第167話 暗躍者の存在

文字数 2,285文字

 情報は武器だ。
 ヤッチシやキャラたちに探らせた情報を黒板に書き出していく。
 暴徒が三つくらいのグループで活動していることを確認した。

「それぞれが独立した集団なのか?」

「あっしの調べたところ、二つの集団は協力して動いているようですが、もう一つの集団は完全に別組織ですね」

「協力している奴らはなぜ合流しない?」

「協力関係にはあるようですが、別々に立ち上がった組織のようです」

「考え方が違って別行動をするようになったわけではないのか」

「へい」

「あたいが探った限りじゃ、商人に不満を持っていた集団と、お館様に反抗する勢力と町のならず者が便乗して暴れているのが集団に見えているもののようです」

 ほぅ、さすがはしばらくゼニナル町に腰を落ち着けているホタルだ。
 ってか、反お館派?
 まだ勢力持ってたの?

「私に反抗する勢力というのは、ギランのところか?」

「いえ、そこまで詳しくは……」

「ならば深く探り出してくれ」

「それはあっしがやりましょう」

 しかし、なるほど暴動が収まらないのは反抗勢力とならず者のせいか。
 反お館派が、僕が扇動した市民を隠れ蓑に市中に混乱を起こして勢力を拡大しようと画策し、ならず者が便乗して暴れているのね。

「ならず者は武力鎮圧でよろしいですな?」

 オクサが僕を見る。
 いいけど、そこが一番取り締まりが難しい集団だと思うな。
 今はなんとなく集団を作って暴れているけど、これに武力を投入すると集団が散らばってしまうだけで壊滅は難しい。
 むしろ、散った奴らが他のグループに混じってそれぞれが今以上に過激化したら混乱が長期化しかねない。

「いや、武力鎮圧することで存在が見えなくなるのは治安の面から考えて得策じゃあない。ならず者は監視できる方が管理が容易だろう? まずは騒動の発端であり、一番穏健な集団の代表を説得し、解散させよう。そうすれば他の集団は大義名分を失う」

「できますかな?」

「彼らの不満の矛先は商人だ。私に反抗することが将来の不利益になることを説けば矛を納めよう。オクサの裁量で見返りを与えてもよい」

「素直に話し合いに応じるようなら見返りを、難色を示す程度なら今回の罪を不問に、話し合おうとしないのなら厳罰を持って臨むとしましょう」

「反お館派はヤッチシの報告を待って対処しよう」

「なぜですか?」

「ギランを首魁とする反お館派との関係を調べてから対処にあたりたい」

「なるほど、政治の話ですか」

「彼らが暗躍しているのなら、矢面に立たない方がよさそうだ。会議が終わり次第、館に戻るよ」

「判りました。必ずやこの騒動、冬の間に収めて見せましょう」

「期待しているよ」

 ということで、僕はキャラとガーブラを伴って帰路に着く。

「お館様?」

「ん?」

「道中浮かない顔をしておりますが、いかがなされましたか?」

 うーむ、心配されてしまうほど考え込んじゃったか。
 取り越し苦労ならいいんだけど今回の暴動、策謀の臭いがするんだよね。
 確かに三つの勢力が元々潜在していた存在なのは間違いない。
 最初の暴動は僕が煽ったものだし、他のグループが便乗したってのもあり得ることだ。
 けど、町の守兵が治安維持に動き出した後も暴動が鎮まるどころか激しくなったことが解せない。
 特に最初のグループが反お館派と手を組んでまで暴れ続けるというのが理解できないんだ。

「キャラ、他領の(かん)(ちょう)が入り込んでいるのは間違いないのだな?」

「はい、何人かは居所も把握しております。……今回の件になにか関係が?」

「うん、憶測の域は出ないけど、何者かが煽り続けたのが原因じゃあないかと思うんだ」

「なるほど、あたしらが暴動を鎮めようと働きかけても一向に収まらないどころかより過激化したのもそれが理由なら説明がつきますね」

「難しいお話中で悪いんですが……」

 ガーブラがあまり申し訳なさそうに感じない雰囲気で割り込んできた。
 すでに戦闘体制に入っている。
 キャラの気配も戦闘モードになった。
 なに? なにか感じてるの?
 なんにも感じないんですけど?
 とか思っていたら、はい、僕にもようやく感じられましたよ、殺気が。
 まじか。
 複数人だな。
 そこまでは僕にも判ったぞ。

「大勢か?」

「七、八ってところです」

 ガーブラ、そこまで判んの!?
 すごすぎない?

「街道を塞いでいるのが三人、左右の林に二人ずつ潜んでいますね」

 キャラもかよ!?
 あ、いやでも僕にもどことどこにいるかくらいは判別できるな。
 もっと集中すれば人数も把握できるのか?
 気配を探ることに集中しすぎで襲われた時に対処できないのも困るし、今は二人の索敵能力を頼ろう。
 そうか、戦場でやたら視野の広いやつって、こんな風に視力以外の感覚を使って把握してるのか。
 気配感知はここを切り抜けた後で修行するべきだな。
 ガーブラはホルスの足を緩めて背負っていた槍を小脇に抱える。
 日本だと武将の槍は普段は槍持ちという家来が持つものなんだけど、この世界はどうなんだろう?
 ガーブラは家臣持ちの身分じゃないから街中では手持ち、街道を騎乗するときは背負ってる。
 やがて視界に武装した三人組が抜刀下げて仁王立ちしているのが見えてきた。
 ガーブラが(はく)(しゃ)をかけて前に進み出ると、(だい)(おん)(じょう)誰何(すいか)する。

道行(みちゆき)を塞ぐは何者ぞ」

「反逆者に名乗る名などない!」

 おっと?
 反逆者ときたか。

「こちらにおわすは領主のジャン・ロイ様だ。反逆者とはお前達の方だろう!」

「我らが領主はズラカルト男爵様である! 貴様のような奴を領主だなどと思ったことはないわ!」

 あー、こいつらだな、ゼニナルで暴徒を扇動していた反お館派って。
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