第329話 ルダーの提案 1
文字数 2,078文字
朝夕の寒さも和らいできたある日、朝の撃剣稽古をそろそろ終いにしようかと思っていたところに来客の報せがきた。
「お館様。ルダー様がお目通りを願い出ております」
謁見の間で待っているように指示を出し、汗を拭って着替えをする。
「朝イチとはまた珍しいな」
上座に据え置かれた床几に腰を据えると、板間に平伏していたルダーが顔を上げる。
「お館様にお願いいたしたき儀があって推参いたしました」
さすがは大河ドラマ大好きおじさんだ、仕草や作法が時代劇がかっている。
僕もばあちゃん子だったんで時代劇は大好きだ。
ここはノってやろうじゃないか。
「聞こう」
ルダーがいうにはオウチ領とオッカメー領の検地と開拓に大動員をかけたいので許可をもらえないかという、まぁ要望だ。
「何人規模を考えているのか?」
「されば三千」
「ふかしおるわ」
サイオウ領の現在の人口は二万余り。
一割以上の住民を見知らぬ土地に強制的に移住させるなんて、無理な話だ。
そもそもサイオウ領自体人口が少ないことから開発の余地を大いに残しているだけでなく、昨年の出兵以来千人規模の兵を最前線に残したままになっている。
「代わりにオウチ領から二千、オッカメー領から五百をサイオウ領に連れてきます」
「オウチ領はともかくオッカメー領は形式上オッカメー季爵の領地だが、移住などさせられるものか?」
「どの領地でも、その土地の嫌いなものは一定数おるものでございます」
む。
真理だ。
「コンドー」
名前を呼ぶと、スッとそばに近づいてくる。
「イラードをここへ」
「かしこまりました」
「ご検討いただけますので?」
「必要なのだろう?」
と、ニヤリと笑ってみせると
「ありがたきしあわせ」
大仰に額を床にこすりつけて芝居がかった声色使って一際大きな声を出す。
「カット」の声がかかるのを待っているかのような静寂が謁見の間を支配する。
どれくらいそうしていただろう?
どちらからともなく笑いがこぼれ出し、ひとしきり大笑いをした後、
「いやぁ、お館様との小芝居はいつも楽しくて楽しくて」
とか言ってくる。
「誰もいないのによくやるよ」
「誰かがいたら恥ずかしいじゃないですか」
前世でも今世でも年上なのに立場が上だということで一貫して僕をたててくれるからありがたい。
成人したばかりの僕が曲がりなりにも村長として村の経営をやってこれたのも、彼が僕を村長として尊重してくれたからだし、立場があがるたびに臣下としての立ち居振る舞いで上下関係を示し続けてくれたから今の僕があると言っても過言じゃあない。
ほんと、感謝してもし足りない存在だ。
コンドーがイラードとチカマックを連れて戻ってくるまでとりとめのない(前世の)昔話をして過ごした。
主に昭和の時代劇の話だ。
やれ遠山の金さんは梅之助がいいだの、いやいや杉様のお白洲での啖呵には男も惚れるだの、そういえば子供番組に千代之介が出ていただのと前世の記憶が欠けることなく思い出せるのは転生者特権でとてもありがたい。
最近はなかなか暇もないけれど、いつでも映画やテレビ番組を思い出せるしなかなかどうしてチート能力かもしれない。
内部構造など記憶にない知識は再現できないし、知っていても再現できるとは限らないどころかこちらの世界では再現できないものもあるので決して無双できる能力じゃないけどね。
「イラード様、チカマック様。ご到着いたしました」
露払いに入ってきたコンドーの言を聞いて、ルダーは僕の正面から席を立ち、下手にどけて座り直す。
二人が僕の正面についたところで居住いを正し、少し声を張り気味にルダーが二人を労う。
「お忙しい中お呼びだてして申し訳ございません」
「いえ、なんでも住人を集団で引越しさせたいとか」
と、チカマック。
「はい」
と、ルダーは改めて自分の案を説明する。
「なるほど。意図は判りましたが人数は承服できかねる。ルダー殿、その数字には根拠はあるのですか?」
「そう言われると確たるものはありませんな。強いて言うならある程度まとまった人数を揃えなければ、事業に地元民を巻き込めないと言う判断……と言ったところでしょうか?」
アシックサル領の町の数は十六。
二十一町あるサイオウ領より街の数は少ないけれど、一つ一つは規模が大きい。
周辺の村も含めて住民人口は現在調査中であるが、アシックサル家が把握していた分だけで三万六千人であることを考えれば、ルダーの提示している三千人でも数字だけを見比べれば少なく感じる。
あの痩せ地にこの人口ではアシックサル季爵も大変だったろうよ。
だからと言って同情はしないけどな。
ああ、そうか。
「ルダー」
「は」
呼ばれたルダーが僕の方にわずかに向き直り頭を下げる。
「今のオウチ領の収穫量はいかほどか?」
「検地がすんでいないのではっきりとはいえませんが、戦をしなければ食べるには困らない程度かと」
「それは今のオウチの生産技術での話だな?」
「御意」
「サイオウの食料に余力は?」
「戦がなければ秋までオウチも養えますが、秋の収穫が今年も豊作とは限りませんぞ」
厳しいなぁ……。
「お館様。ルダー様がお目通りを願い出ております」
謁見の間で待っているように指示を出し、汗を拭って着替えをする。
「朝イチとはまた珍しいな」
上座に据え置かれた床几に腰を据えると、板間に平伏していたルダーが顔を上げる。
「お館様にお願いいたしたき儀があって推参いたしました」
さすがは大河ドラマ大好きおじさんだ、仕草や作法が時代劇がかっている。
僕もばあちゃん子だったんで時代劇は大好きだ。
ここはノってやろうじゃないか。
「聞こう」
ルダーがいうにはオウチ領とオッカメー領の検地と開拓に大動員をかけたいので許可をもらえないかという、まぁ要望だ。
「何人規模を考えているのか?」
「されば三千」
「ふかしおるわ」
サイオウ領の現在の人口は二万余り。
一割以上の住民を見知らぬ土地に強制的に移住させるなんて、無理な話だ。
そもそもサイオウ領自体人口が少ないことから開発の余地を大いに残しているだけでなく、昨年の出兵以来千人規模の兵を最前線に残したままになっている。
「代わりにオウチ領から二千、オッカメー領から五百をサイオウ領に連れてきます」
「オウチ領はともかくオッカメー領は形式上オッカメー季爵の領地だが、移住などさせられるものか?」
「どの領地でも、その土地の嫌いなものは一定数おるものでございます」
む。
真理だ。
「コンドー」
名前を呼ぶと、スッとそばに近づいてくる。
「イラードをここへ」
「かしこまりました」
「ご検討いただけますので?」
「必要なのだろう?」
と、ニヤリと笑ってみせると
「ありがたきしあわせ」
大仰に額を床にこすりつけて芝居がかった声色使って一際大きな声を出す。
「カット」の声がかかるのを待っているかのような静寂が謁見の間を支配する。
どれくらいそうしていただろう?
どちらからともなく笑いがこぼれ出し、ひとしきり大笑いをした後、
「いやぁ、お館様との小芝居はいつも楽しくて楽しくて」
とか言ってくる。
「誰もいないのによくやるよ」
「誰かがいたら恥ずかしいじゃないですか」
前世でも今世でも年上なのに立場が上だということで一貫して僕をたててくれるからありがたい。
成人したばかりの僕が曲がりなりにも村長として村の経営をやってこれたのも、彼が僕を村長として尊重してくれたからだし、立場があがるたびに臣下としての立ち居振る舞いで上下関係を示し続けてくれたから今の僕があると言っても過言じゃあない。
ほんと、感謝してもし足りない存在だ。
コンドーがイラードとチカマックを連れて戻ってくるまでとりとめのない(前世の)昔話をして過ごした。
主に昭和の時代劇の話だ。
やれ遠山の金さんは梅之助がいいだの、いやいや杉様のお白洲での啖呵には男も惚れるだの、そういえば子供番組に千代之介が出ていただのと前世の記憶が欠けることなく思い出せるのは転生者特権でとてもありがたい。
最近はなかなか暇もないけれど、いつでも映画やテレビ番組を思い出せるしなかなかどうしてチート能力かもしれない。
内部構造など記憶にない知識は再現できないし、知っていても再現できるとは限らないどころかこちらの世界では再現できないものもあるので決して無双できる能力じゃないけどね。
「イラード様、チカマック様。ご到着いたしました」
露払いに入ってきたコンドーの言を聞いて、ルダーは僕の正面から席を立ち、下手にどけて座り直す。
二人が僕の正面についたところで居住いを正し、少し声を張り気味にルダーが二人を労う。
「お忙しい中お呼びだてして申し訳ございません」
「いえ、なんでも住人を集団で引越しさせたいとか」
と、チカマック。
「はい」
と、ルダーは改めて自分の案を説明する。
「なるほど。意図は判りましたが人数は承服できかねる。ルダー殿、その数字には根拠はあるのですか?」
「そう言われると確たるものはありませんな。強いて言うならある程度まとまった人数を揃えなければ、事業に地元民を巻き込めないと言う判断……と言ったところでしょうか?」
アシックサル領の町の数は十六。
二十一町あるサイオウ領より街の数は少ないけれど、一つ一つは規模が大きい。
周辺の村も含めて住民人口は現在調査中であるが、アシックサル家が把握していた分だけで三万六千人であることを考えれば、ルダーの提示している三千人でも数字だけを見比べれば少なく感じる。
あの痩せ地にこの人口ではアシックサル季爵も大変だったろうよ。
だからと言って同情はしないけどな。
ああ、そうか。
「ルダー」
「は」
呼ばれたルダーが僕の方にわずかに向き直り頭を下げる。
「今のオウチ領の収穫量はいかほどか?」
「検地がすんでいないのではっきりとはいえませんが、戦をしなければ食べるには困らない程度かと」
「それは今のオウチの生産技術での話だな?」
「御意」
「サイオウの食料に余力は?」
「戦がなければ秋までオウチも養えますが、秋の収穫が今年も豊作とは限りませんぞ」
厳しいなぁ……。