第119話 公共事業は大きくぶち上げましょう!

文字数 2,229文字

 僕の覚悟を確認したチカマックは僕の案を了承するという決断を下した。

「よろしいのですか?」

 ノサウスがまだ不服であるという態度をあらわにチカマックに訊ねる。

「仕方ないさ。それくらいドラスティックな為政者じゃなきゃ、乱世は生き抜けない」

「取り上げるだけじゃないよ」

 僕はオギンに目配せをして一枚の大きな地図を広げさせる。

「これは?」

「この町の周辺地図です」

 オギンたちに描かせたかなり詳細な地図だ。
 町を中心に道と地形とが書き込まれている。

「これは皮紙ではありませんね」

 サイが興味深そうに手触りを確認している。

「その件は後で話すとして、本題だ。町の再開発の提案だ」

 と、口頭で説明を始める。
 町の城壁を解体し、村までの街道沿いをすべて農地にするという墾田事業だ。
 数十人規模の集落の集合体から大きな農村を作るというプロジェクトである。
 それを具体的にイメージできるようにもう一枚の紙を元の地図の上に広げる。
 完成予想図ってやつだ。

「ずいぶん思い切った計画ですね」

 最初に食いついたのはやっぱりサイだった。
 チカマックも計画自体は否定しない。

「しかし、こんな大掛かりな計画、簡単にはいかないだろ?」

 サイは腕を組んでうなる。

「僕の村の開発状況から考えて三年から五ヵ年計画ってところでしょうか」

「そんなに悠長に土木事業なんてやっていていいのか?」

「むしろ、今のうちに進めていかなきゃやれなくなると踏んでいる」

 そう、こんな計画は本格的に戦争をおっぱじめると簡単にはできなくなる。

「具体的な事業計画が出来上がっているんですね?」

 さすがは町の運営を任されている代官だけある。

「完成すれば()(だか)で七、八倍になりますね」

 事務方のサイは相当優秀なんだろう、概算だろうけど僕らと同じくらいの獲れ高をこの短時間で計算したようだ。

「うちの農業指導者は優秀だからね、十倍の収穫量を保証する」

「十倍!?

 ノサウスが目を剥く。
 面白い顔。

「それが事実なら相当裕福な国になるぜ」

「そういう国にします」

 そのために進出したんだから当然だ。
 (きょう)(あい)な高地という耕作に適さない三ヶ村には難しい農業生産力の向上は今後、領土拡大政策を展開するためにも重要な政策なのだ。

「しかし、これだけの規模の農地を開発すると、水問題が発生しますね」

 バロ村の横を流れている用水路はボット村セザン村の農地を潤して第四中の村方面に流れていく。
 こっち方面は西の山脈から流れる川から引かれているのだけれど、八倍を見込む耕地面積すべてを潤せるかどうかは計算に入れていなかった。

「ま、そっち方面はすぐすぐどうにかしなければならないものでもありませんし、おいおい考えていきましょう」

 おっと?
 サイにはいくつか対策案があるってことか?
 やるなぁ。

「具体的な工期はこれも後日改めて詰めていきましょう。次にセザン村までの道の途中にある野営ポイント……というか、街道整備計画ですが……」

「待て待て、街道整備だと?」

「はい、ついでにグリフ族対策も」

「だから待て、ちゃんと順を追って説明しろ。話を端折(はしょ)るな」

 ……僕の方が、立場は上なんだけどなぁ、なんで僕が気を遣って言葉を選んでいるのにノサウスの方が偉そうなんだ?

「街道整備は速やかな軍事行動に必要なので、我が領では常に優先順位の高い事業であり、都市間移動の安全は為政者の務めです」

 質問の答えにはなっていないんだけど、僕はそういって話を強引に進める。
 現在の野営地にこれまでの施策通り宿場町を建設することを説明する。
 事前にルビレルにグリフ族とは会話によるコミュニケーションが取れることを確認していたので、その宿場に交易所を儲ける計画だということを話す。

「つまりその宿場町ってところを中立地帯にするってことか?」

 なんのかんの言いながら話の要点は掴んでくるあたりノサウスもなかなかの人物だ。

「うまくいけるか判らないけど、テリトリー問題で無用の争いを引き起こさずにすむ方策を考える方が建設的だろ?」

「できるのであればですね」

「やるのだよ」

 ルビレルが決意を口に出す。

「誰がですか?」

 サイが訊ねる

「ワシが口にしたのだ、責任を持って事にあたろう」

 過去にはこの町で任務についていたこともあるルビレルだ。
 きっとグリフ族と接触したことも一度や二度ではないはずで、ある意味適任ではある。

「では、ルビレルに任そう」

「お任せを」

 なんか、そういわれると偉くなった気になるよ。
 いや、実際偉いんだけど。

「ジャン様はこの後バロ村にお戻りになられるのでしょう?」

 チカマックは一通りの計画案が出そろったと見たのか、僕に問う。

「ああ」

「開発は誰を責任者にするおつもりですか?」

 おっと、さすがだね。
 そこのところきっちり確認とってくるあたり、好感持てるよ。

「町の代官は引き続きチカマックに任せる。もちろん、何人かはこちらに派遣させてもらうけどね」

「よろしいのですか?」

「かまわんよ。優秀な人材をないがしろにできるほど、人がいないからね」

「かいかぶりですよ。嬉しいですけどね」

「優秀な人材には結構無茶をいいますが、よろしくお願いします」

「はっはっ、できる限り善処しましょう」

「あ、最後に今日から一町三ヶ村ひっくるめてハンジー町と改名します」

「キンショー様も喜ばれるでしょうな」

 直接面識のあったルビレルとノサウスが目を細め。チカマックも目を閉じて感慨にふける。
 これにてハンジー町調略コンプリート!
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