第337話 ティアドロップのサングラスをかけ、カーディガンを肩にかけ

文字数 2,421文字

「おかえりなさいませ」

 視察を終えて館に戻ってきた時で迎えてくれたのはサラ一人だった。
 そろそろ予定日の臨月なのだが、余裕があるようだ。

「留守中なにもなかったか?」

「エリーナの首が座りました」

 春に生まれた娘の名だ。

「早いな」

「ええ。でも、もうじき()(つき)になりますから」

「サラもそろそろだろう?」

「それで戻ってきてくださいましたの?」

 イタズラっぽく笑う彼女は少し翳りを見せてこう続ける。

「男の子であればよいのですが……」

 跡継ぎということを考えているのだろうか?
 彼女は王家の血筋を引いている。
 この国はそこまで男系に拘ってはいないが、乱世ということもあり強い跡継ぎを求められていることもまた事実だった。
 旅装を解いてくつろいでいると、コンドー・ノレマソと二人の侍女が入ってくる。
 たしかカレン・ウォッツリーとヨーコ・ワッシャミだったか。
 電撃隊の彼女もカレンって名前だったが、こちらのカレンは腰まで届く長い髪が特徴的な淑女だ。
 そういえばウォルターの弟子で今はゼニナルで教鞭をとっている女性もヨーコって名前だったよな。
 まぁ、名前ってのはよくかぶるもんだ。カレンとかヨーコってのは今日子とかそれこそ陽子みたいなポピュラーな名前なのかもしれない。
 僕のジャンだってかなりありきたりな名前と言える。
 ちなみにヨーコの方もかなり長いようだが、高めの位置でポニーテールにしているのでカレンほど髪に強い印象はない。
 どちらも露出が少ない大人しめの格好をしている。
 チラとサラをみると済ました顔で目を閉じて心もち頷いて見せたことを鑑みるに……。

「先触れがございましたので湯浴みの用意が整ってございます」

 だよね、やっぱそういう意味だよね。

「うむ」

 と、唸って風呂場へと向かう。
 楚々と数歩うしろをついてくるのはカレンとヨーコの二人だけ。
 むむむ。
 沈黙が怖い。

「館での生活は慣れたか?」

 その問いに答えたのはカレン。

「はい。皆様よくしていただいております」

 受け答えもしっかりしていて育ちのよさがよく判る。
 それに対してヨーコの方は一瞥くれると目を泳がせたりなにか言おうとして諦めたり。
 これは眺めていると面白そうな娘だ。
 うん、この際だ。
 僕は早々に旅の垢を流すだけで風呂から上がり六人の側室候補を呼び出した。
 その際、体のラインが出る服に着替えてもらう。
 こりゃちょっとした美人コンテストだな。
 様子が気になったのか、サラも一緒にやってくる。

「サラの圧が日に日に強まっているからな。側室を一気に決めてしまおうと思って」

「まぁ、わたしのせいにするのですか?」

 ぷぅと頬を膨らますその仕草が可愛いのでそのままにさせておく。
 さて、コンドーに用意させたプロフィールにざっと目を通す。
 名前に出自に年齢経歴、趣味に特技、果ては親族の身辺調査結果まで書かれている。
 当たり前だけど、みんないいとこのお嬢さんで甲乙つけ難い。
 左から風呂の支度でついてきたカレン、ヨーコそしてジュラン・ルー、ランラ・ピッド、シャーカ・ビーチ、ユウリー。
 ユウリーにファミリーネームがないのは家名を名乗れない事情があるからであって、決して出自が低いわけではない。
 余談だけど、この国には庶民でも僕のようにファミリーネームを持っているものがいる。
 だいたいは元はそれなりの身分だったものであったり勝手に名乗っている場合がほとんどだが、たまに功績が認められて家名を賜ったということもある。
 比率的には三割くらいだろうか。
 僕? 僕に家名があるのは他国出身だかららしい。
 どこの国かは結局教えてもらえなかったけど、亡命貴族だったってことだな。
 ……ホントかどうかは、確認しようがないけどな。
 家臣に家名持ちが多いのはまぁ、教育水準が資産によって差が生まれやすいという文明水準由来の問題だろう。
 領内では義務教育を推進しているので若い世代では身分差による学力格差はほとんどない。
 閑話休題
 見目は美人系、かわいい系などの違いはあるけど、自分の好みに合わせて選ばれているのでその日の気分で誰がいいとか変わってくるだろう。
 結論として(かお)(かたち)では選ばない。
 身長は全体的にこの世界の女性としては背の高い方。
 正室のサラは華奢に見えるが出会った頃からグンと背が伸び、印象より背は高い。
 キャラはサラよりもう少し背が高くグラマラスなメリハリボディだ。
 彼女たちと並んでも身長的には見劣りしない。
 ユウリーとシャーカは非常にスレンダー。
 ランラもスラリとした印象だけど、鍛えられているのか肉付きがいい。
 カレンは見るからに運動ができそうなむっちりとした下半身をしている。
 ヨーコはまだ全体的に幼い印象が残っているけれど、いい女になりそうだし、ジュランに至ってはとても魅力的である。

(ジャンはあったほうが好きよね)

ちょっ。
 …………まぁ、どちらかといえば、な。
 しかし、選ぶ基準はそれだけじゃないぞ。

(とってつけたように条件追加しなくてもいいのよ)

(とってつけてるわけじゃありませんーっ!)

 それはともかく集団面接での質問の後、個別にさらに会話を重ねて自室にこもって彼女たちのプロフィールと睨めっこ。
 気づいたら夜になっていたようだ。
 戸を叩く音に気づき入室を促すと、サラが長女のミリィと一緒に入ってくる。
 お手伝いで食事を運んできてくれた娘の頭をなでてやると恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる。

「目を悪くしますよ」

 と、魔道具の照明をつけてくれる。

「ああ、そうだな」

「お父様、お仕事は終わりましたか?」

 側室を決めるのはお仕事なのか?

「ん? ああ、だいたいね」

「じゃあ、明日は遊べる?」

 ミリィはすでに小学校に通っているので午前中は勉強だ。
 午前のうちに書類仕事は終わらせられるはずである。

「そうだな。明日は遊べるかな?」

「約束ね?」

「ああ、約束だ」

 暇を出す彼女たちの身の振り方も決めておかなきゃな。
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