第147話 国家戦略会議 1 まずは現状報告を
文字数 2,495文字
会場にはすでに主だったメンバーが集まっていた。
ジョー、ルダー、イラード、サイ、ウータ、オクサ、カイジョー、チャールズ、アンミリーヤ、オギン、そして僕だ。
簡易で作られた丸テーブルに丸太の腰掛けで作られた円卓に十一人が座る。
牧場で働いているチローが飲み物などの給仕として支度をしている。
「みんな集まっているようだな。じゃあ、早速始めようか」
「始めようはいいが、なにを話すのか聞いていないぞ」
ジョーが、開口一番呆れたようにいう。
「うん、まずは報告から。その報告を持って議題を決めていこうと思っている。イラード、人口調査の報告を」
「はい」
報告によると、バロ村が百六十人、ボット村、セザン村がそれぞれ百二十人規模、ハンジー町(旧一町三ヶ村)は八百七十人、一の町と周辺四ヶ村に商都ゼニナルを含めてゼニナル町とした地域が千百人、三ヶ村を編入したオグマリー市が五百五十人、合計で約三千人。
ちなみに、イラードの報告はまだ集落として機能している旧村域単位での人数も集計し、端数も切り捨てずに報告してくれている。
しかも会議参加者の人数分、紙ベースの資料まで用意して。
男女別や未成年比率なども出してくれているのだから大したもんだ。
「オグマリー市の方が一の町、二の町より人が少ないのか」
報告が終わって最初に出たのが、オクサの質問だ。
「二つの要因があります。一つには昨年の戦の後、食料対策も兼ねてオグマリー市からの移民を促したこと。もう一つが旧ゼニナル単体でも七百人規模の街だったことです」
その後小一時間かけて質疑応答の時間を設けて人口に対する情報共有をすませた。
それにしても、ほんとイラード優秀だわ。
集落単位での乳幼児死亡率まで調べろなんて言ってなかったのにちゃんと調べてたんだから。
それによるとやっぱり医療が充実しているバロ村、ボット村、セザン村の乳幼児死亡率が突出して低かったな。
医者はいても医療費が高くて庶民に医療が行き届かなかったゼニナル、オグマリー市よりずっと低い。
死亡率低下は人口増加に繋がるし、五年後十年後の労働人口にも繋がるから結構重要案件なのよね。
「では、次にルダー、報告を」
ルダーには検地を頼んでいた。
こっちの報告はイラードほど精細じゃなかったけど、現在の耕地面積、収穫量、開拓可能地など過不足なく調べられていた。
てか、むしろ叩き台の資料としてはこれっくらいの方が概要を把握しやすいくらいだ。
「そんなに収穫量に差があるんですか?」
と、驚いていたのはウータとサイだ。
ウータは一の町でサイは二の町で文官をしていたわけで、バロ村、ボット村、セザン村の三ヶ村が他に比べて二割から三割も収穫量が多いことに目を剥いていた。
「農業は化学だ。自然相手で経験も必要だがな、トライ&エラーの積み重ねは一個人が受け継ぐのではなく集合知にしなきゃいけねぇのさ」
あー、なんとなくルダーがどうして村を出なきゃいけなくなったか判った気がする。
うん、転生者の悲哀ってやつだな。
僕の下で思う存分前世の知識を活用し、この世界でより良い農業を目指すってのは、ルダーに与えられた神の使命なのかもしれない。
(…………)
(……なによ?)
(うん。今、ほんのちょっと神の意思というか転生意図に触れた気がしてな)
(なによ、それ)
(神様はこの世界に何度か転生者を送り込んでいる)
(しょっちゅうじゃないわよ)
(その度にこの世界は文明レベルが上がってきたんじゃないか?)
(…………)
リリムの無言はたぶん、正鵠 をついたってことだ。
(この世界が中世ヨーロッパ的なのって、ヨーロッパ文化圏の転生者の仕業だろ。たぶんこの王国文明は十世紀から十二世紀のヨーロッパがベースになってる。そのタイミングで結構な転生者がこの世界に呼ばれてるはずだ。その後も何度か転生者が来たんだろうけど散発的で大きく文明が進歩した形跡がない)
糸車や望遠鏡など十三世紀以降の発明品がちらほら見受けられるのが僕の論理的根拠だ。
(で、王国建国から約五百年。ほとんど進化しない文明に業を煮やした神様が呼び集めたのが日本からの転生者……違うか?)
(君のような勘のいいガキは嫌いだよ)
おっと!?
(うそうそ。でも、そんなこと考察していいことあるの?)
(あるさ)
心置きなく文明を進化させられる。
ルダーの報告の後はアンミリーヤの報告だ。
三ヶ村の子供たちには義務教育が施されている。
かれこれ二年、読み書きは一通り、算盤は早い子で四則演算ができるところまで習得している。
まあ、だからこそイラードやルダーについていって人口を数えたり検地ができるのだけど。
読み書き算盤ができたら次は高等教育だ。
これは国家の未来に関わる大事な問題だから慎重かつ速やかに行うべき課題だけど、グランドデザインなしに検討をすると無茶苦茶になる。
日本の学習指導要領はひどいもんだった。
僕はどちらかといえば、はみ出しものの部類だったからそう思うのかもしれないけど、あれは歯車を作る教育だ。
なにも考えず与えら れた情報を処理し、求められる正解に「限りなく近い」答えを導き出す ことが求められる。
そこに失敗は許されない。
書かれた文を読んだり文字を書いたり、加減乗除の計算だけならいざ知らず、感じたこと思ったことなど十人十色、ましてや掛け算の順序なんて答えが同じならいいはずだ。
自分で物事を考える子、システムに疑問を持つ子ほど評価からこぼれていく。
自分が習っていた時より息子の教科書見たときの「なんじゃこれ!?」感ったらなかったね。
この世界ではもっとマシな教育を導入してやるんだ。
やぁぁぁってやるぜ!
午前中の報告会が終わり、牧場での昼食会が始まる。
今日はチローがクッカーを香草焼きにして振る舞ってくれた。
飼育数が増えたから食肉として出荷できるまでになった。
よその村に出荷するには至らないけどね。
そもそも食肉加工してから出荷ができるような保存技術及び衛生環境が整っていない。
くぁー、冷蔵・冷凍技術欲しい!
せめて魔法がもう少し身近なものだったらなぁ……。
ジョー、ルダー、イラード、サイ、ウータ、オクサ、カイジョー、チャールズ、アンミリーヤ、オギン、そして僕だ。
簡易で作られた丸テーブルに丸太の腰掛けで作られた円卓に十一人が座る。
牧場で働いているチローが飲み物などの給仕として支度をしている。
「みんな集まっているようだな。じゃあ、早速始めようか」
「始めようはいいが、なにを話すのか聞いていないぞ」
ジョーが、開口一番呆れたようにいう。
「うん、まずは報告から。その報告を持って議題を決めていこうと思っている。イラード、人口調査の報告を」
「はい」
報告によると、バロ村が百六十人、ボット村、セザン村がそれぞれ百二十人規模、ハンジー町(旧一町三ヶ村)は八百七十人、一の町と周辺四ヶ村に商都ゼニナルを含めてゼニナル町とした地域が千百人、三ヶ村を編入したオグマリー市が五百五十人、合計で約三千人。
ちなみに、イラードの報告はまだ集落として機能している旧村域単位での人数も集計し、端数も切り捨てずに報告してくれている。
しかも会議参加者の人数分、紙ベースの資料まで用意して。
男女別や未成年比率なども出してくれているのだから大したもんだ。
「オグマリー市の方が一の町、二の町より人が少ないのか」
報告が終わって最初に出たのが、オクサの質問だ。
「二つの要因があります。一つには昨年の戦の後、食料対策も兼ねてオグマリー市からの移民を促したこと。もう一つが旧ゼニナル単体でも七百人規模の街だったことです」
その後小一時間かけて質疑応答の時間を設けて人口に対する情報共有をすませた。
それにしても、ほんとイラード優秀だわ。
集落単位での乳幼児死亡率まで調べろなんて言ってなかったのにちゃんと調べてたんだから。
それによるとやっぱり医療が充実しているバロ村、ボット村、セザン村の乳幼児死亡率が突出して低かったな。
医者はいても医療費が高くて庶民に医療が行き届かなかったゼニナル、オグマリー市よりずっと低い。
死亡率低下は人口増加に繋がるし、五年後十年後の労働人口にも繋がるから結構重要案件なのよね。
「では、次にルダー、報告を」
ルダーには検地を頼んでいた。
こっちの報告はイラードほど精細じゃなかったけど、現在の耕地面積、収穫量、開拓可能地など過不足なく調べられていた。
てか、むしろ叩き台の資料としてはこれっくらいの方が概要を把握しやすいくらいだ。
「そんなに収穫量に差があるんですか?」
と、驚いていたのはウータとサイだ。
ウータは一の町でサイは二の町で文官をしていたわけで、バロ村、ボット村、セザン村の三ヶ村が他に比べて二割から三割も収穫量が多いことに目を剥いていた。
「農業は化学だ。自然相手で経験も必要だがな、トライ&エラーの積み重ねは一個人が受け継ぐのではなく集合知にしなきゃいけねぇのさ」
あー、なんとなくルダーがどうして村を出なきゃいけなくなったか判った気がする。
うん、転生者の悲哀ってやつだな。
僕の下で思う存分前世の知識を活用し、この世界でより良い農業を目指すってのは、ルダーに与えられた神の使命なのかもしれない。
(…………)
(……なによ?)
(うん。今、ほんのちょっと神の意思というか転生意図に触れた気がしてな)
(なによ、それ)
(神様はこの世界に何度か転生者を送り込んでいる)
(しょっちゅうじゃないわよ)
(その度にこの世界は文明レベルが上がってきたんじゃないか?)
(…………)
リリムの無言はたぶん、
(この世界が中世ヨーロッパ的なのって、ヨーロッパ文化圏の転生者の仕業だろ。たぶんこの王国文明は十世紀から十二世紀のヨーロッパがベースになってる。そのタイミングで結構な転生者がこの世界に呼ばれてるはずだ。その後も何度か転生者が来たんだろうけど散発的で大きく文明が進歩した形跡がない)
糸車や望遠鏡など十三世紀以降の発明品がちらほら見受けられるのが僕の論理的根拠だ。
(で、王国建国から約五百年。ほとんど進化しない文明に業を煮やした神様が呼び集めたのが日本からの転生者……違うか?)
(君のような勘のいいガキは嫌いだよ)
おっと!?
(うそうそ。でも、そんなこと考察していいことあるの?)
(あるさ)
心置きなく文明を進化させられる。
ルダーの報告の後はアンミリーヤの報告だ。
三ヶ村の子供たちには義務教育が施されている。
かれこれ二年、読み書きは一通り、算盤は早い子で四則演算ができるところまで習得している。
まあ、だからこそイラードやルダーについていって人口を数えたり検地ができるのだけど。
読み書き算盤ができたら次は高等教育だ。
これは国家の未来に関わる大事な問題だから慎重かつ速やかに行うべき課題だけど、グランドデザインなしに検討をすると無茶苦茶になる。
日本の学習指導要領はひどいもんだった。
僕はどちらかといえば、はみ出しものの部類だったからそう思うのかもしれないけど、あれは歯車を作る教育だ。
なにも考えず
そこに失敗は許されない。
書かれた文を読んだり文字を書いたり、加減乗除の計算だけならいざ知らず、感じたこと思ったことなど十人十色、ましてや掛け算の順序なんて答えが同じならいいはずだ。
自分で物事を考える子、システムに疑問を持つ子ほど評価からこぼれていく。
自分が習っていた時より息子の教科書見たときの「なんじゃこれ!?」感ったらなかったね。
この世界ではもっとマシな教育を導入してやるんだ。
やぁぁぁってやるぜ!
午前中の報告会が終わり、牧場での昼食会が始まる。
今日はチローがクッカーを香草焼きにして振る舞ってくれた。
飼育数が増えたから食肉として出荷できるまでになった。
よその村に出荷するには至らないけどね。
そもそも食肉加工してから出荷ができるような保存技術及び衛生環境が整っていない。
くぁー、冷蔵・冷凍技術欲しい!
せめて魔法がもう少し身近なものだったらなぁ……。