第124話 ジャン、大ポカかまして慌てて作戦を指示する
文字数 2,149文字
「捕虜はどうするんです?」
一通り処置の終わったところでイラードが訊いてくる。
こう言うところは如才ないよね。
「解放するよ」
「え?」
「解放。あれ? 言ってたよね?」
「聞いてないですよ」
あれ?
言ったつもりになっていたのか心配になったので、他のみんなにも訊いて回ったら判で押したように聞いてないと言う。
「ええと、僕の名を売るために……」
「この戦いで名を売るつもりだとは聞きましたが、それと捕虜の解放がどう繋がるのですか?」
なんて、ルビンスにまで訊かれてしまうともうダメだね。
「あー……僕はズラカルト男爵と敵対しているわけだけど、世間的には単なる農村の反乱であってやがて鎮圧される。くらいに思われている」
「そのようです」
と、オギンが肯定する。
世間一般の考え方を自分自身で説明したのに、仲間からも「そうですね」なんて「いいとも」の観覧者みたいに頷かれたらちょっともやっとするなぁ。
「で、今回『そうじゃない、僕はズラカルトに取って代わるつもりがあるぞ』と、世間に喧伝する目的でこの荷車を襲ったわけだ」
「え? 荷車を襲ったのは……」
カーブラがなにを言おうとしたのかは判るんだけど、みなまで言わせないよ。
片手で発言を制して、僕は続ける。
「僕らがズラカルトの支配地でそんなことを吹いて回ってもそれじゃあまり効果がないし、そもそもそんな危ないことをお前たちにさせるわけにいかない」
ちなみに男爵の敬称を使わないのも普段二人称として使わない「お前たち」なんて表現をするのも、すべて捕虜が聴いているのを承知の上での計算ずくだ。
「捕虜になったこいつらを使えば、大いに宣伝になるってか。たいした大将だよ、お館様は」
と、カイジョーが言う。
「ルビレル。騎士は、この先の野営地に今夜の食料だけ残して置いてこい」
「承知しました。ルビンス、バンバ、ガーブラ。ワシについてこい」
「かしこまりました」
ルビレルの名を聞いて驚愕の視線を向ける騎士たちは、ルビレルたちに引っ立てられて野営地へと連れて行かれる。
「カイジョー、サビー。剣兵は身ぐるみ剥がして二の町に連れて行け」
「はっ」
イラードがなにやら渋い表情なのは、なぜ剣兵をハンジー町に連れていくのか理解できないからだろう。
説明しなきゃ判んないよな、それはよく判る。
けど、捕虜のいる前で作戦の説明はできない。
たぶんカイジョーはそこを察してなにも言わずに手早くカシオペアメンバーを連れて捕虜を追い立て始めた。
ここら辺は経験値の差なんだろうな。
傭兵として、多少理不尽な命令にも従ってきたカイジョーと納得ずくでしか命令に従ってこなかったイラードの差。
サビーはイラードの兄弟なんだけど、そこんところは興味ないのか、疑問に思うことなく今回自分の配下においた槍兵を率いてカイジョーと共に町へ向かう。
どちらも見えなくなったことを確認して、イラードとオギン、ヤッチシを呼ぶ。
「改めて、今作戦を伝える」
かしこまった三人を確認して僕は説明を始める。
「今回の戦利品を旧第二中の村から旧第一中の村へ運び入れる。その際、第二中の村に総量の一割を、第一中の村にも一割を下賜する旨伝えて荷下ろしするように。この任、イラードに任せる」
「…………」
…………。
「次に旧第一中の村で今作戦の本来の目的である第二、第三先の村買収用の荷分けを行い、合わせて旧第三中の村に下賜する分も取り分けるように」
「…………」
「旧三村に一割ずつ、第二、第三先の村にも一割ずつで全量の半分ですが、残りの半分はどうすんです?」
不承の姿勢を崩さず無言を貫いているイラードに代わってオギンが訊ねてきた。
「ハンジー町開拓の原資だ」
「労働対価というやつですか?」
ようやくイラードが口を開く。
僕はあえてうなずくだけにする。
「しばらくは旧第一中の村に留め置くこととして、オギン」
「は」
「チカマックにこのことを伝えるように」
「伝言はございますか?」
「せいぜい捕虜をていよく煽ってオグマリーに追い返してくれと」
「ということは、まだこちらの陣営に寝返ったことは秘密にしているということですか?」
だんだん全貌が見えてきたらしいイラードの態度が軟化してきたようだ。
「ああ」
「オルバック殿はどう出ますかね?」
「どうかな? そこまではまだ予測がつかないけど、都合六ヶ村の税収が途絶えたとなれば大打撃だろう。再徴税にくるか、荷を奪いに軍を動かしてくるか……ああ、オギン。チカマックには軍を催促されたらのらりくらりとかわしてくれとも頼んでおいてくれ」
「かしこまりました」
「というわけで、オギンたちは捕虜より先に町へ戻り、イラード、ザイーダは人足と護衛を連れて村へ移動してくれ」
「今からですか?」
「うむ、我らは今回、半ば夜盗だ。夜盗らしく夜に行動しようじゃないか」
「で、あっしはどうすれば?」
と、集めた中で唯一仕事を割り振っていないヤッチシが訊ねてくる。
「僕と一緒に街道を逸れて行軍だ。街道を使わない行軍は危険がつきまとうからね、頼むよ」
実際、この作戦行動中、二度モンスターに襲われた。
まあ、単体の獣型だったんで被害はなかったんだけどね。
「へい」
ヤッチシの返事が合図だったように、彼らは行動を開始した。
さ、次の相手はラバナルだ。
一通り処置の終わったところでイラードが訊いてくる。
こう言うところは如才ないよね。
「解放するよ」
「え?」
「解放。あれ? 言ってたよね?」
「聞いてないですよ」
あれ?
言ったつもりになっていたのか心配になったので、他のみんなにも訊いて回ったら判で押したように聞いてないと言う。
「ええと、僕の名を売るために……」
「この戦いで名を売るつもりだとは聞きましたが、それと捕虜の解放がどう繋がるのですか?」
なんて、ルビンスにまで訊かれてしまうともうダメだね。
「あー……僕はズラカルト男爵と敵対しているわけだけど、世間的には単なる農村の反乱であってやがて鎮圧される。くらいに思われている」
「そのようです」
と、オギンが肯定する。
世間一般の考え方を自分自身で説明したのに、仲間からも「そうですね」なんて「いいとも」の観覧者みたいに頷かれたらちょっともやっとするなぁ。
「で、今回『そうじゃない、僕はズラカルトに取って代わるつもりがあるぞ』と、世間に喧伝する目的でこの荷車を襲ったわけだ」
「え? 荷車を襲ったのは……」
カーブラがなにを言おうとしたのかは判るんだけど、みなまで言わせないよ。
片手で発言を制して、僕は続ける。
「僕らがズラカルトの支配地でそんなことを吹いて回ってもそれじゃあまり効果がないし、そもそもそんな危ないことをお前たちにさせるわけにいかない」
ちなみに男爵の敬称を使わないのも普段二人称として使わない「お前たち」なんて表現をするのも、すべて捕虜が聴いているのを承知の上での計算ずくだ。
「捕虜になったこいつらを使えば、大いに宣伝になるってか。たいした大将だよ、お館様は」
と、カイジョーが言う。
「ルビレル。騎士は、この先の野営地に今夜の食料だけ残して置いてこい」
「承知しました。ルビンス、バンバ、ガーブラ。ワシについてこい」
「かしこまりました」
ルビレルの名を聞いて驚愕の視線を向ける騎士たちは、ルビレルたちに引っ立てられて野営地へと連れて行かれる。
「カイジョー、サビー。剣兵は身ぐるみ剥がして二の町に連れて行け」
「はっ」
イラードがなにやら渋い表情なのは、なぜ剣兵をハンジー町に連れていくのか理解できないからだろう。
説明しなきゃ判んないよな、それはよく判る。
けど、捕虜のいる前で作戦の説明はできない。
たぶんカイジョーはそこを察してなにも言わずに手早くカシオペアメンバーを連れて捕虜を追い立て始めた。
ここら辺は経験値の差なんだろうな。
傭兵として、多少理不尽な命令にも従ってきたカイジョーと納得ずくでしか命令に従ってこなかったイラードの差。
サビーはイラードの兄弟なんだけど、そこんところは興味ないのか、疑問に思うことなく今回自分の配下においた槍兵を率いてカイジョーと共に町へ向かう。
どちらも見えなくなったことを確認して、イラードとオギン、ヤッチシを呼ぶ。
「改めて、今作戦を伝える」
かしこまった三人を確認して僕は説明を始める。
「今回の戦利品を旧第二中の村から旧第一中の村へ運び入れる。その際、第二中の村に総量の一割を、第一中の村にも一割を下賜する旨伝えて荷下ろしするように。この任、イラードに任せる」
「…………」
…………。
「次に旧第一中の村で今作戦の本来の目的である第二、第三先の村買収用の荷分けを行い、合わせて旧第三中の村に下賜する分も取り分けるように」
「…………」
「旧三村に一割ずつ、第二、第三先の村にも一割ずつで全量の半分ですが、残りの半分はどうすんです?」
不承の姿勢を崩さず無言を貫いているイラードに代わってオギンが訊ねてきた。
「ハンジー町開拓の原資だ」
「労働対価というやつですか?」
ようやくイラードが口を開く。
僕はあえてうなずくだけにする。
「しばらくは旧第一中の村に留め置くこととして、オギン」
「は」
「チカマックにこのことを伝えるように」
「伝言はございますか?」
「せいぜい捕虜をていよく煽ってオグマリーに追い返してくれと」
「ということは、まだこちらの陣営に寝返ったことは秘密にしているということですか?」
だんだん全貌が見えてきたらしいイラードの態度が軟化してきたようだ。
「ああ」
「オルバック殿はどう出ますかね?」
「どうかな? そこまではまだ予測がつかないけど、都合六ヶ村の税収が途絶えたとなれば大打撃だろう。再徴税にくるか、荷を奪いに軍を動かしてくるか……ああ、オギン。チカマックには軍を催促されたらのらりくらりとかわしてくれとも頼んでおいてくれ」
「かしこまりました」
「というわけで、オギンたちは捕虜より先に町へ戻り、イラード、ザイーダは人足と護衛を連れて村へ移動してくれ」
「今からですか?」
「うむ、我らは今回、半ば夜盗だ。夜盗らしく夜に行動しようじゃないか」
「で、あっしはどうすれば?」
と、集めた中で唯一仕事を割り振っていないヤッチシが訊ねてくる。
「僕と一緒に街道を逸れて行軍だ。街道を使わない行軍は危険がつきまとうからね、頼むよ」
実際、この作戦行動中、二度モンスターに襲われた。
まあ、単体の獣型だったんで被害はなかったんだけどね。
「へい」
ヤッチシの返事が合図だったように、彼らは行動を開始した。
さ、次の相手はラバナルだ。