第48話 神様、今年の誕プレは最 The 高です!

文字数 1,820文字

 僕はこう見えても村のリーダーだ。
 まだ十六……いや、日付変わって十七歳か。
 若くて経験不足だと思われてるんだろうけど前世では半世紀近く生きていたわけだし、会社でそれなりの地位についていた。
 いわゆるプロジェクトリーダーを任されて十人以上の部下を率いていたことだってある。
 そんな

僕が、歴史オタクの知識を総動員して戦術を練った対野盗戦だぞ。
 初陣だからって遅れをとると思っているのか?

 …………。

 なんて一人で興奮していたらあらかた戦闘が終わってた。

 あらぁ?

「何人か生き残ってますが、どうします?」

「え?」

 慌てて辺りを見回すと、確かに重症だったりで虫の息なやつや戦意喪失で無抵抗に縛られてる男たちが全部で四人。
 頭目はイラードたちが倒したらしい。
 手引き役の男は……ああ、南無南無……。

「こちら側の被害状況は?」

「ジャスほか数名が切り傷を受けていますが、重傷者はいません」

 ほっ、それは良かった。

「チャールズとガブリエルを呼んで傷の手当てをしてもらってくれ。彼らも……」

 と、野盗の生き残りを指差す。

「同様に」

「本気ですか!?

 と、抗議の色を出して訊いてきたのはザイーダ。
 うむ、いつも通りの冷徹な反応だな。

「本気だよ」

 情報は乱世の生存戦略に最も必要なものだからね。
 聞きたいことはいっぱいあるんだ。
 口を割ってもらうにはこっちにいい印象を持ってもらわなきゃならないんだよ。
 心を開いてもらうのも大事なことだよ?
 拷問で口を割らせる手もあるけど後味悪いし、その後の使い道も考えられるからね、フフフフフ……。
 相手は頭目を失った野盗なんだし、根性なさそうな下っ端っぽいから、こっちの方が有効でしょう。

「何人助かりそうかな?」

 彼らに聞こえないようにオギンに耳打ちすると、

「一人でしょうね」

 との答えが。
 マジか…………ガブリエルが到着するまで()ちそうにない虫の息の男はともかく、ほかの二人も?

「痩せぎすの方は血が止まりません。バヤルのような男は肺に肋骨が刺さっているようなのでこちらも難しいでしょうね」

 ……そういうものなのか。
 こ、こりゃあますます戦術が重要になってくるぞ。
 治癒師……治癒師を見つけ出さなきゃ……。

「みんな!」

 と、事後処理にあたっている村人を呼び止める。
 みんな、初めての戦闘だったろう、勝ったのも初めてに違いない。
 表情には興奮冷めやらぬって色がありありと見える。

「ご苦労様。まだ後片付けもあってしばらく寝られないかも入れないけど、明日は僕の誕生日でもあるから戦勝祝いも兼ねて宴を催すよ!」

 それを訊いて、全員が拳を突き上げて喜びの声を上げる。

 !

「ああ、そうだ!」

 僕が声を張り上げると、再びみんなの注目が僕に集まる。

「勝鬨をあげよう」

「かちどき?」

 ジャリが、不思議そうにその単語を繰り返す。

「うん、勝ったことを喜ぶちょっとした儀式があるんだ」

 と、やり方を説明すると、みんな面白そうだと一度僕の前に集まってくる。
 事後処理に村人全員集められているようだ。

「行くよ」

 鉄剣を少し明るくなりかけている空に掲げる。

「えいっ、えいっ」

 僕の呼びかけにみんなが応える。

「オォッ!」

 うおおぉっ!!
 たかまるっ! たぎるっ!!
 これ、クセになるね。
 団結したーって気になるんだね、勝鬨すげえや。
 村人たちもおんなじ気分のようだ。
 前世じゃ、ダサいと思ってたんだけどなぁ……なにかな? シチュエーションの問題だったのかな?

「オギン」

「はい、お館様」

「サビー」

「なにか?」

「二人は僕と一緒に家に戻って寝るの命令ね」

「かしこまりました」

「イラードはここの指揮を任せる」

「かしこまりました」

「ガーブラとザイーダは正面門の見張りを頼むよ」

「了解!」

「サビーとオギンは昼前に見張りの交代をよろしく」

「なるほど、了解です」

 それにしたって、彼らにおんぶ抱っこだな。
 今回は小規模な野盗相手の戦闘程度だったし、この後しばらくは何も起きないだろうからいいけど、本格的に領主のズラカルト男爵と争おうと思ったら負担かけすぎて作戦が破綻しかねないぞ。
 と、館までの道々今後の戦略に頭を使っているつもりだったけど、やっぱり初めての対人戦闘で精神的にも肉体的にも消耗していたようで、全然思考がまとまらないうちに館までついたかと思ったら寝室にたどり着くと同時に倒れこむように眠りにつくことになった。

 戦闘前に歯を磨いててよかったぁ……。
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