第117話 「やっぱり」と「まじか」と「なんてこった」
文字数 2,373文字
どちらも話したいことがあるけれど言い難いので互いに切り出しかねているという状況が続く応接室。
なんの我慢比べだよ。
ええい、主導権を握ったれ。
「先ほどのあなたが代官と見破った件ですけどね」
うん、日和った。
本当はそんなことはどうでもいいっちゃどうでもよかったんだ、いまさら。
けど、核心に触れるのはなかなか度胸がいるんだよ。
ということで搦 手 で攻めつつ主導権をとるべく話し始める僕、なかなかやると思わない?
「ほぅ、種明かしをしてくれるんですね?」
食いついてきた。
そりゃ、あの沈黙は居心地悪いよな。
「最初に交渉主体として出てきた男が交渉の場だというのに自己紹介から始めなかったので、『おや?』っと思ったわけですよ」
「そんなところから疑っていたんですか?」
「ええ、まあ」
ヤバイ、ちょっとドヤ顔してる自覚がある。
「そのあと前任の代官を様付けで呼んだでしょう?」
「え? そんなことに引っ掛かったの?」
話し方が突然くだけたな。
まぁ、身バレしたときの言い方がこっちの方だったわけだし、これが地なんだろうけど。
そんじゃこっちも少しくだけてみせるか。
「ま、他にも細かいところがいくつかあったんだけど、決定的なのは部屋に入ってきたときに僕の方を見て目を見張ったことかな?」
「…………」
はい、黙っちゃいましたね。
マウントとれたかも。
「いや、これはまた別件でしたかね?」
「いや、たぶんその見立てがあった上での推理なんだろ? やれやれ……妖精連れなんて卑怯だよ。婚約者連れてくるより卑怯だ。しかも、そいつ転生者にしか見えないんだろ」
ビンゴ!
「じゃあやっぱり」
「ああ、あんたの推理通りだよ」
その後、互いの身の上話をした。
それによると、どうやらチカマックは地球人じゃないようだ。
誰もが魔法を使えた代わりに科学技術はほとんどこの世界以下の世界で、科学技術に興味があった変わり種。
周りから白い目で見られながら化学実験を繰り返していた三十代の終わりに実験の失敗による事故死というのが前世のようだ。
転生者じゃないかと踏んでいくつかのこの世界にはない言葉をちりばめてカマかけてたのが恥ずかしい。
ちなみにその世界では魔法学のために出版技術が確立していて娯楽としての推理小説が人気とか、馬とは空飛ぶ乗り物でやっぱり競馬があって勝ち馬投票権があったりするそうだ。
異世界ってのはいくつもあるんだなぁ。
「その前世の記憶がある日ふとよみがえったのが七年前の誕生日。ちょうど十五歳になった日だ」
そこは一緒なんだ。
「俺等 興奮したね。魔法より科学の方があふれているなんてこんないい世界ないじゃない。ま、そのせいで魔法を軽視した発言が疎まれて左遷喰らっちゃったんだけどね」
はは……笑うしかない。
「なら、僕の傘下に入るのは君の幸運だよチカマック」
「なぜ?」
「なにせ僕の前世は魔法のない科学技術だけの世界だったんだから」
ちょろい。
子供みたいに目をキラッキラさせて神を見るようなチカマックちょろすぎる。
さて、あまり長く二人で密談するのもよろしくないので、ここら辺りで話を切り上げてホルス車待機組を安心させなくちゃ。
「その件はまた次の機会に話すとして、そろそろ心配しているだろう部下たちを安心させようじゃないか」
「ああ、そうか……そうだね」
と、席を立って僕を案内する。
応接室を出ると食堂に案内して人を呼び、僕らは一団勢揃いで饗応を受ける。
食事の席にチカマックの家臣はサイとノサウスの他はメイドだけ。
いいのか?
結構な人数だぞこっち。
食事の席で互いの情報を交換していた際に話題に出たのがグリフ族の件だ。
やっぱり悩みの種なんだねぇ。
「どうも最近族長が代替わりしたらしく、好戦的でテリトリーも拡張傾向にあるという報告が上がっています」
とノサウスがいう。通行が脅かされるのは戦略的にも困るよね。それで死者なんか出るようになったら為政者としての責任問題にもなるし……。
「交易はどうなっているのですか?」
ここら辺りはさすが元キャラバン組だね、サビー。僕ら田舎もんはどうもそこら辺りがとんと疎い。
「グリフ族のテリトリーは貴重な資源の産地で今も交易を行っていますが、どうも代替わりをしてからかんばしくありません」
そう答えたのはサイ。
どうやら軍事面はノサウスが経済面はサイがチカマックの右腕のようだ。
ん? どっちかは左腕?
「グリフ族なんて追い払っちまうのはダメなんですか?」
暴力的かつ雑な提案はガーブラだ。
「ことはそう簡単にはいかないんだ。鉱物資源は人族にはなかなか見つけられないのでグリフ族頼り、その他の資源も人族ではなかなか採集が難しい」
「なぜです?」
「実は、グリフ族のテリトリーの奥は我が国有数のモンスターの生息地でね。グリフ族が緩衝になっているという側面もあるんだよ」
しかもこの辺りのモンスターは繁殖力が高く常に二十個体以上の群れをなす雑食の昆虫系カグゥラ、二足歩行で武器を使う亜人種系のダライシン、俊敏で獰猛な四足歩行の肉食獣系グンドゥラスとヤバいモンスターが多い。
これらのモンスターとグリフ族が縄張り争いをしてくれていることで人族の領域に滅多に近づかないのだという。
グリフ族って結構な戦闘民族なんだね。
なるほど、それで彼らは常に七、八人で行動するのか。
それだけのパーティ組まなきゃ危険な地帯なんだ。
うぅむ……なかなか頭の痛い問題だな。
「あと、名前が近くて村人は混同しがちなんですが、グフリ族という魔族の眷属といわれる亜人もいるのです」
とノサウスが付け足す。
「グフリなら全滅させたって構わないんだがな」
って、怖いこと言うね、ノサウス。
とにかく、諸々問題が山積していることだけは判った。
明日以降の実務者協議はタフな会議になりそうだ。
なんの我慢比べだよ。
ええい、主導権を握ったれ。
「先ほどのあなたが代官と見破った件ですけどね」
うん、日和った。
本当はそんなことはどうでもいいっちゃどうでもよかったんだ、いまさら。
けど、核心に触れるのはなかなか度胸がいるんだよ。
ということで
「ほぅ、種明かしをしてくれるんですね?」
食いついてきた。
そりゃ、あの沈黙は居心地悪いよな。
「最初に交渉主体として出てきた男が交渉の場だというのに自己紹介から始めなかったので、『おや?』っと思ったわけですよ」
「そんなところから疑っていたんですか?」
「ええ、まあ」
ヤバイ、ちょっとドヤ顔してる自覚がある。
「そのあと前任の代官を様付けで呼んだでしょう?」
「え? そんなことに引っ掛かったの?」
話し方が突然くだけたな。
まぁ、身バレしたときの言い方がこっちの方だったわけだし、これが地なんだろうけど。
そんじゃこっちも少しくだけてみせるか。
「ま、他にも細かいところがいくつかあったんだけど、決定的なのは部屋に入ってきたときに僕の方を見て目を見張ったことかな?」
「…………」
はい、黙っちゃいましたね。
マウントとれたかも。
「いや、これはまた別件でしたかね?」
「いや、たぶんその見立てがあった上での推理なんだろ? やれやれ……妖精連れなんて卑怯だよ。婚約者連れてくるより卑怯だ。しかも、そいつ転生者にしか見えないんだろ」
ビンゴ!
「じゃあやっぱり」
「ああ、あんたの推理通りだよ」
その後、互いの身の上話をした。
それによると、どうやらチカマックは地球人じゃないようだ。
誰もが魔法を使えた代わりに科学技術はほとんどこの世界以下の世界で、科学技術に興味があった変わり種。
周りから白い目で見られながら化学実験を繰り返していた三十代の終わりに実験の失敗による事故死というのが前世のようだ。
転生者じゃないかと踏んでいくつかのこの世界にはない言葉をちりばめてカマかけてたのが恥ずかしい。
ちなみにその世界では魔法学のために出版技術が確立していて娯楽としての推理小説が人気とか、馬とは空飛ぶ乗り物でやっぱり競馬があって勝ち馬投票権があったりするそうだ。
異世界ってのはいくつもあるんだなぁ。
「その前世の記憶がある日ふとよみがえったのが七年前の誕生日。ちょうど十五歳になった日だ」
そこは一緒なんだ。
「
はは……笑うしかない。
「なら、僕の傘下に入るのは君の幸運だよチカマック」
「なぜ?」
「なにせ僕の前世は魔法のない科学技術だけの世界だったんだから」
ちょろい。
子供みたいに目をキラッキラさせて神を見るようなチカマックちょろすぎる。
さて、あまり長く二人で密談するのもよろしくないので、ここら辺りで話を切り上げてホルス車待機組を安心させなくちゃ。
「その件はまた次の機会に話すとして、そろそろ心配しているだろう部下たちを安心させようじゃないか」
「ああ、そうか……そうだね」
と、席を立って僕を案内する。
応接室を出ると食堂に案内して人を呼び、僕らは一団勢揃いで饗応を受ける。
食事の席にチカマックの家臣はサイとノサウスの他はメイドだけ。
いいのか?
結構な人数だぞこっち。
食事の席で互いの情報を交換していた際に話題に出たのがグリフ族の件だ。
やっぱり悩みの種なんだねぇ。
「どうも最近族長が代替わりしたらしく、好戦的でテリトリーも拡張傾向にあるという報告が上がっています」
とノサウスがいう。通行が脅かされるのは戦略的にも困るよね。それで死者なんか出るようになったら為政者としての責任問題にもなるし……。
「交易はどうなっているのですか?」
ここら辺りはさすが元キャラバン組だね、サビー。僕ら田舎もんはどうもそこら辺りがとんと疎い。
「グリフ族のテリトリーは貴重な資源の産地で今も交易を行っていますが、どうも代替わりをしてからかんばしくありません」
そう答えたのはサイ。
どうやら軍事面はノサウスが経済面はサイがチカマックの右腕のようだ。
ん? どっちかは左腕?
「グリフ族なんて追い払っちまうのはダメなんですか?」
暴力的かつ雑な提案はガーブラだ。
「ことはそう簡単にはいかないんだ。鉱物資源は人族にはなかなか見つけられないのでグリフ族頼り、その他の資源も人族ではなかなか採集が難しい」
「なぜです?」
「実は、グリフ族のテリトリーの奥は我が国有数のモンスターの生息地でね。グリフ族が緩衝になっているという側面もあるんだよ」
しかもこの辺りのモンスターは繁殖力が高く常に二十個体以上の群れをなす雑食の昆虫系カグゥラ、二足歩行で武器を使う亜人種系のダライシン、俊敏で獰猛な四足歩行の肉食獣系グンドゥラスとヤバいモンスターが多い。
これらのモンスターとグリフ族が縄張り争いをしてくれていることで人族の領域に滅多に近づかないのだという。
グリフ族って結構な戦闘民族なんだね。
なるほど、それで彼らは常に七、八人で行動するのか。
それだけのパーティ組まなきゃ危険な地帯なんだ。
うぅむ……なかなか頭の痛い問題だな。
「あと、名前が近くて村人は混同しがちなんですが、グフリ族という魔族の眷属といわれる亜人もいるのです」
とノサウスが付け足す。
「グフリなら全滅させたって構わないんだがな」
って、怖いこと言うね、ノサウス。
とにかく、諸々問題が山積していることだけは判った。
明日以降の実務者協議はタフな会議になりそうだ。