第273話 魔道具も日々改良されている

文字数 2,268文字

 一夜明けて旅支度を済ませ、宿を引き払って新庁舎街に出向く。
 朝もかなり早い時間だったんだけど、イディもユルマーも庁舎の前で待ち構えていた。

「お館様、我々が不甲斐ないばかりにお手数をおかけいたしましたこと、深くお詫び申し上げます」

「ここは少し事情が特殊だった」

 あまりにもひどい衛生環境に彼らの身を置くことに抵抗があったため城壁外に庁舎を作らせたことがそもそもの原因とも言える。
 それが結果として二重行政となりひいては旧勢力の権力温存につながってしまったのだ。

「これから挽回すればよい。期待しているぞ」

「ありがたきお言葉、我ら身を粉にしてもオグマリー区同等の町として発展させましょう」

「頼んだぞ」

「お館様」

「ライトルーパか」

「はい。ご所望のホルス四頭、引き出してございます」

 と振り返る先には、見事な駿馬……じゃなくて駿ホルス? が馬丁に曳かれてきていた。

「貴重なホルスであろうに、すまんな」

「いえ。して、ホルスなどでどちらに向かわれるので?」

「ドゥナガール仲爵領だ」

 我が領の南東に位置するドゥナガール領主ドゥナガール仲爵は、同じく南西に拡がるアシックサル季爵領と領境を接する同盟相手である。
 先日ケイロから届いた飛行手紙、超要約すれば「外交上の一大事なので領主本人が弁明のためにちょっぱやで来いや」って内容だったんだ。

(「ちょっぱや」って)

 と、リリムが笑ってる。

(おじさんがギャル語使ってるからってなにが悪いんだよ)

(いや、古いから。死語でしょ、死語、それ。あー、でも古いからおじさんが使うのか)

 なんかムカつく。
 僕は、村長のべハッチがこれ以上村を離れているのはさすがに問題だと考え、スケさんカクさんとヤッチシだけを連れてまずは一路ズラカリー区は旧州都、ズラッカリーを目指す。
 イデュルマから次の町へは徒歩で三日、ホルス車でも途中で一泊必要だ。
 街道整備は進んでいるとはいえ、一気に拡がった領土に対して労働人口は決して多くないのでまだまだ万全とはいえず、この二都市間は宿場の着工が未計画のため野宿を強いられる。
 そのため足の速いホルスに騎乗し、一気に次の町まで駆け抜けて行こうということにしたのだ。
 町で一泊したあとはホルスを乗り換えて次の町へ。
 ここはホルスを駆っても道中一度は野宿をしなければいけない距離なので安全を考えて町長には箱ホルス車を用意してもらい、野宿での万全を期して改良型結界の寝袋(スリーピングバッグオブザバリア)を借り受ける。
 この寝袋は入ることを発動条件に攻撃意思、敵意を持った相手が七十五シャル以内に入ると知らせてくれるという便利魔道具で、三泊分の魔力がチャージされている。
 ホルス車なら道程二泊三日で次の町へ辿り着けるはず、とたかをくくっていると得てしてひどい目に遭うもので、ヒロガリー区とズラカリー区の区境に差し掛かったところで雨が降り出し思うように距離を稼げずかなり早いうちに野宿をする羽目になった。

「この辺りは(きょう)(あい)な地形で拡幅もままならないため道幅も狭く、山賊が出ると言われておりますので、お気をつけください」

 と、カクさんが言う。
 僕がズラカルト領を掌握しカシオペア隊や電撃隊などを動員して治安維持に乗り出したことで、無頼の徒はずいぶんと取り締まり街道筋もだいぶ安全になったと思っていたんだけど……山賊か。
 僕の前世の記憶は盗賊団に村を襲われた時に思い出したものだ。
 あの時はなにもできなくて、ただただ木の上で震えていた十五の夜ぅ♪

(なによ、それ)

(いやなに、前世の記憶がフッと)

 冷たい眼差しでため息つくのはやめなさい。

(実際には十五歳の誕生日の前日だったくせに)

(……そうでした)

 それはともかく

「気をつけろったって、どう気をつければいいんだ?」

 と、訊ねるとスケさんがカラカラと笑いながら、焚き火で炙っていた干し肉を掴んでこう言った。

「お館様の言うとおりだ。なに、お忍び旅で軽装だった先日までと違い、武具も防具も身につけている。多少の山賊など我等で蹴散らしてくれようぞ」

「うむ、しかし、慣れない武器では本来の力を発揮できない可能性も……」

「カクさんは心配性だなぁ。禿げるぞ」

「カクさん、いざとなったら町で分けてもらったこいつがありやすよ」

 と、ヤッチシが懐から取り出したのはチャージ型手榴弾(グレネード)
 魔力がなくても使用できるように改良されたチカマックご自慢の最新型手榴弾は、結界の寝袋同様に魔力がチャージされていて安全ピンを抜くと五拍ののちに爆発するように作られている前世の手榴弾を魔法で再現したものだ。
 チカマックは「威力が弱いのが難点だ」とさらなる改良に意欲を燃やしていたけれど、単発銃(ピストル)同様緊急時の護身用としては十分な威力がある。
 単発銃といえば、残念ながら今回の旅がお忍び旅だったこともあってカクさんたち同様愛用の武器などは持ってこられなかったんだよな。

「さて、明日も早い。とっとと寝ようか」

「そうしましょう」

「結界の寝袋は主人のキャラバンで何度か使ったことがありますが、夜営の見張りに起きていなくてもよくなるのがありがたいですよね」

「最近の領内はずいぶんと治安がよくなりましたし、宿場の整備で夜営機会もぐんと減りました。たまの夜警ってのはキツいんですよね」

「カクさんの言うとおりだ。お館様様です」

「おだててもなにも出ませんよ? スケさん」

 僕ら四人は焚き火を消して箱車に乗り込み僕が寝袋、三人は厚手の毛布にくるまって寝ることにした。
 どれくらい眠っていただろう?
 僕らは寝袋のけたたましい警告音で飛び起きることになった。
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