第151話 魔法と科学 5月号?
文字数 2,242文字
中長期計画会議から一ヶ月。
この間に進んだのは文官採用試験の問題作りと各町の行政長官交代に伴う引き継ぎくらいだった。
体制づくりに一ヶ月費やすとかヤバくない?
こんなんじゃあっという間にハネムーン期間すぎちゃうじゃないか。
もっとも、僕がオグマリー区を支配下に収めてから半年すぎてるし、おおむね僕の支持率は高いけどね。
支持率低くても独裁者だから多少は無茶できるけどさ。
もちろん、無茶しないよ。
各町の新体制を整えるための試験は来月を予定している。
農作業が一息つくタイミングだ。
この試験は誰でも受験できると広報している。
とはいえ読み書きも満足にできない人には無理なわけだし、どれくらいの人が受験するかね?
「無茶をしてくれるね」
ハンジー町をサイに引き継いでバロ村にやってきたチカマックの第一声だ。
「挨拶もなしにそれかよ」
「代官をやっていた身としては痛快だけど、今現在文官やってる貴族連中カンカンだぜ」
「ろくに仕事もできない低級貴族なんてポイだよ。いらないいらない」
「で? 代官をクビになって呼び出された理由は?」
自虐か。
「魔法科学大臣を任命するためだ」
「…………は?」
「魔法科学大臣の任命だ」
「魔法は判る。今は使えないがこの世界よりずっと進んだ魔法知識があるからな。しかし、科学の方は……科学こそ好きなだけだぞ」
「それでいい。知識は僕ら地球由来の転生者の頭の中にあるから心配ない。ただ、僕らはそれぞれの専門分野で忙しいから」
「好きで没頭できる人材として指名されたということか」
「理解の早い人材は好きだよ」
僕は立ち話もなんだからと囲炉裏の間に通して、話を進めることにする。
「サラ、飲み物を用意したら席を外してくれ」
「かしこまりました」
サラに冷気を作る魔法陣を刻んだ大きめの水差しと、金属製マグカップを用意させる。
ちなみにこの冷気を生み出す魔法陣はチカマックの発案で作り出した魔法だ。
この世界にはまだ氷を生み出す魔法は存在していても物を冷やす魔法がなかったので、ラバナルが嬉々として開発していた。
ただ、外気温によって効力や魔力消費量が変わるので地球由来の転生者からは更なる改良が期待されている。
「さて、まずは質問からだ。この世界、魔力は誰でも持っている。この認識で間違いないな?」
「ああ、魔力は万物に宿っている」
「怪我の治療で完治後、だるさが残るのは体内の魔力を消費した結果だと言われた。つまり、誰でも魔力を感知できるということではないか?」
「ほう! なるほど、あながち見当外れでもないぞ。しかし、それは魔力というものの一側面でしかない。この世界では魔力と気は生命力の根源だ。だから魔力が枯渇すれば体が反応する。それ以上でもそれ以下でもない」
「それは気と同等のものとして考えてもいいということだろうか?」
「! そうだな……なにが言いたいか判ってきたぞ。お前、魔法使いを生み出そうとしているな?」
うーん……。
「今は誰もいないからいいけど、お前にもお館様と、呼んで欲しいな」
「ああ、すまんな」
「呼び方はともかく、考えていることはまさにそれだ。気が訓練で知覚できるように魔力も訓練次第で知覚できるようになるんじゃないかという仮説だ」
「ふむ、試してみる価値はあるな」
理解力が高くて好奇心旺盛、前世でも実験をしていたという性格なら乗ってくれると思っていたよ。
「魔法が使える人材までは期待していない。気と同様、流れをコントロールできるまでになるなら魔道具が操れる」
「飛行 手紙 も便利だが、糸電話 が使えるようになるだけで都市間連絡が劇的に早くなる。正確で濃密な情報は戦略の成功率を上げるもっとも重要な要素だ」
チカマックの前世世界もここよりずっと進歩した世界だったらしいと話に聞いている。
この世界の人たちを悪くいうつもりはないけど、前世持ちは本当に情報の重要性を認識しているからありがたい。
「魔法についてはそれが最優先ということでいいんだな?」
そして、情報の整理能力の高い人が多いから助かる。
「ああ。同時に二つ、作ってもらいたい魔道具がある」
「緊急性が高い魔道具か?」
「緊急性はそれほど高くないが、あると劇的に便利になる魔道具だ」
僕は用途と理屈を説明する。
「なるほど、それは便利だ。この世界、私の前世のように誰もが湯水の如く魔法が使えるわけじゃないからな。道具で魔力を肩代わりさせるなら、あれもこれもできるじゃないか!」
アレとかコレってのがどんなものかは判らないけど、世の中が便利になるんならいっぱい作ってくれ。
「科学方面の話をしていいか?」
「ああ、すまない。聞こう」
僕は各町にそれぞれ特色のある産業をおこうと思っていること。
そのために必要な準備について大まかに説明をした。
「産業を集積するのはいいことだ。しかし、需要や生産効率の問題があって町ごとに格差が生まれないか?」
よく判ってらっしゃる。
「一つの町に一つの産業というなら需要による富の格差も大きくなるだろうけど……」
「複数あっても差は生まれるさ。いずれ需要が変化すれば産業自体が斜陽化する」
ああ、確かに。
「でも、そこは仕方ないだろ?」
「自然発生なら淘汰だろう。しかし、官制で産業を強制するならそれはしっかりケツ持ちしなきゃいけないと思うのだが?」
むむむ、反論できない。
「けど、地域特性も踏まえたお前の案は悪くない。それに、ここは民主主義体制じゃない。その方向で考えてみよう」
「頼む」
……お館様と呼べよ。
この間に進んだのは文官採用試験の問題作りと各町の行政長官交代に伴う引き継ぎくらいだった。
体制づくりに一ヶ月費やすとかヤバくない?
こんなんじゃあっという間にハネムーン期間すぎちゃうじゃないか。
もっとも、僕がオグマリー区を支配下に収めてから半年すぎてるし、おおむね僕の支持率は高いけどね。
支持率低くても独裁者だから多少は無茶できるけどさ。
もちろん、無茶しないよ。
各町の新体制を整えるための試験は来月を予定している。
農作業が一息つくタイミングだ。
この試験は誰でも受験できると広報している。
とはいえ読み書きも満足にできない人には無理なわけだし、どれくらいの人が受験するかね?
「無茶をしてくれるね」
ハンジー町をサイに引き継いでバロ村にやってきたチカマックの第一声だ。
「挨拶もなしにそれかよ」
「代官をやっていた身としては痛快だけど、今現在文官やってる貴族連中カンカンだぜ」
「ろくに仕事もできない低級貴族なんてポイだよ。いらないいらない」
「で? 代官をクビになって呼び出された理由は?」
自虐か。
「魔法科学大臣を任命するためだ」
「…………は?」
「魔法科学大臣の任命だ」
「魔法は判る。今は使えないがこの世界よりずっと進んだ魔法知識があるからな。しかし、科学の方は……科学こそ好きなだけだぞ」
「それでいい。知識は僕ら地球由来の転生者の頭の中にあるから心配ない。ただ、僕らはそれぞれの専門分野で忙しいから」
「好きで没頭できる人材として指名されたということか」
「理解の早い人材は好きだよ」
僕は立ち話もなんだからと囲炉裏の間に通して、話を進めることにする。
「サラ、飲み物を用意したら席を外してくれ」
「かしこまりました」
サラに冷気を作る魔法陣を刻んだ大きめの水差しと、金属製マグカップを用意させる。
ちなみにこの冷気を生み出す魔法陣はチカマックの発案で作り出した魔法だ。
この世界にはまだ氷を生み出す魔法は存在していても物を冷やす魔法がなかったので、ラバナルが嬉々として開発していた。
ただ、外気温によって効力や魔力消費量が変わるので地球由来の転生者からは更なる改良が期待されている。
「さて、まずは質問からだ。この世界、魔力は誰でも持っている。この認識で間違いないな?」
「ああ、魔力は万物に宿っている」
「怪我の治療で完治後、だるさが残るのは体内の魔力を消費した結果だと言われた。つまり、誰でも魔力を感知できるということではないか?」
「ほう! なるほど、あながち見当外れでもないぞ。しかし、それは魔力というものの一側面でしかない。この世界では魔力と気は生命力の根源だ。だから魔力が枯渇すれば体が反応する。それ以上でもそれ以下でもない」
「それは気と同等のものとして考えてもいいということだろうか?」
「! そうだな……なにが言いたいか判ってきたぞ。お前、魔法使いを生み出そうとしているな?」
うーん……。
「今は誰もいないからいいけど、お前にもお館様と、呼んで欲しいな」
「ああ、すまんな」
「呼び方はともかく、考えていることはまさにそれだ。気が訓練で知覚できるように魔力も訓練次第で知覚できるようになるんじゃないかという仮説だ」
「ふむ、試してみる価値はあるな」
理解力が高くて好奇心旺盛、前世でも実験をしていたという性格なら乗ってくれると思っていたよ。
「魔法が使える人材までは期待していない。気と同様、流れをコントロールできるまでになるなら魔道具が操れる」
「
チカマックの前世世界もここよりずっと進歩した世界だったらしいと話に聞いている。
この世界の人たちを悪くいうつもりはないけど、前世持ちは本当に情報の重要性を認識しているからありがたい。
「魔法についてはそれが最優先ということでいいんだな?」
そして、情報の整理能力の高い人が多いから助かる。
「ああ。同時に二つ、作ってもらいたい魔道具がある」
「緊急性が高い魔道具か?」
「緊急性はそれほど高くないが、あると劇的に便利になる魔道具だ」
僕は用途と理屈を説明する。
「なるほど、それは便利だ。この世界、私の前世のように誰もが湯水の如く魔法が使えるわけじゃないからな。道具で魔力を肩代わりさせるなら、あれもこれもできるじゃないか!」
アレとかコレってのがどんなものかは判らないけど、世の中が便利になるんならいっぱい作ってくれ。
「科学方面の話をしていいか?」
「ああ、すまない。聞こう」
僕は各町にそれぞれ特色のある産業をおこうと思っていること。
そのために必要な準備について大まかに説明をした。
「産業を集積するのはいいことだ。しかし、需要や生産効率の問題があって町ごとに格差が生まれないか?」
よく判ってらっしゃる。
「一つの町に一つの産業というなら需要による富の格差も大きくなるだろうけど……」
「複数あっても差は生まれるさ。いずれ需要が変化すれば産業自体が斜陽化する」
ああ、確かに。
「でも、そこは仕方ないだろ?」
「自然発生なら淘汰だろう。しかし、官制で産業を強制するならそれはしっかりケツ持ちしなきゃいけないと思うのだが?」
むむむ、反論できない。
「けど、地域特性も踏まえたお前の案は悪くない。それに、ここは民主主義体制じゃない。その方向で考えてみよう」
「頼む」
……お館様と呼べよ。