第114話 形から入るのは相手に対する心理戦の一環です
文字数 2,293文字
セザン村から第三中の村間にはグリフ族のテリトリーがある。
グフリ族は夜行性でたびたび旅人を襲うことで知られているが、人と交易もする種族なので適度に折り合いをつけていると聞かされている。
行きは安全のため街道を少し急いで通過したが、この案件は早々に解決しておきたい問題だ。
実は結構前からこの件は悩みの種で、二、三の腹案のどれを実行するか決めかねている。
やっぱあれだな、一度グリフ族に接触しなきゃダメだな。
そんなことを思いながら夜営に使われている場所を通過する。
なんか、バリケード的なものが組まれてたりして、なかなかの危険地帯なのが判る。
そのバリケードも補修の跡が目立つ。
これを定期的にやってるのが町の住人の役割なんだろうか?
第三中の村に着くと、キャラが待っていた。
「お早いお着きですね」
ホルス車を降りた僕に声をかけてくる。
「オギンたちは?」
「二日前に町へ行きました」
キャラは出会った頃の露出高めの格好ではなく、奥ゆかしい服装をしている。
TPOってやつだ。
「村長には話が通っております。すぐにお伺いになられますか?」
「いや、僕もそれなりの格好をしてから訪うよ。今はサラたちが着替えている」
「かしこまりました。では半時間ほどで伺うと知らせて参りましょう」
と、その場を立ち去る。
しなやかな動きが艶っぽい。
「ジャン様はあのような女性がお好みなのですね」
僕を「お館様」と呼ばないのはサラだけだ。
ドキーッとする言葉を背後から投げられて二拍ほどの間をあけた後振り返ると、初めて出会った頃の服を模した衣装のサラが車から出てくるところだった。
成人の儀をすませ女性らしくなった彼女の今の寸法に合わせて作られた服はしかし、デザインからか少し幼い印象を与える。
これはアレだ、お貴族様の衣装デザイナーでも雇わなきゃ解決できないな。
あ・いや、それより今は剣呑な攻撃を交わす一手が必要だ。
「さすがに似合うね。お姫様」
「ずるい」
何が!?
「まぁ、いいです。ジャン様もお着替えをなさってください」
「ああ、そうしよう」
車に戻ると、カルホがニヤニヤと笑いながら僕の服を持って待ち構えていた。
…………。
「……一人で着替えるよ?」
「慣れてください」
「え?」
「サラ様が言ってました。領主になるための試練です」
…………。
「お召し物は自分で着るな」的なことか?
僕は不承不承カルホに背を向けて手を拡げる。
カルホはテキパキと服を脱がせて新しい服を着せてくれる。
「手際がいいな」
「お姉ちゃんに教わったから」
「クレタはよく知ってたな」
「なに言ってんの、ルビンス様の世話を命じたのはお館様じゃないですか」
な、なるほど。
「従者もできたらしいけど、ルビンス様がお姉ちゃんに任せてたらしいよ」
……な、なるほど。
微妙にタメ語の残っているカルホに着替えさせてもらった衣装はルビレルのものを参考にしたものだ。
僕の家格ならまぁ、このくらいでもまだいいだろう。
僕は車のドアを開け、サラを招き入れるとホルス車を出発させる。
チローもザイーダも心得たもので、きっかり約束の時間に村長の家の前にホルス車を横付けする。
ホルスのいななきに村長がキャラと一緒に出てくると、チローがドアを開けてくれる。
僕が先に出てサラが手を取り後から降りてくる。
「これはこれはようこそおいでくださいました。ささ、なにもおもてなしは出来ませんがまずはお上がりください」
案内された家は村長の家としてはこれまで見た村長の家と大きく違わない。
威圧感を与えないようにルビンス一人を護衛として立たせる。
村で僕がおくれを取るとは思えない。
じゃあなんで連れてきたかと言えば領主としての示威行為であり、サラの安全のためである。
帰順の話し合いについては滞りなくすんだので、その後世間話を装って情報収集を始めた。
こういう時サラが役に立ってくれる。
集めた情報によれば、グリフ族は村の北東方面、野営地より第三中の村寄りの広範囲をテリトリーとしているそうだ。
集落自体の規模は百人規模と考えられるそうだが、野営地を襲うことはあっても村を襲うことはない。
ここはテリトリー外ってことだな。
襲う時は通常七人程度、多くても十人前後。
襲われても脅して追い出すことが目的だから滅多なことでは人死には出ないってことだ。
縄張り意識が強く排他的だが好戦的なわけではないってことか。
「お口に合うか判りませんが、ささやかながら晩餐を」
と、饗してくれたのはイベントごとなどで各家庭が作る田舎料理だ。
これ、好き。
サラも嫌いじゃないようだ。
キャラは外で待つ供に持っていってくれる。
有能だ。
「町のことですが」
と、話を振って得られたのは、まず町が城塞都市であること。
これはまぁ、ルビレルたちから聞いていた。
中世ヨーロッパなどで見られた城壁で囲われた町である。
あんまりいいイメージないのよね、衛生環境とかそこら辺で。
オルバック家からチカマック・エモンザーという男がこの春から代官として赴任して運営にあたっている。
事前知識でこのコロニーは一種の左遷地だと聞かされている。
つまり、チカマックってのもなにかやらかすかして飛ばされたんだろうと想像できる。
できるんだけど……一つ心配なのは帰順の意思を伝えてきたのが前任のキンショー・ハンジーだったことだ。
長らく(実に二十三年、ルビレルがいた頃からの代官だ)冷や飯を食わされていたキンショーが病死したとかで後任についたチカマックは前任者から申し送りがあったのか? 果たして合力してくれるのか?
心配だねぇ。
グフリ族は夜行性でたびたび旅人を襲うことで知られているが、人と交易もする種族なので適度に折り合いをつけていると聞かされている。
行きは安全のため街道を少し急いで通過したが、この案件は早々に解決しておきたい問題だ。
実は結構前からこの件は悩みの種で、二、三の腹案のどれを実行するか決めかねている。
やっぱあれだな、一度グリフ族に接触しなきゃダメだな。
そんなことを思いながら夜営に使われている場所を通過する。
なんか、バリケード的なものが組まれてたりして、なかなかの危険地帯なのが判る。
そのバリケードも補修の跡が目立つ。
これを定期的にやってるのが町の住人の役割なんだろうか?
第三中の村に着くと、キャラが待っていた。
「お早いお着きですね」
ホルス車を降りた僕に声をかけてくる。
「オギンたちは?」
「二日前に町へ行きました」
キャラは出会った頃の露出高めの格好ではなく、奥ゆかしい服装をしている。
TPOってやつだ。
「村長には話が通っております。すぐにお伺いになられますか?」
「いや、僕もそれなりの格好をしてから訪うよ。今はサラたちが着替えている」
「かしこまりました。では半時間ほどで伺うと知らせて参りましょう」
と、その場を立ち去る。
しなやかな動きが艶っぽい。
「ジャン様はあのような女性がお好みなのですね」
僕を「お館様」と呼ばないのはサラだけだ。
ドキーッとする言葉を背後から投げられて二拍ほどの間をあけた後振り返ると、初めて出会った頃の服を模した衣装のサラが車から出てくるところだった。
成人の儀をすませ女性らしくなった彼女の今の寸法に合わせて作られた服はしかし、デザインからか少し幼い印象を与える。
これはアレだ、お貴族様の衣装デザイナーでも雇わなきゃ解決できないな。
あ・いや、それより今は剣呑な攻撃を交わす一手が必要だ。
「さすがに似合うね。お姫様」
「ずるい」
何が!?
「まぁ、いいです。ジャン様もお着替えをなさってください」
「ああ、そうしよう」
車に戻ると、カルホがニヤニヤと笑いながら僕の服を持って待ち構えていた。
…………。
「……一人で着替えるよ?」
「慣れてください」
「え?」
「サラ様が言ってました。領主になるための試練です」
…………。
「お召し物は自分で着るな」的なことか?
僕は不承不承カルホに背を向けて手を拡げる。
カルホはテキパキと服を脱がせて新しい服を着せてくれる。
「手際がいいな」
「お姉ちゃんに教わったから」
「クレタはよく知ってたな」
「なに言ってんの、ルビンス様の世話を命じたのはお館様じゃないですか」
な、なるほど。
「従者もできたらしいけど、ルビンス様がお姉ちゃんに任せてたらしいよ」
……な、なるほど。
微妙にタメ語の残っているカルホに着替えさせてもらった衣装はルビレルのものを参考にしたものだ。
僕の家格ならまぁ、このくらいでもまだいいだろう。
僕は車のドアを開け、サラを招き入れるとホルス車を出発させる。
チローもザイーダも心得たもので、きっかり約束の時間に村長の家の前にホルス車を横付けする。
ホルスのいななきに村長がキャラと一緒に出てくると、チローがドアを開けてくれる。
僕が先に出てサラが手を取り後から降りてくる。
「これはこれはようこそおいでくださいました。ささ、なにもおもてなしは出来ませんがまずはお上がりください」
案内された家は村長の家としてはこれまで見た村長の家と大きく違わない。
威圧感を与えないようにルビンス一人を護衛として立たせる。
村で僕がおくれを取るとは思えない。
じゃあなんで連れてきたかと言えば領主としての示威行為であり、サラの安全のためである。
帰順の話し合いについては滞りなくすんだので、その後世間話を装って情報収集を始めた。
こういう時サラが役に立ってくれる。
集めた情報によれば、グリフ族は村の北東方面、野営地より第三中の村寄りの広範囲をテリトリーとしているそうだ。
集落自体の規模は百人規模と考えられるそうだが、野営地を襲うことはあっても村を襲うことはない。
ここはテリトリー外ってことだな。
襲う時は通常七人程度、多くても十人前後。
襲われても脅して追い出すことが目的だから滅多なことでは人死には出ないってことだ。
縄張り意識が強く排他的だが好戦的なわけではないってことか。
「お口に合うか判りませんが、ささやかながら晩餐を」
と、饗してくれたのはイベントごとなどで各家庭が作る田舎料理だ。
これ、好き。
サラも嫌いじゃないようだ。
キャラは外で待つ供に持っていってくれる。
有能だ。
「町のことですが」
と、話を振って得られたのは、まず町が城塞都市であること。
これはまぁ、ルビレルたちから聞いていた。
中世ヨーロッパなどで見られた城壁で囲われた町である。
あんまりいいイメージないのよね、衛生環境とかそこら辺で。
オルバック家からチカマック・エモンザーという男がこの春から代官として赴任して運営にあたっている。
事前知識でこのコロニーは一種の左遷地だと聞かされている。
つまり、チカマックってのもなにかやらかすかして飛ばされたんだろうと想像できる。
できるんだけど……一つ心配なのは帰順の意思を伝えてきたのが前任のキンショー・ハンジーだったことだ。
長らく(実に二十三年、ルビレルがいた頃からの代官だ)冷や飯を食わされていたキンショーが病死したとかで後任についたチカマックは前任者から申し送りがあったのか? 果たして合力してくれるのか?
心配だねぇ。