第39話 くるべき時が来たってやつ?

文字数 2,348文字

 種まきが終わってルンカー造りの蔵も完成した。
 高床式の倉庫もねずみ返し付きで完成した。
 棟梁に指名したルダーに空いた人手の中から何人かを選抜してもらって次の建造物を作ってもらう。

 (もの)()(やぐら)

 村は今、周囲をぐるりと高い塀で囲っている。
 だから外から村の中が見られない代わりに、村の中からも外の様子が判らない。
 そこで見張り台の建設だ。
 正面門の内側に高さ十八シャッケンの高い物見櫓を作ってもらうことで馬鹿正直にやって来る人たちは割と早いうちにその存在を確認できるって寸法だ。
この物見櫓が完成する頃、ようやく村長(ぼく)の館も完成を見た。
 この村唯一の木造二階建ての庭付き一戸建て。
 前世的に言っても夢のマイホームだ。
 しかもバス・トイレ付き。
 風呂は内風呂とはいかず、庭の一角を仕切った五右衛門風呂。
 風呂に入るには薪でお湯を沸かさなきゃならないけど、貴族様でもなかなか利用できない贅沢だってよ。
 中世的文化水準でどちらかといえば西洋的文化様式なのを考えればここらあたりは納得だ。
 この村は、日本にルーツがある前世持ちが多いせいか日本文化にあふれているけどね。
 風呂に入るようになると、みんなの臭いが気になり始める。
 みんなにお風呂を提供するってのはいろいろなことを考えると現実的じゃないので、中央広場の池を「清浄の泉」と呼んで水浴びを推奨することにした。
 けど、女性陣はわざわざ泉から水を汲んで自宅で沐浴(もくよく)するようだ。
 そうだよね、さすがにそうだよね。
 うっかりパワハラセクハラするとこだったよ。
 そうそう、井戸も完成した。
 イラードの進言に従って館の庭にも井戸を掘る。
 この辺りは山の麓にあるからなのか、水にはあまり苦労しないようだ。

 なんて穏やかな村の生活を謳歌していた初夏、ついに物見櫓から報告が入った。

「旅人?」

「四人ほど連れ立ってこの村に向かっているそうで、もう一時間半もすれば村に到着するだろうということです」

「報告ありがとう。門前で一応身体検査をしてから、中央広場で僕が面会しよう」

 報告にきたサビーは頭を一つ下げて館を出る。
 僕はリリムに視線を向け

「どうしよう?」

 と、情けない声を出す。

「決断するのはあなた。私はあくまでナビゲーター。あなたの生存戦略を決定するための知識や助言をするだけなんだから」

 前にも聞いたなこのセリフ。

「むむ……そうだよなぁ」

 判っていたことなんでため息一つで切り替える。

「この村の存在が知られるのは時間の問題だった」

「元キャラバンの口が軽いおじさんがあちこちで話してたって言ってたわね」

「それを確かめに来たと考えて間違いないね」

「でしょうね」

「四人組だって言ってたけど、徒歩なのか乗り物に乗っているのか聞くの忘れてた」

「それ、重要?」

「割と重要」

 移動手段は職業や階級を測る物差しに使えるからね。
 えーと……確か、観測地点の高さから見渡せる範囲を求める計算式ってのがあったなぁ。

 …………。

 あ・これ、星の半径が判らないと正確な数字が出せないやつだ。

 …………。

 とりあえず地球と同じと仮定して、物見櫓の高さが……ここが山の麓だから道の向こうは少し下っているとして……メートル換算じゃなきゃ計算できないのか? これ。
 もう、使えねーなこの知識!

「何を悶えてんの?」

「ほっといてくれ」

 散々うなってようやく前世の単位で答えを出す。
 あくまでもここが地球と同じ大きさの星であることが前提なんだけど、
 だいたい十キロメートル先を歩いているってことになる。
 村に着くまでに一時間半はかかるって言ってたから徒歩だろう。

「それで?半時間もかかって出たた答えは有益な情報になるの?」

 !?
 そんなにかかってたのか……村に着くまであと一時間じゃないか。

「いくらか判ったことがある」

「すごいじゃない」

「もっと褒めていいよ」

「調子に乗りすぎよ。だいたい、こんなに時間かかるんだったら徒歩だったか聞きに言った方が早かったじゃない」

 あ。

 ごほんと一つ咳払いをしたのは気持ちを切り替えるためだ。

「まず、徒歩で歩いているということから考えて領主からの使者という可能性はなくなった」

「どうして?」

「領主がらみの使者は昔から大仰に馬車でやってきた。大抵はその馬車に徴収した農産物を積んで帰るだけで村の実体なんてまったく知らなかったと思うけどね」

「じゃあ、今村に向かっているのはどんな人たちだと思う?」

「そこまでは……ま、一番懸念していた領主がらみじゃなかったんでとりあえず良しだよ」

「気楽ねぇ」

「これっくらいの心持ちでいなきゃ持たないよ」

 僕はかねて用意の村長らしい服に着替えて、中央広場へ向かった。
 村長らしい格好ってのはちょっとした演出ってやつだ。
 これは結構重要な要素で、今の僕はその若さ故に見た目で侮られ易い。
 だから普段着とは違う格好をことあるごとにすることで村の代表であるということを村人に印象付けてきたし、その延長で対外的な権威づけとして今回のような場合にこういう格好をすることにした。
 最大のポイントはさじ加減。
 貴族みたいな格好は村長として滑稽なだけだから、田舎もんとしてはちょっと高級で垢抜けたほどじゃなく、着慣れているというのがミソだ。
 この着慣れのために時々着てたんだけどね。
 中央広場に着くとイラードとザイーダが待っていた。

「来たのは男ばかりの四人組。腕に覚えの旅人という感じですね」

 と、素早く耳打ちしてくれる。
 「冒険者」という言葉が頭の中に浮かぶのはゲーム脳ってやつかな?

「なろう脳じゃない?」

 とリリムに言われて苦笑する。

「間もなくオギンとサビーが四人を連れてやってくるはずです」

「判った」

 さて、面識のない相手と交渉ごとか。
 これ、前世以来じゃないかな?
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