第287話 グリフ族との外交 2
文字数 2,282文字
僕の提案は平たく言うと互いの技術や文化を教え合うと言うものだ。
「それはわれわれにどんな利益があるのだろうか?」
と、チョが訊ねてくる。
「そうだな……」
ここは高尚な理念とか将来的な可能性を説くより目先の利益を提示する方が説得力が高そうだ。
ついでに少し僕の有利なように話を進められないか、試してみよう。
「ルダー、領内で開発余地の大きい場所はどこだ?」
「どこも見込みの半分も開発しておりません。お好きなところをお選びいただけます」
唐突な質問にもよどみなく答えて目を伏せる。
その時代劇調の所作は好きでやっているのだということを僕は知っている。
というか、それに乗せられて僕も領主然とした態度を自然に身につけたと言っていい。
僕も子供の頃から時代劇好きだったからなぁ。
それは置いといて
「では、ハングリー区北西の二ヶ村をグリフ族に封 土 しようと思うがどうか?」
「封土ですか!?」
と、素っ頓狂な声を上げたのはチロー。
それを尻目にしれっと
「お心のままに」
と返事をするルダー。
「すまないが、ホウドとはどう言うものなのか、教えてもらえないか?」
と、質問してきたのは護衛としてリュの後ろに控えていたナン。
『封土』とは大辞林を引用すれば「奉仕義務の代償として主君から臣下に与えられた土地。封地。」のことだ。
僕は「主君から家臣」の部分を意図的にぼかして説明する。
てか、そもそもそこは重要じゃあない。
「要するに、我々が我々のために自由に使えるフレイラを生産する土地を与えてくれる。と言うことでよいのか?」
「その認識で構わない。もちろん、無償貸与というわけではない。他の町同様納税の義務を負ってもらおう」
「税……ですか。具体的には?」
グリフ族の筆頭軍師だというチョが食いついてきた。
「我が領内では収穫物の八割を収めてもらう決まりになっている」
「それは暴利だ!」
声を荒らげるアンを手を挙げて制したのはリュ。
彼は、僕の発言が続くことを判っていたらしく、先を促す。
「ただし、我が領は租庸調という制度を敷いていてな。物納や労役での納税を推奨している。もちろん、他地域との兼ね合いや食糧事情の問題もあることなので、一定量の収穫物による納税はしてもらうが、比率については譲歩しよう」
「それはお前にとって都合がよすぎないか? こちら側の利益になる提案とは言い難いぞ」
さすがは族長、よくお判りで。
ここからは譲歩の時間ですな。
「では、そちらの条件をうかがおう」
「まずは同じ条件をこちらも提案しよう」
「グリフ族の領地を封土すると?」
ケイロの質問にリュは首を横にふる。
この仕草はグリフ族でも否定の合図なのか、それともこちらに合わせてくれたものか。
「グリフにテリトリー意識はあっても領地という概念はない」
ああ、たしか交流を持つ前はテリトリー問題でたびたび野営地(今のここ四の宿付近)で旅人が襲われていたと聞いていたな。
この場合のテリトリーってのは領土・領地のことじゃなくて縄張りくらいの意味なんだろう。
「先の戦でグフリ族を追払いグフリのテリトリーをグリフ のテリトリーに組み込んだのだが、いつまた奴らが戻ってくるかしれない。そこで人族であるお前たちの手を借りて、過去最大範囲となったテリトリーを守る手助けをしてもらいたいのだ」
なるほど。
領地の概念がある人族は領地防衛に工夫・研鑽してきた実績がある。
しかし、縄張りと領地ではノウハウが違ってくるんじゃないか?
まぁ、ここは互いの条件提示の場面だ。
この先互いに要求のすり合わせと譲歩を繰り返していかなけばならないのだから、ここで難色を示すとこちらの要求が通りにくくなって大幅な譲歩を強いられかねない。
そもそもこの話は人的交流を促進しようというケイロの提案を受けて話し合われているものだ。
拒否する理由があるはずもない。
当然、こちらの利益になる話が出てくるだろうしな。
「どこまでできるか判らないが、できるかぎり協力しよう」
そう言って右手を差し出すと、リュが手を握り返してくる。
これで交易に大量にフレイラが流失するリスクは緩和されたと言っていい。
ついでにハングリー区の開発が進むし、不足しがちな労働力の確保にも繋がるだろう。
「ああ、そうだ。フレイラ以外の食料品に関してだが、商人たちと自由に商売することを許そう」
「お館様!?」
非難の声を上げたのはチローだ。
通商大臣の頭越しに既得権益を手放すのだから、非難したくなる気持ちも判らなくはない。
…………。
それとも、形式上僕の専売ということになっていてほとんどを通商大臣であるチローに任せているのをいいことに不正に利得を手にしていたりするのか?
「商人に任せると値段が変動するのですよ? よろしいのですか?」
「構わんよ。それともなにか? チローには問題か?」
「値崩れならまだよいですが、高騰となると……」
ははぁん。
「お前の好物がその高騰しそうなのだな?」
「あ、あいや……その……はい」
「我らが持ち込むものはすべて採取によるものですからね。希少なものに需要があっても応えることはむずかしい」
「商人どもに任せてしまうと、金儲けにどれだけふっかけられるか知れたものじゃありませんよ」
「好都合じゃないか」
「お館様ぁ」
「せいぜい高い贅沢税でもむしり取ってやるといい」
そういうと、リュが一際大きな声を上げて笑い出した。
「これはこちらも気を引き締めねば、利益をむしり取られそうだぞ。気をつけろよ、チョ、シッ」
「心得ました」
おっと、この場ですべき発言ではなかったようだ、失言失言。
「それはわれわれにどんな利益があるのだろうか?」
と、チョが訊ねてくる。
「そうだな……」
ここは高尚な理念とか将来的な可能性を説くより目先の利益を提示する方が説得力が高そうだ。
ついでに少し僕の有利なように話を進められないか、試してみよう。
「ルダー、領内で開発余地の大きい場所はどこだ?」
「どこも見込みの半分も開発しておりません。お好きなところをお選びいただけます」
唐突な質問にもよどみなく答えて目を伏せる。
その時代劇調の所作は好きでやっているのだということを僕は知っている。
というか、それに乗せられて僕も領主然とした態度を自然に身につけたと言っていい。
僕も子供の頃から時代劇好きだったからなぁ。
それは置いといて
「では、ハングリー区北西の二ヶ村をグリフ族に
「封土ですか!?」
と、素っ頓狂な声を上げたのはチロー。
それを尻目にしれっと
「お心のままに」
と返事をするルダー。
「すまないが、ホウドとはどう言うものなのか、教えてもらえないか?」
と、質問してきたのは護衛としてリュの後ろに控えていたナン。
『封土』とは大辞林を引用すれば「奉仕義務の代償として主君から臣下に与えられた土地。封地。」のことだ。
僕は「主君から家臣」の部分を意図的にぼかして説明する。
てか、そもそもそこは重要じゃあない。
「要するに、我々が我々のために自由に使えるフレイラを生産する土地を与えてくれる。と言うことでよいのか?」
「その認識で構わない。もちろん、無償貸与というわけではない。他の町同様納税の義務を負ってもらおう」
「税……ですか。具体的には?」
グリフ族の筆頭軍師だというチョが食いついてきた。
「我が領内では収穫物の八割を収めてもらう決まりになっている」
「それは暴利だ!」
声を荒らげるアンを手を挙げて制したのはリュ。
彼は、僕の発言が続くことを判っていたらしく、先を促す。
「ただし、我が領は租庸調という制度を敷いていてな。物納や労役での納税を推奨している。もちろん、他地域との兼ね合いや食糧事情の問題もあることなので、一定量の収穫物による納税はしてもらうが、比率については譲歩しよう」
「それはお前にとって都合がよすぎないか? こちら側の利益になる提案とは言い難いぞ」
さすがは族長、よくお判りで。
ここからは譲歩の時間ですな。
「では、そちらの条件をうかがおう」
「まずは同じ条件をこちらも提案しよう」
「グリフ族の領地を封土すると?」
ケイロの質問にリュは首を横にふる。
この仕草はグリフ族でも否定の合図なのか、それともこちらに合わせてくれたものか。
「グリフにテリトリー意識はあっても領地という概念はない」
ああ、たしか交流を持つ前はテリトリー問題でたびたび野営地(今のここ四の宿付近)で旅人が襲われていたと聞いていたな。
この場合のテリトリーってのは領土・領地のことじゃなくて縄張りくらいの意味なんだろう。
「先の戦でグフリ族を追払いグフリのテリトリーを
なるほど。
領地の概念がある人族は領地防衛に工夫・研鑽してきた実績がある。
しかし、縄張りと領地ではノウハウが違ってくるんじゃないか?
まぁ、ここは互いの条件提示の場面だ。
この先互いに要求のすり合わせと譲歩を繰り返していかなけばならないのだから、ここで難色を示すとこちらの要求が通りにくくなって大幅な譲歩を強いられかねない。
そもそもこの話は人的交流を促進しようというケイロの提案を受けて話し合われているものだ。
拒否する理由があるはずもない。
当然、こちらの利益になる話が出てくるだろうしな。
「どこまでできるか判らないが、できるかぎり協力しよう」
そう言って右手を差し出すと、リュが手を握り返してくる。
これで交易に大量にフレイラが流失するリスクは緩和されたと言っていい。
ついでにハングリー区の開発が進むし、不足しがちな労働力の確保にも繋がるだろう。
「ああ、そうだ。フレイラ以外の食料品に関してだが、商人たちと自由に商売することを許そう」
「お館様!?」
非難の声を上げたのはチローだ。
通商大臣の頭越しに既得権益を手放すのだから、非難したくなる気持ちも判らなくはない。
…………。
それとも、形式上僕の専売ということになっていてほとんどを通商大臣であるチローに任せているのをいいことに不正に利得を手にしていたりするのか?
「商人に任せると値段が変動するのですよ? よろしいのですか?」
「構わんよ。それともなにか? チローには問題か?」
「値崩れならまだよいですが、高騰となると……」
ははぁん。
「お前の好物がその高騰しそうなのだな?」
「あ、あいや……その……はい」
「我らが持ち込むものはすべて採取によるものですからね。希少なものに需要があっても応えることはむずかしい」
「商人どもに任せてしまうと、金儲けにどれだけふっかけられるか知れたものじゃありませんよ」
「好都合じゃないか」
「お館様ぁ」
「せいぜい高い贅沢税でもむしり取ってやるといい」
そういうと、リュが一際大きな声を上げて笑い出した。
「これはこちらも気を引き締めねば、利益をむしり取られそうだぞ。気をつけろよ、チョ、シッ」
「心得ました」
おっと、この場ですべき発言ではなかったようだ、失言失言。