第288話 開拓団南へ

文字数 2,362文字

 二日に及んだグリフ族との会談から十二日、一度グリフ族の里に戻った彼らは二百人からの仲間を連れて四の宿に戻ってきた。
 彼らが約束の開拓団である。

「改めてよろしく頼む」

 リュ自らが開拓団を率いてやってくるとは思わなかった。
 それにしても男も女もみんな揃ってたくましいな。
 さすがはグリフ族と言ったところか。

「随分連れてきたんだな。てっきり百人くらいかと思っていた」

「当初は確かに百人を募ったのだが、思いの外希望者が多くてな。これでも随分減らしたのだが……ダメだろうか?」

「いや、大歓迎だよ。ただ……」

 これは事前に言っておかなきゃならないだろう。

「先触れは出しているが、なにせ多種族をこれほど一度に見る機会はないだろうから好奇の目で見られる可能性が高い。気分を害することもあろうが、辛抱していただきたい」

「そうだな。使節団としてここにきたことのある我らは慣れているが、民には傷つくものも出るだろう。そのために直々に率いてきたのだ」

 なるほど、さすがは族長よく考えている。
 僕なら問題が起きるまで気づかないかも知れないことだけど、よく考えているようだ。

「お館様」

 呼ばれて振り向くと、そこには彼らに代わってグリフ族の里に行く使節団がケイロに率いられて挨拶に来ていた。

「両族の友好と繁栄のために尽力してくれ」

「必ずやご要望にお応えいたします」

 その後、形式的な出発式を行なって使節団を見送り、僕らもハングリー区へ出発することになる。
 歓待役は交流機会の多いチローを筆頭に土地に詳しいルダー、オグマリー区ハングリー区の諜報を任せているニンニン隊のリーダーハイスプリング(もちろん配下の忍者部隊は陰に日向に任務を務めている)、難関門までの護衛部隊には電撃隊を配置して仰々しく街道を進む。
 ま・オグマリー区でなにかあるとは思えないけどね。
 一行はハンジー町、六の宿、オグマリー町を通って難関門の内側で野営をする。
 町や宿場町はともかく難関門の宿泊施設はこの大人数を泊められる余裕などまったくない。
 季節はそろそろ雪も降ろうかという時期で野営は少々辛いのだが、仕方ない。

「お館様」

 野営の準備ができた頃合いを見計らってきたのだろう、オーミッツちゃんが宿の従業員を連れて温かい汁物の差し入れに来てくれた。

「これはありがたい。親父さんは元気にしてるかい?」

「はい、お陰様で商売も繁盛して忙しく働いております」

「それはよかった」

「これもひとえにお館様のおかげと宿場の皆が喜んでおります」

 温かい差し入れに心も体も温まったところで、ルダーがリュとチョを連れて天幕を訪ねてきた。
 余談だけど、リュの護衛にショが控えている。

「どうした?」

 と、訊ねるとルダーが

「相談したいことがありまして……」

 と、頭をかく。
 相談事がなければわざわざくることもなかろう。

「四の宿を出立してから道々ずっと思案していたのですが、やはりどう考えてもハングリー区に新たに二百人をひと冬養う食料が足りませんので、開拓団の一部を別の地に振り分けてもらえないだろうかと思い……」

「なるほど」

「すまんな、こちらでもっと人数を少なくできればよかったのだが……」

 と、リュも申し訳なさそうにいう。
 本当はそれほどすまないとは思っていないくせに。
 ケイロとハイスプリングから事前に受けたレクチャーによれば、グフリ族との争いに勝利したことで安定したため、人口が増え続け(というかいくさで減らなくなったので)里では賄いきれなくなりつつあったようだ。
 この二百人はいわば口減し政策の一環であり、昭和初期の移民政策みたいな性格のものなのだろう。
 実に総人口の二割近くを開拓団に送り出しているというのだから凄まじい。
 僕の予想だけど、おそらく数年先を見越して里のキャパシティをあけるための人数なのだろう。
 今回の件で五年十年は里の人口過密を防ぎ、その間に人族の技術を学んで将来に備える算段に違いない。
 やるな、リュ・ホゥ。
 だが、それならそれでこちらも利用させてもらうまで。

「たしかグリフ族は鉱山の知識が豊富だとか」

「ああ、山師としてはドゥワルフ族よりも優秀だ。鉱夫としてもどの種族にも負けないと自負している」

「では、イデュルマの鉱山の改善と新たな鉱脈の開発に人を割いてもらえないだろうか?」

「鉱脈に関しては必ず見つけられるというものでもないが、今ある鉱山の手伝いならきっと期待に添えよう」

「ルダー、何人までなら受け入れられるのだ?」

「されば多く見積もっても百四十」

「なら余裕を見越して開拓団は百二十人規模として、残りを鉱山開発に回していただこう。リュ殿、よろしいか?」

「ああ、人選に一両日いただければ」

「慣れない長旅だ。グリフの民にとってもよい休息になるだろう」

 ということで開拓団を二つに分けるのに翌日一日費やして、次の日には難関門を出て二手に分かれて出発する。
 鉱夫組は特に優秀なものを四十人とその家族や希望者で構成された約八十人の一隊。
 ここには護衛に電撃隊から一部を割いてブンターをつける。
 残る約百二十人の開拓団はそのまま当初の目的地であるハングリー区の二つの集落を目指す。
 乾燥地帯でさえぎるものが少なく冷たい木枯らしが吹く中を隊列は進む。
 手前の村に着いたその日は初雪が降った。
 収穫後の畑ではどれだけ土地が豊かになったかは判らないが、耕作地が拡がったのだけは目に見えて感じられる。
 次の村までは徒歩で二日。
 この中間にグリフ族の集落を作るというのが最初の計画で、最終的には村二つを含めた町にしようという案が考えられている。
 グリフ族開拓団はここでさらに二つの班に分け、この村と次の村に仮住まいをしながら開拓予定地を整備し家を建て、新たなため池を作る手筈になっている。
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