第16話 この先生きのこるために
文字数 2,319文字
畑に来て最初にルダーが行 ったのは土を舐める事。
いや、ドラマなんかではよく行われる行動だったりするけど、実際どうなの?
いやいや、現世の父ちゃんもやってたなぁと思い出せばどうという事はないか。
「うん、なかなかいい土が出来てる」
「全部耕すのか?」
ジャスがルダーに聞いてくる。
この村は元々三十人ほどの集落だった。
現在の村人は八人。
実に三分の一以下で、しかも畑を耕すのはヘレンさんを含めて四人だけ。
「いや、物理的に無理だし、そもそも買い付けた種がそんなにない。そうだな、四分の一ってところにしよう」
「残りは休耕?」
「それもどうかしら」
「どう考えても手が足りない。木が生えない程度に手を入れておくことにしよう」
話し合っていても解決手段は出てこないし、仕方ないのでルダーの提案通りに耕すことにする。
黙々と鋤鍬で畑を耕す。
今年蒔くのはフレイラとポモイト。
どちらも主食用の穀物だ。
フレイラは通常秋にまくのだけれど、去年の秋まきフレイラは野党に荒らされていてぱっと見で絶望的だったから、買い付けた半分を今から蒔こうってことになってる。
収穫した分はそのほとんどを種もみにすると宣言された。
ポモイトの方も今年の分は三分の一が来年の種用だとルダーは言っている。
当分穀物は無理だな。
畑を耕しながら僕は、今後のトゥドゥリストを考える。
喫緊は畑と家づくり。
それと並行して食料確保が最重要だ。
とはいえいつまでも古代人生活を続けるわけにいかない。
依然として田舎暮らしで情報が少ないからなんともいえないんだけど、前世の時代区分に照らしてみればこの国は少なくとも中世以降の文明水準には達している。
この先生き残るために出来れば近世レベルの文明水準を手に入れたい。
野望的には小さな村だけど独立自治を求めたい。
なんてぐるぐると考えを巡らせた結果、とりあえず短期目標は村を村として機能するまでに整備することに決めた。
まずは夏までにみんなの住む家を建て、今の先史時代生活から古代文明水準に戻ることを目標にしよう。
そして冬までに野盗に襲われる前の生活レベルをとりもろす。
中期目標は前世的には三年計画か五年計画のことだった。
こっちはある程度腹案は考えたけど、みんなと話し合う必要がある。
短期目標は自分自身に直接影響があることを扱う場合が多いので考えるまでもないことが多いけど、中長期目標は自分の生活とは一見直接関わりのないことに思えるものが多いから理解できても納得できない場合がある。
前世ではよく上司の無理難題で進めるプロジェクトを部下に納得させるのに手を焼いた。
一日の終わりもミーティング。
こっちは晩御飯を食べながら今日あった出来事などを話すことにしている。
人間関係を円滑にするには大事なことだと前世知識が訴えてる。
確かに前世でも「昭和くさい」と部下に言われていたけれど、プロジェクトを滞りなく進行させるには情報収拾は大事だ。
畑の方は概ね順調。
今日のルンカー作りは成型作業だけをしたそうだ。
農作業の帰りに立ち寄って見た感じだと一週間続けても家一軒分になるか判らない感じだった。
手が足りないのは百も承知だったけど、短期目標達成も危ない感じだな。
「種まきさえ終わってしまえば、オレたちもルンカー作りを手伝えるから大丈夫でしょ」
「うん、ジャスにはルンカー作りを手伝ってもらうけど、全員がルンカー作りってわけにもいかないからどうだろう?」
「他に何をやるつもりなんだ?」
「食料確保」
「ああ……」
実際肉体労働者が八人で鍋を囲んで仲良く食べると瞬く間に食料がなくなっていく。
「他にも作らなきゃいけないものがいっぱいあるし、どう役割を振り分けようかと考えているんだ」
「ジャンは何を作ろうとしているの?」
カルホが疲れからか満腹からかは判らないけれど眠そうに目をこすりながら聞いてくる。
「最初のルンカーで焼き窯を、その焼き窯でより強度の高いルンカーや食器なんかを作る」
「食器?」
今世の村では食器は木製だった。
今使っている食器もみんなが持ち寄った木製の皿だ。
匙も木製。
もっとも、僕のは冬の間に自分で作った不恰好なものだけど。
これは推測だけれども陶磁器が生まれていないか普及していない文化水準であるということだ。
作れるなら商売になる。
「俺は作れないぞ」
…………。
「期待してたのに」
「無茶を言うな」
確かに磁器作りには高い技術が必要で、日本では安土桃山時代、朝鮮に出兵した際に職人を連れてくるまで作ることができなかったと言われている。
でも、土器なら今すぐにでも作れる。
粘土をそこらへんで野焼きしても出来るんだから。
実際、僕も前世の小学校の体験授業で土器は作った。
じゃあ陶器ならどうだろう?
と、思ったんだ。
まぁ、この辺は素人考えなんだけど。
「土の器なんて使えないだろう」
と、ジャリがいつものように反論してくるところを見るとこの地域にも土器は存在しているようだ。
そりゃそうか、前世世界では先史時代の土器が発掘されている。
日本でも一万年以上前から使われていたことが判っている。
この辺はすでに鉄器文明によって鍋釜は金属器に置き換わっているけれど、食器が木製なのは一考の余地がある。
でも、今のところ試行錯誤をしている余裕はないみたいだからひとまず諦めるしかないな。
「ルンカーはどこで焼けばいい?」
考えてなかったぞ。
「炭ができているはずだ。入れ替わりであの炭焼き窯を使えばいいさ」
名案だ。
「ついでに炭でルンカーを試し焼きしてみたらどうだ?」
ルダー冴えてる。
「…………そうしよう」
僕はただ追認するだけだった。
いや、ドラマなんかではよく行われる行動だったりするけど、実際どうなの?
いやいや、現世の父ちゃんもやってたなぁと思い出せばどうという事はないか。
「うん、なかなかいい土が出来てる」
「全部耕すのか?」
ジャスがルダーに聞いてくる。
この村は元々三十人ほどの集落だった。
現在の村人は八人。
実に三分の一以下で、しかも畑を耕すのはヘレンさんを含めて四人だけ。
「いや、物理的に無理だし、そもそも買い付けた種がそんなにない。そうだな、四分の一ってところにしよう」
「残りは休耕?」
「それもどうかしら」
「どう考えても手が足りない。木が生えない程度に手を入れておくことにしよう」
話し合っていても解決手段は出てこないし、仕方ないのでルダーの提案通りに耕すことにする。
黙々と鋤鍬で畑を耕す。
今年蒔くのはフレイラとポモイト。
どちらも主食用の穀物だ。
フレイラは通常秋にまくのだけれど、去年の秋まきフレイラは野党に荒らされていてぱっと見で絶望的だったから、買い付けた半分を今から蒔こうってことになってる。
収穫した分はそのほとんどを種もみにすると宣言された。
ポモイトの方も今年の分は三分の一が来年の種用だとルダーは言っている。
当分穀物は無理だな。
畑を耕しながら僕は、今後のトゥドゥリストを考える。
喫緊は畑と家づくり。
それと並行して食料確保が最重要だ。
とはいえいつまでも古代人生活を続けるわけにいかない。
依然として田舎暮らしで情報が少ないからなんともいえないんだけど、前世の時代区分に照らしてみればこの国は少なくとも中世以降の文明水準には達している。
この先生き残るために出来れば近世レベルの文明水準を手に入れたい。
野望的には小さな村だけど独立自治を求めたい。
なんてぐるぐると考えを巡らせた結果、とりあえず短期目標は村を村として機能するまでに整備することに決めた。
まずは夏までにみんなの住む家を建て、今の先史時代生活から古代文明水準に戻ることを目標にしよう。
そして冬までに野盗に襲われる前の生活レベルをとりもろす。
中期目標は前世的には三年計画か五年計画のことだった。
こっちはある程度腹案は考えたけど、みんなと話し合う必要がある。
短期目標は自分自身に直接影響があることを扱う場合が多いので考えるまでもないことが多いけど、中長期目標は自分の生活とは一見直接関わりのないことに思えるものが多いから理解できても納得できない場合がある。
前世ではよく上司の無理難題で進めるプロジェクトを部下に納得させるのに手を焼いた。
一日の終わりもミーティング。
こっちは晩御飯を食べながら今日あった出来事などを話すことにしている。
人間関係を円滑にするには大事なことだと前世知識が訴えてる。
確かに前世でも「昭和くさい」と部下に言われていたけれど、プロジェクトを滞りなく進行させるには情報収拾は大事だ。
畑の方は概ね順調。
今日のルンカー作りは成型作業だけをしたそうだ。
農作業の帰りに立ち寄って見た感じだと一週間続けても家一軒分になるか判らない感じだった。
手が足りないのは百も承知だったけど、短期目標達成も危ない感じだな。
「種まきさえ終わってしまえば、オレたちもルンカー作りを手伝えるから大丈夫でしょ」
「うん、ジャスにはルンカー作りを手伝ってもらうけど、全員がルンカー作りってわけにもいかないからどうだろう?」
「他に何をやるつもりなんだ?」
「食料確保」
「ああ……」
実際肉体労働者が八人で鍋を囲んで仲良く食べると瞬く間に食料がなくなっていく。
「他にも作らなきゃいけないものがいっぱいあるし、どう役割を振り分けようかと考えているんだ」
「ジャンは何を作ろうとしているの?」
カルホが疲れからか満腹からかは判らないけれど眠そうに目をこすりながら聞いてくる。
「最初のルンカーで焼き窯を、その焼き窯でより強度の高いルンカーや食器なんかを作る」
「食器?」
今世の村では食器は木製だった。
今使っている食器もみんなが持ち寄った木製の皿だ。
匙も木製。
もっとも、僕のは冬の間に自分で作った不恰好なものだけど。
これは推測だけれども陶磁器が生まれていないか普及していない文化水準であるということだ。
作れるなら商売になる。
「俺は作れないぞ」
…………。
「期待してたのに」
「無茶を言うな」
確かに磁器作りには高い技術が必要で、日本では安土桃山時代、朝鮮に出兵した際に職人を連れてくるまで作ることができなかったと言われている。
でも、土器なら今すぐにでも作れる。
粘土をそこらへんで野焼きしても出来るんだから。
実際、僕も前世の小学校の体験授業で土器は作った。
じゃあ陶器ならどうだろう?
と、思ったんだ。
まぁ、この辺は素人考えなんだけど。
「土の器なんて使えないだろう」
と、ジャリがいつものように反論してくるところを見るとこの地域にも土器は存在しているようだ。
そりゃそうか、前世世界では先史時代の土器が発掘されている。
日本でも一万年以上前から使われていたことが判っている。
この辺はすでに鉄器文明によって鍋釜は金属器に置き換わっているけれど、食器が木製なのは一考の余地がある。
でも、今のところ試行錯誤をしている余裕はないみたいだからひとまず諦めるしかないな。
「ルンカーはどこで焼けばいい?」
考えてなかったぞ。
「炭ができているはずだ。入れ替わりであの炭焼き窯を使えばいいさ」
名案だ。
「ついでに炭でルンカーを試し焼きしてみたらどうだ?」
ルダー冴えてる。
「…………そうしよう」
僕はただ追認するだけだった。