいたようだ。
特に町への退路を分厚く遮っているあたり、なかなか巧みな用兵だ。
それにしても、敵将だよ。
魔法の雷撃に動揺する兵を落ち着かせて僕を囲むように傭兵した手腕、囲まれたと見るや被害の少ないうちに降伏する決断力。
そんな将が、なぜ見え見えの誘いに釣り出されて町から出てきたんだ?
そんなことを疑問に持ちつつ敵兵の武装解除を待っていると、ウータに連れられて二人の男が僕の前に来る。
顔が似ているから兄弟だろうか。
ひとりは膝をつき恭順を示し、もう一人は胸を張って仁王立ち。
「アシックサル軍オッカメー侵攻軍別働隊隊長アゲールです」
「同じく副隊長サゲール」
副隊長の方が偉そうだな。
チラリとサゲールを見上げるアゲールの恨めしそうな顔で、だいたい判った。
無謀にも出撃したのがサゲールで、降伏の決断をしたのがアゲールだったのだろう。
サゲールに対してはなにも言わず、目を伏せてアゲールが続ける。
「このたびは降伏を受け入れてくださりありがとうございます」
それに対してサゲールは奥歯を噛み締めている。
よっぽど不本意なのだろう。
不本意なのはむしろ隊長であるアゲールの方だろうに。
「勝負のついている戦で無駄に兵を損ずるのは愚の骨頂。よき判断だ」
と、声をかけるとアゲールはさらにこうべを下げ、サゲールは僕を睨みつけてくる。
「さて、投降した兵は武装解除を完了し次第このまま国へ帰すつもりでいるのだが、問題は将である貴様らの処分だ」
と、ここでわざと長い沈黙を作る。
沈黙に耐えかねたのかサゲールが喚く。
「すでに覚悟はできている。一思いに首を刎ねたらどうだ。なにをもったいぶっている」
敗軍の将ってのは性格が出るなぁ。
「アゲールも同じ思いか?」
「敗軍の将として勝軍の処断に従う覚悟はございます」
二人の覚悟は似て非なるものだ。
サゲールの覚悟は死ぬ覚悟だけだが、アゲールの覚悟は恥辱にまみれても生きる覚悟もできている。
やはり好もしい。
「いいだろう。サゲールは自刃せよ。ウータ、連れて行け」
と、天幕からサゲールを退出させると、改めてアゲールを見つめる。
殊勝にも目を伏せてそのまま無言で待ち続けているアゲールに
「やはり、町を出たのはサゲールか?」
彼は無言で頷く。
「用兵の指示もサゲールが?」
「ロイ殿を囲ませたようとしたことを指しているのであればワタシの指示です。武運拙いのか、ロイ殿の巧みな手綱捌きによるものか、失敗に終わりましたが」
「判断は悪くない。兵の練度が足りなかっただけだろう」
「そう言っていただけると、天国での自慢の種になります」
「気が早いな」
「は?」
「その知略、我が軍でふるってみる気はないか?」
返事を待つと、長い長い沈黙が天幕の中を支配する。
「一つ、お訊ねしても?」
「なんなりと」
「ロイ殿は下剋上領主であると聞いております。なにを求めて戦をしておられるのでしょうや?」
「私自身が天寿をまっとうするため」
「天寿……?」
表情が険しくなったな。
「アゲール、長生きする秘訣は知っているか?」
「よいものを食べることでしょうか?」
「それもあるだろうな」
うちの領内なら教育が進んでいるからもう少し理解が早いんだろうけど、ここは丁寧に説明しなければならないのだろう。
「よいか、長生きをするためには必要な栄養を過不足なく摂取し、適度に運動をして清潔でいることだ。心労を感じない生活ができればなおいい」
「半分も理解できません」
……ああ、そう。