第201話 初めての論功行賞

文字数 2,415文字

 勝利が決定的となった後の指揮は僕らより半時間長く能力向上効果が続いたルビレルとイラードが行った。
 本陣を裏から突かれて潰走した敵軍は事前の作戦会議で追わないと取り決めていたから、作戦指揮のできる武将がいなくなって思わぬ反撃に遭うこともなく、撤収することができた。
 潰走したズラカルト軍のあとをキャラとキキョウが追跡して完全に撤退したことを確かめたことをもって、関門攻防戦は我が軍の勝利で決着。
 魔法の後遺症で足腰ガクガクではあったけど、勝鬨は頑張ってあげた。
 いつ聞いても勝鬨はいい。
 生まれたての子羊のようなプルプルした足取りで城壁を降りて自分の天幕に戻ると、そこにタイミングよくサビーがやってきた。

「作戦が図に当たったようですね」

「ああ、ガーブラは大丈夫か?」

「唸ってますよ。ありゃあ悪魔の魔法ですね」

 能力向上極みだろ?
 僕はいくら強くなるんでもやりたくないね。

「オレも使ってみたかったですよ」

「使わないに越したことはないぞ」

 と言ってみたけど、機会があれば絶対使うな、この表情は。

「戦後処理の指揮を任せていいか?」

「なにをすれば?」

「戦場の後片付けと被害状況の確認だ」

「かしこまりました」

 僕の旗揚げの時からの宿将の一人だ。
 もう何度となく戦場に出てもいるから陣頭指揮もお手のものだろう。
 サビーが天幕から去ると、入れ替わりにチャールズがやってくる。
 治癒の魔法で治療してくれるんだそうだ。
 ありがたい。
 魔法で治療してもらえれば能力向上改の後遺症である筋断裂や、戦闘中に受けた刀傷はすっかり元通り。
 明日には日常業務をこなせるまでに回復できているだろう。
 戦闘まではちょっと厳しいだろうけどな。

「他の連中はどうしてる?」

 能力向上魔法を使った武将たちのことだ。

「極みを使われた方達は唸っておいでてした。カーブラはワタシが治療しましたが、前回のお館様以上に激しく消耗されてました」

「二度とは使わんだろうなぁ」

 なんて呟いたら

「どうでしょう? また使いたいって言うんじゃないかと思いますね」

 マジか。
 いや、僕が要請した改良は能力向上改の方なんだし、極みを使う機会はないに越したことはないんだけど……。
 体に魔力が流れてくる。
 魔力感知。
 ここまではどうにかできるようになった。
 けど、どうしても魔力を操作することができない。
 リリムが言うには転生者は前世で三十歳になるまで童貞を通していないと魔法使いになれないという。
 なんて酷い話だ。
 せっかく魔力を感知できるようになったのに、オタクの夢である魔法の存在する転生先での魔法を使うことができないなんて。

(いいかげんあきらめたら?)

 ぐぬぬ……。

「お館様、力を抜いて魔力を受け入れてください」

 う、前にも同じこと言われた気がする。

(やーい、やーい)

 一晩寝て翌日、だるくて体が重く感じられはするけれど、日常生活にはまったく問題はない。
 指揮櫓に登って指示を出す。
 死体を放置しておくと腐って疫病などが発生する危険性があるため一箇所に集めて火葬する必要がある。
 稀にアンデッドとして蘇ることもあるって言うしな。
 アンデッドになる条件は解明されていないとラバナルが言っていた。
 だからこの世界には死霊術師(ネクロマンサー)はいない。
 そうそう、この世界の魔法は(ことわり)を理解していれば発現するので属性という概念がない。
 ただ、理解力によって得手不得手はあるみたいだけど。
 戦場の後片付けを櫓の上から眺めていると、サビーからの報告を持ってルビレルが上がってきた。

「戦死報告か」

「御意」

 味方の死者二百二十五名、敵軍死者七百四十六名、捕虜二百八十三名。
 味方の損耗率は十七パーセント、敵の戦力の四割を削ったわけだ。
 大勝利ではある。
 あるけど、二百二十五人は多いな。

「この上、ここから改めて外征……ついてきてくれるだろうか?」

「この全軍というのは、無理でしょうな」

 だよね。

「まずは論功行賞だ。その後改めて外征する軍を編成する。今回は志願兵を募って出撃する」

「仰せのままに」

「どれほどが手を上げてくれるかな」

「論功行賞次第かと」

 僕の初めての論功行賞だ。
 できるだけ速やかに軍を再編して打って出たいから、ここで手間取るわけにはいかない。

「ルビレル。ダイモンドとオクサ、それに奇襲部隊を率いたカイジョーに戦果報告をまとめるように伝えてくれ」

「かしこまりました」

 それから三日後、各軍の戦果報告が上がってきた。
 もちろん、本陣である僕の軍の戦果もザイーダがまとめてくれた。
 それをイラードとルビレルを交えて検討する。
 イラードを呼んだのは領内の経営状況に明るいから、ルビレルを呼んだのはこの国の論功行賞の知識を参考にするためだ。
 結論から言うと、この国の恩賞の与え方はまったくと言っていいほど公平性を欠いていて参考にはならなかったけど。
 恩賞は、少なくとも公平に見えるように与えなければ不満が溜まってしまう。
 あーでもないこーでもないと知恵を絞って叩き台をまとめ上げたのが二日後。
 それをもとに僕が一人天幕に篭って最終的に決定するまでにさらに一日を費やした。
 まず大将三人に私邸を構える許可を出す。
 公知公民政策をとっている僕の領内で私邸を作るには毎年土地使用税を払う必要がある。
 が、公務員的な彼らにはそれを払えるだけの収入がないのが現状だ。
 薄給でごめんな。
 そこで僕の館を上回らない規模を条件に免税することを恩賞とすることにした。
 副将と遊軍の将たちには新しい武具を恩賞に出した。
 武具防具は高い。
 一般兵にも出す支給品は数打ちの(なまくら)なことが多い。
 そこで最近いいものを打てるようになってきたジャリの作刀の中からいいものを見繕って渡したのだ。
 ほんと、薄給でごめんな。
 それ以下の部隊長、組長にも支給品じゃない剣を配る。
 魔法部隊と一般兵には恩給を。
 戦死者には遺族に恩給と来年の労働奉仕免除を約束する。
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