第54話 短期都市計画2 村人総動員令発令

文字数 2,427文字

 とにかく施設の必要性は村の規模拡大にあたって必要なものであるということで、村人を説き伏せていく。
 ただの農村にいらないってのは確かだ。
 だけど、百二十人規模の街にしようとなったときにどうしても必要になってくる。
 必要だと判っていて準備しないなんて都市計画として最低だからなんとしても必要になる前に完成させておきたい。
 前世のことわざで「泥棒を捕らえて縄をなう(略して「泥縄」)」というのがある。

 「物事に出会ってから慌てて準備をすること(大辞林)」

 平時ならともかく有事に際してそんなんじゃ世の中渡っていけない。
 サラリーマン時代、よくそんな状況に追い込まれてた。
 大抵は先輩や僕らの指摘を上司が無視して、危機が現実になってから理不尽に上司に対策を迫られた。
 居酒屋で先輩たちと愚痴ったもんだ。

「最初から判ってたべや、な?」

 ってな具合だ。
 不承不承なところもあったかもしれないけど、この件に関しては村長の権威で押し通し、計画を実行に移すことにした。
 あんまり強権的に物事を進めると後々しっぺ返しが怖いんだけど仕方ない。
 翌日から村は動き出した。
 まず、今年も北の森から木材を切り出す。
 ついでに北側を開墾して農地にする計画だ。
 去年から随分木を切り出しているので割と(ひら)けた感じになっているけど、その時の切り株が残ってる。
 ルダー曰く「根を抜くと地盤が緩む」っていうんでそのままにしていたんだけど、これを抜いてしまわないと畑にならない。
 この作業は伐根というらしい。
 なかなかに重労働だ。
 抜いた根は炭焼きに回す。
 こっちの作業は男手の大半を割いて行われた。
 女手は雑木林での収穫に当てる。
 今年もピサーメ、マルルン、ダリプと豊作だ。
 ただ、この二年手入れが行き届かなかったんで味が落ちている。
 雑木林が荒れたことで野生動物も近づかなくなって土枯れしたせいもあるだろう。
 雑木林の管理ってものなかなかどうして大変だ。
 もっとも収穫を減らしたのはキノコ類だ。
 収穫量で去年の六割に届かないという報告が来ている。
 冬の大事な食料なのにやばいな。
 西の森にはキノコが多いんだけど、西は断崖になっていて迂回しなければ登れないのとスクリトゥリがいる。
 戦闘演習以外ではあまり入りたくない森だよな。
 サビー、イラード、ガーブラには北の森で狩猟を。
 ザイーダには雑木林で肉食獣に襲われないように護衛を頼んである。
 村の留守番にはチャールズと子供達、それから身重のヘレンを残してある。
 クレタは収穫班についていきたいと言っていたけど、居残りで子供達に読み書きを教える役を押し付けた。
 村が襲われる心配は今の所ほとんどないからできることだ。
 ひと月(二十五日)ほど経った頃、ジョーのキャラバンが戻ってきた。
 その中に消沈したドブルがいる。
 他にふた家族計八人を連れてきていた。

「お帰りなさい」

 声をかけたジョーは挨拶もなしににやけた顔でこういった。

「話は

に聞いたぞ。野盗を殲滅したんだって?」

 そこにオギンはいなかったけど、複数形にしたってことは話を聞いた時点ではオギンもいたってことだ。

「一人生き残りましたけどね」

「それも聞いてる。街の宿で逃げられたそうだ」

 予定通りなんだけど、ポーズとして表情は作っとかなきゃな。

「え? そうなのか?」

 ちょっとわざとらしかったかな? と反省しながらドブルに訊ねると、大きな体を目一杯たたむように小さくなってうなだれた。

「で? オギンは?」

 と、これも僕の指示で戻ってきていないのを知っていながら訊ねると、

「逃げられてすぐキャラバンと出会いまして、オレだけ報告のためにキャラバンに同行しました。オギンは後を追うといって別れました」

「そうか……」

 実際には後を追ったんじゃなくて(もちろん後を追うという(てい)にしたのは僕の指示)僕の欲しい情報の収集と僕が広めたい情報の拡散のために行動しているんだけどさ。

「で、いつ戻るとか言っていたかい?」

「はぁ、特には」

 手を抜きやがって……。
 そこも指示を出していて、雪解けを待って戻っておいでと言ってある。
 この村は辺境にあって冬の間は雪に閉ざされる。
 村を守るという点ではありがたいことでもあるんだけど、情報も遮断されてしまうという不利益がある。
 雪が解けたら突然目の前に軍隊が!
 なんてなったら目も当てられない。
 まぁ、そんな確率は千に一つもないだろうけど。
 そこで、冬の間オギンに外界の目になってもらおうと考えたわけだ。
 さて、ドブルには悪いけどこうなることは判ってた。
 いや、こうなることがそもそもの計画だったわけだから、ドブルの処分は穏便どころか論功行賞ものなんだけど……。
 僕は改めてドブルに事の経緯を話してもらい(やっぱりドブルの隙をついて逃げ出したようだ)処罰を決めることになった。

「ドブル」

「はい」

「確かに君はヘマをやらかした。しかし人間誰しも間違いはある。そもそも村の人材不足とはいえ素人の君に護送を任せた僕にも責任の一端があるわけで、仕方がない部分もある。そうは言っても失敗になんの罰則もなしでは他のみんなに示しがつかない。そこで君には春まで僕の稽古相手になってもらう」

「稽古相手?」

「そうだ。剣の稽古の相手をしてもらう。ただし、受けるだけ。つまり一切攻撃しないこと」

「それでいいのですか?」

「いいよ」

「ありがとうございます」

 何度も頭を下げるドブルを解放し、自分の家に戻る後ろ姿を眺めていると、ジョーがにやけた顔で寄ってくる。

「なにを考えている?」

「いろいろ」

「食えねぇやつだ」

「お互い様でしょ?」

「まあな。……やっぱ気になるぞ。なぜ罰がお前の剣戟の稽古相手なんだ?」

「僕の練習……ってのがもちろん大前提なんですけど、武器や防具のテストをしようと…………」

 鼻の頭を掻きながらそう答えると、弾けるように豪快な笑い声をあげた。

「かわいそうに。お前、あいつに嫌われるぞ」
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