第80話 ズラカルト男爵軍対策としての魔法
文字数 2,069文字
「なに、もう一戦交えた? なぜワシに言わんで始めた?」
すげぇ残念そうに言うラバナルだけど、僕は始めからこのタイミングで言おうと決めていたので馬耳東風を決め込んでいる。
「まったく……せっかく思案がついた鉄の 弾丸 を実地で試せる場があったと言うのに、みすみす見逃してしまうとは」
怖いこと言うね。
人の命をなんだと思ってるんだよ、この人。
もっとも、僕もその力をあてにしているので同じ穴の狢 ってわけだけどね。
「次は試せますよ」
と、表情を作らず、言葉に抑揚を乗せずに答える。
「なんと?」
「次は小競り合いじゃなく戦争になります。ですからあなたのお力を借りたくこうしてお願いにあがったわけです」
「重畳 重畳 。して、その『次』はいつだ?」
せっかちだな。
「さぁ、いつでしょう? 前回が十六日後でしたから少なくとも二十日は先かと」
「そうか……」
本当に残念そうだね。
「今日はその件でご相談したいことがあるのですが」
「なんぞ?」
「男爵軍が来るまでは、ここにおられるのでしょう?」
「町で愚かな人族と一緒に暮らしたくはないからの」
歯に衣着せぬ辛辣な表現ありがとう。
「では軍が来たことはどのように報せれば良いかと言うのが、本日の相談事です」
「お主が知らせに来ればよかろう」
「お館様は町の指導者です。伝令扱いされては困ります」
オギンがむすっと反論する。
「なるほど、正論じゃ」
「伝令を遣わせてもいいのですが、ここに来るまでにたっぷり一時間はかかる。戦に時間は惜しい。そこで、こんなことが魔法でできないかと……」
「どんなことだ?」
おっと、食いついた。
「瞬時に目的の場所まで移動できるとか」
「魔法は理 を操る技術じゃ、理屈が通らねば実現できん」
なるほど。
じゃあ瞬間移動の理論は前世知識で構築できるかもしれない。
でも、今今すぐにできるようなもんじゃなさそうだ。
「では、声だけでも遠くに送ることはできませんか?」
「声? ワシが威嚇に使うあれか?」
やっぱ咆哮 は魔法だったのか。
「アレは少々迷惑ですし、こちらからの連絡には使えないでしょう?」
「ふむ」
「それに大きな音では敵に知られてしまいます。できれば秘密裏に連絡できるのが望ましいのですが」
「先にも言ったが、魔法は理を操る技術じゃ。理屈が判らねば実現できん」
理屈ねぇ……音の理屈は判っていそうだから、こっちはすぐにでもなんとかできそうな気がする。
ちょっとやってみるか。
「音が空気の振動によって生まれるってのはご存知なんですよね?」
「でなければ拡声 の魔法など使えん」
あれ、ラウドっていうんだ。
元の音はなんなんだろう?
いやいや、今はその件は置いといて。
「魔力を使って空気以外のものを振動させることってできますか?」
「ぬ?」
僕は糸電話の原理を説明する。
糸電話は地球では十七世紀に発明されたと言われている。
最初に作られたのがブリキ缶を針金で結んだものだったため、英語ではブリキ 缶 電話 という。
地球の物理的には糸をたるませると振動しなくなるけど、魔法なら魔力そのもので振動させられるんじゃないかと踏んでいる。
ラバナルの目がキラッキラと輝きだした。
「できるぞ。それなら魔法にできる。お主、やるな」
僕じゃなく(前世世界の)先人の知恵なんだけどね。
「しかし、それを実現させるにはやはり魔力操作が必要だな」
む?
「つまり、町に魔法が使える人間が必要ということですか?」
「道具に魔法陣を施せば魔道具として用意できるが、魔道具は魔力を通さねば使えんでの」
僕はオギンと顔を見合す。
候補は三人。
物見櫓から落ちて歩けなくなったチャールズ。
カシオペアの紅一点ペギー。
そして、ルダーとヘレンの娘ママイ。
もっとも、ママイはまだ一歳にもなっていないから無理だ。
「魔力感能力が高いのが町には二人いる。ここに通わせてもいいかな?」
「む。二人か。……いいだろう」
「一人は事故で歩けなくなっているんだけど……」
「面倒な……とはいえ、会ってみなければなんともいえん。明日、連れてこい」
「僕も?」
やることいっぱいあるんだけどな。
「お館様は忙しいんだ、あたいが連れてくるんじゃダメかい?」
「んーん、仕方ない。三人だけだぞ」
翌日、ラバナルに面会した二人はどうやらお眼鏡にかなったらしく、チャールズはしばらく住み込み、ペギーは三日に一度通うことになった。
十日後、ペギーとオギンによってラバナルの家、物見櫓、僕ん家の三ヶ所に魔道具電話 が施設された。
電線がわりに利用されたのは魔法によって生み出された糸だ。
魔法の糸なので強度が高く腐食にも強いんだって。
さらに四日経って、ペギーが電話を使えるようになって修行が終了した。
チャールズはもうしばらくラバナルの家で修行するそうだ。
というか弟子入り?
よっぽど魔法に適性があったんだろうな。
ガブリエルにはかわいそうなことをしたと思わなくもないけど、これも町を守るためだ。
それからさらに七日が経過、物見のために隣村に送り出していたザイーダが戻ってきた。
隣村に軍が来たってことだ。
すげぇ残念そうに言うラバナルだけど、僕は始めからこのタイミングで言おうと決めていたので馬耳東風を決め込んでいる。
「まったく……せっかく思案がついた
怖いこと言うね。
人の命をなんだと思ってるんだよ、この人。
もっとも、僕もその力をあてにしているので同じ穴の
「次は試せますよ」
と、表情を作らず、言葉に抑揚を乗せずに答える。
「なんと?」
「次は小競り合いじゃなく戦争になります。ですからあなたのお力を借りたくこうしてお願いにあがったわけです」
「
せっかちだな。
「さぁ、いつでしょう? 前回が十六日後でしたから少なくとも二十日は先かと」
「そうか……」
本当に残念そうだね。
「今日はその件でご相談したいことがあるのですが」
「なんぞ?」
「男爵軍が来るまでは、ここにおられるのでしょう?」
「町で愚かな人族と一緒に暮らしたくはないからの」
歯に衣着せぬ辛辣な表現ありがとう。
「では軍が来たことはどのように報せれば良いかと言うのが、本日の相談事です」
「お主が知らせに来ればよかろう」
「お館様は町の指導者です。伝令扱いされては困ります」
オギンがむすっと反論する。
「なるほど、正論じゃ」
「伝令を遣わせてもいいのですが、ここに来るまでにたっぷり一時間はかかる。戦に時間は惜しい。そこで、こんなことが魔法でできないかと……」
「どんなことだ?」
おっと、食いついた。
「瞬時に目的の場所まで移動できるとか」
「魔法は
なるほど。
じゃあ瞬間移動の理論は前世知識で構築できるかもしれない。
でも、今今すぐにできるようなもんじゃなさそうだ。
「では、声だけでも遠くに送ることはできませんか?」
「声? ワシが威嚇に使うあれか?」
やっぱ
「アレは少々迷惑ですし、こちらからの連絡には使えないでしょう?」
「ふむ」
「それに大きな音では敵に知られてしまいます。できれば秘密裏に連絡できるのが望ましいのですが」
「先にも言ったが、魔法は理を操る技術じゃ。理屈が判らねば実現できん」
理屈ねぇ……音の理屈は判っていそうだから、こっちはすぐにでもなんとかできそうな気がする。
ちょっとやってみるか。
「音が空気の振動によって生まれるってのはご存知なんですよね?」
「でなければ
あれ、ラウドっていうんだ。
元の音はなんなんだろう?
いやいや、今はその件は置いといて。
「魔力を使って空気以外のものを振動させることってできますか?」
「ぬ?」
僕は糸電話の原理を説明する。
糸電話は地球では十七世紀に発明されたと言われている。
最初に作られたのがブリキ缶を針金で結んだものだったため、英語では
地球の物理的には糸をたるませると振動しなくなるけど、魔法なら魔力そのもので振動させられるんじゃないかと踏んでいる。
ラバナルの目がキラッキラと輝きだした。
「できるぞ。それなら魔法にできる。お主、やるな」
僕じゃなく(前世世界の)先人の知恵なんだけどね。
「しかし、それを実現させるにはやはり魔力操作が必要だな」
む?
「つまり、町に魔法が使える人間が必要ということですか?」
「道具に魔法陣を施せば魔道具として用意できるが、魔道具は魔力を通さねば使えんでの」
僕はオギンと顔を見合す。
候補は三人。
物見櫓から落ちて歩けなくなったチャールズ。
カシオペアの紅一点ペギー。
そして、ルダーとヘレンの娘ママイ。
もっとも、ママイはまだ一歳にもなっていないから無理だ。
「魔力感能力が高いのが町には二人いる。ここに通わせてもいいかな?」
「む。二人か。……いいだろう」
「一人は事故で歩けなくなっているんだけど……」
「面倒な……とはいえ、会ってみなければなんともいえん。明日、連れてこい」
「僕も?」
やることいっぱいあるんだけどな。
「お館様は忙しいんだ、あたいが連れてくるんじゃダメかい?」
「んーん、仕方ない。三人だけだぞ」
翌日、ラバナルに面会した二人はどうやらお眼鏡にかなったらしく、チャールズはしばらく住み込み、ペギーは三日に一度通うことになった。
十日後、ペギーとオギンによってラバナルの家、物見櫓、僕ん家の三ヶ所に魔道具
電線がわりに利用されたのは魔法によって生み出された糸だ。
魔法の糸なので強度が高く腐食にも強いんだって。
さらに四日経って、ペギーが電話を使えるようになって修行が終了した。
チャールズはもうしばらくラバナルの家で修行するそうだ。
というか弟子入り?
よっぽど魔法に適性があったんだろうな。
ガブリエルにはかわいそうなことをしたと思わなくもないけど、これも町を守るためだ。
それからさらに七日が経過、物見のために隣村に送り出していたザイーダが戻ってきた。
隣村に軍が来たってことだ。