第53話 短期都市計画1 村長、町長を目指す

文字数 2,117文字

 名実ともに村長になった二日後の午前、僕はオギンとドブルという僕の反対派だった男を連れ立って、例の男を収容している家へ出向く。
 二人にはすでに旅装をしてもらっている。
 二人を残し、見張りの男と一緒に家に入ると、男が緊張した面持ちでこちらを見てきた。

「そんなに緊張することはないよ。君の処分が決定しただけだ」

 我ながらひどい言い方だと思っているけど、わざとだから。
 男はゴクリと唾を飲む。

「今日これからお前を州都ズラカルトに連行し、身柄を引き渡す」

「…………」

「食事をとったら出発だからな」

 と、フレイラ粉を塩と水だけでこねたものを焼いた「無発酵パン」を食卓に置く。
 この国ではロチャティムという。

「後は任せた」

 と、見張り君に任せて家を出る。

「本当に良かったのですか?」

 食事が終わるのをまっている間にオギンが訊ねてくる。

「なにが気にくわないんだい?」

「いえ、気にくわないといいますか……慎重なお館様にしては色々と()せない決定だと思いまして」

 ほうほぅ、言いたいことは察したけど、一応訊いてみるか。

「どの辺りが?」

「州都に突き出すとこの村のことが男爵に知られてしまいます」

「そうだね」

「……それに人選が……その…………」

 と、言いにくそうにドブルにちらりと視線を向ける。
 さすがだね。

「わざとだよ」

「え?」

「ドブル、昼になる前に出発させたいから急がせてくれ」

「はい」

 僕はドブルが家に入ったのを確認してから、口を開く。

「州都まで律儀に送り届けなくていい」

「! それは途中で逃がせと?」

「いやいや、わざと逃す必要はないよ。そのための人選なんだから。道中……というか、途中の町では

寝るといい」

「判りました」

「詳しいことは……」

 と、僕は手紙を取り出して手渡す。
 紙といっても建築で出た木屑を叩いて砕いて四角く平たく圧縮したものなので板紙通り越してMDF《中密度繊維板》レベルだ。
 ああ、せめて、せめて平安時代レベルで紙が使えるようにしたい。

「詳しいことはここに書いている。読み終わったらなるべく早く焼却してくれ」

「判りました」

 そうそう、情報の伝達のため僕は春からできる限り村人全員に読み書きを覚えてもらうようにお願いしていて、現在村の識字率は読むだけなら半数ができる。
 物覚えの悪い人もいれば僕に反発して覚えようとしないやつもいるけど、まずまずだ。
 ちなみにドブルは後者で読むことも満足にできない。
 僕が文字の学習を始めた段階ではザイーダしか読み書きできなかったことを考えれば大進歩だけど、これは今後も課題であり続けるな。
 連行の旅に出る二人を見送った僕は、村人の集まっている中央広場へ。
 昨日は宴の翌日でみんな潰れてたから丸一日休息日にしてあった。
 その間に僕は村のグランドデザインを考えている。
 夕方には酔いのさめて頭のすっきりしたイラードとルダー、それにクレタを交えて話し合い。
 この会合にクレタを呼んだのは村人の様子、状況を知るためのアドバイザーとしてだ。
 そこで話し合ったことを今日この場で村人に示す。

「みんな、集まってくれてありがとう」

 と、まずは感謝の言葉で村人をねぎらう。
 上に立つ人間として、これから命令として今まで以上に働いてもらうわけだから「みんなを大事にしているよ」と示しておかなきゃね。

「今日は、この村の今後について僕の方針を示しておこうと思う」

 ひと呼吸置いて村人の表情を確認するために見回す。
 いろんな感情で僕を見てるな。

 話した計画の概要はこうだ。

 まず、村の人口のこと。
 村としては五、六十人ってとこが適正範囲だと思うけれど、将来を見込んで百二十人規模にする予定だと語る。
 百二十人といえばこの国ではちょっとした町の規模だ。
 当然村人の一部がざわつくので、理由を説明する。
 王国の政情不安のこと、そのせいで内乱が起きる可能性があること(実際にはすでに内乱の兆しがあるのだけど、あえてそこは伏せておく)、ここだっていつ巻き込まれないとも限らないので自衛のため規模を大きくしたいのだと。
 そして、そのためにいくつか作っておかなきゃいけないものがあって、みんなにはそれに協力してもらいたいと話す。

「具体的になにを作る気なんだ?」

 と、ここまで話しちょっと間を置いたところでジャリが質問をしてきた。
 いいタイミングだよ。
 相変わらず懐疑的なところがモヤっとするけど、質問内容もタイミングもバッチリだ。

「いい質問ですね」

 と、前世の有名人の決まり文句を枕詞のように使い指折り数えていく。

「まずは村に来る人が家を建てるまでの仮住まいとして宿泊所。新規開墾。各種食料加工所。そして学問所だ」

「宿泊所はともかく、他はいるのか?」

 そう聞き返してきたのは反対派の中心人物だったギラン。

「必要だね。人数が多くなると色々なものの消費量が増える。ルンカーと炭を専用の施設で大量生産している恩恵について考えたことはないかい? それと加工食品にはそれぞれに最適な環境ってのがあって……」

 いや、発酵がどうとか温度湿度の問題でとか、これは説明されてもチンプンカンプンだろうな。
 オタク気質からくる説明したがりは戒めないとな。
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