第245話 いざ、ズラカルト領統一へ

文字数 2,592文字

 日が昇るとすぐ、当番の兵士がいつものように起こしにくる。
 昨日は深夜まで起きてたから少し……いや、かなり眠い。
 朝食をすませると、昨日と同じ面子を揃えて町に出かける。
 町では、トーハが弟子を揃えて中央広場で待っていた。
 その数十二人。
 昨日名前が上がっていたナナミ、シーナの他にセーカイ、サイゾー、サスケ、ジライヤー、クレイン、ハイスプリング、ピーチカ、クラウド、ナギー、フーカー、それに僕らが連れてきたビートを含めて十三人。
 トーハ曰くこれにイッコー、イッシューという兄弟がいるそうだが、彼らはトーハの元を離れた者たちなので仮に連絡がついても配下になってくれるかどうか判らないとのことだった。
 しかし……聞き覚えのある名前が多いなぁ。
 誰が名付けたんだ? まったくもう。

「トビー、どうだ?」

 忍者部隊の目利きなら僕よりトビーの方が絶対上だろうから、全面的に任せる。
 ここにオギンがいればなおよかったんだけど。

「実際に動きなど見てみないことには判断つきかねますが、肉付きや佇まいを見るにオギン配下の者たちと比べても潜在力は上位の方かと」

 それは良かった。

「ただ、今のままでは長生きはできないと思われます」

「なに!」

 と、息巻くビート。
 たぶんそういうところだと思うよ、ビート。

「では、わたしが修行をつけましょう」

 そう言って現れたのはキキョウだった。
 彼女に気づいていたのはトーハだけだったようで、弟子たちは一様に驚いている。
 キキョウはオギン直下でヒロガリー区の忍者部隊の指揮を任されている指折りの忍者だからな。
 たぶん、オギン、トビー、キャラに次ぐ四番手をコチョウと争う実力者だ。
 任せることに不安はないのだけれど

「配下の忍者部隊はどうする?」

オギン(お頭)に預けます」

 ならいいか。

「ところで修行はどこでつけるつもりだ?」

「ホタルのいるゼニナル町が最適かと」

 なるほど、あそこには今も忍者の卵(忍たま)が修行に励んでいる。
 訓練設備も整っているだろうし、競争意識で修行もはかどるに違いない。

「許可しよう」

「ありがとうございます」

 あとは、昨日選んでおいた駐留文武官に任せればいいだろう。
 僕は町を後にし、陣を畳んで進発を開始した。
 目指すはヒロガリー区とズラカリー区の区境で全軍の合流地点。
 ここで輜重隊を含めた全軍が揃うのを待ってズラカリー区に侵攻する。
 ヒロガリー区で占領した町に残した駐留部隊を差し引いても、ハングリー区からきたオクサ隊の合流で軍勢は千五百に近い。
 ズラカルト軍はズラカリー区の動員可能兵力約四千。
 ここから領境の三箇所の砦に各五百の兵を詰めているそうだから、僕の軍に対する兵力は二千五百くらい。
 そこにヒロガリー区の戦闘で逃げ散った兵をトゥウィンテルたちがどれだけまとめて集められたかによるのだけど、まぁ数百は上積みされるだろう。
 僕の読みでは二百から三百なんだけど、それを足すと最大で二千八百か。
 むむむ。
 倍近いじゃないか。
 もっとも、今回の戦は総兵力でぶつかり合う真似はしないからいいけど。

「オギン、トビー」

「ここに」

「忍者部隊を先行させて町の守備兵力とトゥウィンテルたちがどこでどう兵をまとめているかを探らせろ」

「すでに従軍していた忍者はすべて放っております。予定通りにズラカリー区に侵攻するならば侵攻した日の夜に情報が集まる手筈になっております」

 有能!

 僕らが陣を張った翌日にラビティアたちが合流し、さらに二日経って輜重隊が着陣した。
 そこからまた二日かけて軍を再編し、兵糧を積み直す。
 兵糧は安全のために最前線から距離を置いて管理し、蒸気機関アシストホルス車で二、三日に一度の間隔で必要量をピストン輸送していたんだけど、荷も空いてきたことだし、軍も一つにまとめたことから本隊に従軍させることにした。
 ま、最大の理由は途中の町を無視して一気にズラカルトの本拠地を襲って雌雄を決しようという戦略によるもの。
 本隊と離していると襲撃される懸念があるからね。
 兵糧も余裕はないし。
 僕らは準備が整った六日目、満を持してズラカリー領へ進軍を開始した。
 順調に行軍できれば行程八日の予定だ。
 一日目は何事もなく進軍。
 オギンの公言通り、その夜に先行していた忍者たちによる第一報の報告が全武将を集めた軍議の席で行われた。
 それによると各町には形ばかりの守備兵が配されて門が固く閉ざされたことが判った。

「それと、我々が直接確認しているものではないのですが」

 と、前置きされて三か所ある砦のうち東の砦がドゥナガール軍に攻撃されていると報告された。

「現在、念の為東の砦他三か所すべてに確認の忍者を走らせております」

 うん、示し合わせたわけじゃないけど、たぶん僕のこの冬の侵攻は確定的と思われていたようだ。
 この機に乗じて領土拡張を企んでもむしろ当然だろう。
 同盟関係にあるとはいえ、ズラカルト領への不可侵を約束してもらったわけじゃない。
 とはいえ、来年以降の領地運営にとっては目の上のこぶだ。
 一つでも砦を奪われるようなことがあれば、ズラカルト領平定後の戦略に支障が出るだけでなく、いつ同盟を破棄され侵攻されないとも限らない。
 まあ、相手も同じように考えているからこそ先手を打って頭を抑えようとしているに違いない。
 砦の攻防は当たり前だけれど、守備側が有利だ。
 俗に攻撃三倍の法則なんて言われているけど、単純に守備兵に対して三倍の軍を用意したとすれば、千五百の軍勢だ。
 ドゥナガール領は確かズラカルト領以外に四つの貴族領と接しているはずだ。
 にもかかわらずどんと千五百もの兵を送り出せるのか。
 いかにズラカルト領が奥地の弱小領地なのかが判るな。
 それは考えても今さらどうもしようがないのだけれど。

「アシックサル季爵はどう出るだろうな」

 軍議の席だ。
 ()(たん)なくそれぞれの意見を聴こうと訊ねると、おおよそまず間違いなく動くだろうと言う意見が大勢だった。
 だろうな。
 季爵はどこを攻めてくるのか?
 再びハングリー区の砦を攻めるのか、ズラカリー区の西の砦か中央の砦、はたまたドゥナガール仲爵領へ攻めいるか。
 今の所オクサからの報告はないが、砦からの飛行手紙となれば届くまでに数日はかかるだろうから、もう責められているかもしれない。
 あー、くそ!
 無線機か、インターネットが欲しいぜ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み