第33話 初めての冒険2 村長、怪物退治をしてみる。

文字数 2,430文字

 僕は慎重にスクリトゥリに近づく。
 スクリトゥリは僕に反応して動き出す。
 便宜上枝腕と呼ぼう。
 スクリトゥリは枝腕を伸ばして僕を捕まえようとする。
 その動きはスローモーションというほどではなかったけれど緩慢と言っていい動きで、チャンバラごっこの経験があって前世で剣道の有段者だった僕には一つ一つは余裕で対処できるものだ。
 ただ、厄介なのはその数だ。
 襲い来る枝腕は数えて七本。
 上の方にまだ十本以上の枝腕がありそうだけど、今のところそれを使う気はないみたい。
 その一本一本が意外としなやかで強靭だったのも思った以上に厄介で、ただの木なら余裕で枝払いできるだろうに剣を振るってもなかなか切り落とせない。
 斧ならもっと楽なのかな?
 今のところ危機的状況とは無縁だけど、このままじゃ埒が明かない。
 僕は戦いながらこの戦闘の問題点を洗い出してみた。
 まず、剣がなまくらだ。
 戦国時代、日本刀には数打物と呼ばれた粗製濫造の量産品があったと言われてるけど、それと比較してもかくやという出来だ。
 鍛治を始めたばかりのジャリに要求するのは酷かもしれないけど、農機具と違って斬れ味の悪さは戦闘結果にまるっと影響する。
 ()いては自身の生死に直結する。
 枝腕とチャンチャンバラバラやっているうちに刀身が歪んできたようでもあるし、こいつは春までになんとかしてもらわなきゃならないな。
 せめて砥石のいいもの使って初撃くらいは高い殺傷力を発揮してもらわなきゃ。
 僕の剣戟もひどいものだ。
 剣道で使っていた竹刀には刃がないから、どの角度で振っても結果は同じだったわけだけど、実剣はちゃんと刃を向けて振らなきゃ威力が発揮されない。
 たぶん、僕の振り方が悪いことも剣の寿命を縮めているんだと思う。
 こんなじゃ木刀振ってる方がまだマシかも……。
 次にスクリトゥリ問題。
 戦い始めて五分はたった。
 これだけやってればさすがに枝腕の一本や二本切り落としてるんだけど、特にダメージを受けたって印象がない。
 植物型怪物はダメージ感が判りづらいということを差っ引いてもダメージを与えた気がしない。
 これはきっと枝腕をいくら切ってもダメージにならないんだ。
 普通の木とおんなじで。
 ということで、スクリトゥリ攻略の戦術を考えよう。
 普段肉体労働が多かった僕の体力は16歳だってことも考慮してまだ余裕がある。
 これはきっと神様からの恩恵だってことにしとこう。
 人よりちょっと優秀に産んでもらっているらしいからね。
 多少息は上がってきたけど。
 それはさておきだ、枝腕をいくら切り払ってもダメージにならないのであれば、幹胴か根足を攻めなきゃならないってことになる。
 ちなみにスクリトゥリは基本移動できないし、その部分で獲物の養分を吸収するいわば口にあたる部分なので()()という表現は適切じゃない気がするけど他の部位同様便宜的にそう呼ぶことにする。
 試しにひと抱えはありそうな幹胴に切りつけてみる。
 するとスクリトゥリは身震いしたように一瞬固まった。
 うん、いわゆるダメージが通ったってやつだ。
 根足に剣を刺してみる。
 こっちは身悶えするように幹胴がいっそうねじれた。
 どちらも攻め続ければ倒せそうだ。
 これはどっちが安全か? どっちが効率がいいかの判断だな。
 上から覆いかぶさるように攻めてくる枝腕の攻撃をかいくぐりながらということを考えれば、下を向いて攻撃しなきゃならない根足より、幹胴を狙う方が安全な気がする。
 けど、ダメージ具合を見ると根足の方が弱点なんだと思える。
 普通に退治するなら、二、三人組になって戦えば済むんだろうけど、今日のスクリトゥリ退治は個々人の力量を測る意味合いが強くて、僕はジョーに試されているんだと思うんだよなぁ……。
 僕はチラリとジョーを盗み見る。

 …………。

 ちくしょう!
 ポーカーフェイスでやがんの。
 さすが歴戦の商隊長だな。

 …………。

 えぇい、この場の僕は村長として、指揮権を持つ人間として振舞うことが正解と見た。
 ファイナルアンサー!
 僕は見守っていた中からそもそも戦闘要員であるサビーたち以外の比較的落ち着いている二人を選んで声をかけ、二人に枝腕を迎撃してもらいながら根足を攻撃してスクリトゥリを倒した。

 どや!?

「うん、合格だ」

 やったね!

「一人で倒せると思ったんだが?」

 と、ジャリがまた突っ込んでくる。

「ああ、俺もそう思うぞ」

 と、ジョーが同意する。

「だが、様々な条件を勘案して最適な決断をすることが求められる立場にいる人間というのがいるんだよ。例えば俺とかな」

「ジャンはそういう人間ってことなのか?」

「そうだろ? 村長という立場を考えれば、自分が常に先頭に立って戦えばいいってもんじゃない。ちゃんと冷静に判断できて、適切に対処する。それが村長の役割ってもんだ」

「そういうもんなのかね?」

「そういうもんだね」

 相槌はオギンからもたらされた。

「もちろんここ一番で頼りになった方がそりゃあいいさね」

「単なる村長ならそれでもいいだろうが、そこらあたりどう考えてるんだ?」

 サビーが僕を見ながらジョーに訊ねる。
 何を求められてるんだ?

「筋は良さそうだし、ちゃんと強くなるさ」

「ならいい」

 ね、何を求めてんの?

「さて、じゃあ他のみんなの実力を測るとしようか」

 あ・教えてくれないのね……。

「じゃあまずスクリトゥリを見つけたら僕かジョーに教えてください」

 僕は気を取り直して指示を出す。
 スクリトゥリのテリトリーはそれなりに広い。
 動けなくて動作が緩慢、そんな狩りの成功率が低そうな生き物が狭い範囲に生息してたら過当競争で種が滅ぶ。
 討伐に出た村人全員分の相手を見つけるのにたっぷり三日もの時間がかかった。
 この討伐遠征で致命的な怪我をした人はいない。
 けど、何人かは怪我を負うことになった。
 一番残念な怪我をしたのは滑って転んで頭を打って、後頭部に大きなコブを作ったジャスかな?
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