第89話 お館様は自ら夜襲に出かける

文字数 2,145文字

 作戦はこうだ。
 まず、少数で敵陣営に潜入し、兵糧を見つける。
 で、それを焼く。
 あとは逃げ戻ってくるだけ。
 実に簡単だ。

「『簡単だろ?』って気楽にいってるけど、潜入がどれほど難しいか判ってんのかよ、お館様」

 カイジョーがお手上げポーズをとる。
 確かにね、いくら三流軍だって、野営の見張りがないなんてボンクラな体制なんて僕だって思っていないよ。

「難しいのは判っているよ。でも、こちらから仕掛けなきゃジリ貧なのはこっちだろ?」

「そりゃ、確かにそうかもしれないが……」

「と言うことで、僕についてくる人選をお願いしたい」

「お館様が自ら行かれるのですか?」

 なに?
 なにか問題でも?
 なんて、僕が不思議そうな顔をしたらしい。
 イラードは片手で顔を覆って言葉を失った。

「だって、こんな決死隊、僕が率先してやらなきゃ誰が行動してくれるんだよ?」

「確かにな。よし、ワシが付き合ってやろう」

 と、最初に賛成したのはラバナルった。
 なんか浮かべている笑みがマッドだよ。

「お館様が出張るんなら、護衛につくのがあたいの仕事です」

「じゃあ、オレもこの戦の近衛を仰せつかってるんだから同行しないわけにいかないな」

 オギンとサビーも仲間になった。

「じゃあ、四人で……」

 と、言いかけたら

「オレも行く」

 と、手をあげたのがギランだ。
 おっと?
 反お館派の代表としては、僕の手柄は抑えたいってことかな?

「じゃあ、この五人で行くことにしよう」

 決行は四時間後、日本風に言えば「草木も眠る丑満時(うしみつどき)」ってやつだ。
 イラードには門前に投石隊十人と弓兵としてガーブラ、ザイーダ、シメイを配置してもらう。
 カイジョーにはシメイを除くオーダイ、ペギー、アーシカのカシオペアメンバーとバンバ、カレン、ブンターの傭兵で白兵戦に待機してもらう。

 一時間後、決死隊メンバー五人は静かに村の門を出る。

「ラバナル」

「なんじゃ?」

「魔法を使って欲しいんだ」

「どんな魔法じゃ?」

「姿が見えなくなる魔法とか?」

「できん!」

 あー、やっぱり。

「魔法は(ことわり)じゃと、何度も言わせるな」

 理論はある。
 僕の頭の中にね。
 それを魔法陣で構築する必要があるわけで、研究しないと無理ってことだ。

「じゃあ、音を消す魔法は?」

「それならできる」

 言うと、さらさらと魔法陣を描いた。

「ワシを中心に半径三シャル以内の音が消えるが、それでいいか?」

 おっと、まだまずい。

「あ、待って」

「まだなにかあるのか?」

「あと、二つ」

「言うてみ」

「雲で夜空を覆って欲しいのと……」

 と、足元の石を拾う。

「この石に灯りの魔法をかけて欲しい」

「どうして、石に?」

 サビーくん、解説サポートありがとう。

「暗闇を歩くのに灯りは必要だろ? だけど、闇夜に灯りは目立つ」

「小さな光源で足元を照らし、必要に応じて握り隠そうと言うんだな」

 ほぅ、さすがは一派閥のリーダー。
 ギランくんもなかなかやるもんですなぁ。

「そう言うこと」

「フフフ……魔法の使わせ方が面白い」

 ありがとう、ラバナル。

「そうそう、魔法の特性上ワシから離れるほど音を完全に消せないから……」

 おい、そう言う大事な情報は魔法を行使する前に言え!
 他にもなにか注意事項言ってただろ?
 聞こえてないぞ!

(リリム)

 僕は、慌ててリリムを呼ぶ。

(持続時間は三時間)

(え?)

(魔法の効果の持続時間は三時間って言ったのよ)

 そうか、ありがとう。

 僕たちは、街道脇の林の中を粛々と進む。
 音を消す魔法を使っていることをいいことに周囲を気にせず、かなりのペースで歩く。
 とは言っても、雲に遮られた暗闇の下で林の中の雪中行軍だ。
 道を歩くようなわけにはいかない。
 はぐれたりしないように互いの腰を縄で繋ぎ、黙々と歩くこと二時間くらいだろうか?
 ようやく野営の灯りが見えてきた。
 なるほど、こんな近くに野営していたんだ。
 街道脇の林が拓かれている。

 音は消し、暗闇の林に紛れているとは言え、発見されないとは限らない。
 僕たちはそこから慎重に移動して兵糧を探す。

 陣のどのあたりにあるのか?

 常識的に考えると陣の後方かとは思うけど、さてどうだろう?
 注意深く林を進み、陣の後方まできたが、それらしい場所を確認できないまま三時間が過ぎようとしていた。
 あれ?
 ないぞ!?
 僕は、全員に森の奥へと移動するように身振りで知らせる。
 歩く音が少しずつ聞こえてきだしたところで立ち止まり、作戦会議を開くことになった。
 同時に灯りの魔法も効果が切れた。

「なにがあったんだ?」

 と、ギランが問う。

「兵糧がなかったんですよ」

 オギンが答えた。

「さすがにないわけがないだろう?」

「兵糧は当然あります。陣中に見当たらないってことです」

「さて、どこにあるかじゃの?」

 それが問題だよね。
 考えるための情報が必要だ。

「百五十人規模の軍の兵糧だ。何日分持ってきたと思う?」

「奴らが教科書通りに用意しとるとすれば、最低十日じゃの」

 そうなの?

「野戦十日に籠城二十日。ワシが人族と戦をしとった頃の話じゃがな」

 籠城二十日は短くない?
 まぁ、いい。
 朝晩として三千食、一日三食なら四千五百食分の食料なら荷車で十や二十じゃきかないはずだから見落としってことは絶対ない。
 どこだ?
 どこに保管している?
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