第244話 ジャン、作戦目標を変更する
文字数 2,256文字
「ところで……」
と、僕は懸案事項の一つを解決できそうなトーハに訊ねる。
「ビートの他に弟子はいるのか?」
「修行をつけている弟子は何人かおりますが、未熟なものばかりで……お役に立てそうなものといえば、ビートとナナミ、シーナくらいでしょうか」
名前で言われてもよく判らないけど、敵軍の野営に潜入して大将である僕の天幕まで辿り着いているんだから『お役に立てそう』レベルじゃないと思うけどね。
そんなことを話していると、間の悪いことに飛行 手紙 が飛んできた。
「それは一体……」
とは、さすがに口に出しては言わなかったけれど、トーハの視線が興味津々なことを雄弁に語っている。
チラと周囲を見渡すと、表情を変えていないのはトビーだけ。
さすがにオギンが認めた男だな。
チカマックは苦虫を噛み潰したような表情になっているし、チャールズは目を閉じてしまっている。
ウータに至ってはこの世の終わりみたいな顔してる。
表情に出しすぎ。
案外、純情よね。
確かに情報戦を有利に進める先端技術の魔道具ではあるけれど、最高機密とまではいえない。
最先端技術の移動用 電話 や電信 なら秘匿する。
あれは、リアルタイムに戦況を変えられる魔道具だ。
技術的問題で伝達距離は前世の技術に劣ってるけど、距離を無視して情報を瞬時に届けられるこのアドバンテージはできる限り秘匿しておきたい優位性だ。
それと比べれば、情報量と即時性において前の二つの魔道具にくらべた時の飛行手紙は戦場での優位性において秘匿するほどの技術ではなくなっている。
もちろん、知られずに済むならそれに越したことはないんだけど。
それに、降参して配下となったトーハに隠しておくことじゃないしね。
「これは飛行手紙という魔道具だ」
僕は、むしろチカマックたちに言い聞かせるように淡々とトーハに説明する。
「そのような素晴らしい魔道具をお持ちなのですか? ホッポーによる通信とは比べ物にならない確実性ではありませんか」
ホッポーという鳥は帰巣本能が強く遠方の地で離しても巣に戻ってくるので伝書鳩のように使われる鳥らしい。
しかし、あくまでも巣に帰る能力なので双方向にやりとりが出来るわけではないことと、百%返ってこられるわけではないこと、伝書ホッポーは広く知られた通信手段なので途中で敵に邪魔されることもあり、伝令係同様複数羽放つなど効率と確実性に難がある。
それに比べて飛行手紙は(初期型飛行手紙は特定住所へのお届け機能の魔道具で、今使っている改良型は特定個人宛お届け機能の魔道具だ)たとえ雨風嵐、猛吹雪でも指定先へ確実に届く。
まぁ、最後の敵の妨害に関しては、飛行手紙がまだ他の勢力に知られていないから今のところ安全であるというだけなんだけどね。
「して、誰からのどんな内容なのでしょう」
待て待てチカマック、説明してたから読んでない。
えーと……なになに?
…………。
「ヒロガリー区のすべての町を占領下に置いたというラビティアからの報告だ」
「おめでとうございます」
「……浮かない顔ですね」
ウータ、よく気づいたね。
なるべく表情に出さないようにしていたつもりなのに。
「主だった武将を一人も討ち取れなかったと悔しそうに書いてきている」
ほんと、文字から悔しさが滲み出しているんだから、なんたる筆致、なんたる雄弁さって感慨が浮かぶ。
「お館様。この後はどういたしますか?」
それはラビティアからも指示が欲しいと言う旨が結びの一文として書かれている。
「トーハ」
「なんでございましょう?」
「町の食料備蓄はどれほど残っている?」
「されば来年の収穫までもつかどうかという程度でございます」
あ?
なにそれ。
少なすぎだろ。
なんだよそれ、ズラカルト徴収しすぎじゃねーの?
「チャールズ、飛行手紙を」
「ルダー殿への手紙ですね」
話が早い。
サラサラと用件を書いて飛行機を折ると無造作に窓の外へ飛ばす。
「本当に便利な魔道具ですね」
トーハが感心している。
もう当たり前に使っているけど、ホントそうよね。
「トーハ。明日、改めて訪ねるので、ここにいるだけでいいから弟子を集めておくように」
「御意」
町からの帰り際、トビーに
「ズラカリー区の詳細な地図はあるか?」
と訊けば
「抜かりなく」
と返ってくる。
打てば響くとはまさにこのことだ。
「チャールズ、町中で何枚もの飛行手紙を出すわけにいかなかったのだが、陣に戻ったら十枚は飛ばす予定だ」
「今日明日で手持ちが足りなくなるかもしれませんね。作っておきます」
「任せた」
自分の天幕に戻った僕は、随行していたチカマック、チャールズ、ウータ、トビーに加えてイラード、ガーブラ、ザイーダを集めてトビーの地図を見ながら遂行可能な軍事作戦を考える。
この地図の凄さは町までの距離や位置関係だけでなく、町村の人口規模と動員可能兵力まで書き込まれているところだ。
照明 の魔道具を点ける頃にルダーの返事が返ってきた。
わりと近場にいたな。
返事は簡潔だ。
兵糧の残量とそれによる継戦可能日数だけ。
本軍輜重隊の分のみならず、ラビティア側につけた輜重部隊の推定残量も書いてきてくれている。
しかも、必要ならそちらの正確な残量も確認するぞという追伸付きだ。
ルダーの報告を基にさらに作戦を煮詰めて大枠を決めた僕が、せっせと何枚もの手紙を書いているとあっという間に深更 になってしまった。
(そろそろ照明の魔力が尽きるわよ)
もうそんな時間か。
まだまだ決めなきゃいけないことがいっぱいあるのにな。
と、僕は懸案事項の一つを解決できそうなトーハに訊ねる。
「ビートの他に弟子はいるのか?」
「修行をつけている弟子は何人かおりますが、未熟なものばかりで……お役に立てそうなものといえば、ビートとナナミ、シーナくらいでしょうか」
名前で言われてもよく判らないけど、敵軍の野営に潜入して大将である僕の天幕まで辿り着いているんだから『お役に立てそう』レベルじゃないと思うけどね。
そんなことを話していると、間の悪いことに
「それは一体……」
とは、さすがに口に出しては言わなかったけれど、トーハの視線が興味津々なことを雄弁に語っている。
チラと周囲を見渡すと、表情を変えていないのはトビーだけ。
さすがにオギンが認めた男だな。
チカマックは苦虫を噛み潰したような表情になっているし、チャールズは目を閉じてしまっている。
ウータに至ってはこの世の終わりみたいな顔してる。
表情に出しすぎ。
案外、純情よね。
確かに情報戦を有利に進める先端技術の魔道具ではあるけれど、最高機密とまではいえない。
最先端技術の
あれは、リアルタイムに戦況を変えられる魔道具だ。
技術的問題で伝達距離は前世の技術に劣ってるけど、距離を無視して情報を瞬時に届けられるこのアドバンテージはできる限り秘匿しておきたい優位性だ。
それと比べれば、情報量と即時性において前の二つの魔道具にくらべた時の飛行手紙は戦場での優位性において秘匿するほどの技術ではなくなっている。
もちろん、知られずに済むならそれに越したことはないんだけど。
それに、降参して配下となったトーハに隠しておくことじゃないしね。
「これは飛行手紙という魔道具だ」
僕は、むしろチカマックたちに言い聞かせるように淡々とトーハに説明する。
「そのような素晴らしい魔道具をお持ちなのですか? ホッポーによる通信とは比べ物にならない確実性ではありませんか」
ホッポーという鳥は帰巣本能が強く遠方の地で離しても巣に戻ってくるので伝書鳩のように使われる鳥らしい。
しかし、あくまでも巣に帰る能力なので双方向にやりとりが出来るわけではないことと、百%返ってこられるわけではないこと、伝書ホッポーは広く知られた通信手段なので途中で敵に邪魔されることもあり、伝令係同様複数羽放つなど効率と確実性に難がある。
それに比べて飛行手紙は(初期型飛行手紙は特定住所へのお届け機能の魔道具で、今使っている改良型は特定個人宛お届け機能の魔道具だ)たとえ雨風嵐、猛吹雪でも指定先へ確実に届く。
まぁ、最後の敵の妨害に関しては、飛行手紙がまだ他の勢力に知られていないから今のところ安全であるというだけなんだけどね。
「して、誰からのどんな内容なのでしょう」
待て待てチカマック、説明してたから読んでない。
えーと……なになに?
…………。
「ヒロガリー区のすべての町を占領下に置いたというラビティアからの報告だ」
「おめでとうございます」
「……浮かない顔ですね」
ウータ、よく気づいたね。
なるべく表情に出さないようにしていたつもりなのに。
「主だった武将を一人も討ち取れなかったと悔しそうに書いてきている」
ほんと、文字から悔しさが滲み出しているんだから、なんたる筆致、なんたる雄弁さって感慨が浮かぶ。
「お館様。この後はどういたしますか?」
それはラビティアからも指示が欲しいと言う旨が結びの一文として書かれている。
「トーハ」
「なんでございましょう?」
「町の食料備蓄はどれほど残っている?」
「されば来年の収穫までもつかどうかという程度でございます」
あ?
なにそれ。
少なすぎだろ。
なんだよそれ、ズラカルト徴収しすぎじゃねーの?
「チャールズ、飛行手紙を」
「ルダー殿への手紙ですね」
話が早い。
サラサラと用件を書いて飛行機を折ると無造作に窓の外へ飛ばす。
「本当に便利な魔道具ですね」
トーハが感心している。
もう当たり前に使っているけど、ホントそうよね。
「トーハ。明日、改めて訪ねるので、ここにいるだけでいいから弟子を集めておくように」
「御意」
町からの帰り際、トビーに
「ズラカリー区の詳細な地図はあるか?」
と訊けば
「抜かりなく」
と返ってくる。
打てば響くとはまさにこのことだ。
「チャールズ、町中で何枚もの飛行手紙を出すわけにいかなかったのだが、陣に戻ったら十枚は飛ばす予定だ」
「今日明日で手持ちが足りなくなるかもしれませんね。作っておきます」
「任せた」
自分の天幕に戻った僕は、随行していたチカマック、チャールズ、ウータ、トビーに加えてイラード、ガーブラ、ザイーダを集めてトビーの地図を見ながら遂行可能な軍事作戦を考える。
この地図の凄さは町までの距離や位置関係だけでなく、町村の人口規模と動員可能兵力まで書き込まれているところだ。
わりと近場にいたな。
返事は簡潔だ。
兵糧の残量とそれによる継戦可能日数だけ。
本軍輜重隊の分のみならず、ラビティア側につけた輜重部隊の推定残量も書いてきてくれている。
しかも、必要ならそちらの正確な残量も確認するぞという追伸付きだ。
ルダーの報告を基にさらに作戦を煮詰めて大枠を決めた僕が、せっせと何枚もの手紙を書いているとあっという間に
(そろそろ照明の魔力が尽きるわよ)
もうそんな時間か。
まだまだ決めなきゃいけないことがいっぱいあるのにな。