第168話 襲撃者撃退
文字数 2,659文字
正面に立ち塞がる三人はホルスに騎乗している。
騎士らしく鎖帷子 を着て長 剣 を握って。
林に潜んでいるのがどんなやつらかは判らないけど、目の前の三人ほどの武装をしているとは思えない。
が、こいつらはガーブラを知らないのかな?
オグマリー市攻防戦でのガーブラの活躍は味方にはすでに知れ渡っていて「赤い暴風」なんて二つ名がついているんだけど。
僕も返り血で赤く染まったガーブラがホルス上で槍を振り回すのを見ているけど、近づくもの一切合切薙ぎ倒す台風みたいだったぞ。
相手の実力は測りかねるけど、ガーブラと互角に戦えるとは思えない。
……いや、でも今は旅装だから戦場のような重装備じゃないし防御面では心配か。
「で? なにか用か?」
と、問うてみた。
するとどうだ、サッと怒気があがる。
あら、なにかやっちゃいました?
(煽るわねぇ)
「貴様を誅して再び男爵様に統治してもらうのだ」
それこそ「やれやれ」だぜ。
「そんなにズラカルト男爵を慕っているのなら、なぜオルバック家とともにこの地を去らなかった?」
「なに!?」
「選択肢はあったのだ。残ると決断したのはお前達ではないか」
なにが気に入らないかは判ってるぞ。
実力主義政策で新体制に居場所がなくなったことに対する逆恨みだろ。
屁みたいなブライド捨てて平民になるか、ケツまくってズラカルト領に逃げ出せばいいのにどういう思考で僕の排除を計画したんだか。
まったく理解不能だね。
とはいえ、このことあるを予見できなかったのは完全に僕の失策だ。
実力主義に移行する際はこの手の反発は想定すべきだった。
前世の歴史にはしっかり学ばないとなぁ……。
「ええい、黙れ農民風情が!」
や、反省は後回しだ。
今はこの状況に対処しなくちゃ。
ガーブラは心配ないだろう。
キャラも自分の身は自分で守れるはず。
っつーか、二人とも僕の護衛なわけで、問題なのはやっぱ僕よね。
ちょっと煽っただげですぐカッとなるところを見てもそれほどの実力はないだろう。
たぶん、一対一なら負けることはない。
剣士としての勘がそう言っている。
問題は七対三という戦力差だ。
集団戦の経験は少ないからな。
稽古でも大体は一対一だった。
オグマリー区を支配下に置いた後、乱戦で身を守る技術の必要性を実感してからバロ村でドブルやチローたちと稽古を始めたばかりで、まだまだ自信はない。
あの日、獅子奮迅の活躍ができたのは能力向上 魔法のおかげ。
あの活躍は僕に実力以上の評価を与えてくれていて、味方の兵からは将としての信頼を勝ち得ているわけだけど、過大評価であることは否めない。
だからこういう状況では逆に仇になりかねない。
拍車をかけて突撃をしようとする三人を槍の横なぎ一つで止めたガーブラはやっぱりセンスがいい。
騎兵の破壊力はスピードに乗った突撃にかかっている。
止まったところからだと再び拍車をかけたとしても勢いが乗らないから突進力が弱まる。
単なる騎乗の近接戦なら単純な実力勝負ができるからな。
ガーブラが僕の前に立ちはだかっているし、長剣と槍ではリーチ差も大きい。
しかも、ガーブラは槍を相手の振る剣以上の速さで軽々と振り回して見せている。
さすがに三対一は少し分が悪いんじゃないかと思われるけど、十分な時間持ち堪えてくれるはずだ。
その間に僕とキャラで林の左右に二人ずつ隠れているという伏勢を倒す。
「キャラ」
「承知」
まだ何も指示を出していないのに、名前を呼んだだけでサッと懐から苦 無 のような投げナイフを取り出して左右に投げる。
そのうちの一本が伏勢の一人に当たったらしく、押し殺した叫びが右の林から聞こえてきた。
僕がホルスを声のした方に向けると、剣を振り上げて男が一人飛び出してくる。
それに呼応したように左(僕には背後)から二人が飛び出してきたらしい。
僕はガーブラに背を向けて襲ってきた三人をかわすと、振り返る。
三人は革の胸鎧に円盾 と短 剣 という軽装歩兵のようだ。
それでも騎乗はしていても旅装で防御力が弱く、剣一本の僕より充実した装備と言える。
でも、短剣じゃ騎乗している僕の胸から上には届かない。
囲まれさえしなければ対処できそうだ。
まずは距離を取る。
騎兵の突撃はこの世界でも一般的な攻撃なんだろう。
三人は僕らが敵騎兵にやったのと同様の戦略か、突進力を削ぐために距離を詰めてくる。
好都合だよ。
というか、それは悪手だ。
ガーブラは相手の突進を止めることで結果的に距離が詰まったんであって、こっちから距離を詰めたわけじゃない。
こっちの突進力は勢いに乗せきれなくても、相手の突進力を利用できる。
騎乗で槍持ちのガーブラとはできることが違うのだから別の手を考えなきゃダメだったのさ。
僕は斜対 歩 の速歩 でホルスを走らせ、まず左端の襲撃者に狙いを定める。
左側に敵を置かなことで挟み撃ちを防ぐためだ。
右利きの僕が騎乗から剣で攻撃するなら当然の位置取だよね。
こうしてしまえば、あとは残りの二人の周りを円を描くようにホルスを操っていけば左側に回り込まれることもなくなる。
三人すべて斬り伏せた僕は、ガーブラの方をみる。
ガーブラはキャラの協力を得て騎兵三騎を倒すところだった。
軽装歩兵三人なら僕に助力する必要はない、逆に騎乗戦で一対三はガーブラの分が悪いと踏んだんだろうキャラの機転はさすがだね。
そのキャラは剣を持った様子がないから、見てないけど直接戦闘には参加せず投げナイフとかで牽制しただけなんじゃないだろうか?
槍を振り回すガーブラと並んで戦うと同士 討ち に遭う危険もあるから賢明な判断だ。
「ほぅ」と息を吐き僕の視線に気付いたらしいキャラがこちらを振り向き微笑む。
いやあやっぱ美人だなぁキャラは。
「ジャン!!」
リリムのやつ、鼻の下が伸びたのをとがめるつもりか?
いや、それにしてはいつもの念話じゃないし、呼びかけが鋭いな。
なんて思考し始める。
視線の先のキャラやガーブラの表情が驚いたり焦ったりしたものに変わったぞ。
なにがある?
騎兵が三騎、伏勢が……待て、一人足りない!?
ゾッとして最初にキャラが投げナイフを放った方を振り返る。
その視線は間近に迫った軽歩兵の姿を捉えた。
(やばい)
咄嗟に手綱をひいてホルスを敵に対して後ろ向きにする。
ホルスの蹴りがその襲撃者を蹴り飛ばしてくれた。
と同時に後ろから脇腹に鋭い痛みが走る。
腹を見ると胴を貫いた剣先が突き出ている。
「お館様!」
油断した。
騎士らしく
林に潜んでいるのがどんなやつらかは判らないけど、目の前の三人ほどの武装をしているとは思えない。
が、こいつらはガーブラを知らないのかな?
オグマリー市攻防戦でのガーブラの活躍は味方にはすでに知れ渡っていて「赤い暴風」なんて二つ名がついているんだけど。
僕も返り血で赤く染まったガーブラがホルス上で槍を振り回すのを見ているけど、近づくもの一切合切薙ぎ倒す台風みたいだったぞ。
相手の実力は測りかねるけど、ガーブラと互角に戦えるとは思えない。
……いや、でも今は旅装だから戦場のような重装備じゃないし防御面では心配か。
「で? なにか用か?」
と、問うてみた。
するとどうだ、サッと怒気があがる。
あら、なにかやっちゃいました?
(煽るわねぇ)
「貴様を誅して再び男爵様に統治してもらうのだ」
それこそ「やれやれ」だぜ。
「そんなにズラカルト男爵を慕っているのなら、なぜオルバック家とともにこの地を去らなかった?」
「なに!?」
「選択肢はあったのだ。残ると決断したのはお前達ではないか」
なにが気に入らないかは判ってるぞ。
実力主義政策で新体制に居場所がなくなったことに対する逆恨みだろ。
屁みたいなブライド捨てて平民になるか、ケツまくってズラカルト領に逃げ出せばいいのにどういう思考で僕の排除を計画したんだか。
まったく理解不能だね。
とはいえ、このことあるを予見できなかったのは完全に僕の失策だ。
実力主義に移行する際はこの手の反発は想定すべきだった。
前世の歴史にはしっかり学ばないとなぁ……。
「ええい、黙れ農民風情が!」
や、反省は後回しだ。
今はこの状況に対処しなくちゃ。
ガーブラは心配ないだろう。
キャラも自分の身は自分で守れるはず。
っつーか、二人とも僕の護衛なわけで、問題なのはやっぱ僕よね。
ちょっと煽っただげですぐカッとなるところを見てもそれほどの実力はないだろう。
たぶん、一対一なら負けることはない。
剣士としての勘がそう言っている。
問題は七対三という戦力差だ。
集団戦の経験は少ないからな。
稽古でも大体は一対一だった。
オグマリー区を支配下に置いた後、乱戦で身を守る技術の必要性を実感してからバロ村でドブルやチローたちと稽古を始めたばかりで、まだまだ自信はない。
あの日、獅子奮迅の活躍ができたのは
あの活躍は僕に実力以上の評価を与えてくれていて、味方の兵からは将としての信頼を勝ち得ているわけだけど、過大評価であることは否めない。
だからこういう状況では逆に仇になりかねない。
拍車をかけて突撃をしようとする三人を槍の横なぎ一つで止めたガーブラはやっぱりセンスがいい。
騎兵の破壊力はスピードに乗った突撃にかかっている。
止まったところからだと再び拍車をかけたとしても勢いが乗らないから突進力が弱まる。
単なる騎乗の近接戦なら単純な実力勝負ができるからな。
ガーブラが僕の前に立ちはだかっているし、長剣と槍ではリーチ差も大きい。
しかも、ガーブラは槍を相手の振る剣以上の速さで軽々と振り回して見せている。
さすがに三対一は少し分が悪いんじゃないかと思われるけど、十分な時間持ち堪えてくれるはずだ。
その間に僕とキャラで林の左右に二人ずつ隠れているという伏勢を倒す。
「キャラ」
「承知」
まだ何も指示を出していないのに、名前を呼んだだけでサッと懐から
そのうちの一本が伏勢の一人に当たったらしく、押し殺した叫びが右の林から聞こえてきた。
僕がホルスを声のした方に向けると、剣を振り上げて男が一人飛び出してくる。
それに呼応したように左(僕には背後)から二人が飛び出してきたらしい。
僕はガーブラに背を向けて襲ってきた三人をかわすと、振り返る。
三人は革の胸鎧に
それでも騎乗はしていても旅装で防御力が弱く、剣一本の僕より充実した装備と言える。
でも、短剣じゃ騎乗している僕の胸から上には届かない。
囲まれさえしなければ対処できそうだ。
まずは距離を取る。
騎兵の突撃はこの世界でも一般的な攻撃なんだろう。
三人は僕らが敵騎兵にやったのと同様の戦略か、突進力を削ぐために距離を詰めてくる。
好都合だよ。
というか、それは悪手だ。
ガーブラは相手の突進を止めることで結果的に距離が詰まったんであって、こっちから距離を詰めたわけじゃない。
こっちの突進力は勢いに乗せきれなくても、相手の突進力を利用できる。
騎乗で槍持ちのガーブラとはできることが違うのだから別の手を考えなきゃダメだったのさ。
僕は
左側に敵を置かなことで挟み撃ちを防ぐためだ。
右利きの僕が騎乗から剣で攻撃するなら当然の位置取だよね。
こうしてしまえば、あとは残りの二人の周りを円を描くようにホルスを操っていけば左側に回り込まれることもなくなる。
三人すべて斬り伏せた僕は、ガーブラの方をみる。
ガーブラはキャラの協力を得て騎兵三騎を倒すところだった。
軽装歩兵三人なら僕に助力する必要はない、逆に騎乗戦で一対三はガーブラの分が悪いと踏んだんだろうキャラの機転はさすがだね。
そのキャラは剣を持った様子がないから、見てないけど直接戦闘には参加せず投げナイフとかで牽制しただけなんじゃないだろうか?
槍を振り回すガーブラと並んで戦うと
「ほぅ」と息を吐き僕の視線に気付いたらしいキャラがこちらを振り向き微笑む。
いやあやっぱ美人だなぁキャラは。
「ジャン!!」
リリムのやつ、鼻の下が伸びたのをとがめるつもりか?
いや、それにしてはいつもの念話じゃないし、呼びかけが鋭いな。
なんて思考し始める。
視線の先のキャラやガーブラの表情が驚いたり焦ったりしたものに変わったぞ。
なにがある?
騎兵が三騎、伏勢が……待て、一人足りない!?
ゾッとして最初にキャラが投げナイフを放った方を振り返る。
その視線は間近に迫った軽歩兵の姿を捉えた。
(やばい)
咄嗟に手綱をひいてホルスを敵に対して後ろ向きにする。
ホルスの蹴りがその襲撃者を蹴り飛ばしてくれた。
と同時に後ろから脇腹に鋭い痛みが走る。
腹を見ると胴を貫いた剣先が突き出ている。
「お館様!」
油断した。