第342話 出撃前の軍議

文字数 2,616文字

 ルダーによればあと一月足らずで収穫を始められるだろうと言うので、軍を招集した。
 サイオウ領からは一千人。
 オウチ領手前の砦に集合したのが軍の招集から十日ほど経った頃。
 今回はオグマリー区ヒロガリー区からは招集していないので集まるのは早かったが人数は少ない。
 この軍を率いてさらに南下し、最前線の砦に到着したのは明日明後日には収穫が始まるんじゃないかって頃だ。
 一般兵の兵数は少ないが、武将は多くを呼び出している。
 総大将は僕、ジャン・ロイ。
 サビー、イラード、ガーブラの三銃士は当然にいつもなら一隊は領地の警邏に残しているカシオペア隊、電撃隊、フィーバー隊を今回はフルメンバーで招集している。
 ギランの配下から今回もエギュー、ジャミルト、ドブルが従っているし、アゲール、アンデラス、ボニーデイル、メゴロマも揃っている。
 オッカメー領の治安維持に残っているオクサ、ラビティアは呼べなかったが、三剣の一剣ダイモンドとオクサの嫡男ペガス。
 魔法使いのラバナルとチャールズ。
 あとは今回輜重隊長ルダーにチローを護衛でつけた。
 これにオウチ領から八百人を徴発、合して兵数千八百の軍勢が砦に集まった。
 オウチ領から八百人しか集められなかったのは、アシックサル季爵が大軍を擁してヒョートコ男爵を攻め滅ぼしている間に空いていた領地を奪ったからだ。
 そう言う意味で精兵とは言い難く、またそのほとんどが歩兵である。
 それを考慮してサイオウ領から招集した兵一千は三百の騎兵と三百の魔法兵、四百の魔銃兵を選抜している。
 砦到着の翌日を一日休養日にあて、その日の午後に軍議を開く。

「よいか、今回の出兵は城や砦、町を陥す戦ではない」

「では、なんのための出兵ですか?」

「アシックサル一族を滅ぼすための戦だ。第一目標はアシックサル季爵」

 僕は、冬のうちに潜入させていた諜報員からもたらされたアシックサル軍の現在位置である旧領都近くの山城を指差す。

「ビート」

「は」

 トーハ配下、ニンプー隊のビートが短く返事をして、テーブルに広げられた地図に駒を配置しつつ説明をする。
 それによると、現在の兵力は二千三百。
 この数字にはヒョートコ軍は入っておらず、敗残兵からはすべての武器を取り上げているとのことだった。
 敵対勢力から武器を取り上げるのは当然の措置としても、占領地からの徴兵をしないと言うのはどんな意味があるのだろう?
 そんな疑問を感じていたら

「ヒョートコ男爵軍はどうなったんだ?」

 と、バンバが質問をしてくれる。
 グッジョブだ。

「それが……どうも鉱山で働かされているようです」

 ヒットコ領には国内でも有数の鉱山がある。
 というか、男爵領にしとくのはもったいないほどの鉱山が近年発見されていた。
 だいたい十五年くらい前の事だ。
 だからこそアシックサル季爵に目をつけられたのだな。
 それにしてもなるほど、鉱山の採掘か。
 戦力増強に武具の充実は欠かせない。
 これは僕にも重要な戦略拠点となりそうだ。

「ビート」

「はっ」

「オウチ領のグリフ族に繋ぎを取り付け、鉱山採掘に協力してもらうよう要請できないか?」

「その役、ワタシが代わりましょう」

 と、名乗り出たのはギランだった。
 すっかり僕の宿将の一人になっているな。
 ホルス車による都市間交通で財を成した商人としての貫禄もついてきているのに、いまだに戦争での功名にも貪欲だ。
 僕としても人材不足が解消できない現在、貴重な戦力として指折りしないわけにいかない人物である。
 グリフ族とのコネクションを結び、鉱山権益を確保して事業を拡げようと言う算段だろうな。
 冷遇しているつもりはないけど、あまり財を蓄えさせたくないと言うのが正直なところだ。
 またいつ野心に火がつかないとも限らない。
 しかし、商売人としての交渉力は魅力的でもある。
 政治的結びつきばかりではグリフ族のと軋轢が生れないとも限らないし……。

「よし、ビートと共に交渉に赴くことを許そう」

 お目付け役をそばに置いておけば何かあった後での対処も考えられるだろ。

「必ずや協力を取り付けてご覧にいれます」

「頼むぞ」

 互いに腹の底がどうなっているかと探りながらも主君と臣下の建前は崩さない。
 その後、地形の話、町の規模や占領軍への住民感情などさまざまな報告があり、質疑応答の末に戦術軍議に入る。

「此度の戦は短期間の一戦必勝で決めねばならない。皆、そのことをよくよく考慮してのぞむように」

 そういうと、一斉に承諾の返事が返ってくる。

「では、以上のことを踏まえて必勝の策があるものは腹案を披露せよ」

「さればまずそれがしが……」

 と、手を挙げたのはチローだった。
 チローは今回ルダーの補佐兼護衛として輜重隊警護に任じている。
 そんなチローが作戦立案の口火を切るのだから、他の武将は作戦に穴が空いていないか鵜の目鷹の目で盤上を睨んでいた。
 鵜も鷹も、この世界にはいないけどな。
 説明が終わったあとは、各武将から「ここはどうなっている」「ここに兵を配している意味は」などと辛口の質問が次々に出された。
 一人の頭で考えられることにはおのずと限界がある。
 気づかなかった穴やよりよい攻め手などが意見され、作戦は世の更ける頃には煮詰まった。

「お館様、いかがでござりましょう」

 最後に裁可を求めたのはダイモンドだった。

「いいだろう」

 僕の一言で、安堵の吐息が漏れる。

「陣容を申し渡す、先陣はダイモンドを主将としてサビー、ガーブラ、ラバナルをつけてサイオウ徴発の四十を加えた騎兵九十、槍兵三百、魔銃兵二百、魔法兵百。右翼の主将はイラード。エギュー、ジャミルトに電撃隊を付して騎兵五十、槍兵百、魔銃兵八十、魔法兵五十。左翼の主将はアゲール。アンデラス、ボニーデイルにフィーバー隊を付して同じく騎兵五十、槍兵百、魔銃兵八十、魔法兵五十。遊撃隊はカシオペア隊の騎兵五十騎。本陣はチャールズとトーハ。騎兵五十、魔銃兵四十、魔法兵百。後詰は槍兵百をもってペガスが勤めよ。なお、ルダーの輜重隊には騎兵五十、弓兵八十、槍兵八十を率いたチローを護衛につける。ルダーと私の見立てでは今年は全国的に不作の年だ。大事な作物を少しでも多く収穫するために短期決戦、収穫前に勝負をつける。兵には悪いが多少の犠牲も覚悟させよ。手柄には多大な恩賞を与えるゆえ、皆々忠勤に励めよ」

 満座が「応っ!」と力強く応えて軍議はお開きとなった。
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