第21話 こんなトントン拍子でいいのかしら?
文字数 1,971文字
村長の朝は早い。
二日酔いの頭を抱えて用水路の水で顔を洗う。
…………。
「リリム」
「何?」
「前の井戸は使えないよなぁ?」
「どうかしら?」
襲撃の後、井戸を確認した際、サタンちゃんが投げ込まれて浮いていたのを確認している。
水質的に問題なくなっていたとしても心理的に飲みたくないよなぁ……。
そういえば、前世記憶が蘇る前で気にならなかったけど、サタンって前世世界では悪魔のことだったよな。
僕は「悪魔ちゃん」って呼びかけてたわけだ。
…………。
なんかモヤっとするな。
「でもなんで突然井戸のこと聞いてくるわけ?」
「あー……人数が増えると水汲みも大変になるだろ?」
「それもそうね」
また一つやること増やしちゃったか。
仕方ないけど。
水汲みって重労働なのよね。
ここ(水車小屋と僕の小屋のある場所)は、集落(予定地)から歩いて片道十五分ほど。
僕が朝、村へ行く時に三十ラッタほどの水を汲んで持って行くほか、炭焼きやルンカー焼くのにやってくる人も最低一往復水を汲むことになっている。
今まではそれでなんとか足りていたけど、これからはそうもいかなくなってくるだろう。
たかだか片道十五分とはいえ毎日となると時間のロスもバカにならない。
三十人の集落が井戸ひとつで賄われていたくらいには地下水が豊富に流れているんだ。
改めて井戸を掘るべきだよな。
問題は井戸の掘り方だ。
僕の前世記憶には、井戸掘り職人が海外の村人と協力して井戸を掘るTV番組の記憶がある。
けど、あの井戸掘り装置を作るには鉄器を作れる環境が必要だな。
デヤールの革でできた水袋を背負ってそんなことを考えながら村に戻ると、もうキャラバンの人たちも起き出していた。
「おはよう、村長」
ジョーに肩書きで呼ばれた。
村長になって初めてかも。
……照れる。
「おはよう」
「飯は食べたのか?」
「いえ、食事はヘレンさんが一括で作ってくれるのをみんなで食べるのが今のところの習慣です」
「いつまで?」
「とりあえずみんなの家ができるまでかな?」
ジョーは腕を組んで考え事を始める。
「家の間取りはどんな感じなんだ?」
「ヘレンさんちは見ての通りの平屋建てで、リビングとふた部屋。ユーミン姉妹が同居してます」
「!? ユーミン?」
ん?
なんだ? 今の反応は?
「あの二人ですよ。姉がクレタで妹がカルホ」
と、二人を指差す。
「……すまん、もう一度名前を教えてくれ」
「姉がクレタで妹がカルホです」
「……なるほど」
???
「で、今作っているのは?」
「ジャリとジャスが住む予定の家で二人の寝室の他にジャリが使う作業部屋も作っています」
「なんの作業をするんだ?」
「さぁ? 彼は職人志望なんだそうで、ルンカー作りも彼が親方ですし……あ・ホラ、この水袋。皮を鞣すところから彼がやってくれたんです」
と、まだ水の入ったまんまの背負い水袋を見せる。
「なかなかいい仕事してるじゃないか」
「でしょ? 高値で取引してくださいね」
「村長もなかなか商売上手だな」
……照れる。
朝食が始まる。
今日は山菜スープだ。
食べながら今日の予定を話し合う。
昨日から村人になった三人とジョーも打ち合わせに参加する。
今日の午前中はヘレン親子とジャスが食物採集。
これにはオギンもついていくことになった。
畑はルダーとガーブラが、今日から火入れのルンカー作業にはユーミン姉妹とジャリが行く。
ザビーは僕と僕の小屋から商材を運び、ここで商談を手伝ってくれることになった。
午後はルンカー組以外は二軒目の建築を予定しているのだけれど、ここでジョーがこんな提案をしてきた。
「昨日ジャン にはちらっと話したんだが、俺たちのキャラバンの拠点をここに移す計画なんだ。で、村の再建計画と合わせた戦略会議を開きたい」
おっと、「戦略会議」なんて言葉はちょっと大仰な気がするけど、一度みんなで話したいと思ってはいたことだから、その提案は渡りに船だ。
「今日からルンカーの火入れだから誰か火の番が必要だぞ?」
と、ジャリが言う。
ジャリも参加したいよね。
「じゃあ、うちの連中二、三人貸そう。会議の間火を絶やさなければいいのだろう?」
そうしてくれるのならば村人組に異議はない。
「じゃあ、今日はそう言うことで……今日も一日頑張りましょう!」
「こう言うところ、前世サラリーマン時代の影響よね」と、僕は心の中で苦笑する。
みんなはその辺りの心の機微など知る由もなく、後片付けをして各自自分の仕事に散っていく。
「さて、結構な量あるのかい?」
ザビーが軽い準備体操をしながら聞いてくる。
「うん。売ろうと思っているものだけでも何往復か必要だ」
「それならキャラバンのみんなにも手伝わせよう。村長は指示を出すだけでいい」
それはありがたい。
しかし、ジョーはなかなかどうして敏腕商人だな。
二日酔いの頭を抱えて用水路の水で顔を洗う。
…………。
「リリム」
「何?」
「前の井戸は使えないよなぁ?」
「どうかしら?」
襲撃の後、井戸を確認した際、サタンちゃんが投げ込まれて浮いていたのを確認している。
水質的に問題なくなっていたとしても心理的に飲みたくないよなぁ……。
そういえば、前世記憶が蘇る前で気にならなかったけど、サタンって前世世界では悪魔のことだったよな。
僕は「悪魔ちゃん」って呼びかけてたわけだ。
…………。
なんかモヤっとするな。
「でもなんで突然井戸のこと聞いてくるわけ?」
「あー……人数が増えると水汲みも大変になるだろ?」
「それもそうね」
また一つやること増やしちゃったか。
仕方ないけど。
水汲みって重労働なのよね。
ここ(水車小屋と僕の小屋のある場所)は、集落(予定地)から歩いて片道十五分ほど。
僕が朝、村へ行く時に三十ラッタほどの水を汲んで持って行くほか、炭焼きやルンカー焼くのにやってくる人も最低一往復水を汲むことになっている。
今まではそれでなんとか足りていたけど、これからはそうもいかなくなってくるだろう。
たかだか片道十五分とはいえ毎日となると時間のロスもバカにならない。
三十人の集落が井戸ひとつで賄われていたくらいには地下水が豊富に流れているんだ。
改めて井戸を掘るべきだよな。
問題は井戸の掘り方だ。
僕の前世記憶には、井戸掘り職人が海外の村人と協力して井戸を掘るTV番組の記憶がある。
けど、あの井戸掘り装置を作るには鉄器を作れる環境が必要だな。
デヤールの革でできた水袋を背負ってそんなことを考えながら村に戻ると、もうキャラバンの人たちも起き出していた。
「おはよう、村長」
ジョーに肩書きで呼ばれた。
村長になって初めてかも。
……照れる。
「おはよう」
「飯は食べたのか?」
「いえ、食事はヘレンさんが一括で作ってくれるのをみんなで食べるのが今のところの習慣です」
「いつまで?」
「とりあえずみんなの家ができるまでかな?」
ジョーは腕を組んで考え事を始める。
「家の間取りはどんな感じなんだ?」
「ヘレンさんちは見ての通りの平屋建てで、リビングとふた部屋。ユーミン姉妹が同居してます」
「!? ユーミン?」
ん?
なんだ? 今の反応は?
「あの二人ですよ。姉がクレタで妹がカルホ」
と、二人を指差す。
「……すまん、もう一度名前を教えてくれ」
「姉がクレタで妹がカルホです」
「……なるほど」
???
「で、今作っているのは?」
「ジャリとジャスが住む予定の家で二人の寝室の他にジャリが使う作業部屋も作っています」
「なんの作業をするんだ?」
「さぁ? 彼は職人志望なんだそうで、ルンカー作りも彼が親方ですし……あ・ホラ、この水袋。皮を鞣すところから彼がやってくれたんです」
と、まだ水の入ったまんまの背負い水袋を見せる。
「なかなかいい仕事してるじゃないか」
「でしょ? 高値で取引してくださいね」
「村長もなかなか商売上手だな」
……照れる。
朝食が始まる。
今日は山菜スープだ。
食べながら今日の予定を話し合う。
昨日から村人になった三人とジョーも打ち合わせに参加する。
今日の午前中はヘレン親子とジャスが食物採集。
これにはオギンもついていくことになった。
畑はルダーとガーブラが、今日から火入れのルンカー作業にはユーミン姉妹とジャリが行く。
ザビーは僕と僕の小屋から商材を運び、ここで商談を手伝ってくれることになった。
午後はルンカー組以外は二軒目の建築を予定しているのだけれど、ここでジョーがこんな提案をしてきた。
「昨日
おっと、「戦略会議」なんて言葉はちょっと大仰な気がするけど、一度みんなで話したいと思ってはいたことだから、その提案は渡りに船だ。
「今日からルンカーの火入れだから誰か火の番が必要だぞ?」
と、ジャリが言う。
ジャリも参加したいよね。
「じゃあ、うちの連中二、三人貸そう。会議の間火を絶やさなければいいのだろう?」
そうしてくれるのならば村人組に異議はない。
「じゃあ、今日はそう言うことで……今日も一日頑張りましょう!」
「こう言うところ、前世サラリーマン時代の影響よね」と、僕は心の中で苦笑する。
みんなはその辺りの心の機微など知る由もなく、後片付けをして各自自分の仕事に散っていく。
「さて、結構な量あるのかい?」
ザビーが軽い準備体操をしながら聞いてくる。
「うん。売ろうと思っているものだけでも何往復か必要だ」
「それならキャラバンのみんなにも手伝わせよう。村長は指示を出すだけでいい」
それはありがたい。
しかし、ジョーはなかなかどうして敏腕商人だな。