第74話 町長ともなればあくどい交渉もしなきゃならないわけでして
文字数 2,416文字
午前中は村長の孫という少年に案内してもらって村の視察をする。
まぁ、村なんて観光的に見るとこないんだけど、僕が知りたかったのはそういうとこじゃない。
まずは村の様子。
村人は事前にオギンから三十二名と教えてもらっていた。
村の中に家が点在していて、それぞれの家に自分家用の畑があるという、元の僕の村と同じ作りだった。
そして、村の外に畑。
昨日は暗くなってから村に着いたので判らなかったんだけど、この村の畑は僕の町側、方位でいうと北側に広がっていた。
広さはうちと変わらない。
そりゃそうだ。
三十人規模の村で維持管理できる規模ってのは決まってる。
うちは人口の増大に対応するために村の北側に新しい農地を広げているから、現状は三対二でうちの方が広いか。
農作物の育成状況は地球由来の知識を持ったルダーが指揮をとるうちの畑の方が断然いい。
きっと収穫量で十五パーセントは差があるだろう。
畑を囲む森は原生林のようだ。
この辺の地形は、町の周りと違って比較的なだらかだからもっと、農地を拡げられそうだ。
生活用の薪などを集める雑木林は南側の街道の左右に広がっている。
この村の雑木林の方が倍以上広い。
そりゃそうだ。
僕の町は西側が断崖で、東側にある雑木林の奥には主の森が広がっている。
南の街道は僕の町までのそれと違って、なんかそれなりに整備されているようだった。
村人の様子は普通か?
子供達は元気だ。
一通り見るべきものは見ましたが、さてどうしたものやら。
昼食の際、僕はどう話を持っていくのが最善かを考えていた。
今は国が乱れ始め、戦乱の時代に突入したばかり。
統一までには何年もかかるだろう。
だからと言って辺鄙な村が戦乱と無縁でいられるはずがない。
それは重税を課しに代官が僕の町にまでやってきたことでも明らかだ。
秋の攻防で負ける気はない。
しかし、最奥の村一つでは町の規模になったと言ってもたかが知れている。
そう何度も正規軍を追い返せるとは限らないし、男爵を討ち滅ぼすような勢力が領主として取って代わるようなら、早晩飲み込まれてしまう。
こちらも勢力として旗を揚げる。
リスキーなのは百も承知で下剋上を狙うというのが、僕の生存戦略だ。
そのためにはこの村は是非とも支配下に置きたい。
できれば穏便に、平和裡にだ。
「なにか悩み事ですかな?」
あまりにも悩みすぎて深刻な顔をしていたようだ。
村長に心配されてしまった。
ええい、ままよ。
僕は意を決して、ズバリと懐に飛び込む決心をした。
「村長。税についてですが、いかがですか?」
「……いかがと言われましても、税のなんの話ですかな?」
おっといけね。
そうだよな、ちゃんと順を追って説明しなきゃ判んないよ、そりゃ。
「ああ、失礼。今年の税負担、だいぶ重くなっているようですが、この村は耐えられますか?」
村長は「ふむ」と唸って腕組みをする。
「収穫の半分を持っていかれるのは正直厳しいの。しかし、わしら農民には他にできることはない」
それで命が助かるならめっけもんってか?
地球じゃ、それで済んだ歴史はないぞ。
仮に僕が領主になったって兵糧に限って思案しても六割は取る。
徴した穀物が国家予算にも使われるってんなら八割だって取りたいくらいだ。
「村長は、他領の話はご存知ですか?」
僕は難しい顔のまま問う。
「いや、知らん」
「夏の初めにご領主のお使者が来られたでしょう?」
「ああ、オルバック様のご子息とかいうのがきておったの」
「お付きのルビレルという方が申していたのですが、戦が始まっているところでは収穫の八割も取られているところがあるとか」
数字は嘘だ。
ルビレルは
「戦をしているところなど……」
と濁したに過ぎない。
これは危機意識を持ってもらうためのブラフ である。
でも、こういうのは有効なんだよね。
「わたしも旅の中でそのような話を聞き及んでます」
すかさず、オギンが援護射撃に入ってくる。
オギンには度々外の情勢を探りにいかせているから、通り道であるこの村の長ならその信憑性はかなり高いと思ってくれるはずだ。
案の定、「ムムム」と唸って二の句が継げなくなった。
村長の悩むのも無理はない。
身分制度のある社会で、下層階級にいる人間に与えられている選択肢なんて多くない。
今回の場合だと、「甘んじて増税を受け入れる」「死を覚悟して減税を訴える」「死を覚悟で叛乱する」「死を覚悟して逃 散 する」の四択だろう。
村人ならいざ知らず、村長が逃散というのは選択しにくいよな。
(てかそれ、四択って言えんの?)
(うーん……言えない?)
っていうか、思考に割って入ってくんじゃないよ、リリム。
八方塞がりの、抜き差しならない事態に今よりマシな選択肢を与えてあげられる。
僕ならね。
今の僕、相当悪い顔してる自覚あるな。
「ご領主様が本格的な戦でも始められたらまだまだ課税されますよ」
と、追い打ちをかけてみる。
さらに
「戦で兵が足りなくなったら男手を取られることもありましょう。戦火がこの村に及ぶことも考えられます」
ま、実際はこんな山奥の村まで兵を動員する物好きは……あぁ、僕が秋に反旗を翻したらここも平穏じゃいられないかもしれないや。
ここは正直に打ち明けるのが誠意ってもんだ。
「ここだけの話、
「なんと!?」
村長はそりゃあ驚いたよ。
同席していたのは孫の少年ただ一人、息子さん夫婦は畑で昼食をとっているようだ。
…………。
この少年、口軽くなきゃいいな。
と、言ってから思ったことは言うまでもない。
「……それで、わしらになにをさせたいのじゃ?」
さすがは村長、察しがいいね。
「我々に合力していただきたい。いや、戦を手伝えと言っているのではありません。この辺境の地が、末長く平穏であるために我々に協力して欲しいのです」
まぁ、村なんて観光的に見るとこないんだけど、僕が知りたかったのはそういうとこじゃない。
まずは村の様子。
村人は事前にオギンから三十二名と教えてもらっていた。
村の中に家が点在していて、それぞれの家に自分家用の畑があるという、元の僕の村と同じ作りだった。
そして、村の外に畑。
昨日は暗くなってから村に着いたので判らなかったんだけど、この村の畑は僕の町側、方位でいうと北側に広がっていた。
広さはうちと変わらない。
そりゃそうだ。
三十人規模の村で維持管理できる規模ってのは決まってる。
うちは人口の増大に対応するために村の北側に新しい農地を広げているから、現状は三対二でうちの方が広いか。
農作物の育成状況は地球由来の知識を持ったルダーが指揮をとるうちの畑の方が断然いい。
きっと収穫量で十五パーセントは差があるだろう。
畑を囲む森は原生林のようだ。
この辺の地形は、町の周りと違って比較的なだらかだからもっと、農地を拡げられそうだ。
生活用の薪などを集める雑木林は南側の街道の左右に広がっている。
この村の雑木林の方が倍以上広い。
そりゃそうだ。
僕の町は西側が断崖で、東側にある雑木林の奥には主の森が広がっている。
南の街道は僕の町までのそれと違って、なんかそれなりに整備されているようだった。
村人の様子は普通か?
子供達は元気だ。
一通り見るべきものは見ましたが、さてどうしたものやら。
昼食の際、僕はどう話を持っていくのが最善かを考えていた。
今は国が乱れ始め、戦乱の時代に突入したばかり。
統一までには何年もかかるだろう。
だからと言って辺鄙な村が戦乱と無縁でいられるはずがない。
それは重税を課しに代官が僕の町にまでやってきたことでも明らかだ。
秋の攻防で負ける気はない。
しかし、最奥の村一つでは町の規模になったと言ってもたかが知れている。
そう何度も正規軍を追い返せるとは限らないし、男爵を討ち滅ぼすような勢力が領主として取って代わるようなら、早晩飲み込まれてしまう。
こちらも勢力として旗を揚げる。
リスキーなのは百も承知で下剋上を狙うというのが、僕の生存戦略だ。
そのためにはこの村は是非とも支配下に置きたい。
できれば穏便に、平和裡にだ。
「なにか悩み事ですかな?」
あまりにも悩みすぎて深刻な顔をしていたようだ。
村長に心配されてしまった。
ええい、ままよ。
僕は意を決して、ズバリと懐に飛び込む決心をした。
「村長。税についてですが、いかがですか?」
「……いかがと言われましても、税のなんの話ですかな?」
おっといけね。
そうだよな、ちゃんと順を追って説明しなきゃ判んないよ、そりゃ。
「ああ、失礼。今年の税負担、だいぶ重くなっているようですが、この村は耐えられますか?」
村長は「ふむ」と唸って腕組みをする。
「収穫の半分を持っていかれるのは正直厳しいの。しかし、わしら農民には他にできることはない」
それで命が助かるならめっけもんってか?
地球じゃ、それで済んだ歴史はないぞ。
仮に僕が領主になったって兵糧に限って思案しても六割は取る。
徴した穀物が国家予算にも使われるってんなら八割だって取りたいくらいだ。
「村長は、他領の話はご存知ですか?」
僕は難しい顔のまま問う。
「いや、知らん」
「夏の初めにご領主のお使者が来られたでしょう?」
「ああ、オルバック様のご子息とかいうのがきておったの」
「お付きのルビレルという方が申していたのですが、戦が始まっているところでは収穫の八割も取られているところがあるとか」
数字は嘘だ。
ルビレルは
「戦をしているところなど……」
と濁したに過ぎない。
これは危機意識を持ってもらうための
でも、こういうのは有効なんだよね。
「わたしも旅の中でそのような話を聞き及んでます」
すかさず、オギンが援護射撃に入ってくる。
オギンには度々外の情勢を探りにいかせているから、通り道であるこの村の長ならその信憑性はかなり高いと思ってくれるはずだ。
案の定、「ムムム」と唸って二の句が継げなくなった。
村長の悩むのも無理はない。
身分制度のある社会で、下層階級にいる人間に与えられている選択肢なんて多くない。
今回の場合だと、「甘んじて増税を受け入れる」「死を覚悟して減税を訴える」「死を覚悟で叛乱する」「死を覚悟して
村人ならいざ知らず、村長が逃散というのは選択しにくいよな。
(てかそれ、四択って言えんの?)
(うーん……言えない?)
っていうか、思考に割って入ってくんじゃないよ、リリム。
八方塞がりの、抜き差しならない事態に今よりマシな選択肢を与えてあげられる。
僕ならね。
今の僕、相当悪い顔してる自覚あるな。
「ご領主様が本格的な戦でも始められたらまだまだ課税されますよ」
と、追い打ちをかけてみる。
さらに
「戦で兵が足りなくなったら男手を取られることもありましょう。戦火がこの村に及ぶことも考えられます」
ま、実際はこんな山奥の村まで兵を動員する物好きは……あぁ、僕が秋に反旗を翻したらここも平穏じゃいられないかもしれないや。
ここは正直に打ち明けるのが誠意ってもんだ。
「ここだけの話、
私どもの町
はこの秋の徴税を機にご領主様の支配を抜けようと思っています」「なんと!?」
村長はそりゃあ驚いたよ。
同席していたのは孫の少年ただ一人、息子さん夫婦は畑で昼食をとっているようだ。
…………。
この少年、口軽くなきゃいいな。
と、言ってから思ったことは言うまでもない。
「……それで、わしらになにをさせたいのじゃ?」
さすがは村長、察しがいいね。
「我々に合力していただきたい。いや、戦を手伝えと言っているのではありません。この辺境の地が、末長く平穏であるために我々に協力して欲しいのです」