第30話 村の短期防衛計画2 測量

文字数 2,145文字

 村を守ると一口に言ってもどこまでを守るかは正直決めとくべきだ。

「まずできる限り村人は殺させない」

「当然ね」

「でも、戦うとなればどうしたって殺す(やる)殺さ(やら)れるかになる。できる限り直接戦わずに撃退したい」

「理想よね」

「次に、集落もできる限り守りたい。村に入られるってことはキャラバンの商品を奪われるってことに繋がるから、その時点で負けと言っていいし、命あっての物種とはいえ襲撃のたびに壊されていたんじゃ、守ったことにならないからね」

「そうね」

「村の財産には畑もあるんだけど、広い畑を完璧に守るのは難しい」

「村人の人数と畑の広さを考えたら、実際不可能だと思うな」

「僕もそう思う。それに野盗は基本的に破壊が目的じゃなくて食料とかの略奪が目的だから、畑を意図的に荒らすとは思えない。まぁ、確率ゼロじゃあないし、襲う過程で荒らされることは想定してる」

 枯葉に箇条書きで書いては地面にそれらを広げていく。
 それまで村は平穏な日常の中にあったから、防衛なんて考えてない作りだった。
 獣の侵入を防ぐ柵さえなかったくらいだ。
 今はそうはいかない。

「防護柵を設置する必要があるな」

 できれば堅固な壁がいいんだけど、万里の長城の例を引くまでもなくどう考えたって時間がない。
 柵は簡単に壊されず、乗り越えられないものじゃなきゃいけない。
 高さ五シャッケン程度じゃ簡単に乗り越えられちゃうけど、倍の十シャッケンだと村の中が居心地悪く感じないだろうか?
 んーん……高さは住人達と相談しよう。
 戦乱初期の村人は、単なる村人だから基本的に戦闘力がない。
 戦乱が長く続いて戦闘員が足りなくなると領民が駆り出されて従軍するようになる。

「戦は兵力ですな」

 どこぞの野望ゲームですか、リリムさん。
 結果、村人も強くなるわけだけど、現状まだこの村の住人はレベル1相当だ。
 戦闘経験があるのは多分サビーたち五人だけだと見積もっとこう。
 でも、僕もジャリやジャスも狩りで弓を使うし……いや待て、獣相手と人とじゃかっても違うだろう。
 でも、殺す(やる)殺さ(やら)れるかだ。
 やるしかないだろ。

「ふむ」

「考えがまとまったの?」

「いーや」

「だめね」

「そんなことないよ。明日はルダーとイラードともう一人くらい連れて周辺地図の作成だ」

 翌日連れ出したのはルダーとイラードにオギン。
 ガーブラの推薦だ。
 二つの山脈の麓に広がるなだらかな丘陵地帯にあった元々の村は東西一カル南北一カル半。
 ちなみに一カルは三千シャッケン。
 十スンブで一シャッケン。
 三シャッケンで一シャル。
 千シャルで一カルというのがこの国の長さの単位だ。
 変換がちょっとめんどくさい。
 そして、近代化前の世界の常識というか、統一された長さじゃないのが困りものだ。
 親指の先から第一関節までの長さが一スンブ、いわゆる尺骨の長さが一シャッケン。
 だいたい十倍なだけで厳密に十倍なわけじゃない。
 一シャルは紐を親指に挟み肘の下をぐるっと回してもう一度親指で挟み肘の下まで垂らした長さなので、これも実際には三シャッケンよりちょっと長い。
 そしてなぜだかちょうど千シャルで一カルになる。
 この村では僕の今のそれぞれの長さが基準長として測られた。
 さて、改めて村の大きさだ。
 村は直径五百シャルの中央広場があり、東西一カル南北一カル半の広さだった。
 現在の人口密度は十三人/平方カル。
 中央広場の分を差し引いても十五人/平方カル。
 スッカスカだ。
 二百人くらいは暮らせそうだ。
 約五万平方シャルの畑は南東に広がっている。
 なぜだか「東京ドーム一個分」と言うよく判らない単位が頭の中に浮かぶ。
 畑のためにひかれた用水路は当然村の東側を流れていて、その向こうに雑木林が広がっている。
 西側はすぐに切り立った崖がそびえていて、北は山岳地帯。
 南側には王国内へと続く街道があるが、北には道らしい道はない。
 ちなみに、この間木材を伐採に行ったのは北側だ。
 人の手が入っているのは村と畑と雑木林まで、用水路もそうかな?
 こうしてみると、本当にど田舎だ。
 丸一日かけて村の勢力圏を確認した僕らは、日が沈む頃に僕の小屋に戻ってきて、情報を整理する。

「村が広すぎると思わない?」

 と僕が言えば

「人口が少なすぎるだけだろう」

 とイラードが言う。

「どれくらいの規模にしたいんだ?」

 とルダーが訊ねるから

「五、六十人?」

 と答えたら

「せめて百人、できれば百五十人規模にしたい」

 とイラードが言う。

「そりゃ、もう『町』の規模だ」

 僕もそう思う。

「村の規模じゃ荷を守れない」

 とオギンが言う。
 いったいどんだけの荷物をこの村に運び込むつもりなんだ?

「前の拠点にはどれくらい荷物を置いていたんだ?」

「蔵四つ」

「それはどれくらいの大きさだったんだ?」

「間口六シャル奥行き十五シャル」

 デカッ!

「ここは田舎だからそこまで大きなものは作らないって言ってたけど?」

「ジョーがそう言ったのか? そうか……確かに政情不安定な時期だから在庫を抱えすぎるのもリスクだからな」

 焦ったぁ。

「……ならやっぱり村の範囲を少し狭めよう。北側を五百シャル削る」

「削った分はどうするんだ?」

「何にも?」

「もったいないだろ?」

「いい案あるの?」

「家畜を飼おう」

 おぉ!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み