第305話 終日の攻防 3
文字数 2,294文字
階段を一階上がると、丁字の廊下だった。
チッ、このまま上の階に上りたかったんだけどさすがにそこまで機能的にはできていないか。
ズラカルト男爵が普段は領都に邸を構えて有事の際に立て篭もる城を用意しているのと違う。
アシックサル季爵は領都に城を築いていた。
ここは領主が寝泊まりする居館ではあっても有事の際の要塞としての機能も蔑ろにしてはいないらしい。
迷路ほど複雑ではないにしろ。目的の場所まで直通するような動線は意図的に避けられている。
ただし、日本の天守のように防御を最優先にした作りではないので廊下は幅広く歩きやすいし、部屋は一つ一つが豪華で大きい。
「階段がありました」
兵からの報告があり階段まで行くと、先ほどの階段より幅は狭く急な上り階段があった。
「サビー、二隊ほどこの階に残して、上に上がる」
そう宣言すると、サビーは隊長を二人指名して指示を出す。
彼らの部隊の役割はこの階の捜索と、上ってくるだろうイラード、ガーブラ隊への連絡係も兼ねている。
戦闘は断続的に続いている。
ずっと戦い続けていられるのは数的有利を利用して戦闘ごとに隊を入れ替えているからだ。
とはいえ、朝から戦い続けている兵たちの疲労はたまっている。
ほとんど直接戦っていない僕でさえ強い疲労感に汗を拭っているくらいだ。
古い洋館のため窓の少ない居城は薄暗く、魔法兵による照明 の魔法が欠かせない。
時折開けられている窓は開口部でしかなく、冬の廊下は寒いだろうなぁとか余計なことを考えてしまう。
この辺りの部屋は倉庫や書庫など用途の限定された部屋であり、人が長時間いるようには作られていないようだ。
「外観では四、五階建てだったな」
と、問えば
「はい、おおむね四階。突き出た塔があるところを五階と数えるか、六七と数えることができるのかってとこでしょう」
と、サビーが答える。
さらに上に向かう階段を発見と、登る途中の踊り場の壁の高いところに開けられた丸い明かりとりから赤い日が差し込む。
どうやら夕焼け時になったようだ。
ここでも二隊を残して先へ進む。
「お館様、大丈夫ですか?」
「なにがだ?」
「兵です。すでに四隊、二百人を部隊から割いています。この先どれだけの兵がいるかわからない状況で大事な戦力を減らすのは……」
「これだけの建物だ階段が一つだけとは限らないし、すべての部屋を巡っているわけでもないからな。残すのが一隊だけでは心許なかろう」
「それはそうでしょうが……」
「なに、私の側には三銃士の一人、黒き稲妻のサビーがついているのだ。百人や二百人割いたところでなにほどのこともなかろう」
「そこまで言われりゃ、戦士冥利ってもんだ。この命に変えてもお館様はお守りいたします」
と、血まみれで満面の笑みを作ってみせる。
だから怖いってばっ!
四階は三階と違って居住フロアのようだ。
大小さまざまな寝室や詰め所が配置されている。
寝室には閉めることのできる木の窓のあるところや、暖炉が設置されている部屋、バルコニーのある部屋、スイートルームよろしくふた部屋み部屋と続き間になっているようなところもあった。
ないのはガラス窓くらいだったろうか?
ガラスはこの世界の技術力ではなかなか生産も難しいので高価だし、断熱のことを考えたら採用しない方がいい。
護衛兵の詰所にはやはりそれなりの数と質の兵が詰めていた。
ここで少なくない数の兵に被害が出た。
戦闘を続行できない怪我を負った兵に治療のための魔法兵をつけ、彼らを守るための一隊を残すと率いる兵の人数が少々心許なく見えてくる。
「お館様は大丈夫でしょうか?」
と、魔法部隊の隊長が声をかけてくる。
一度二、三人と同時に切り結んだだけだ。
「問題ない。かすり傷だ」
「しかし困りましたな」
「なにがだ、サビー」
「この先に残っているだろう兵の数です。おそらく我が隊の倍は残ってますよ」
まだそんなに戦力が残っているのか?
「ここは後続の部隊が合流するのを待ちたいと進言させていただきますが、いかに?」
と、きた。
「通信兵」
僕が呼ぶと、背中に魔道具を背負った男が進み出てくる。
「イラードとガーブラを呼び出せ」
こう言う時、文明の利器はありがたいよね。
…………魔道具だけど。
呼び出しに応じたのはイラードだけだった。
「ガーブラはどうした?」
「それが……魔力が繋がっている気配がありません」
通信兵は装置をいろいろいじりながら答える。
「過去に同じ現象が起きたことは?」
「ありません」
それは困ったな。
「お館様」
移動電話のスピーカーからイラードの声が聞こえてきた。
「今、こちらから飛行手紙を飛ばしてみました。返事が来るまでご用件をお話しください」
おお、さすがイラード。
素早く善後策を出して実行するとか、ほんと有能だな。
てか、僕が速やかに行わなきゃならないことだよな。
ほんとコロンブスの卵レベルの対応策だった。
「今どこにいる?」
「上り階段を見つけ二階にきまして、戦闘中だったお館様の部隊と合流したところです」
上り階段を見つけ、と言うことは僕らが上ったのとはまた違う階段ってことだ。
「すまないが、二階、三階の探索部隊を残して四階まで上ってきてくれ」
「四階ですか……かしこまりました。急ぎ向かいましょう。その間お館様はいかがなさるおつもりで?」
「外の部隊と連絡をとるつもりだ」
「なるほど。では後ほど」
通信を切断した後、僕は次にウータを呼び出す。
外の様子を確認しつつ指示を出していると、飛行手紙が届いた。
どうやらイラードが直接こちらへ返事をよこせと書いてくれていたのだろう。
優秀だ。
チッ、このまま上の階に上りたかったんだけどさすがにそこまで機能的にはできていないか。
ズラカルト男爵が普段は領都に邸を構えて有事の際に立て篭もる城を用意しているのと違う。
アシックサル季爵は領都に城を築いていた。
ここは領主が寝泊まりする居館ではあっても有事の際の要塞としての機能も蔑ろにしてはいないらしい。
迷路ほど複雑ではないにしろ。目的の場所まで直通するような動線は意図的に避けられている。
ただし、日本の天守のように防御を最優先にした作りではないので廊下は幅広く歩きやすいし、部屋は一つ一つが豪華で大きい。
「階段がありました」
兵からの報告があり階段まで行くと、先ほどの階段より幅は狭く急な上り階段があった。
「サビー、二隊ほどこの階に残して、上に上がる」
そう宣言すると、サビーは隊長を二人指名して指示を出す。
彼らの部隊の役割はこの階の捜索と、上ってくるだろうイラード、ガーブラ隊への連絡係も兼ねている。
戦闘は断続的に続いている。
ずっと戦い続けていられるのは数的有利を利用して戦闘ごとに隊を入れ替えているからだ。
とはいえ、朝から戦い続けている兵たちの疲労はたまっている。
ほとんど直接戦っていない僕でさえ強い疲労感に汗を拭っているくらいだ。
古い洋館のため窓の少ない居城は薄暗く、魔法兵による
時折開けられている窓は開口部でしかなく、冬の廊下は寒いだろうなぁとか余計なことを考えてしまう。
この辺りの部屋は倉庫や書庫など用途の限定された部屋であり、人が長時間いるようには作られていないようだ。
「外観では四、五階建てだったな」
と、問えば
「はい、おおむね四階。突き出た塔があるところを五階と数えるか、六七と数えることができるのかってとこでしょう」
と、サビーが答える。
さらに上に向かう階段を発見と、登る途中の踊り場の壁の高いところに開けられた丸い明かりとりから赤い日が差し込む。
どうやら夕焼け時になったようだ。
ここでも二隊を残して先へ進む。
「お館様、大丈夫ですか?」
「なにがだ?」
「兵です。すでに四隊、二百人を部隊から割いています。この先どれだけの兵がいるかわからない状況で大事な戦力を減らすのは……」
「これだけの建物だ階段が一つだけとは限らないし、すべての部屋を巡っているわけでもないからな。残すのが一隊だけでは心許なかろう」
「それはそうでしょうが……」
「なに、私の側には三銃士の一人、黒き稲妻のサビーがついているのだ。百人や二百人割いたところでなにほどのこともなかろう」
「そこまで言われりゃ、戦士冥利ってもんだ。この命に変えてもお館様はお守りいたします」
と、血まみれで満面の笑みを作ってみせる。
だから怖いってばっ!
四階は三階と違って居住フロアのようだ。
大小さまざまな寝室や詰め所が配置されている。
寝室には閉めることのできる木の窓のあるところや、暖炉が設置されている部屋、バルコニーのある部屋、スイートルームよろしくふた部屋み部屋と続き間になっているようなところもあった。
ないのはガラス窓くらいだったろうか?
ガラスはこの世界の技術力ではなかなか生産も難しいので高価だし、断熱のことを考えたら採用しない方がいい。
護衛兵の詰所にはやはりそれなりの数と質の兵が詰めていた。
ここで少なくない数の兵に被害が出た。
戦闘を続行できない怪我を負った兵に治療のための魔法兵をつけ、彼らを守るための一隊を残すと率いる兵の人数が少々心許なく見えてくる。
「お館様は大丈夫でしょうか?」
と、魔法部隊の隊長が声をかけてくる。
一度二、三人と同時に切り結んだだけだ。
「問題ない。かすり傷だ」
「しかし困りましたな」
「なにがだ、サビー」
「この先に残っているだろう兵の数です。おそらく我が隊の倍は残ってますよ」
まだそんなに戦力が残っているのか?
「ここは後続の部隊が合流するのを待ちたいと進言させていただきますが、いかに?」
と、きた。
「通信兵」
僕が呼ぶと、背中に魔道具を背負った男が進み出てくる。
「イラードとガーブラを呼び出せ」
こう言う時、文明の利器はありがたいよね。
…………魔道具だけど。
呼び出しに応じたのはイラードだけだった。
「ガーブラはどうした?」
「それが……魔力が繋がっている気配がありません」
通信兵は装置をいろいろいじりながら答える。
「過去に同じ現象が起きたことは?」
「ありません」
それは困ったな。
「お館様」
移動電話のスピーカーからイラードの声が聞こえてきた。
「今、こちらから飛行手紙を飛ばしてみました。返事が来るまでご用件をお話しください」
おお、さすがイラード。
素早く善後策を出して実行するとか、ほんと有能だな。
てか、僕が速やかに行わなきゃならないことだよな。
ほんとコロンブスの卵レベルの対応策だった。
「今どこにいる?」
「上り階段を見つけ二階にきまして、戦闘中だったお館様の部隊と合流したところです」
上り階段を見つけ、と言うことは僕らが上ったのとはまた違う階段ってことだ。
「すまないが、二階、三階の探索部隊を残して四階まで上ってきてくれ」
「四階ですか……かしこまりました。急ぎ向かいましょう。その間お館様はいかがなさるおつもりで?」
「外の部隊と連絡をとるつもりだ」
「なるほど。では後ほど」
通信を切断した後、僕は次にウータを呼び出す。
外の様子を確認しつつ指示を出していると、飛行手紙が届いた。
どうやらイラードが直接こちらへ返事をよこせと書いてくれていたのだろう。
優秀だ。