第133話 オグマリー市攻城戦 1

文字数 1,739文字

 対オグマリー市開戦初日。
 予定通り、東門で火蓋が切って落とされた。

(火蓋って?)

(気にしなくていいから)

 拡声(ラウド)の魔法で最大限に音量を上げられた鬨の声が、南門から一時間の距離にいる僕らの陣まで轟いた。

「驚いたな」

 だよね。
 初めてだとまさしく(たま)()るよね。
 事前に知らされていてもドキッとするよね。
 セイもホークもウータもソワソワするのは仕方ない。
 それから小一時間、チャールズからの報告が。

「ラバナル師が移動用電話に出てくれません」

 アウチ!

 これは予想がつく。
 きっと戦闘が楽しくなって魔法を撃ちまくって、作戦の伝達と状況報告の確認をする手筈を失念しているに違いない。

「『ラバナルに用がある』とザイーダに飛行手紙を出せ」

「かしこまりました」

 そんなやりとりから四半時間、ようやくラバナルが移動用電話で連絡をよこしてきた。

「いやぁ、すまんすまん。久しぶりの大規模戦闘に血がたぎっての」

 なんてあっけらかんと言ってくる。

「戦況は?」

「順調じゃ」

 いや、そうじゃなく。

「ザイーダは近くにいるか?」

「うむ、替わるかの?」

「頼む」

「替わりました」

 なんでだろう?
 ほっとするのは。

「戦況報告を頼む」

「はい、開戦後四半時間は我が軍が圧倒。最初の見張りはおそらく戦闘不能になりましたが、一時間を過ぎた辺りから敵弓兵が到着したようで膠着状態になっております」

 そうそう、こういう報告が聞きたかったんだ。

「こちらの損害は?」

「門を開いての反撃はありませんので軽微です」

「判った。このまま敵が門を開く様子がなければ予定通り昼に一度退却して飯にしろ」

「御意」

 御意……いい響きだ。

「ラバナル」

「なんじゃ?」

「戦闘は自由に任せるけど、連絡だけは忘れないでくれ」

「そうじゃの。覚えておく」

「頼むよ」

 ホント。

 昼になり、ラバナルからの連絡が来る。
 今度は最初からザイーダが戦況報告をしてくれた。
 それによると、城壁の上に迎撃の弓兵が揃ったことで相対的に射程の短い投石隊を退がらせたため、物量差におされたものの精密射撃に秀でた精兵五人にラバナルを加え、一矢必中の戦略に変更。
 主にラバナルが活躍したのだろう、何人かの射手を城壁から射落としたそうだ。

「午後は打って出てくる気配が見受けられました」

「東門だけなら蹴散らせると踏んだかな?」

「かもしれません」

「では、午後の開戦と同時に西門に連絡を取り、出撃させよ」

「かしこまりました」

 回線を切断すると、一緒に昼食を食べていたホークがうなる。

「しかし、便利な魔法があるものですね。これなら、思った通りの作戦指示が出せるじゃありませんか」

 うん、僕も思うよ。
 僕の軍だけが近代戦してるんだから、これで失敗したらそれはほぼ百パーセント戦術ミスだよね。

(ほぼなの?)

(戦争に絶対はないよ。この作戦はラバナルがいることが前提だから、もし流れ弾にでも当たって戦線離脱なんてことになったら戦術の見直しに迫られる)

(どう見直すの?)

(飛行手紙に変更、かな?)

時間(タイム)(ラグ)が瞬時からちょっとの間になるだけじゃない)

 ま、そうだけどね。

「作戦通りの指示なら思った通り、ほぼほぼベストのタイミングで指示が出せるけれど、不測の事態は魔法だけじゃ対応できないから、心構えは大事さ」

「確かに」

 と、唸ったのはセイ。
 一の町反乱勢力のリーダーだったセイはそこそこ苦労したんだろう。
 たった一言なのにすげー実感がこもっていた。

「我々の今日の出番はやはりありませんかね?」

 と、質問してきたのはガーブラだ。
 戦いたくてうずうずしているのだろうか?
 僕としては出番がない方がいいんだけど。

「あるでしょうな」

 返事をしたのはルビレル。

「東西から挟撃されれば兵を割かねばならん。敵の総兵力は約三百。我が軍は東門に百六十あまり、西門から攻めるチカマック隊は約二百。戦力が拮抗している」

 それを受けてルビンスが発言する。

「三百のうち傭兵が百人ほど含まれています。籠城では傭兵に払う軍費もかさむので援軍を要請して一気に撃退……と考える可能性が高い」

「なら、じき南門から使者が出てくるな」

 ガーブラがにんまりと笑う。

「単騎だろうがな」

 ガーブラのやる気に水を差してやるなよ、サビー。
 ま、十中八九だろうけどね。
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