第206話 ジャン、軍を再編する

文字数 2,334文字

 町を陥したと連絡が来たのはそれから二十八日後だった。
 想定より少し時間がかかったのは、単に僕の見積が甘かったからのようだ。
 兵糧的にはまだ十日ほど余裕はあるというが、それは余裕とは言えない。
 僕は事後をルビレルに託し、主だった武将を引き返させる指示を出す。
 ルビレルは町に弓兵三十と槍兵七十を残して軍を引き上げさせてきた。
 わずか百の軍で数百人規模の町の治安維持ができるのか?
 自分の領地ならともかく占領地だぞ。
 まぁ、できると踏んで差配したんだろうから現地を見ていない僕にはとやかく言える筋合いはない。
 軍は九日ほどで戻ってきた。
 行きより早いのは一部整備された街道の効果なんだろう。

「ダイモンド軍ただいま帰着いたしました」

 村に着くと間をおかずに報告に参上する。

「ご苦労。飛行手紙で報告は受けているが、改めて戦勝報告を聞こう」

「はっ」

 ダイモンドはルビレルが合流するまで粛々と街道整備をしながら進軍、かなりの距離を整備したと自慢する。
 合流後、軍を再編して騎兵隊をダイモンドに集中し街道を離れて町を大きく迂回、残りの軍にはそのまま街道を行かせて町まで半日という距離で待機させ、自身が町の反対側の街道に到着したタイミングで挟撃戦を敢行したという。
 なるほど、機動力を活かしてズラカリー区への街道を封鎖する(からめ)()を自分で務めたのか。
 原生林の広がるオグマリー区と違って多少の起伏はあっても荒野であるハングリー区なら、騎兵を十分生かせるからな。
 開戦は(おお)()を任されたルビレルが戦端を開いた。
 町には街道へ続く門が三ヶ所。
 ルビレルがカイジョー隊を残る三本目の街道封鎖に充てて城門に矢を射かけると、救援を呼ぶために開いた門にダイモンドが騎兵突撃、苦もなく城内に侵入すると程なく降伏したという。
 正味半日の攻城戦だったというのだからずいぶんあっさり落ちたものだ。
 ちなみにラバナルはダイモンド隊に参加し、おおいに敵を討ち倒したそうな。

「で、町に残った指揮官はルビレル一人なのか?」

「はい、一人で十分だと聞かず」

「そうか」

 人材不足なことを十分承知の上で主だった武将を返して寄越したのだろうけど、ズラカルト軍が攻めてきた時に本当に防ぎきれるものなのだろうか?

「各村からも武将は引き上げてきたのだな?」

「はい。村は小隊長クラスでも統治できると、これもルビレル殿の意見です」

「人選は誰が行った?」

「このダイモンドが」

 ならまあ、滅多なことで間違いが起こることもないだろう。

「ただ」

「ただ?」

「通り道にない村に攻め入ったオクサ隊にだけは通達が行っておりませんので、オクサ殿とホーク殿は戻っておりません」

「その村はヒロガリー区への出入り口だ。町同様武将がおらねば心許ない。二人には悪いが、しばらくは田舎暮らしをしてもらう」

「その役、このダイモンドに代えていただくことは叶いませんか?」

「田舎暮らしがいいのか?」

「いえ、田舎暮らしがいいというのではなく、オクサはゼニナル町の代官でございますれば」

 ああ、それもそうか。

「では、オクサとホークを呼び戻し、ダイモンドとサビーを派遣することとしよう」

「ありがたき幸せ」

 ありがたきって……やっぱオクサは口実で、戦闘になること望んでんじゃねーの?
 それぞれの思惑はともかく、僕は速やかに兵をまとめ、兵士それぞれの意向を確認させる。
 基本的に僕の兵は徴兵された農民兵だ。
 冬の間はともかく、春には農作業に戻らなければならない。
 けれど占領地の治安維持とズラカルト軍に対する防備には、ある程度の兵力を常駐させておく必要がある。
 そこでまず残る意志のあるものを優先して進駐軍に配属しようという処置だ。
 自ら進んで志願した兵なら士気の極端な低下は抑えられるに違いない。
 そして、彼らは僕の領地で長く開発労働に従事していた人材なので街道整備やため池造成の知識も技術も持っているし、ルダー仕込みの農業もできる。
 彼らなら普段は集落周辺で公共事業に従事し、一朝ことが起これば精強な兵として戦場で戦ってくれるはずだ。
 志願兵は百三十一人にもなった。
 ほとんどは次男三男だ。
 僕の領内はまだまだ開拓余地を残しているので、彼らだって独立することもできるのだけどなにか思うところがあるのだろうか?
 ルビレルとオクサにも意志確認をしてもらったところ合わせて五十八人が残る意志を示しているとの連絡が入った。
 志願兵は総数百八十九名。
 現在町には百人、村には百五十人が駐留している。

「なに、村の守備隊なんざ、五十人もいりゃあ十分ですよ」

 と、サビーが(うそぶ)く。
 たしかにダイモンドもサビーも一騎当千の(つわもの)だ。
 十や二十は一人で相手にできるだろうから、二倍くらいの兵力差までなら対処できるかもしれない。

「判った。では、ルビレルのもとへ兵百、ダイモンドにはサビーと兵五十を預けるのでオクサ隊と交代するように。残りの三十九人はルダーに預けるので三ヶ村の開発に使うといい」

「いざとなったら援軍として働いてもらうぞ」

「志願兵だしな」

 ルダーの(しゅ)(こう)を確認したダイモンドは、五十の兵をまとめて村へ向かって出立した。
 ルビレルに預ける兵百人はノサウスに率いられて出立する。
 町からの帰還兵の引率もノサウスの役目だ。
 ノサウスが帰ってくるまでの間に急ピッチでため池の造成を進める。
 任務から戻ってきたオクサ隊に遅れること九日、ノサウス隊が戻ってきた。

「町の様子はどうだった?」

 と、僕が訊けば、

「さすがはルビレル殿ですよ。すでに町の自警団や傭兵を集めて軍に組み込んでました。今回の百と合わせて百六十人規模の軍になってます。しばらくは治安維持と衛生指導に努めると言ってました」

 さすがはルビレルだ。
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