第215話 ヒロガリー区侵攻 2
文字数 2,267文字
町への道すがら存在している二つの集落は、共に五十人規模の村だった。
チローに村長との交渉を任せた結果、村の男を十人ずつ徴兵し、僕の本体に配属することになった。
これは人質の意味もあるが、僕という領主がいかに人徳があるかを見せる意味合いが強い。
ぶっちゃけ、最前線に送り出してもいいんだからね。
彼らには剣を支給する。
槍を支給しないのはまぁ、ちょっとした差別である。
剣術三倍段という言葉がある通り、技量に差がなければ獲物は長い方が圧倒的に有利だ。
万が一、叛心 を起こしたとしてもすぐに鎮圧できるぞという脅しでもある。
そして、彼らは五人ずつに分け、同じく五人ずつに分けた槍兵に組み入れて四組の歩兵部隊に再編した。
これをすべてドブルに任せるのは荷が勝ちすぎるので半分は直接僕が指揮を取ることにする。
そして、いよいよ最初の町を攻略する戦だ。
町は今までの町同様、敵からの防衛を目的とした石造りの城壁に守られている。
けれど、中世を脱した我が軍にこの程度の城壁は塀も同様だ。
魔道具爆弾 を数発撃ち込めば容易に破壊できるだろう。
とはいえ、そんなことをすれば町への被害が甚大になり、いらない恨みを買いかねない。
オクサもその辺りはちゃんと考えてくれているようで、まずは開戦前に拡声魔法で降伏勧告を出す。
当然のように要求が拒否されると、矢を射掛ける。
城壁から撃ち下ろされるとやっぱ、不利だね。
半時間ほど矢を撃ち合ってからオクサは弓隊を後退させて、魔法部隊を展開する。
最初の弓兵による射撃、本当はいらないよね?
きっとわざと守備側に「十分戦える」と思わせたんだろ。
えげつないね。
魔法部隊の使う魔道具小銃 の有効射程は百八十シャル。
一般的な射手の射程は百五十シャル、有効射程は強弓の遣い手でも八十シャルと言われている。
打ち下ろされることを考慮に入れても小銃の方が圧倒的に射程が長いのだ。
さらに、オクサは昨年、ズラカルト軍が敗走の際に打ち捨てていった鉄製の大楯で魔法部隊を守りつつ前進させる。
守備側の弓兵は三十人くらい。
これでは弾幕というほどの矢は射かけられない。
ラバナルを含めた魔法部隊は二十二人だ。
この時点でもう勝負はついたようなものだろう。
シュパッ、シュポッっと空気鉄砲のような音がしたと思ったら敵の弓兵が倒れるのだから、敵兵の恐怖はどれほどか?
ああ、ちなみに本陣からは距離があって発射音は聞こえないよ。
「突撃!」
と、オクサの声が聞こえてくる。
敵弓兵をあらかた撃って、飛び道具の不安がなくなったのを確認しての号令だ。
機動力の下がる大楯を置き去りにして、槍兵が門に殺到する。
魔法部隊は城壁の上に新手の弓兵が現れてもすぐに射撃できるように構えながら前進する。
その姿は戦争映画のアメリカ兵みたいだ。
ラバナルだけは槍兵と一緒に門へ向かっている。
その後ろ姿はウキウキして見える。
…………。
ホント、やばいやつみたいだよ、ラバナル。
ラバナルが門に取りつくと、ドンという破裂音が響く。
爆弾を使用した音だろう。
槍兵と騎兵が町の中に雪崩れ込んでいく。
彼らの後には門が跡形もなくなり、壁に大きな穴が開いていた。
ラバナルが本気で魔力を込めると、地面だって直径で五、六シャルの大穴が開けられるってんだから、ちゃんと火力を調整してくれたらしい。
「先鋒だけで陥落ですな」
と、チカマックが声をかけてきた。
「緒戦から総力戦なんてしていたら兵がもたんよ。一時間で制圧できるかな?」
「代官次第でしょう。まぁ、二時間まではかからないと思いますがね」
その見込み通り、町は突入から一時間半ほどで降伏した。
町の中から勝鬨が上がったので、本陣からも勝鬨を上げる。
すると次鋒、殿の軍からも勝鬨が上がった。
爆弾で開いた大穴から町へ入ると、中央広場に敗残兵が集められていた。
報告では四十一名、戦死者三名、勝ち目がないと見て逃げ散った傭兵は十八人くらいいたらしい。
町の代官も引き出されている。
町の住民が物陰からひっそりと様子を伺っているのが判るけど、あえて無視だ。
「町の代官は誰だ?」
できるだけ威厳を持って問いただすと、おどおどした様子で四十がらみの男が答える。
「わ、ワタシです」
「ここで死ぬか、わが部下になるか、それとも民を捨てて町を逃げ出すか。選ぶがいい」
ドスを効かせて選択を迫ると、男はあっさり逃げ出すことを選択した。
軟弱な。
もし後日、捲 土 重 来 して町に戻ってくるようなことがあっても、住民は彼のことを信用しないだろう。
為政者であるならば、絶対に選択してはいけないものを選んだんだ。
「いいだろう。早々に荷物をまとめよ。明日の昼までには町を出ろ。付き従うものはいるか?」
声を張って問いかけると、古くからの使用人らしき数名が恐る恐る手を挙げる。
「ホーク。この者らを連れて行け」
ホーク隊が町から逃げ出す者たちを引っ立てていく。
彼は過去に町の戦後処理に当たったことがあるからなにを接収していいか判っているはずだ。
さて、ここは明日にでも出立したいのだけど問題は誰を置いていくかだ。
町の治安維持、行政の把握ができる人材は多くない。
「お館様」
そこにチローが声をかけてきた。
「ザイーダ隊に文官が二人、イラード隊に一人、志願兵として参加しております。お役に立ちますかと」
なんで僕の悩みが判った!?
そんな心の動揺はおくびもださずに命令するけどね。
「呼び出せ」
「はっ」
──っていうか、有能すぎて怖いんですけど。
チローに村長との交渉を任せた結果、村の男を十人ずつ徴兵し、僕の本体に配属することになった。
これは人質の意味もあるが、僕という領主がいかに人徳があるかを見せる意味合いが強い。
ぶっちゃけ、最前線に送り出してもいいんだからね。
彼らには剣を支給する。
槍を支給しないのはまぁ、ちょっとした差別である。
剣術三倍段という言葉がある通り、技量に差がなければ獲物は長い方が圧倒的に有利だ。
万が一、
そして、彼らは五人ずつに分け、同じく五人ずつに分けた槍兵に組み入れて四組の歩兵部隊に再編した。
これをすべてドブルに任せるのは荷が勝ちすぎるので半分は直接僕が指揮を取ることにする。
そして、いよいよ最初の町を攻略する戦だ。
町は今までの町同様、敵からの防衛を目的とした石造りの城壁に守られている。
けれど、中世を脱した我が軍にこの程度の城壁は塀も同様だ。
魔道具
とはいえ、そんなことをすれば町への被害が甚大になり、いらない恨みを買いかねない。
オクサもその辺りはちゃんと考えてくれているようで、まずは開戦前に拡声魔法で降伏勧告を出す。
当然のように要求が拒否されると、矢を射掛ける。
城壁から撃ち下ろされるとやっぱ、不利だね。
半時間ほど矢を撃ち合ってからオクサは弓隊を後退させて、魔法部隊を展開する。
最初の弓兵による射撃、本当はいらないよね?
きっとわざと守備側に「十分戦える」と思わせたんだろ。
えげつないね。
魔法部隊の使う魔道具
一般的な射手の射程は百五十シャル、有効射程は強弓の遣い手でも八十シャルと言われている。
打ち下ろされることを考慮に入れても小銃の方が圧倒的に射程が長いのだ。
さらに、オクサは昨年、ズラカルト軍が敗走の際に打ち捨てていった鉄製の大楯で魔法部隊を守りつつ前進させる。
守備側の弓兵は三十人くらい。
これでは弾幕というほどの矢は射かけられない。
ラバナルを含めた魔法部隊は二十二人だ。
この時点でもう勝負はついたようなものだろう。
シュパッ、シュポッっと空気鉄砲のような音がしたと思ったら敵の弓兵が倒れるのだから、敵兵の恐怖はどれほどか?
ああ、ちなみに本陣からは距離があって発射音は聞こえないよ。
「突撃!」
と、オクサの声が聞こえてくる。
敵弓兵をあらかた撃って、飛び道具の不安がなくなったのを確認しての号令だ。
機動力の下がる大楯を置き去りにして、槍兵が門に殺到する。
魔法部隊は城壁の上に新手の弓兵が現れてもすぐに射撃できるように構えながら前進する。
その姿は戦争映画のアメリカ兵みたいだ。
ラバナルだけは槍兵と一緒に門へ向かっている。
その後ろ姿はウキウキして見える。
…………。
ホント、やばいやつみたいだよ、ラバナル。
ラバナルが門に取りつくと、ドンという破裂音が響く。
爆弾を使用した音だろう。
槍兵と騎兵が町の中に雪崩れ込んでいく。
彼らの後には門が跡形もなくなり、壁に大きな穴が開いていた。
ラバナルが本気で魔力を込めると、地面だって直径で五、六シャルの大穴が開けられるってんだから、ちゃんと火力を調整してくれたらしい。
「先鋒だけで陥落ですな」
と、チカマックが声をかけてきた。
「緒戦から総力戦なんてしていたら兵がもたんよ。一時間で制圧できるかな?」
「代官次第でしょう。まぁ、二時間まではかからないと思いますがね」
その見込み通り、町は突入から一時間半ほどで降伏した。
町の中から勝鬨が上がったので、本陣からも勝鬨を上げる。
すると次鋒、殿の軍からも勝鬨が上がった。
爆弾で開いた大穴から町へ入ると、中央広場に敗残兵が集められていた。
報告では四十一名、戦死者三名、勝ち目がないと見て逃げ散った傭兵は十八人くらいいたらしい。
町の代官も引き出されている。
町の住民が物陰からひっそりと様子を伺っているのが判るけど、あえて無視だ。
「町の代官は誰だ?」
できるだけ威厳を持って問いただすと、おどおどした様子で四十がらみの男が答える。
「わ、ワタシです」
「ここで死ぬか、わが部下になるか、それとも民を捨てて町を逃げ出すか。選ぶがいい」
ドスを効かせて選択を迫ると、男はあっさり逃げ出すことを選択した。
軟弱な。
もし後日、
為政者であるならば、絶対に選択してはいけないものを選んだんだ。
「いいだろう。早々に荷物をまとめよ。明日の昼までには町を出ろ。付き従うものはいるか?」
声を張って問いかけると、古くからの使用人らしき数名が恐る恐る手を挙げる。
「ホーク。この者らを連れて行け」
ホーク隊が町から逃げ出す者たちを引っ立てていく。
彼は過去に町の戦後処理に当たったことがあるからなにを接収していいか判っているはずだ。
さて、ここは明日にでも出立したいのだけど問題は誰を置いていくかだ。
町の治安維持、行政の把握ができる人材は多くない。
「お館様」
そこにチローが声をかけてきた。
「ザイーダ隊に文官が二人、イラード隊に一人、志願兵として参加しております。お役に立ちますかと」
なんで僕の悩みが判った!?
そんな心の動揺はおくびもださずに命令するけどね。
「呼び出せ」
「はっ」
──っていうか、有能すぎて怖いんですけど。