第103話 仲間集めと避けられなかった運命

文字数 2,200文字

「で? お館様自らお越しになられた理由はなんですかね?」

「ヘッドハンティング」

「なんですか、それ」

 ああ、そうよね。

「要は優秀な人材を捜そうと思って」

「どんな人材ですか?」

 僕は指折り数えて必要な人材を数えていく。
 ルビンスがそれを紙に羽ペンでリストにしていく。
 ちょいちょい「あ」とか「また」とか呟くのはなんだ?
 思いつく限り出し切ったら「ずいぶんな人数ですねぇ」と、紙を見ながらルビンスが呟く。
 確かにずいぶんな人数になった。
 一度にスカウトできそうな人数じゃないので、リストを見ながら優先順位をつけようと紙を覗き込むと

「なんじゃこれ!?

 思わず声に出しちまったが、紙がボロボロになっている。

「すいません。ペン先が引っかかって……」

 ああ、紙質と羽ペンの相性が悪いんだな。
 僕は自分の鞄から木炭に粘土を混ぜて成形したなんちゃって鉛筆と新しい紙を渡す。

「おかみさん、オギン。このリストの職業で人材にアテのあるものは?」

「武器の鍛冶屋にはアテがあるよ。学者先生ってのは具体的にどんな物知りがいいんだい?」

「読み書き算盤ができればひとまずいいかな? 子供たちに教える人材だから、教え方が上手だとなおいい」

「商業都市だから、まあその手の人材に事欠かないだろうけど……」

「じゃあ、地理に明るいと言う条件を追加しよう」

「地理ですか? さすがお館様ですね」

 さすがにルビンスは意図が読めたらしい。

「どういうことですか?」

「地形、植生、季節ごとの特色などを知っていると戦術を立てやすいんだ」

「戦ですかい?」

 おかみさんが鼻白む。

「ゼニナルじゃまだ無縁かい?」

「そりゃあ、商業都市ですからね。噂はたくさん入ってきますよ。なんでも今、この街に王族が潜伏しているとか」

 はい?

「いまさら王族でございなんて言われてもねぇ」

 王権の失墜ここに極まれりだな。
 商業都市の住人はこんな宿屋のおかみさんまで王家に敬意を払わなくなっているってことだ。
 今後ますます世の中乱れるぞ。
 なるべく速やかに領地経営を軌道に乗せないと大勢(たいせい)が決まってしまう。

「在野に魔法使いがいるとは思えませんが……」

 オギンが僕らの会話をまったく無視して人材リストを吟味している。
 マイペースというか粛々と任務をこなす優秀な人材というか。
 その後、僕らは深夜まで検討を重ねて七人の人材を探すことにした。
 期間は三日。
 見つかればよし、見つからなければ仕方なしで四日目には町を出て帰途につくと決まった。
 翌日、僕らはまず女将さんの紹介状を持って鍛冶屋を訪れる。
 鍛冶屋の親方は紹介状を受け取ると質問一つすることなく一人の男を連れてきた。
 名前はサイコップ。
 小柄な体躯だが両手で掴んでも指を回しきれないほど太い腕を持つ男だ。

(ドゥワルフの血が入ってるみたいね)

 と、リリムがささやいてくれる。

(ドゥワルフ族と人族は交配できるのか)

(ナルフ族と人族も交配できるのよ。でも、不思議なことにドゥワルフ族とナルフ族間では交配できないのよね)

 不思議だね。
 親方からサイコップにはほとんど説明がなく

「今日からこの人に仕えろ」

 と、唐突にぶっきらぼうに言われたようで、いかつい顔に困惑の表情を浮かべている。
 仕方ないので次の人材に会いにいく道々、ルビンスに説明させる。

「てことは、ワシを独立させてくれたってことですか?」

 そうとも言える。
 現金なもんだ。
 やる気に満ち溢れ出したぞ。
 もう一か所は六階建てのアパートのようだった。
 木造建築で六階建てって結構チャレンジングじゃないか?
 入り口脇の管理人室で在宅を確認し、階段を五階まで上ると、ドアをノックする。
 出てきたのはなかなか整った顔立ちの中年女性だった。
 頬がこけていて手足も細く栄養不足感が拭えないが、ちゃんと栄養をとればそこそこの美人さんだと思うがな。
 中年とはいえ美人さんに胡乱(うろん)な目つきで見られるのは居心地が悪いな。
 僕は目配せでルビンスに事情を説明させる。
 最後まで話を聞いた後、結構な数の質問をしてきた彼女はやがて目をすがめて腕を組んだ。
 あー、玄関先で立ち話させるだなんて、学者先生は日常生活がこれだ。
 なんて思っていると

「判りました。こちらの条件をすべて呑んでいただけるのでしたらその町とやらに同行しましょう」

 と、言ってくれた。
 その後、アンミリーヤと名乗ってくれた学者先生は、僕らを部屋に入れて条件提示に入る。
 ここら辺はなるほど学者だな。
 提示された条件に無茶なもの法外なものはなく、納得づくで合意した。

「じゃあ、準備があるから三日後に」

 合意を済ますとさっさと追い出されたのが釈然としない。

「じゃあ、ワシも三日後でいいですか? ま、学者先生ほど支度時間はかからねぇんだが」

「構わないよ」

 いくつか取り決めをして彼とも別れると、僕らは宿への帰り路につく。
 オギンが近道だという裏通りを歩いていると、なにやら怒鳴り声が近づいてくる。

(あ)

(なに? どうしたの?)

(なにかに巻き込まれる)

(は?)

(こういう時、僕みたいな転生者は絶対に厄介ごとに巻き込まれるって相場が決まってるんだ。神様はなんでそういう配剤をするのかね。僕の使命は生きることなんだろ? 平穏につつがなく暮らさせてくれよ……)

「おぅっ!!

 慨嘆の終わらないうちに、僕は誰かに突き飛ばされた。
 嘆いてなければ回避できたあぁぁぁっ!!
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