第23話 戦略会議1 小難しい話
文字数 2,294文字
ジョーはまず、どうしてこうなったかを訊ねてきた。
僕がまずこの村が野盗に襲われて壊滅したこと、がれきの中から使えるものをかき集めて独りで(実際にはリリムと)一冬過ごしたことを説明する。
ジョーは目を閉じ、いい感じに時々相槌を打つ。
相槌のタイミングと回数が抜群で話しやすかった。
それからヘレンが自分の村が襲われた状況、ジャリとジャスに助けられてキャラバンを頼ったことを、ルダーも村を襲われたこととキャラバンに入った経緯を語る。
あれ?
「クレタとカルホは?」
「俺の村の子だった」
と、ルダーが一言付け加える。
「いや、それじゃ判んない……」
言いかけたガーブラをオギンが腿 に手を置きたしなめる。
なんとなく察したからだろうが、僕は知っている。
キャラバンのルートにある村で襲われたのは二箇所。
そしてルダーはキャラバンのルート外の村から来た男で、道中キャラバンと合流したと聞いている。
つまり二人はルダーとは別の村の子だ。
ルダーは二人に話をさせるのは酷だと思い、説明を省いたんだ。
ホラ、伊達に僕も前世で人の親はやってない。
ルダーの考えたことなんかお見通しだぞ。
身寄りの亡くなった子供ってのは確かに大事な村人ではあるけれど、養うとなればなかなか厄介だ。
特に文明水準の高いとは言えない世界で、しかも野盗に襲われた村じゃどんな扱いされるか想像に難くない。
キャラバンに拾われたというか商隊長が不憫に思って声をかけたのだろう。
「あー……で、この村に来たキャラバンの隊長の思惑通りに、この人たちはこの村に住むことになったってわけ」
「え? 思惑通り?」
うん、ジャスには残念だろうけど商隊長の思惑通りだと思うよ。
「なるほど、なるほど」
ジョーはみんなの身の上話を聞くだけ聞いて話し始める。
「ジャンは知っていると思うが、このキャラバンは隣国であるラシュリアナ王国から来ている貿易キャラバンだ」
ちなみに僕らが住んでいるのはリフアカ王国ズラカルト男爵領の小さな集落だ。
「この国で拠点にしていた街が軍に襲われて壊滅した。蔵の商品も軒並み略奪されて大打撃だ。そこで新しい拠点をここにしたいとジャンと相談している」
簡潔だ。
ヘレンの自分の思ったことがちょいちょい入ってきて話がとっちらかって進まないのとは大違いだし、ルダーのように言葉足らずだったり要点が掴めてないのとは大違いだ。
なんというかビジネス慣れしている。
ま、当たり前か、他国まで来て商いをするやり手の商隊長なんだから。
「質問いいか?」
「どうぞ」
「それはオレたちにいいことがあるのか?」
ほぅ、損得を測るとはジャリもなかなかやるじゃないか。
「メリットデメリット半々だな」
「半々?」
「メリットでいえば、多くの人と交流し物流が増える」
「それっていいこと?」
素朴だねぇ、ジャスは。
食って寝るだけの生活なら獣と変わらない。
狩猟採集では生きていくだけで精一杯になりかねない。
日本語で「文化」とは原語の「culture」を訳したものなんだけど、その語源は「cultivate」で「耕す」らしい(はい、前世記憶目録参照しました)。
そして辞書には「学問・芸術・宗教・道徳など、主として精神的活動から生み出されたもの」「世の中が開け進み、生活が快適で便利になること」と書かれていた。
同じく「文明」の原語は「civilization」で語源は「civil」(もっというとラテン語の「都市」「国家」を意味する「civitas」)、文民 統制 のシビルで「住民」とか「市民」のことだ。
こちらも辞書を引くと「文字をもち、交通網が発達し、都市化がすすみ、国家的政治体制のもとで経済状態・技術水準などが高度化した文化をさす」「人知がもたらした技術的・物質的所産」とあった。
ジョーは人的交流で前者が、物流の活発化で後者が満たされるということを説明したわけだけど、この概念って近代以降の思想だよね。
少なくとも日本じゃ西洋文化を取り入れた明治以降の概念だ。
この世界の文化水準ってそんなに高度なのか?
てか、農村育ちの無学なジャスたちに理解できるものなんだろうか?
「なんだかよく判んなかったけど、要するに便利になるってことだな」
すげー、概略から本質を拾い上げたよ、この子。
「そういうことだ」
「じゃあデメリットってのはなんだ?」
ジャリの方は相変わらず慎重というか悲観的な思考をしている。
「村の襲われる可能性が上がる」
あら、単刀直入。
村人の雰囲気が硬くなったじゃないか。
もっとオブラートに包むとか、やりようがあるだろうに……もうジョーったらストレートなんだから。
「じゃあ反対だ」
「まぁ待て、確かに襲われる確率は高まるんだが、襲われた際の対抗手段も講じられるってことでもあるんだ」
「対抗手段?」
「そう。今、村人は君たち八人だけだろう?」
ジョーが村人候補に指名したここにいる三人とあと二人を入れて十三人の予定だけどね。
…………。
リリムも入れとく?
「仮にその状態で村を襲われたらどうやって抗うつもりでいる?」
「それは……」
「拠点にするならこちらも商売だ商品を守るために村の守備を考える」
「ジャリ」
と、僕が声をかける。
「村が襲われる可能性は絶対なくならない。なくならないなら襲われた時どうするかは考えなくちゃならないだろ? 僕はこの村を、みんなを守りたいんだ」
「それでこの人たちに助けてもらうのね?」
クレタはまだ前世記憶が蘇っていないのに賢いな。
「そういうこと。もちろん一方的に助けてもらうんじゃない。こちらもジョーたちを助けるんだ」
「どうやって?」
僕がまずこの村が野盗に襲われて壊滅したこと、がれきの中から使えるものをかき集めて独りで(実際にはリリムと)一冬過ごしたことを説明する。
ジョーは目を閉じ、いい感じに時々相槌を打つ。
相槌のタイミングと回数が抜群で話しやすかった。
それからヘレンが自分の村が襲われた状況、ジャリとジャスに助けられてキャラバンを頼ったことを、ルダーも村を襲われたこととキャラバンに入った経緯を語る。
あれ?
「クレタとカルホは?」
「俺の村の子だった」
と、ルダーが一言付け加える。
「いや、それじゃ判んない……」
言いかけたガーブラをオギンが
なんとなく察したからだろうが、僕は知っている。
キャラバンのルートにある村で襲われたのは二箇所。
そしてルダーはキャラバンのルート外の村から来た男で、道中キャラバンと合流したと聞いている。
つまり二人はルダーとは別の村の子だ。
ルダーは二人に話をさせるのは酷だと思い、説明を省いたんだ。
ホラ、伊達に僕も前世で人の親はやってない。
ルダーの考えたことなんかお見通しだぞ。
身寄りの亡くなった子供ってのは確かに大事な村人ではあるけれど、養うとなればなかなか厄介だ。
特に文明水準の高いとは言えない世界で、しかも野盗に襲われた村じゃどんな扱いされるか想像に難くない。
キャラバンに拾われたというか商隊長が不憫に思って声をかけたのだろう。
「あー……で、この村に来たキャラバンの隊長の思惑通りに、この人たちはこの村に住むことになったってわけ」
「え? 思惑通り?」
うん、ジャスには残念だろうけど商隊長の思惑通りだと思うよ。
「なるほど、なるほど」
ジョーはみんなの身の上話を聞くだけ聞いて話し始める。
「ジャンは知っていると思うが、このキャラバンは隣国であるラシュリアナ王国から来ている貿易キャラバンだ」
ちなみに僕らが住んでいるのはリフアカ王国ズラカルト男爵領の小さな集落だ。
「この国で拠点にしていた街が軍に襲われて壊滅した。蔵の商品も軒並み略奪されて大打撃だ。そこで新しい拠点をここにしたいとジャンと相談している」
簡潔だ。
ヘレンの自分の思ったことがちょいちょい入ってきて話がとっちらかって進まないのとは大違いだし、ルダーのように言葉足らずだったり要点が掴めてないのとは大違いだ。
なんというかビジネス慣れしている。
ま、当たり前か、他国まで来て商いをするやり手の商隊長なんだから。
「質問いいか?」
「どうぞ」
「それはオレたちにいいことがあるのか?」
ほぅ、損得を測るとはジャリもなかなかやるじゃないか。
「メリットデメリット半々だな」
「半々?」
「メリットでいえば、多くの人と交流し物流が増える」
「それっていいこと?」
素朴だねぇ、ジャスは。
食って寝るだけの生活なら獣と変わらない。
狩猟採集では生きていくだけで精一杯になりかねない。
日本語で「文化」とは原語の「culture」を訳したものなんだけど、その語源は「cultivate」で「耕す」らしい(はい、前世記憶目録参照しました)。
そして辞書には「学問・芸術・宗教・道徳など、主として精神的活動から生み出されたもの」「世の中が開け進み、生活が快適で便利になること」と書かれていた。
同じく「文明」の原語は「civilization」で語源は「civil」(もっというとラテン語の「都市」「国家」を意味する「civitas」)、
こちらも辞書を引くと「文字をもち、交通網が発達し、都市化がすすみ、国家的政治体制のもとで経済状態・技術水準などが高度化した文化をさす」「人知がもたらした技術的・物質的所産」とあった。
ジョーは人的交流で前者が、物流の活発化で後者が満たされるということを説明したわけだけど、この概念って近代以降の思想だよね。
少なくとも日本じゃ西洋文化を取り入れた明治以降の概念だ。
この世界の文化水準ってそんなに高度なのか?
てか、農村育ちの無学なジャスたちに理解できるものなんだろうか?
「なんだかよく判んなかったけど、要するに便利になるってことだな」
すげー、概略から本質を拾い上げたよ、この子。
「そういうことだ」
「じゃあデメリットってのはなんだ?」
ジャリの方は相変わらず慎重というか悲観的な思考をしている。
「村の襲われる可能性が上がる」
あら、単刀直入。
村人の雰囲気が硬くなったじゃないか。
もっとオブラートに包むとか、やりようがあるだろうに……もうジョーったらストレートなんだから。
「じゃあ反対だ」
「まぁ待て、確かに襲われる確率は高まるんだが、襲われた際の対抗手段も講じられるってことでもあるんだ」
「対抗手段?」
「そう。今、村人は君たち八人だけだろう?」
ジョーが村人候補に指名したここにいる三人とあと二人を入れて十三人の予定だけどね。
…………。
リリムも入れとく?
「仮にその状態で村を襲われたらどうやって抗うつもりでいる?」
「それは……」
「拠点にするならこちらも商売だ商品を守るために村の守備を考える」
「ジャリ」
と、僕が声をかける。
「村が襲われる可能性は絶対なくならない。なくならないなら襲われた時どうするかは考えなくちゃならないだろ? 僕はこの村を、みんなを守りたいんだ」
「それでこの人たちに助けてもらうのね?」
クレタはまだ前世記憶が蘇っていないのに賢いな。
「そういうこと。もちろん一方的に助けてもらうんじゃない。こちらもジョーたちを助けるんだ」
「どうやって?」