第247話 攻城戦 1

文字数 2,486文字

 攻城戦二日目。
 今日は午前中に矢の撃ち合いをする。
 矢は意外と大量生産が出来ないのに消費の激しい武器だ。
 狙い通り真っ直ぐ飛ぶ矢を作るのは熟練の職人でも難しい。
 うちの軍では特級、良級、並級の等級に分けて納品管理している。
 今撃ち合っているのは並級で、当たればもうけもんの弾幕用だ。
 良級は相手を狙うために使う事を想定した矢で、各弓兵四本持っている。
 そうそう、我が軍では矢筒に二十四本の矢を入れて持たせている。
 矢筒になくなったら後退して歩兵隊が前進する手筈になっているのだ。
 特級は全体の三パーセントに満たず、基本的に怪物(モンスター)退治に用いて戦場には持ち込まない。
 この戦場では特に技量優れた射手数人が、良級の代わりに四本ずつ渡されているのみだ。
 ちなみに今回の遠征では一人当たり矢筒九個分の並級が用意されている。
 これまでの戦闘で三回分が消費されているらしいので残りは六回分だ。

「今日は本格的に落としにかかるわけではないと言っていましたが、この調子で本当によいのですか?」

 カイジョーが僕の隣りで戦況を見ている。

「ああ。敵はまだ気力十分だ。さすがに今日一日で落とせるとは思っていない。だから、なるべく味方の被害を抑えつつ、相手を消耗させることに努める」

「午後は歩兵に楯を持たせて前進させるだけでしたな」

 そう、なるべく多くの矢を撃たせて消耗させるのが、本日の作戦である。
 だから無理はさせないことを各将には厳命している。
 午後の戦闘では予定通り、楯を持って歩兵が前進する。
 我が軍は槍が主兵装なんだけど、今日は腰に帯剣しているだけで自分が隠れるほどの大楯を持たせて城に進軍させた。
 両手で楯を持たせるためだ。
 楯も槍もかなり重い。
 テレビや映画では軽々と持って振ってみせるけど、あれは見せかけだけの小道具を使った演出であって実際本物であんな事ができるのはごく一部だ。
 我が軍に能力向上魔法抜きで片手で槍が振り回せるのは十人といないだろう。
 それほどの重量だからこそ武器として威力を発揮するわけだ。
 楯にしたって相手の攻撃を受け止めるものだから、相応の強度を持たせている。
 当然それだけ重量が嵩む。
 いくら訓練した屈強な兵士でも、両方を持って戦うことは容易じゃあない。
 だから今日は大楯だけを持って前進させているんだ。
 帯剣は万が一敵が討って出てきた時の用心のためである。
 午後の戦闘では城から降り注ぐ矢を大楯で受け止めつつ、ジリジリと前進するだけで終わった。
 城壁に取り付くところまではいけなかったけれど、今日はこれでいい。
 引き上げてきた兵たちの楯には隙間なく矢が立っていた。
 いやあ、命令した側だけれど怖かったろうなぁ。
 僕はやりたくない。
 幸い死者は出なかったけど、何人もの怪我人が出た。
 もっとも、それらは魔法で治癒ができるんだけど。

 三日目はきっかり一時間おきに鬨の声をあげるだけ。
 その間に大楯の修理をさせる。
 四日目はランダムに鬨の声を上げさせ、時折弓兵に矢を射かけさせた。
 こちらは一斉射するだけだけど、応射はパラパラ何射か飛んでくる。
 それは夜にも行った。
 日が沈んでからすぐと普通なら寝静まる頃、そして夜明け前だ。
 もちろんこちら側もぐっすり寝る事が出来なくなるわけだけれど、やる側とやられる側では精神的にも肉体的にも疲労度に大きな違いがある。
 味方は事前に説明がなされているが、敵軍には不意打ちとなる。
 この差はでかい。
 五日目。

「いよいよですな」

「ああ」

 予定通り、今日は左右の軍が同時に矢を射掛けて戦端を開く。
 今日は矢筒一つ分の射撃戦を行った後、弓兵に矢を射掛けさせながら、大楯を持つ係と二人分の槍を持つ二人一組の歩兵を前進させる。
 前進する歩兵への弾幕が少しでも減るように弓兵と騎兵が牽制し、虎の子の魔法部隊も魔道具小銃(ライフル)で応射する。
 弓も銃も連射が間断なく行えるわけじゃない。
 弓は矢をつがえて引き絞る動作で、小銃なら弾を込める作業で間ができる。
 どんな精兵でもここをマシンガンのように立て続けてに撃てるようにはならない。
 そこで、信長が長篠の戦いでやって見せたと通説で言われていた三段撃ちの応用として、弓と銃を交互に撃たせた。
 報告では敵が一射する間に三交代出来たようだ。
 城に守られている敵にこの五日でどれほどの損害を与えられているのかは定かではない。
 こちらの死者が数人なことを考えれば人的損失はないことも考えられる。

「ダイモンド軍、想定線を突破しました」

 魔道具電信(テレグラフ)による報告が入電。

「よし、手榴弾(グレネード)の使用を許可する」

 城壁の上から投擲していたこれまでと違い、下から上へ投げ上げるのは簡単じゃあない。
 そこで、今回の遠征のために手榴弾用の投石機(カタパルト)を用意してきている。
 さて、ルンカー造りの城壁にどれだけの威力を発揮するものか。

「オクサ軍も想定線を突破しました」

「手榴弾の使用を許可。本陣、前進!」

 いよいよ破城槌を城門に届ける作戦を開始だ。

移動(モバイル)電話(テレフォン)によるダイモンド軍からの報告です。手榴弾の効力芳しくなく、爆弾(ボム)の使用許可を求めています」

 手榴弾は破裂することで中身が四散する兵器だ。
 最初期の石礫が込められたものから幾度かの改良がされていて、現在は鋭利な鋲が四散するようになっている。
 しかし、これだと破裂しても城壁に阻まれて狭い狭間(さま)に隠れている敵兵に大きなダメージは与えられないのだろう。
 手榴弾を改良して作られた爆弾は、ダイナマイトのように文字通り爆発して大きな破壊力を生む魔道具だ。
 込めた魔力がそのまま威力となる土木作業用と違って戦闘用爆弾は友軍(フレンドリー)誤射(ファイヤ)を避けるため火力調整が施されているが、試射ではルンカー製の一枚壁を粉砕しているから、十分な威力を発揮してくれるだろう。
 だが、

「本軍が城壁に取り付くまでは使用を許可できない」

 この作戦での左右の軍の役割は、本軍が城門を破壊して城内になだれ込むまで敵兵を一兵でも多く引きつけておくことだ。
 今、爆弾を使う許可を出せるのは本軍だけである。

「投石機用意。爆弾設置。目標、狭間。撃て!」
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