第107話 今頃かよっ!

文字数 1,834文字

 出発の朝、僕らの泊まっている宿にキャラがやってきた。
 オギンがサラのメイク中だったので僕が対応する。

「オギンさんか……どっかで会ったかい?」

「会ったもなにもここのとこ毎日会ってるんだけど?」

「お館様!?

 あー、そうか今日はメイクをしていないんだったな。

「こっちの顔で覚えてくれ。で?」

「はい。昨日から怪しい連中が街をうろついていたので、念のためお知らせにきました」

「それは僕じゃなくサラだな」

「サラというと、最初にお館様とご一緒だった少女ですか?」

「うん。僕もそれなりにお尋ね者だけどね」

 こっちは顔のろくに知られていない田舎の反乱者、向こうは王位継承権を持ち追われているお姫様だ。
 と、ざっと説明する。

「なるほど」

「ホタルたちは?」

「はい、念のため連中をキキョウに見張らせ、ホタルとコチョウには宿の周りを見張らせています」

 有能!
 今後の方策を検討するためにキャラを部屋へ通し、五人で話し合うことにする。

「ごめんなさい。私のせいで」

 と、早速謝りにかかるサラ。

「気にすることはありません」

「そうそう、倒すだけなら造作もないんだ。残りは五人だったよね?」

「はい」

 オギンが頷く。

「五人ですか?」

 キャラが疑問を呈する。

「何人いたんだい?」

「三人でした」

 それはあれだな、この街の南北にある門に張り付いてるんだろう。
 ここは男爵領内最大の商都だから街の規模もなかなか大きい。
 見張りが一人なら振り切ることも容易だけど、問題はそのあとなんだよなぁ……。
 できればこの一、二年はひっそり力を蓄えたい。
 だから出来る限りそろっと逃げ出したいんだよ。
 ということで、オギンとキャラに囮になってもらおうと提案するが、

「無理がありませんか?」

 なんでよ? ルビンス。

「キャラもオギンも胸が大きすぎます」

 あ・確かに。
 特にキャラは背も高くてサラにはなれない。
 それはそれで事実だけど……率直すぎんべ。
 オギンだけでなく、サラにも睨まれてるよ。
 サラも決して貧相じゃないと思うけどな。

「では、うちのホタルにでも身代わりをさせましょう」

「付き添うのはあたいがやります」

「じゃあ、一度北門で姿を見せて南門から出てくれ」

「かしこまりました」

 と、オギンが部屋を出ていく。
 一を聞いて十を知る部下はありがたい。

「あれで作戦が判るんですか?」

「たいてい思った通りに動いてくれるね」

 たぶん今回もサラが着ていた服をホタルに着せて、程よく逃げて回って僕らに合流してくれるだろう。

「さすがオギンさんですね」

「さて、僕らは予定通りに北門から出るよ」

 オギンの代わりをキャラに任せるため今後の予定を説明し、身支度を済ませて宿を出る。
 僕らが乗ってきたホルスが三頭。
 うち二頭にこの街で仕入れた荷物を載せる。
 残り一頭は有事の際の騎乗用だ。
 待ち合わせの場所に行く途中でコチョウが合流する。
 待ち合わせ場所にはすでに鍛冶職人サイコップと文学者のアンミリーヤが待っていた。
 到着するとすぐにルビンスたちが交渉に当たっていた医者のソルブ・ドーザーとジャンヌ夫妻が、デミタという植物研究家を連れて現れた。
 ありがたいことだけど、みんな荷物が多すぎないか?

「案の定、みんな荷物が多いな」

 と、いいながら最後に現れたのは歴史学者のウォルターである。
 彼は、ナート、ヨーコという二人の助手にホルス二頭立ての荷車をひいてこさせている。
 荷車にはずいぶんと空きがある。

「ほれ、さっさと荷を載せて出発しようではないか」

 ウォルターに促されてみんな荷車に荷を積み込む。
 そこにキキョウが現れキャラに耳打ちをする。

「お館様、喰いついたようです」

 オギンが首尾よく北門から見張りを引き剥がし、仲間と合流させたようだ。

「よし、じゃあ出発しよう」

 総勢十三名の大所帯になった一行は北門を出て帰路につく。
 帰路も好天が続いて徒歩なりに順調に旅は進む。
 第六先の村、第四中の村を通って第五中の村への道程半ば、夜営の準備をしているところにオギンとホタルが合流した。

「遅くなりました」

 なんていうけどむしろ早かったと思うね、僕は。

「首尾は?」

「上々です」

「ご苦労」

 ちらりと見たホタルはいつものホタルだった。
 残念だ。
 「馬子にも衣装」を見てみたかったのに。

「そういえば」

 と、助手たちと飯の支度をしていたウォルターが思い出したように話しかけてくる。

「ワシを誘いにきた男がおらんようじゃが、どうしたんじゃ?」

 あ、あはははは。
 今頃かよ。
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