第81話 布陣

文字数 2,046文字

「じゃあ、明日か明後日にはここに来るってことでいいのか?」

 僕ん家の囲炉裏の間で行われている軍議。
 参加しているのはジョー、カイジョー、イラード、ペギーそしてザイーダ。

「いえ、隣村からこの町までの道は行軍には不向きですので、先行して人夫が道の拡幅作業をしています」

 あら、ありがたい。

「それってどれくらいの時間がかかりそうなんだ?」

 結構かかりそうだぞ?
 つーか、無駄な労力だと思うね、本当にありがたいけどさ。
 「兵は神速を(たっと)ぶ」は()(しょ)(かく)()(でん)だったかな?
 まぁ、地球でもヨーロッパとアジアでは戦争の仕方が違ったわけで、今回の一戦でこの国の戦争実態が初めて知れることになるわけだ。
 おおよそは文献で想像がつく。
 国王を頂点とする封建国家、爵位の制度があって国王に対する直臣貴族の領主がおり、その下に陪臣、下級貴族である騎士が存在する。
 軍は騎士と傭兵で構成されていて、少なくとも現時点では徴兵制はない。
 騎兵、つまりホルスに乗れるのは騎士以上。
 ま、だから騎士なんだけど。
 傭兵は自分の得意武器によって剣兵、槍兵、弓兵に分けられる。
 ってところが、僕の現世知識だ。

「拡幅といっても大木を伐採するわけではありませんから、四、五日後には姿を現すでしょう」

 どんなことをしてんだろ?

「軍勢規模は?」

 侍大将カイジョーとしてはやっぱりその辺気になるか。
 当然、僕も気になる。

「騎兵十五騎、弓兵二十、それに剣兵が三十六人です」

 七十人規模。
 結構な人数だ。
 想定より多いのは前回あまりにも華麗に追い返しすぎたせいか?

「歩兵のうち騎士の配下、正規兵は何人だ?」

「そこまでは……」

「カイジョー、正規兵と傭兵だと違いがあるのか?」

「ええ、傭兵は不利と見るや逃げ出します。命あっての物種ってやつですよ」

 なるほど。

「非戦闘員は?」

 次の質問はジョーからだった。

「土木作業の人夫が二十名、荷運び人夫は村々で都度徴発しているようです」

 それは厄介だな。
 隣村とは密約を交わしている。
 一種の盾、人質として考えないと。

「では、こちらの戦略を確認しよう……」

 僕らはその日一日夜の更けるまで軍議を続け、ペギーにラバナルに報告してもらう。
 翌日は町人を中央広場に集めて演説だ。
 みんなある程度覚悟ができている。
 彼らは指示に従って粛々と戦時体制に入った。
 斥候に放っていたオギンが明日の昼には来るでしょうと報告に戻ってきたところで出陣だ。
 今回は町人にも戦闘に参加してもらうことになる。
 こっちはとにかく総力戦だ。
 総大将はもちろん僕。
 僕はサビーとガーブラと一緒にホルスに騎乗、ペギーと一緒に本陣としてカイジョーの後ろに布陣だ。
 カイジョーにはペギーを除くカシオペアの四人の他に剣士として二十人、ギランにも剣兵隊として反お館派の十六人をつけた。
 ちなみにギランの軍は先鋒にした。
 ギラン隊の前には飛び道具の二隊。
イラードには七名の男をつけて弓隊に、ザイーダには投石隊として女たちを二十人任せている。
 どの隊も今日は畑の外れで野営だ。
 ジョーのキャラバン隊は遊軍として雑木林の中に伏せてもらっている。
 予備役、雑用係として主に女子供と老人が門の中で待機している。
 その数ざっと五十人。
 震えてきた。
 夜のうちに改めてオギンを斥候に放つ。
 そのオギンが戻ってきたのが朝靄(あさもや)けむる早朝だ。

「あと三時間ほどで接敵します」

「判った。サビーはイラードとザイーダ隊に、ガーブラはカイジョーとギランに伝令」

「はっ!」

 二人は短く返答するとホルスを蹴って駆けていく。

「ペギーはラバナルに知らせろ」

「すぐに」

「疲れているところすまないがオギンは雑木林の中にいるジョーに伝えてくれ」

「はい」

 あ、僕の周りに誰もいなくなった。
 思ったより心細いな。
 そんなことを思っているところに

「ペギーが来たんでな。陣中見舞いだ」

 と、焼きたての無発酵パン(ロチャティム)を持ってルダーとクレタがやってくる。
 気がきくな。
 ちなみにルダーには町の差配を担当してもらっている。

「いよいよか」

「ああ、いよいよだ」

「勝てるか?」

「勝つよ」

「そう願いたい」

 それだけ言って帰っていった。
 ほどなくしてペギーたちが戻ってくる。

「オギンには二時間の休息を命じる」

「お館様?」

「戦が始まったらこき使うからそのつもりでいろ。途中で使い物にならなくなったら承知しないからな」

「……承知しました」

 有能だからって、便利に使いすぎよね。

「ペギーはイラードのところまで行って接敵を確認。開戦後、速やかにカイジョーの隊に合流せよ」

「はい」

 女二人がいなくなって、残ったのは騎乗の三人だけになった。
 ちょっと虚しい。
 僕の周りにはわりと常に女性がいたからね。
 それが顔に出たのか、ガーブラがちょっとゲスい顔でこう言ってきた。

「お館様もそろそろ嫁取りが必要みたいですな」

「あん?」

「オレも勧めますよ。色々な意味で」

 なんだよ、色々な意味って?

「……この一戦に勝ったら考えるよ」

 とりあえずそう言っておこう。
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