第187話 はい、お決まりの会議を始めまーす

文字数 2,298文字

 内務大臣イラード・タンはゼニナル町に滞在している。
 僕が領土の最奥バロ村に起居しているためオグマリー区の旧中心地オグマリー市のあったオグマリー町では遠すぎて、(だい)()(しゅっ)(たい)の際の利便性を考えてのことだ。
 逆にバロ村では領内の出来事に即応できないし。
 それもあって今回の僕の旅程はここ、ゼニナルを最後にした。

「お待ちしておりました、お館様」

 出迎えてくれたのはそのイラードとゼニナル代官オクサ・バニキッタ、その弟で補佐役のラビティア・バニキッタ。

「忙しいのにすまんな」

「いえ、お館様こそ(おん)(みずか)ら領内を巡られて、さぞご苦労がおありでしたでしょう」

「そうだな、山中をさまよって遭難しかけたしな」

 実際は、三日も遭難してたわけだがね。
 会議室に通された僕は上座に座り、一同の着席を待つ。
 今日の会議にはイラード、オクサ、ラビティアそれに書記官に任命された若い文官が出席している。
 随行員からはキャラとホーク、セイそれにオグマリー町代官代理としてルビンスが出席だ。
 会議はまずゼニナル町の現状報告から始まった。
 昨年の暴動鎮圧後の事後処理の経過報告や商人とのタフな交渉の話などを、ひとしきり愚痴を交えて聞かされた。

「さて、一通り報告を聞いたから……」

 そう、言いかけたところでドアをノックする音が三度。
 入室を促すと、ハンジー町代官サイ・カークが下士官に伴われて現れた。

「遅くなってしまったようで申し訳ない」

「いや、本題はこれからだ」

 着席を促すと、今までの報告を板書した黒板を眺めながら席につく。
 さすが書記官に任命されるだけあって、簡潔な文言で読みやすい字を書いてくれてる。

「ゼニナル町は随分と苦労しているようですね」

「ああ、お館様が兄者を代官に任命した時おっしゃられていた通りの厄介さだよ」

 僕はもう少し快刀乱麻を断つが如くに解決してくれるものと楽観してたんだけど、オクサに頼んでもこの調子なんだからね。
 ほんと、厄介だわ。

「お館様が厄介の種を増やすせいでもありますがね」

 イラード……正直すまん。

「どうせ今日の会議でも、厄介ごとが増えるんでしょう?」

 …………。

(やーい、やーい)

 ちょっと静かにしてくれないかね? リリム。

「……ホーク。先を」

「は」

 ホークは書記官に黒板を一度消させると、僕がこれまでに書き溜めてきた領内の状況、改善点、新たな提案をこれも程よくまとめられた簡潔な話し方で説明していく。
 まずはボット村セザン村への宿泊施設新設提案。
 ボット村の産業である焼き物、武器の生産停滞とその原因である炭と薪の供給不足、その解消に鉄製武器の生産地移転案から。

「武具鍛治師のサイコップから再三にわたって炭の要求は出ておりましたが、そこまででしたか」

 と、イラードが言えば

「元々お館様は各地域に特産品を分散することを計画されておりましたし、よろしいのではないでしょうか?」

 と、ルビンスがいうので案自体はすんなり通ったんだけど

「問題は、どこに移転させるかでしょうな?」

「現在、開墾開発が積極的に行われているのは我がハンジー町ですから、当然ハンジー町のどこかをお考えなのでしょうな?」

 うん。

「旧第三中の村集落か第一中の村集落か……」

「どちらも農業以外のこれといった産業のない地域だ。順当だな」

 と、ラビティアに言われたのが心外だったのか、サイは少々ムキになって言い返す。

「どちらにも炭焼き小屋が完成し、生産を開始している。これといった産業がないとは言わせんぞ」

 あ、そうだ。

「グリフ族がグフリ族との争いが激化していて、交易品に武器を欲していた」

「チローから報告をもらっております。なんでもお館様は鉄の棍棒を提供せよと申しているとか」

「そうなんだイラード。剣と違って鍛造する必要がないから材料さえあれば剣よりずっと量産できるからな」

「では、交易拠点である四の宿に近い旧第三中の村集落に移転させましょう」

 「させましょう」って、権限は僕が持っているんであってサイが持っているわけじゃないんだけどなぁ……。

「お館様」

「どうした? セイ」

「バロ村にも武具鍛治がおられましたよね?」

 ジャリのことだな。

「ああ」

「その者も移動させるので?」

 そういえば、ジャリは普段農具や包丁などを作って生計立ててたっけ。
 村で唯一の鍛冶屋でもあるしな。
 僕の要望で剣ではなく日本刀(のようなもの)を作刀してもらっていることだし、試行錯誤の段階でもあるからまだまだ僕のそばにいてもらわなきゃちょっと困るか。

「いや、あれは私の専属だ。移動があるとすれば、私が移動する時だ」

「御意のままに」

 次に宿場の代表者を入れ札で決めるという提案。
 代表者を決めること自体に異論は出なかったけれど「入れ札」で、というのがやっぱりイラードや代官たちには不評だった。
 しかしだな

「村の代表者を決めるのは村の民なのだから、宿場の代表を決めるのは宿場のものでなんの不都合がある? ただでさえ足りない文官をこれ以上いたずらに割きたいのか?」

 と、やったらグゥの音も出なかったようだ。
 オグマリー町ハンジー町間に計画中の新しい宿場も含めて全部で六宿。
 そこに文官を派遣するとなると一人だけってわけにもいくまいから、それだけでずいぶんな人数を取られることになる。
 まして、代表を務められるような能吏は人材不足の現在、手放したくないどころか逆に喉から手が出るほど欲しい人材だ。秋を前に今年の文官登用試験を予定しているとはいえ、どうなるかは未知数だからね。
 不承不承ながら全会一致で可決した。
 ま、領主は僕だし対案で僕を納得させられないんだから異論は認めないけど。
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