第302話 「下手の思案は休むに同じ」からの「目から鱗」

文字数 2,021文字

 城門に着弾した砲弾が爆ぜる。
 でも、一発だけじゃあさすがに兵が突入できるような穴は開かない。
 けど、目標は定まった。
 幸い大砲は魔道具だ。
 火薬を使った前世の兵器と違って反動がほどんどない。
 つまり、微調整せずに撃っても城門に当てられるってことだ。
 都合四発の砲弾によって城門は完全に破壊された。

「突撃!」

 僕の号令一下、騎兵と歩兵が突撃をする。
 それに合わせて、城内に向かって一発砲撃をかます。
 突撃までの間に三個の弾ける球が降ってきたけど、同じ過ちを二度もするわけにはいかない。
 保護幕を持った魔法使いが爆発を抑え込む。
 その間にまずは騎兵が城内に駆け込む。
 きっと最初に投石機を破壊してくれるはずだ。
 それを見届けてから僕は弓兵と魔法部隊を率いて前進する。
 城門の瓦礫を乗り越えると町の中ではおよそ戦闘が終わっていた。
 おそらく不利な状況と見て素早く撤退したのだろう。
 次の戦いのために戦力を温存してより内側へ籠る。
 戦術としては悪くない判断だ。
 だが。

「お館様」

 ウータがイラードを連れて戻ってきた。

「全軍、入場いたしました」

「ご苦労」

「しかし、さすがはお館様。我々より早く城門を攻略するとは」

「それは、私が三銃士より三倍の兵を持ってなお劣っているという意味か?」

「あ、いえ。決してそのようなことは」

「よい。個々人の戦闘力では事実そなたらには及ばん」

 まぁ、模擬戦では三度に一度は勝てるようになったけど、おそらく実戦なら十回やったって一度たりとも勝てないだろう。

「イラード。住民の慰撫を任せる。いつものように決して兵に乱暴狼藉をさせるな。今日は場外の野営地に戻って明日、改めて内門攻略を開始する」

「御意」

 僕は護衛にウータとガーブラ、それに五人ばかりの護衛兵を連れて平民区である下町を巡察する。
 町並みはそれほど破壊されていないようで、住民の被害は極力抑えられたようだ。
 各門そばには破壊された投石機があり、持ち帰らず放棄された弾ける球が転がっていたりする。
 戦死した兵士たちは広場に集められ燃やされる。
 何度も経験しているけど、嫌な臭いだ。
 道行く人はほとんどおらず、事後処理をしている味方の兵ばかり。
 首をめぐらすとわずかに開けられた窓から覗いている視線がそこかしこから感じられる。

「さて、ウータ。全軍を一旦引き上げるが、明日再び入場して内門の攻略を始めることを住民に周知せよ」

「かしこまりました」

「ガーブラは悪いが引き続き私の護衛として城外に出るまで従ってくれ」

「お任せを」

 陣に戻った僕はチャールズとトーハを呼んで場内の絵図面を広げる。
 東西南北四つの門のある外壁と違って下町と山の手を仕切る内壁には門が二つしかない。

「明日はまず門の周りの建物を排除することから始めなければならないだろうな」

「そうですな。これほど猥雑だと戦闘の邪魔になりますから」

 と、トーハがいえば

「しかし、弾ける球の対策としては遮蔽物も必要なのではありませんか?」

 と、チャールズがいう。

「弾ける球だけならその通りですが、我が軍の主兵装は槍ですからね。十分な広さがないと満足に振るえません」

「確かに」

 チャールズが頷いたところでウータが天幕に入ってくる。
 チャールズの話は続く。

「排除するとして、どのように建物を取り壊すのですか?」

 そこだよ。
 城壁の際まで建てられている建物を一般的な解体作業で取り壊すのはさすがに正気の沙汰とは言えない。
 そんな無防備晒したら、守兵に狙ってくれと言っているようなものだ。
 しかし、爆弾で破壊すると瓦礫が散乱してかえって足場が悪くなる。

「建物を取り壊す必要がありますか?」

「これはしたり。ウータ殿はあの狭い道で兵たちが槍を振るえるとでも?」

「あそこで槍を振るう必要などありませんよ、トーハ殿。お館様、明日は大砲で正面から門を攻撃することを具申いたします。門さえ抜ければ門の外の建物など考慮することもありません」

 ああ、確かに。

「なるほど。確かにその通りだ、ウータ殿」

「判った。お前の献策を採用しよう。チャールズ、三銃士に飛行手紙を送れ」

「内容は?」

「部隊の再編成だ。明日はサビー隊を我が配下に、ガーブラ隊をイラードの配下にそれぞれウータの作戦通りに二つの門を攻撃。明日は一気に城を陥す」

「かしこまりました」

「ウータは、銃兵五十騎兵五十を率いて平民区の警戒にあたれ。おそらく我が軍の撹乱のために兵が紛れているに違いない」

「御意」

「トーハ、ウータに配下の忍者をつけられるか?」

「ニンジャー隊のクレインをつけましょう」

「なら安心だな」

「お館様」

 軍議を打ち切ろうとしたのを察してか、ウータが訊ねてきた。

「なんだ?」

「ここにアシックサル季爵がいると思いますか?」

 …………。

「いや、いないだろう。季爵本人がいたならばもう少し頑強に抵抗しているに違いない」

「そうですか」

「各自、明日に備えて休むように」

 さ、明日は僕も頑張るぞ。
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