第316話 悪質な悪戯
文字数 2,383文字
昨日は案の定大変だったらしい。
部隊こそ繰り出しては来なかったけれど、工作員が都合三度潜入しようと試みたと忍者部隊から報告があった。
本陣付きのニンプー隊のくノ一ナナミによれば、兵士として紛れ込み撹乱を狙った七人はその人数によって看破されビートと配下の忍者によって始末され、兵糧の焼き討ちを狙った工作隊は一度ナナミと配下の忍者によって発見され撤退するも明け方再度襲撃を試みた際、待ち構えていたシーナとその配下によって全員討ち取られたという。
なるほど、人知れず始末してくれたようだ。
兵士たちに対応させたらちょっとした騒ぎになって起こされたに違いない。
「こちらの損害はなかったのか?」
「はい、配下が何人か斬られましたが皆浅手でしたのですでに魔法使いによって治療が済んでおります」
それはよかった。
「お館様」
朝の軍議に合わせてチャールズとラバナル、ウータが入ってきた。
改めてナナミから昨晩の報告をさせてから今日の作戦を話し合う。
と言ってもサビー、ガーブラの部隊が合流するまでは様子見と決めてあるので今日は威力偵察以上のことをする気はない。
そんなわけで無駄に血を流すのは避けたいのだけど、かといって無為に時を潰すのも士気に関わる。
「さて、腹案はあるのだが、皆の意見を聞いておきたい。なにかよい策はあるか?」
と、訊ねる。
「残念ながら、これと言った策は思いつきません」
「大砲で壁に穴でも開ければ済むことじゃないのか」
「ラバナル師。目の前の城にはまだ戦略的価値があります。最初に陥した砦のように跡形もなく破壊するというわけにはいきません」
「面倒なことじゃ」
「お館様」
「なんだチャールズ」
「試作した弾 け る 球 がいくつかあるのですが、それを砦に向けて投擲するというのはどうでしょうか?」
「弾ける球だぁ!?」
ラバナルが呆れたように声をあげたのも判らないではない。
我が軍にはオリジナルとも言える手榴弾がある。
それなのにわざわざ劣化コピーである弾ける球を試作する意図が読めない。
それは軍議に参加している他の三人も同様だったようだ。
「チャールズ殿、なにゆえわざわざ弾ける球など作ってみる気になったのですか?」
「いえ、ちょっとした探究心だったのですが、どのように魔法陣を構築すればアレを再現できるかと色々試しまして……想定通りのものができたのか試してみたくなったのが一点と、ちょっとした悪戯心です」
「悪戯心とな?」
なるほど、悪戯心か。
面白い。
「チャールズ、もう一つ二つ作れと命じたら午前のうちに完成するか?」
「一つ二つというのであれば造作もございません」
「ラバナル」
「なんじゃ?」
「チャールズの作った弾ける球を手榴弾以上の威力にすることは可能だろうな?」
「…………」
しばらく呆気に取られていたラバナルはやがて破顔してこういった。
「これだからお主は面白いのじゃ。よいじゃろう、爆弾 並みの威力に作り変えてやろうではないか」
ハハ、それはやりすぎじゃなかろうか?
まぁ、興が乗って機嫌がいいのならそれでいいか。
ということで、午前中は軍を整列させて砦に対峙させ、一度だけ弓隊による一斉射をしただけで過ごす。
午後、いよいよチャールズ作の弾ける球を使った悪戯を仕掛けることにする。
弾数はちょうど十個。
うち二個が今日作ったやつだ。
判りやすいようにご丁寧にラバナルのサイン入りである。
こういうところ妙に茶目っ気があるんだよな、ラバナルって。
面白そうなので、僕も近くで体験したかったんだけど、近衛の兵に全力で止められてしまったのがかえすがえすも残念でならない。
それはともかく、ラバナルとチャールズは護衛の歩兵と魔法兵を連れて砦に向かって前進する。
念の為、弓兵をその後詰めとして後に控えさせておく。
手榴弾と違って大きく重たい弾ける球は投げるということが難しい。
アシックサル軍は投石機で投げ飛ばすか、ゴロゴロと転がしてきていた。
チャールズはまず投石機を使ってコピー球を砦に向かって一発打ち込む。
しかし、最初の球は着弾前に弾けてしまったようだ。
汚ねぇ花火だ。
二発目も投石機から発射。
こちらは城壁の向こうに消えていった。
壁の向こうでは被害状況が判らないな。
三発目を撃つ前に部隊は少し前進した。
転がす方法に変えるためだったようだ。
二つ同時に転がした球は城壁の手前で止まってしまい、地面に少しの穴を開ける。
城壁への損害は軽微だった。
すると、城壁の上から木の長い板が滑り台のように斜めに下ろされ、敵方の弾ける球が投下される。
一度に三個とは景気のいい。
じゃなくて!
我が軍の手榴弾と比べたらしょぼいと言える威力でも殺傷能力は十分だ。
それに対して味方から転がされたのは一個の球。
すれ違う刹那のことだった。
ラバナル謹製の弾ける球が弾けて敵の弾を誘爆させたのだ。
うわぁ……えげつない破壊力だ。
ため池づくりなどの土木工事で使っていた爆弾とどう規模の破壊力を目の当たりにたぶん顔をひきつらせていたら、どごんという腹に響く音が遠く伝わってくる。
おーおー、城壁の上がざわついてるぞ。
その後、次々と弾ける球が投石機で砦の中に投げ入れられ、四発目で大きな破裂音がこだました。
結局、十発すべて投入したラバナル達は涼しい顔で引き上げてきたとさ。
めでたしめでたし。
…………。
「どうかしましたか?」
と、夕焼けに赤く染まった天幕の中で難しそうな顔をしていたのだろう僕に天幕を開けた途端、ウータが開口一番訊ねてきたのだからよっぽど複雑な表情をしていたのだろう。
「報告いたします。ただいま、ガーブラ隊サビー隊、合流いたしました」
サビー隊と合流したにしてはずいぶん早いな。
トーハが急かせたのだろうか?
なにはともあれ、これで明日は砦を攻めると決定したわけだな。
部隊こそ繰り出しては来なかったけれど、工作員が都合三度潜入しようと試みたと忍者部隊から報告があった。
本陣付きのニンプー隊のくノ一ナナミによれば、兵士として紛れ込み撹乱を狙った七人はその人数によって看破されビートと配下の忍者によって始末され、兵糧の焼き討ちを狙った工作隊は一度ナナミと配下の忍者によって発見され撤退するも明け方再度襲撃を試みた際、待ち構えていたシーナとその配下によって全員討ち取られたという。
なるほど、人知れず始末してくれたようだ。
兵士たちに対応させたらちょっとした騒ぎになって起こされたに違いない。
「こちらの損害はなかったのか?」
「はい、配下が何人か斬られましたが皆浅手でしたのですでに魔法使いによって治療が済んでおります」
それはよかった。
「お館様」
朝の軍議に合わせてチャールズとラバナル、ウータが入ってきた。
改めてナナミから昨晩の報告をさせてから今日の作戦を話し合う。
と言ってもサビー、ガーブラの部隊が合流するまでは様子見と決めてあるので今日は威力偵察以上のことをする気はない。
そんなわけで無駄に血を流すのは避けたいのだけど、かといって無為に時を潰すのも士気に関わる。
「さて、腹案はあるのだが、皆の意見を聞いておきたい。なにかよい策はあるか?」
と、訊ねる。
「残念ながら、これと言った策は思いつきません」
「大砲で壁に穴でも開ければ済むことじゃないのか」
「ラバナル師。目の前の城にはまだ戦略的価値があります。最初に陥した砦のように跡形もなく破壊するというわけにはいきません」
「面倒なことじゃ」
「お館様」
「なんだチャールズ」
「試作した
「弾ける球だぁ!?」
ラバナルが呆れたように声をあげたのも判らないではない。
我が軍にはオリジナルとも言える手榴弾がある。
それなのにわざわざ劣化コピーである弾ける球を試作する意図が読めない。
それは軍議に参加している他の三人も同様だったようだ。
「チャールズ殿、なにゆえわざわざ弾ける球など作ってみる気になったのですか?」
「いえ、ちょっとした探究心だったのですが、どのように魔法陣を構築すればアレを再現できるかと色々試しまして……想定通りのものができたのか試してみたくなったのが一点と、ちょっとした悪戯心です」
「悪戯心とな?」
なるほど、悪戯心か。
面白い。
「チャールズ、もう一つ二つ作れと命じたら午前のうちに完成するか?」
「一つ二つというのであれば造作もございません」
「ラバナル」
「なんじゃ?」
「チャールズの作った弾ける球を手榴弾以上の威力にすることは可能だろうな?」
「…………」
しばらく呆気に取られていたラバナルはやがて破顔してこういった。
「これだからお主は面白いのじゃ。よいじゃろう、
ハハ、それはやりすぎじゃなかろうか?
まぁ、興が乗って機嫌がいいのならそれでいいか。
ということで、午前中は軍を整列させて砦に対峙させ、一度だけ弓隊による一斉射をしただけで過ごす。
午後、いよいよチャールズ作の弾ける球を使った悪戯を仕掛けることにする。
弾数はちょうど十個。
うち二個が今日作ったやつだ。
判りやすいようにご丁寧にラバナルのサイン入りである。
こういうところ妙に茶目っ気があるんだよな、ラバナルって。
面白そうなので、僕も近くで体験したかったんだけど、近衛の兵に全力で止められてしまったのがかえすがえすも残念でならない。
それはともかく、ラバナルとチャールズは護衛の歩兵と魔法兵を連れて砦に向かって前進する。
念の為、弓兵をその後詰めとして後に控えさせておく。
手榴弾と違って大きく重たい弾ける球は投げるということが難しい。
アシックサル軍は投石機で投げ飛ばすか、ゴロゴロと転がしてきていた。
チャールズはまず投石機を使ってコピー球を砦に向かって一発打ち込む。
しかし、最初の球は着弾前に弾けてしまったようだ。
汚ねぇ花火だ。
二発目も投石機から発射。
こちらは城壁の向こうに消えていった。
壁の向こうでは被害状況が判らないな。
三発目を撃つ前に部隊は少し前進した。
転がす方法に変えるためだったようだ。
二つ同時に転がした球は城壁の手前で止まってしまい、地面に少しの穴を開ける。
城壁への損害は軽微だった。
すると、城壁の上から木の長い板が滑り台のように斜めに下ろされ、敵方の弾ける球が投下される。
一度に三個とは景気のいい。
じゃなくて!
我が軍の手榴弾と比べたらしょぼいと言える威力でも殺傷能力は十分だ。
それに対して味方から転がされたのは一個の球。
すれ違う刹那のことだった。
ラバナル謹製の弾ける球が弾けて敵の弾を誘爆させたのだ。
うわぁ……えげつない破壊力だ。
ため池づくりなどの土木工事で使っていた爆弾とどう規模の破壊力を目の当たりにたぶん顔をひきつらせていたら、どごんという腹に響く音が遠く伝わってくる。
おーおー、城壁の上がざわついてるぞ。
その後、次々と弾ける球が投石機で砦の中に投げ入れられ、四発目で大きな破裂音がこだました。
結局、十発すべて投入したラバナル達は涼しい顔で引き上げてきたとさ。
めでたしめでたし。
…………。
「どうかしましたか?」
と、夕焼けに赤く染まった天幕の中で難しそうな顔をしていたのだろう僕に天幕を開けた途端、ウータが開口一番訊ねてきたのだからよっぽど複雑な表情をしていたのだろう。
「報告いたします。ただいま、ガーブラ隊サビー隊、合流いたしました」
サビー隊と合流したにしてはずいぶん早いな。
トーハが急かせたのだろうか?
なにはともあれ、これで明日は砦を攻めると決定したわけだな。