第146話 内政の基本は人口と生産高よね
文字数 2,205文字
結婚披露宴を終えると、僕はオグマリー区の改革に着手した。
披露宴までは道路工事に全集中してたからね。
まずは人口調査から始めた。
オグマリー区全域にどれほどの人間が住んでいるかの確認だ。
担当にはイラードをあてた。
イラードはボット村でアンミリーヤから勘定の得意な生徒を数人推薦してもらい、村から村へと村人を数えてまわってくれた。
次に農業指導に全地域を回るルダーに検地をお願いした。
現在耕作可能な農地と開拓できそうな場所の見込み面積を割り出してもらうためだ。
ルダーもアンミリーヤに相談して真面目な生徒を十人ほどと、バロ村から子供たちを駆り出して行った。
各地で検地を行うなら村人を動員して調べれば済むことなのにと訝しんでいたんだけど、ルダーには現場で徴用した大人たちに混ぜたその子供たちがボット村からの生徒たちの指示に従いテキパキと面積を割り出していく様を見せることで、教育の重要性を知らしめることを意図していたようだ。
やるな。
実際、子供たちを「学者先生」とか呼ぶ爺様婆様が村々にいたらしい。
そんでもって、そんな大人たちの視線を受けて子供たちの学習意欲を高める結果にもつなげてみせるんだからすごい。
てなわけで、僕は人口調査と検地の集計結果を待ちながら、バロ村で新婚生活を満喫している。
「ん……」
サラの寝顔を眺めながら長い回想にふけっていたら、彼女が目覚めたようだ。
「おはよ」
「いつから見ていたのですか?」
「起きた時から」
「……もう」
照れる仕草がかわいくてこのまま朝の一戦としけこみたくなるところだけど、それはググッと抑え込み、布団から起き上がる。
「お館様?」
「朝の稽古に行ってくる。朝食の準備を頼むよ」
「はい」
領主の妻であり王位継承権者なんだから食事の支度は誰かに任せるという選択肢もあるのに、彼女は自ら進んで食事の支度をしてくれる。
よくできた奥さんだ。
日課の朝稽古は始めてから何年になるだろう?
始めた当初は体幹ができていなくて鋭く振るとフラフラしていた。
今は前世の自分がびっくりするぐらいの鋭さと正確さで剣を振ることができる。
素振りから巻き藁への打ち稽古、結婚後はサボっているけど実戦稽古でもそこそこの実力になってきた。
…………。
僕より強いやつは家臣にもいっぱいいるんだけどね……。
この世界では大将だからって陣の奥でふんぞりかえっている訳にはいかない。
むしろここ一番では先頭に立って味方を鼓舞しなきゃいけない。
そのためにはせめて強さで指折り数えられるくらいの実力は示しておかなきゃならないんじゃねぇの? ってことで頑張ってんだけど、なかなかどうして上には上がいるんだよなぁ……。
毎度のことながら「優秀にしてくれたんじゃないのかよ」と、神様に詰め寄りたくなる。
ひと汗流して館に戻ると朝食の準備ができていた。
王位継承権者のいる領主の館ということで、この春から内向きの仕事をする人間を三人、雇うことになった。
イゼルナと今年成人した二人の見習い女性だ。
イゼルナはもともとサラの世話係をやってもらっていたので引き続きサラについてもらうことにしたのだ。
彼女に習って覚えた料理は今やサラの方が上手なくらいだ。
(それって、単にサラの味付けが好みなだけじゃないの?)
(あー……そうかもな)
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
妖精リリムは転生者にしか見えない存在だ。
しかし、結構なおしゃべりだし人の思考を読んで茶々を入れてくる厄介な存在でもある。
今もわざと僕の目の前を飛んでふざけている。
三人とも通いなのだけれども、本当は住み込みでお願いしたいところだ。
もっとも、そんな立場になる予定で建てた館じゃないから住んでもらえる空き部屋がない。
立て替える?
いや、オグマリー区の領主になった時から考えている計画があるのでこのままの予定だ。
「今日のご予定は?」
サラは育ちの良さもあって言葉遣いが元々丁寧だったけど、結婚してからあえて敬語で話してくるようになった。
ちょっとさみしいな。
「会議がある。そのために主だったものを集めてあるんだ」
「では、この後ここに?」
「いや、ここは既に手狭だからな。牧場で行う予定だ」
「まあ、今日は天気も良さそうですし、ポカポカ陽気で会議が進まないのではありませんか?」
その心配の方向にほっこりして思わず声に出して笑っちゃう。
「かもしれないね」
食事が終わると、村の北に作った牧場に移動する。
もっとも、僕の館は北面の塀を背にした場所だし、裏門とよばれる北の出入り口は塀の東はしにあり歩いてもそう時間はかからない。
サラのいう通りの気持ちの良い日差しの中を散歩のように会議の場まで歩いて行く。
門の手前でオギンが待っていた。
「わざわざ、こんなところで待っていなくてもよかったのに」
オギンの家は館の西隣でザイーダと一緒に住んでいる。
出掛けに館に立ち寄ってくれれば一緒に来れたのに。
「そんなことをしたら奥方様に嫉妬されてしまいます」
オギンも冗談が上手くなった。
「しかし、牧場の中央で会議とは考えましたね」
だろ?
「聞かれたくない中身も多々あるからね。下手に会議室みたいなところでやったら誰に聞かれるか判ったもんじゃない。『壁に耳あり障子に目あり』って昔から言うだろ?」
「言いませんよ。そもそもショージってなんですか?」
あ、ああ!
披露宴までは道路工事に全集中してたからね。
まずは人口調査から始めた。
オグマリー区全域にどれほどの人間が住んでいるかの確認だ。
担当にはイラードをあてた。
イラードはボット村でアンミリーヤから勘定の得意な生徒を数人推薦してもらい、村から村へと村人を数えてまわってくれた。
次に農業指導に全地域を回るルダーに検地をお願いした。
現在耕作可能な農地と開拓できそうな場所の見込み面積を割り出してもらうためだ。
ルダーもアンミリーヤに相談して真面目な生徒を十人ほどと、バロ村から子供たちを駆り出して行った。
各地で検地を行うなら村人を動員して調べれば済むことなのにと訝しんでいたんだけど、ルダーには現場で徴用した大人たちに混ぜたその子供たちがボット村からの生徒たちの指示に従いテキパキと面積を割り出していく様を見せることで、教育の重要性を知らしめることを意図していたようだ。
やるな。
実際、子供たちを「学者先生」とか呼ぶ爺様婆様が村々にいたらしい。
そんでもって、そんな大人たちの視線を受けて子供たちの学習意欲を高める結果にもつなげてみせるんだからすごい。
てなわけで、僕は人口調査と検地の集計結果を待ちながら、バロ村で新婚生活を満喫している。
「ん……」
サラの寝顔を眺めながら長い回想にふけっていたら、彼女が目覚めたようだ。
「おはよ」
「いつから見ていたのですか?」
「起きた時から」
「……もう」
照れる仕草がかわいくてこのまま朝の一戦としけこみたくなるところだけど、それはググッと抑え込み、布団から起き上がる。
「お館様?」
「朝の稽古に行ってくる。朝食の準備を頼むよ」
「はい」
領主の妻であり王位継承権者なんだから食事の支度は誰かに任せるという選択肢もあるのに、彼女は自ら進んで食事の支度をしてくれる。
よくできた奥さんだ。
日課の朝稽古は始めてから何年になるだろう?
始めた当初は体幹ができていなくて鋭く振るとフラフラしていた。
今は前世の自分がびっくりするぐらいの鋭さと正確さで剣を振ることができる。
素振りから巻き藁への打ち稽古、結婚後はサボっているけど実戦稽古でもそこそこの実力になってきた。
…………。
僕より強いやつは家臣にもいっぱいいるんだけどね……。
この世界では大将だからって陣の奥でふんぞりかえっている訳にはいかない。
むしろここ一番では先頭に立って味方を鼓舞しなきゃいけない。
そのためにはせめて強さで指折り数えられるくらいの実力は示しておかなきゃならないんじゃねぇの? ってことで頑張ってんだけど、なかなかどうして上には上がいるんだよなぁ……。
毎度のことながら「優秀にしてくれたんじゃないのかよ」と、神様に詰め寄りたくなる。
ひと汗流して館に戻ると朝食の準備ができていた。
王位継承権者のいる領主の館ということで、この春から内向きの仕事をする人間を三人、雇うことになった。
イゼルナと今年成人した二人の見習い女性だ。
イゼルナはもともとサラの世話係をやってもらっていたので引き続きサラについてもらうことにしたのだ。
彼女に習って覚えた料理は今やサラの方が上手なくらいだ。
(それって、単にサラの味付けが好みなだけじゃないの?)
(あー……そうかもな)
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
妖精リリムは転生者にしか見えない存在だ。
しかし、結構なおしゃべりだし人の思考を読んで茶々を入れてくる厄介な存在でもある。
今もわざと僕の目の前を飛んでふざけている。
三人とも通いなのだけれども、本当は住み込みでお願いしたいところだ。
もっとも、そんな立場になる予定で建てた館じゃないから住んでもらえる空き部屋がない。
立て替える?
いや、オグマリー区の領主になった時から考えている計画があるのでこのままの予定だ。
「今日のご予定は?」
サラは育ちの良さもあって言葉遣いが元々丁寧だったけど、結婚してからあえて敬語で話してくるようになった。
ちょっとさみしいな。
「会議がある。そのために主だったものを集めてあるんだ」
「では、この後ここに?」
「いや、ここは既に手狭だからな。牧場で行う予定だ」
「まあ、今日は天気も良さそうですし、ポカポカ陽気で会議が進まないのではありませんか?」
その心配の方向にほっこりして思わず声に出して笑っちゃう。
「かもしれないね」
食事が終わると、村の北に作った牧場に移動する。
もっとも、僕の館は北面の塀を背にした場所だし、裏門とよばれる北の出入り口は塀の東はしにあり歩いてもそう時間はかからない。
サラのいう通りの気持ちの良い日差しの中を散歩のように会議の場まで歩いて行く。
門の手前でオギンが待っていた。
「わざわざ、こんなところで待っていなくてもよかったのに」
オギンの家は館の西隣でザイーダと一緒に住んでいる。
出掛けに館に立ち寄ってくれれば一緒に来れたのに。
「そんなことをしたら奥方様に嫉妬されてしまいます」
オギンも冗談が上手くなった。
「しかし、牧場の中央で会議とは考えましたね」
だろ?
「聞かれたくない中身も多々あるからね。下手に会議室みたいなところでやったら誰に聞かれるか判ったもんじゃない。『壁に耳あり障子に目あり』って昔から言うだろ?」
「言いませんよ。そもそもショージってなんですか?」
あ、ああ!