第176話 宿場と村の視察
文字数 2,259文字
旅は順調に進む。
初日は一の宿で宿場の様子を眺めつつ小休憩を取り二の宿で宿泊、翌日早朝に二の宿を出発してボット村へ向かう。
残念ながら温泉じゃないけど、各宿には疲れを癒すための風呂が設けられているからだ。
今では村長の家で堅苦しい接待を受けながら過ごすよりいいと多くの旅人がそうしているようだ。
人の行き来も多くなって接待に明け暮れることを危惧してたらしい各村長にもとてもありがたがられている。
いや、そろそろ村に宿泊施設作ってもいいんじゃねーの?
あー、進言しとくか。
ボット村では村長と意見交換しながら畑や村の視察をする。
「おかげさまですこぶる平穏に暮らさせていただいております」
と、言われれば悪い気はしない。
実際、村人たちも明るい。
「確かこの村の特産は紙と焼き物の食器、それに武器だったな」
「はい、この春から畑の一部を紙の原材料栽培に当てております」
「では、この秋は少し収量が減るのか?」
「いえ、セザン村側の街道脇を冬の間に開墾しておりまして、そこで栽培を始めましたので問題はありません」
なるほど、用意周到だ。
「紙の方は良いのですが、焼き物と武器の方が」
「なにか問題が?」
「ええ、薪と炭の供給量が足らず生産量が上がりません」
そうか、支配地域が増えたんで需要が増大しているのに供給が追いついていないのはそれが理由だったんだな。
炭の価格は庶民には手の届かない水準で高止まりしているし、武器も市場に下ろされないなぁと思っていたんだ。
町の代官は呼んで会議を開いたけど、村長の意見は聞いていなかったからな。
盲点だった。
これは、例の計画と合わせて手を打っとくか。
「領内の開拓が本格化しているから薪も炭の供給量もじき増えるが……すまん、武器の生産を別の町に移転させようと思う」
「……賢明な判断かと」
村の運営と領内の実情などさまざまなことを天秤にかけた結果の返答だな。
村の産業が減るのは確かに痛手だろうけど、供給できないのでは逆に迷惑をかけることになるし責任は村長に向くから、筋の通らない反対もできないだろう。
前の村長なら反対していたかもしれないけど。
…………。
「秋までに金属製武器だけハンジー町に生産拠点を移動させるよう通達せよ」
「金属製武器だけでよろしいので?」
「弓矢などは順調に生産できているのだろう?」
「はい!」
「では、そのように」
村長との話し合いを適当なところで切り上げ、日暮れまでに三の宿に着けるよう僕らは村を後にする。
村長の言う通り、村を出ると街道の左右の林が切り拓かれていて若木や一年生と思われる植物が植えられていた。
これが新しい紙の原料候補か。
村長の話によれば、すでに紙漉き小屋と紙漉きのための道具がルダーによって発注されていると言っていた。
秋には本格的な紙漉きが始まると見ていいんだろうか?
今の紙の改良についても考えておかないとな。
そんなことを考えながら木漏れ日の中をホルスに乗って三の宿へ。
日が暮れるより早く辿り着いた三の宿はたいそうな賑わいを見せていた。
「ずいぶん賑わっているな」
「一の宿二の宿と宿泊客が分散するバロ村ボット村間と違い、セザン村との間にはこの三の宿しかございません。それに二つの村の特産品を買い付けにくる商人たちは必ずこの宿場に泊まりますから」
なるほど、キャラの言うことももっともだ。
三の宿はもう少し拡張してもいいかもしれない。
っていうか、すでに商機を見てとったらしい商売人が新しい宿を建築中のようだ。
こりゃあここは黙ってても益々繁盛しそうだな。
宿に腰を落ち着けて晩飯前にひとっ風呂浴びてこようと手ぬぐいを取り出すと、キャラがそれを止めてくる。
「申し訳ございませんが、湯 浴 みは夜更けになってからに願います」
「なんで?」
「丸腰では不意の襲撃に対処し兼ねます故」
と、言ってきたのはホーク。
「二の宿では普通に入っていたじゃないか」
「二の宿とは事情が違います」
セイが言うには僕が足しげく通って「勝手知ったる」で宿も客もお館様に対する配慮がなされている一の宿二の宿と違い、ここから先はそういう特別視しない配慮がなされるわけじゃないから一般客にまぎれて風呂に入るのは宿でも対応に困るのだと。
特に今回のように豪華なホルス車仕立ててご領主様ご逗留なんて場合、客の方でも困惑する。
なので一般客がいなくなる時間を見計らって入って欲しい。
その方が警護する側も護りやすいからそうしてくれ。
と言うことだ。
「その旨サラ様にもご了承いただいております」
ってことだ。
なんだよ、さっぱりして飯食いたかったのに。
「仕方ない」
「では、我々は先に風呂に入らせていただきます」
なに!?
言うが早いかセイもホークもガーブラまでが頭を下げてニコニコと風呂へ向かう。
あんの野郎どもめっ!
「殿方の時間の後はあたしたちもお先にいたたぎます」
と、キャラが頭を下げると、二人の使用人もアセアセと一緒になって頭を下げる。
宿の風呂はさまざまな制約から一箇所しかない。
そしてこの世界のモラルとして混浴がありえないため、男女で入浴時間が分けられている。
今は男湯の時間なのでセイたちが先に入りに行ったと言うわけだ。
そして、女湯の時間になったらキャラたちが入りに行くからと宣言されたと言うわけだな。
「それとお館様……」
「なんだ?」
「宿の都合であまり遅くまで湯を沸かしておけないそうなので、サラ様とご一緒に入浴願います」
…………。
許す。
先に風呂に入ってくるの許しちゃう。
初日は一の宿で宿場の様子を眺めつつ小休憩を取り二の宿で宿泊、翌日早朝に二の宿を出発してボット村へ向かう。
残念ながら温泉じゃないけど、各宿には疲れを癒すための風呂が設けられているからだ。
今では村長の家で堅苦しい接待を受けながら過ごすよりいいと多くの旅人がそうしているようだ。
人の行き来も多くなって接待に明け暮れることを危惧してたらしい各村長にもとてもありがたがられている。
いや、そろそろ村に宿泊施設作ってもいいんじゃねーの?
あー、進言しとくか。
ボット村では村長と意見交換しながら畑や村の視察をする。
「おかげさまですこぶる平穏に暮らさせていただいております」
と、言われれば悪い気はしない。
実際、村人たちも明るい。
「確かこの村の特産は紙と焼き物の食器、それに武器だったな」
「はい、この春から畑の一部を紙の原材料栽培に当てております」
「では、この秋は少し収量が減るのか?」
「いえ、セザン村側の街道脇を冬の間に開墾しておりまして、そこで栽培を始めましたので問題はありません」
なるほど、用意周到だ。
「紙の方は良いのですが、焼き物と武器の方が」
「なにか問題が?」
「ええ、薪と炭の供給量が足らず生産量が上がりません」
そうか、支配地域が増えたんで需要が増大しているのに供給が追いついていないのはそれが理由だったんだな。
炭の価格は庶民には手の届かない水準で高止まりしているし、武器も市場に下ろされないなぁと思っていたんだ。
町の代官は呼んで会議を開いたけど、村長の意見は聞いていなかったからな。
盲点だった。
これは、例の計画と合わせて手を打っとくか。
「領内の開拓が本格化しているから薪も炭の供給量もじき増えるが……すまん、武器の生産を別の町に移転させようと思う」
「……賢明な判断かと」
村の運営と領内の実情などさまざまなことを天秤にかけた結果の返答だな。
村の産業が減るのは確かに痛手だろうけど、供給できないのでは逆に迷惑をかけることになるし責任は村長に向くから、筋の通らない反対もできないだろう。
前の村長なら反対していたかもしれないけど。
…………。
「秋までに金属製武器だけハンジー町に生産拠点を移動させるよう通達せよ」
「金属製武器だけでよろしいので?」
「弓矢などは順調に生産できているのだろう?」
「はい!」
「では、そのように」
村長との話し合いを適当なところで切り上げ、日暮れまでに三の宿に着けるよう僕らは村を後にする。
村長の言う通り、村を出ると街道の左右の林が切り拓かれていて若木や一年生と思われる植物が植えられていた。
これが新しい紙の原料候補か。
村長の話によれば、すでに紙漉き小屋と紙漉きのための道具がルダーによって発注されていると言っていた。
秋には本格的な紙漉きが始まると見ていいんだろうか?
今の紙の改良についても考えておかないとな。
そんなことを考えながら木漏れ日の中をホルスに乗って三の宿へ。
日が暮れるより早く辿り着いた三の宿はたいそうな賑わいを見せていた。
「ずいぶん賑わっているな」
「一の宿二の宿と宿泊客が分散するバロ村ボット村間と違い、セザン村との間にはこの三の宿しかございません。それに二つの村の特産品を買い付けにくる商人たちは必ずこの宿場に泊まりますから」
なるほど、キャラの言うことももっともだ。
三の宿はもう少し拡張してもいいかもしれない。
っていうか、すでに商機を見てとったらしい商売人が新しい宿を建築中のようだ。
こりゃあここは黙ってても益々繁盛しそうだな。
宿に腰を落ち着けて晩飯前にひとっ風呂浴びてこようと手ぬぐいを取り出すと、キャラがそれを止めてくる。
「申し訳ございませんが、
「なんで?」
「丸腰では不意の襲撃に対処し兼ねます故」
と、言ってきたのはホーク。
「二の宿では普通に入っていたじゃないか」
「二の宿とは事情が違います」
セイが言うには僕が足しげく通って「勝手知ったる」で宿も客もお館様に対する配慮がなされている一の宿二の宿と違い、ここから先はそういう特別視しない配慮がなされるわけじゃないから一般客にまぎれて風呂に入るのは宿でも対応に困るのだと。
特に今回のように豪華なホルス車仕立ててご領主様ご逗留なんて場合、客の方でも困惑する。
なので一般客がいなくなる時間を見計らって入って欲しい。
その方が警護する側も護りやすいからそうしてくれ。
と言うことだ。
「その旨サラ様にもご了承いただいております」
ってことだ。
なんだよ、さっぱりして飯食いたかったのに。
「仕方ない」
「では、我々は先に風呂に入らせていただきます」
なに!?
言うが早いかセイもホークもガーブラまでが頭を下げてニコニコと風呂へ向かう。
あんの野郎どもめっ!
「殿方の時間の後はあたしたちもお先にいたたぎます」
と、キャラが頭を下げると、二人の使用人もアセアセと一緒になって頭を下げる。
宿の風呂はさまざまな制約から一箇所しかない。
そしてこの世界のモラルとして混浴がありえないため、男女で入浴時間が分けられている。
今は男湯の時間なのでセイたちが先に入りに行ったと言うわけだ。
そして、女湯の時間になったらキャラたちが入りに行くからと宣言されたと言うわけだな。
「それとお館様……」
「なんだ?」
「宿の都合であまり遅くまで湯を沸かしておけないそうなので、サラ様とご一緒に入浴願います」
…………。
許す。
先に風呂に入ってくるの許しちゃう。