第164話 知らないうちに新しいものが発明されていた

文字数 2,135文字

 オグマリー町を後にして僕ら一行四人は一路ゼニナル町へ。

「ようこそおいでくださいました」

 と、迎えてくれたのはオクサだ。

「元気そうだな」

 と、領主らしくちょっと上から言ってみる。

「健康面では、いたって」

「健康以外では元気がないんですかい?」

 チロー、余計なこと言わないの。

「お館様のいう通り、ここは兄者でなければ治められない町ってことだ」

 と、オクサの弟のラビティアが答える。
 商人連中と相当やり合っているんだろうな。

「おかげで槍稽古に付き合わされるオレはたまったもんじゃない」

 笑うしかない。

「ケイロは元気でやってるか?」

「はい、優秀な人材で重宝しています」

「商人どもの相手をすべて押し付けてますぜ、兄者は」

「おい」

「もちろん、方針は兄者が決めてますが、交渉はケイロの方がずっと器用に立ち回ってくれるんです」

 意外と雄弁だな、ラビティアって。

「ところで、先日ジョーから聞いたのですが、商人から運上金を取る予定だとか」

「ああ、そのつもりだ」

「商人との折衝に持ち出してもよろしいでしょうか?」

 ああ、まだ具体的に計画していないから公布できる状態じゃないんだよな。

「旅先で思いついたものだからまだ具体的に詰めていないんだ。……すぐにでも商人どもに叩きつけたいか?」

「叩きつけたいなどと……まぁ、正直有無を言わさず押さえつけたいところですな」

 ずいぶん手を焼いてるんだな。

「判った。ジョーは今、この町にいるのか?」

「いますよ。今はケイロと応接室でやり合ってるはずです」

「ちょうどいい。ケイロ共々呼んで具体的に詰めようじゃないか。いや、こちらからそこに乗り込むとしよう」

「お館様」

「いいですな」

 ラビティア、ノリいいな。
 善は急げで応接室に乗り込むと、びっくりして椅子から転げ落ちるケイロと、多少驚いたようだけどニタニタするだけだったジョー。
 ちょっと場数が足りないようだな、ケイロ。

「商談の途中だったか?」

「いえいえ、大体まとまったところですよ」

「ジ、ジョーさん……」

 んーん、さてはジョーに圧されてたな?

「ジョー、オクサが商人どもに相当手を焼いているらしいんだ。例の運上金の件、今この場で煮詰めたい。協力してくれるか?」

「この場で? それはそれは……相当お困りなのですね」

 下手に出ているような表現だけど、上から感が見え隠れしてるぞ。

「お館様、運上金の件とはどのようなことでしょう?」

 あれ? オクサからは聞いてないのか。
 僕はざっくりその場にいる全員に確認の意味も込めてかなり丁寧に運上金の説明をする。

「運上金というのがどんなものかは判ったんだけどよ、それが商人対策になるのか?」

 と、ガーブラがチローに訊ねている。
 ふふ、判らないことを判らないというのは結構大変なことなのに、ガーブラってそこら辺すごいよな。
 しかも、立場的に下だろうチローに平気で訊ねるんだから大したもんだよ。
 見習いたいね。

「領内で商いをする権利の許認可権を持つということは、権利を取り上げることができるということですね」

「おお、つまり『お館様に楯突くヤツには権利を与えないぞ』ってやるんだな」

「その通りです」

 そして、劣等感を抱かせずに上手に説明するチローもさすがだ。
 普段はちょいちょい辛辣な物言いをするくせに、こういうところうまいよなぁ。

「ということで、権利の範囲と金額、等級ごとの許可数を詰めていきたいので、みんな協力してくれ」

 と、頭を下げる。
 ガーブラを見習ってみた。
 会議に必要だと思って、カバンから紙とペンを取り出すと、

「いいものがあります」

 と、ケイロが部屋を出て行った。
 しばらく待っていると、見覚えのある事務用品を抱えて戻ってきた。
 大きな黒い板だ。
 それを壁にかけると、会議用黒板の登場だ。
 誰が考えた?

「アンミリーヤ先生が授業をする際にルダーが用意してくれたんです。とても便利だったのでこの町に来るときに作らせました。書くときはこのクッカーの卵の殻をすり潰して棒状に固めたチョークという筆記具でこのように書きます。折れやすいので書くときの力加減が難しいんですけどね」

 と、書いてみせる。
 うん、知ってるー。
 てか、チョークの誕生って十九世紀じゃなかったけ?
 それはともかく、主にジョーの協力でゼニナルにどんな商売があるのかを書き出す。
 その間にオクサが商人組合(ギルド)から提出させた名簿を持ってくる。
 やるな。
 それにしてもずいぶん商人がいるもんだ。ざっと二百人。
 もちろん、組合に加盟していない小規模の商人や、名簿には載らない大店(おおだな)の奉公人、使用人もいるだろうから商売に携わっている総数は相当数にのぼるとみられる。

「──とまぁ、主だった商売はこんなもんだろうな」

 と、書き出された商売は黒板に隙間なく書き出されていた。
 これ全部に事細かに運上金の規定をしていくのは運用が煩雑になって困るな。

「商売はゼニナルにだけあるわけじゃない。村じゃ兼業で商売始めてたりするだろ? そう言ったのはどうするんだ?」

 そうだな、そっちにもなにかしらの法規制をすべきだろうか?
 でも、せっかく貨幣経済が浸透しつつあるのに下手に規制して経済活動が萎んでしまうのもダメだよな。
 さて、どこから手をつけよう?
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