第294話 処置
文字数 2,149文字
戦後処理に三日ほど費やしていると、オグマリー区の軍勢が到着した。
これで現在外征に動員できる最大戦力が集結したことになる。
「なんじゃ、もう終わってしまっているではないか」
とことさら残念そうに言ってきたのはラバナルだ。
「見たところこれほど動員するほどの戦さじゃなかったのじゃろう?」
「ああ、砦を守るだけなら五百も集めれば十分だったさ」
「と言うことは……」
「このままアシックサル領に攻め入ろうと思っている」
「よしよし。今回も色々試せるわけじゃな」
怖いわー。
翌日、司令塔の作戦室に主だった武将を集めて軍議を開く。
まずは今回の砦の防衛戦での被害報告からだ。
こう言うのはチローの得意分野だ。
「砦の守兵のうち戦死したのは十八名。戦線に復帰できない者十六名。増援からの死者は四名。同じく戦線復帰不能な者五名。復帰に後数日を要するものが二十三名。あとの怪我人はすべて復帰いたしました」
さすがは治癒魔法のある世界だ。
被害がことのほか少ない。
「投降兵四三五名、遺体は一〇二体、重傷による治療を施しているものが三十七名となっておりますので、逃げた者は推定二二〇名余りでしょうか」
「残敵掃討を命じられながら多くの兵を討ち漏らしてしまい申し訳ありません」
と、バンバが申し訳なさそうに首 を垂れたが、もとより全滅させられるとは思っていなかったからいい。
「よい。投降兵はどうする?」
「は。返すわけにもいきませんのでひとまずは砦で捕虜として留め置き、様子を見るのがよろしいかと」
「それでいい」
「遺体の処理も終わりましたのでアンデッドになることはないでしょう。これで心置きなく攻めに転じられますが、いかがいたしますか?」
「当然討って出る」
「待ってました!」
と、嬉しそうに大声を出したのはサビー。
いやいや、そんな嬉しいことじゃないと思うけどな。
「では」
と、発言を引き取ったイラードは集めた兵の内訳を披露する。
騎兵四〇〇騎
弓騎兵一〇〇騎
歩兵(槍兵)二八〇〇人
歩兵(弓兵)五〇〇人
銃兵一〇〇〇人
魔法部隊四五〇人
の、計五二五〇。
ついに軍勢五千を超えたわけで、これはもう立派な戦国武将よね。
辺境の小領主としては十分以上の戦力だ。
これを集まった歴戦の武将に割り振っていくと、一武将あたりでは数百人単位になってしまうのがちょっと寂しい。
そうそう、新兵種があるのが判るだろうか?
(相変わらず誰に聞いてるのかしら?)
(そ、そりゃあリリムに決まってんべ)
弓騎兵は文字通り弓を射る騎兵だ。
地球の歴史上弓騎兵の威力は凄まじくて、ローマ帝国や漢族王朝は馬術の得意な遊牧民族に手ひどくやられている。
モンゴル帝国の急速な版図拡大は弓騎兵によるものと言っても過言ではない。
世界的にはほとんどの弓騎兵が遊牧民族由来なのに、なぜかゴリゴリの農耕民族である日本に世界でも屈指の重装弓騎兵が存在したのは不思議だね。
それはさておき、僕は前世知識を拝借してこの高機動力を生かした一撃離脱戦法を有効活用すべく、一部の騎兵を弓専門の騎兵に訓練させた。
結果できたのがこの百騎の弓騎兵だ。
これは百騎一塊として運用することを前提としている。
そして、もう一つの新兵種銃兵。
小銃の性能向上はピープサイト式照準器と銃把による命中精度向上だけではない。
実は魔法陣の効率化によってわずかな魔力で使用が可能になった。
そのためこの魔道兵器を使用できる兵が飛躍的に増えたわけだ。
そのため、他の魔法を行使できる魔法使いと兵種を分けて専門の銃手を育成することにした。
銃の有用性は十分に立証されている。
まず、弓と違って技術 を必要としない。
魔力を流し込めば矢より早くより遠くへ弾丸を放つことができるのだ。
まぁ、弓と違って魔力感能力がないとそもそも使えないのだけど。
そんな小銃が改良を重ねられて照準器を覗き込んで目標を定めることでより高い精度で射撃できるのだから、これを有効活用しない手はない。
「トーハ。潜行させた忍者部隊からの報告は?」
「さあらば」
と、忍者部隊頭領トーハ・マウンターは絵図面を拡げる。
それはアシックサル領の大体の地図だ。
正確に測量されているわけではないのでおおまかな町や自然の位置関係が描かれていて、およその距離が文字で書かれている。
そこにトーハが主だった武将の名前と所在、各町の兵力などを示していく。
「領土的には我が領の一・五倍、人口で一・八倍弱」
「それはアシックサル領単体での比較であろう? ヒョートコ男爵領やオッカメー季爵領の占領地を加えれば三倍にはなっておろう」
そんなになるのか。
「町を一つ一つ陥すとなると容易ではないな」
そんなことはしないよ。
「とはいえ、まずは敵の砦を落とさないことには侵攻もままなりませんぞ」
その通りだ。
こちら側に相手からの侵略を防ぐ砦があるということは、相手側にも同様の砦があるということは必然。
まずはその砦を陥し、橋頭堡を築かなくてはいけない。
「じゃあ、とっととその砦、陥してしまいましょうや」
サビーがめんどくさいお使いをとっととすませましょうくらいのテンションで言う。
「そうするか」
僕も同様のテンションでそれに答える。
五千の軍勢ならまぁ、一捻りできるっしょ。
これで現在外征に動員できる最大戦力が集結したことになる。
「なんじゃ、もう終わってしまっているではないか」
とことさら残念そうに言ってきたのはラバナルだ。
「見たところこれほど動員するほどの戦さじゃなかったのじゃろう?」
「ああ、砦を守るだけなら五百も集めれば十分だったさ」
「と言うことは……」
「このままアシックサル領に攻め入ろうと思っている」
「よしよし。今回も色々試せるわけじゃな」
怖いわー。
翌日、司令塔の作戦室に主だった武将を集めて軍議を開く。
まずは今回の砦の防衛戦での被害報告からだ。
こう言うのはチローの得意分野だ。
「砦の守兵のうち戦死したのは十八名。戦線に復帰できない者十六名。増援からの死者は四名。同じく戦線復帰不能な者五名。復帰に後数日を要するものが二十三名。あとの怪我人はすべて復帰いたしました」
さすがは治癒魔法のある世界だ。
被害がことのほか少ない。
「投降兵四三五名、遺体は一〇二体、重傷による治療を施しているものが三十七名となっておりますので、逃げた者は推定二二〇名余りでしょうか」
「残敵掃討を命じられながら多くの兵を討ち漏らしてしまい申し訳ありません」
と、バンバが申し訳なさそうに
「よい。投降兵はどうする?」
「は。返すわけにもいきませんのでひとまずは砦で捕虜として留め置き、様子を見るのがよろしいかと」
「それでいい」
「遺体の処理も終わりましたのでアンデッドになることはないでしょう。これで心置きなく攻めに転じられますが、いかがいたしますか?」
「当然討って出る」
「待ってました!」
と、嬉しそうに大声を出したのはサビー。
いやいや、そんな嬉しいことじゃないと思うけどな。
「では」
と、発言を引き取ったイラードは集めた兵の内訳を披露する。
騎兵四〇〇騎
弓騎兵一〇〇騎
歩兵(槍兵)二八〇〇人
歩兵(弓兵)五〇〇人
銃兵一〇〇〇人
魔法部隊四五〇人
の、計五二五〇。
ついに軍勢五千を超えたわけで、これはもう立派な戦国武将よね。
辺境の小領主としては十分以上の戦力だ。
これを集まった歴戦の武将に割り振っていくと、一武将あたりでは数百人単位になってしまうのがちょっと寂しい。
そうそう、新兵種があるのが判るだろうか?
(相変わらず誰に聞いてるのかしら?)
(そ、そりゃあリリムに決まってんべ)
弓騎兵は文字通り弓を射る騎兵だ。
地球の歴史上弓騎兵の威力は凄まじくて、ローマ帝国や漢族王朝は馬術の得意な遊牧民族に手ひどくやられている。
モンゴル帝国の急速な版図拡大は弓騎兵によるものと言っても過言ではない。
世界的にはほとんどの弓騎兵が遊牧民族由来なのに、なぜかゴリゴリの農耕民族である日本に世界でも屈指の重装弓騎兵が存在したのは不思議だね。
それはさておき、僕は前世知識を拝借してこの高機動力を生かした一撃離脱戦法を有効活用すべく、一部の騎兵を弓専門の騎兵に訓練させた。
結果できたのがこの百騎の弓騎兵だ。
これは百騎一塊として運用することを前提としている。
そして、もう一つの新兵種銃兵。
小銃の性能向上はピープサイト式照準器と銃把による命中精度向上だけではない。
実は魔法陣の効率化によってわずかな魔力で使用が可能になった。
そのためこの魔道兵器を使用できる兵が飛躍的に増えたわけだ。
そのため、他の魔法を行使できる魔法使いと兵種を分けて専門の銃手を育成することにした。
銃の有用性は十分に立証されている。
まず、弓と違って
魔力を流し込めば矢より早くより遠くへ弾丸を放つことができるのだ。
まぁ、弓と違って魔力感能力がないとそもそも使えないのだけど。
そんな小銃が改良を重ねられて照準器を覗き込んで目標を定めることでより高い精度で射撃できるのだから、これを有効活用しない手はない。
「トーハ。潜行させた忍者部隊からの報告は?」
「さあらば」
と、忍者部隊頭領トーハ・マウンターは絵図面を拡げる。
それはアシックサル領の大体の地図だ。
正確に測量されているわけではないのでおおまかな町や自然の位置関係が描かれていて、およその距離が文字で書かれている。
そこにトーハが主だった武将の名前と所在、各町の兵力などを示していく。
「領土的には我が領の一・五倍、人口で一・八倍弱」
「それはアシックサル領単体での比較であろう? ヒョートコ男爵領やオッカメー季爵領の占領地を加えれば三倍にはなっておろう」
そんなになるのか。
「町を一つ一つ陥すとなると容易ではないな」
そんなことはしないよ。
「とはいえ、まずは敵の砦を落とさないことには侵攻もままなりませんぞ」
その通りだ。
こちら側に相手からの侵略を防ぐ砦があるということは、相手側にも同様の砦があるということは必然。
まずはその砦を陥し、橋頭堡を築かなくてはいけない。
「じゃあ、とっととその砦、陥してしまいましょうや」
サビーがめんどくさいお使いをとっととすませましょうくらいのテンションで言う。
「そうするか」
僕も同様のテンションでそれに答える。
五千の軍勢ならまぁ、一捻りできるっしょ。