第299話 新しい魔道具
文字数 2,363文字
軍を三つに分けた後、左右の軍は即日出発。
本軍は一日遅れて出発する。
一日遅らせた理由は砦の住人たちの対処にあたるためだった。
捕虜は自領の砦に移送、民間人は引き続き住むことを許したが武器と鍛冶師はすべて本軍に組み込んだ。
「サイコップ、接収した武器の品質はどうだった」
サイコップは領内の武器鍛冶師でドゥワルフ族の血が入った男だ。
今回の外征が長期に及ぶもののため連れてきている鍛冶師の責任者だ。
というか、今や彼は我が軍の武器製作部門のトップである。
「まぁ、数打ちとしてはいたって並ですな。あれだけ打てれば十分使い物になる連中ってことでしょう」
「なら、連れてきたものたちは鉄の 弾丸 など飛び道具に専念できるか」
「材料と時間さえあれば」
そうだよな。
「折れた剣などでいいのだろう?」
「ええ」
「あとは炭か」
鉄の融点まで熱するためには薪では足りない。
炭が必要である。
「それも手配がすんでおられるのでしょう?」
まぁ、鍛冶師を連れてきているのだから手配は怠りなく済ませている。
手元にそれほどないだけだ。
本軍は、粛々と街道を進む。
途中の村は素通り、大軍の接近に門を固く閉ざした町々にも目をくれず、アシックサルの居城を目指してひたすら行軍する。
アシックサル領内でもこの辺りは西側にそびえる山脈から続く起伏の裾野にある土地だ。
ハングリー区ほどではないが川も沼も少なく耕作に適した土地柄とは言い難いが、畑だけは多い。
無理に畑を作っているせいで逆に水不足に陥っているように見受けられる。
「ルダーが見たらなんて言うのだろうな」
と、つい独り言が口を突いてしまったらしい。
「きっと文句たらたらでしょうな」
と、イラードが言えば、ウータが
「ええ。目をキラキラと輝かせながら言うことでしょうね」
と、後をつぐ。
ああ、目に浮かぶわ。
行軍八日目、砦を攻めた左軍から勝利の飛行手紙が届く。
ラバナルが魔法の大盤振る舞いをしたようで、わずか半日で砦は陥落したそうだ。
行軍十二日目、右軍からの作戦任務完了報告が来た。
いやいや、戦勝報告すっ飛ばして事後処理も終わったっていう報告かいっ!
ん?
「なにか問題でもありましたか?」
「リュ・ホゥ殿がな……」
読み終わった報告をイラードに手渡す。
鉱山の町には奴隷として強制労働を強いられていた大勢のグリフ族がいたようだ。
激怒したリュたちが暴れたようで、なだめるのに苦労したと書いている。
解放されたグリフの民が言うには山の上に同胞が逃げていると言うので助けに行きたいと言っているが、判断願いたい旨書かれていた。
「どうするのですか?」
「元々同胞の消息を気にして同行してきたものだからな。許可を出すよ」
僕は、チャールズを呼び出して植物紙に手紙を書く。
「飛行手紙ではないのですか?」
と、ガーブラが訊ねてくる。
「飛行手紙では遅いと思ってな」
飛行手紙の高速化はもう五年ほど研究をさせていたものだ。
高速化のボトルネックになっていたのが皮紙の強度不足と空気抵抗だったことは最初の二年で突き止めたのだけれど、紙飛行機のままでは改善できなかった。
そこで発想を転換し、飛行手紙を改良するのではなく、新しい通信手段を開発する方向に舵を切った。
これにはしばらく魔道具の改良ばかりだったことを疎ましく思っていたラバナルが大いに乗り気になってくれて、様々な試作を作ったようだ。
で、できたのがこの飛行 手紙 速達 である。
姿勢制御用の翼をつけた金属製ロケットで、筒状の胴体に手紙を入れて専用の発射装置で射出する。
その速度はバロ村そば、主の森から僕の居城まで一日で届くほど。
欠点は都度胴体に差出人宛の魔法陣を描く必要があり使い切りなのと、発射装置に少なくない魔力を流さなければいけないため、魔法使いでなければ使うことができないことだ。
現在、速達を利用できる魔法使いはラバナル、チャールズを含めて十人足らず。
ラバナル曰く「まだ試作品 」と言うことだ。
チャールズが魔道具速達を発射すると、ロケットはペットボトルロケットより早く打ち上がり、あっという間にきらりと光って消えていった。
それを確認した僕は改めて飛行手紙を取り出して左軍への指示をしたため、これを飛ばす。
行軍十八日目、遠くに山城が見えてきた。
ルンカー造りの西洋塔で三角屋根が七つ見える。
城の全容が見える程度には小高い山の上に建てられていて、山腹は低木らしい林がまばらに存在しているのが確認でき、麓には山を囲むように二重の城壁。
おそらくその内側には城下町が築かれているのだろう。
「うぅむ……」
「いかがなさいましたか、お館様」
低く唸った僕に心配そうに声をかけてきたのはウータ。
さすがは女性騎士というべきか? 心配りが細やかだ。
「こちらから見えるということは、相手からも見えているということだ」
と、城を指差すと、
「斥候の情報どおりです」
と、答える。
そりゃあそうなんだけど、どう軍を展開してもこちらの意図がバレてしまうと思うとやっぱりいい気はしない。
だからってどうすることもできないんだけど。
「ウータ。サビー、イラード、ガーブラにそれぞれ兵五百をつけて軍を分ける。イラードは西門、サビーは南門、ガーブラは東門を受け持つよう伝令を出せ。明日の日の出を合図に開戦だ」
「かしこまりました」
軍は速やかに二つに分かれる。
西門、南門へ向かう一千の軍と僕ら二千の軍にだ。
僕らは進路をやや左(西南西)にとり、やがて北門の手前でガーブラ隊の五百が東門へ向かって切り離される。
陽が沈むにはまだしばらくあったが野営陣を構築する指示を出す。
もっとも遠い南門に向かったサビーから陣地を確保したと移動用 電話 連絡が来たのは夕食をすませ、一息ついた黄昏時だった。
本軍は一日遅れて出発する。
一日遅らせた理由は砦の住人たちの対処にあたるためだった。
捕虜は自領の砦に移送、民間人は引き続き住むことを許したが武器と鍛冶師はすべて本軍に組み込んだ。
「サイコップ、接収した武器の品質はどうだった」
サイコップは領内の武器鍛冶師でドゥワルフ族の血が入った男だ。
今回の外征が長期に及ぶもののため連れてきている鍛冶師の責任者だ。
というか、今や彼は我が軍の武器製作部門のトップである。
「まぁ、数打ちとしてはいたって並ですな。あれだけ打てれば十分使い物になる連中ってことでしょう」
「なら、連れてきたものたちは
「材料と時間さえあれば」
そうだよな。
「折れた剣などでいいのだろう?」
「ええ」
「あとは炭か」
鉄の融点まで熱するためには薪では足りない。
炭が必要である。
「それも手配がすんでおられるのでしょう?」
まぁ、鍛冶師を連れてきているのだから手配は怠りなく済ませている。
手元にそれほどないだけだ。
本軍は、粛々と街道を進む。
途中の村は素通り、大軍の接近に門を固く閉ざした町々にも目をくれず、アシックサルの居城を目指してひたすら行軍する。
アシックサル領内でもこの辺りは西側にそびえる山脈から続く起伏の裾野にある土地だ。
ハングリー区ほどではないが川も沼も少なく耕作に適した土地柄とは言い難いが、畑だけは多い。
無理に畑を作っているせいで逆に水不足に陥っているように見受けられる。
「ルダーが見たらなんて言うのだろうな」
と、つい独り言が口を突いてしまったらしい。
「きっと文句たらたらでしょうな」
と、イラードが言えば、ウータが
「ええ。目をキラキラと輝かせながら言うことでしょうね」
と、後をつぐ。
ああ、目に浮かぶわ。
行軍八日目、砦を攻めた左軍から勝利の飛行手紙が届く。
ラバナルが魔法の大盤振る舞いをしたようで、わずか半日で砦は陥落したそうだ。
行軍十二日目、右軍からの作戦任務完了報告が来た。
いやいや、戦勝報告すっ飛ばして事後処理も終わったっていう報告かいっ!
ん?
「なにか問題でもありましたか?」
「リュ・ホゥ殿がな……」
読み終わった報告をイラードに手渡す。
鉱山の町には奴隷として強制労働を強いられていた大勢のグリフ族がいたようだ。
激怒したリュたちが暴れたようで、なだめるのに苦労したと書いている。
解放されたグリフの民が言うには山の上に同胞が逃げていると言うので助けに行きたいと言っているが、判断願いたい旨書かれていた。
「どうするのですか?」
「元々同胞の消息を気にして同行してきたものだからな。許可を出すよ」
僕は、チャールズを呼び出して植物紙に手紙を書く。
「飛行手紙ではないのですか?」
と、ガーブラが訊ねてくる。
「飛行手紙では遅いと思ってな」
飛行手紙の高速化はもう五年ほど研究をさせていたものだ。
高速化のボトルネックになっていたのが皮紙の強度不足と空気抵抗だったことは最初の二年で突き止めたのだけれど、紙飛行機のままでは改善できなかった。
そこで発想を転換し、飛行手紙を改良するのではなく、新しい通信手段を開発する方向に舵を切った。
これにはしばらく魔道具の改良ばかりだったことを疎ましく思っていたラバナルが大いに乗り気になってくれて、様々な試作を作ったようだ。
で、できたのがこの
姿勢制御用の翼をつけた金属製ロケットで、筒状の胴体に手紙を入れて専用の発射装置で射出する。
その速度はバロ村そば、主の森から僕の居城まで一日で届くほど。
欠点は都度胴体に差出人宛の魔法陣を描く必要があり使い切りなのと、発射装置に少なくない魔力を流さなければいけないため、魔法使いでなければ使うことができないことだ。
現在、速達を利用できる魔法使いはラバナル、チャールズを含めて十人足らず。
ラバナル曰く「まだ
チャールズが魔道具速達を発射すると、ロケットはペットボトルロケットより早く打ち上がり、あっという間にきらりと光って消えていった。
それを確認した僕は改めて飛行手紙を取り出して左軍への指示をしたため、これを飛ばす。
行軍十八日目、遠くに山城が見えてきた。
ルンカー造りの西洋塔で三角屋根が七つ見える。
城の全容が見える程度には小高い山の上に建てられていて、山腹は低木らしい林がまばらに存在しているのが確認でき、麓には山を囲むように二重の城壁。
おそらくその内側には城下町が築かれているのだろう。
「うぅむ……」
「いかがなさいましたか、お館様」
低く唸った僕に心配そうに声をかけてきたのはウータ。
さすがは女性騎士というべきか? 心配りが細やかだ。
「こちらから見えるということは、相手からも見えているということだ」
と、城を指差すと、
「斥候の情報どおりです」
と、答える。
そりゃあそうなんだけど、どう軍を展開してもこちらの意図がバレてしまうと思うとやっぱりいい気はしない。
だからってどうすることもできないんだけど。
「ウータ。サビー、イラード、ガーブラにそれぞれ兵五百をつけて軍を分ける。イラードは西門、サビーは南門、ガーブラは東門を受け持つよう伝令を出せ。明日の日の出を合図に開戦だ」
「かしこまりました」
軍は速やかに二つに分かれる。
西門、南門へ向かう一千の軍と僕ら二千の軍にだ。
僕らは進路をやや左(西南西)にとり、やがて北門の手前でガーブラ隊の五百が東門へ向かって切り離される。
陽が沈むにはまだしばらくあったが野営陣を構築する指示を出す。
もっとも遠い南門に向かったサビーから陣地を確保したと