第198話 魔法のご使用は効果的に。
文字数 2,446文字
朝、関門の裏に歩兵が集結している。
今日も敵の投石機から打ち出される大きな石が関門の城壁を叩いている。
「指揮官がすべて戦場に討って出て大丈夫なのですか?」
と、心配しているのはルビンスだ。
「大丈夫だ、心配ない」
「むしろ、先陣切って乗り込む大将にこそ兵はついてくると言うものだ」
ダイモンドとオクサが揃ってそう言う。
僕もそう思う。
というか、むしろ肉弾戦中心の戦争で先頭に立たない大将なんか兵卒に信頼されないだろ。
それに、十人全員が一度に能力向上魔法を使うわけじゃない。
先鋒は五人。
僕とルビンス、チカマックが能力向上改で、オクサとラビティアが能力向上極みを使って戦場に殴り込む手筈になっている。
効力が切れる前に残りの五人が乗り込んできて交代するって寸法だ。
この作戦の肝は……
「お館様。サビーから奇襲成功の連絡が入りました」
ナイスタイミング!
この作戦は朝駆けで敵の奇襲部隊を奇襲し、叩いておく必要があった。
グッジョブだよ、サビー、ガーブラ。
「敵将討ち死に。現在、潰走した敗残兵の掃討を行っているそうです。なお、ガーブラが能力向上改を使ったため戦闘不能、本陣に帰投させるとのことです」
「味方の損害は?」
「死者十五名」
「……そうか」
わずか百四十で四百相手に戦ったにしては上出来だろう。
「この戦果を喧伝すれば、敵は撤退しないでしょうか?」
僕もそれは考えた。
けど、
「おそらくルビンスの進言通り、奇襲失敗の報が入れば敵軍の撤退する可能性もおおいにある。だか、予定通り反転攻勢をかける」
「なぜでしょう?」
「我らがこの冬、ズラカルト男爵領に侵攻する予定だったことを忘れたか、ルビンス」
「お館様はこの機に敵兵をおおいに叩いておこうという肚づもりよ」
ダイモンドが槍を扱 いてニヤリと笑う。
伊達にオルバック軍で三本の指に入る豪傑じゃないってことか。
「なるほど、ただ撤退させてしまうと戦力を多く温存させてしまうことになって、こちらから侵攻する際に大戦力と対峙することになる」
「そうだ。だからお館様は有利な状況で少しでも戦力を削ってしまおうという戦略をお立てになられておるのだ」
「それにしても、お館様は最奥の村の農民の出と聞いているが、まだ若いのに大した軍略家ですな」
オルバック家では作戦の立案にも参加していたというオクサがいう。
それは誉めているのか?
それとも裏があると思っているのか?
まあ、正解は四十過ぎまで歴史オタクとして生きてきた前世持ちってことで。
「お館様。そろそろ投石も止みそうです」
そこに城壁の上から報告が入った。
先陣を切る五人に能力向上の魔法がかけられる。
順番を待っている間に居並ぶ兵卒に向け檄を飛ばす。
「よいか、今日この一戦で勝敗を決するぞ。手柄を立てよ! 立てれば必ずそれに報いて見せようぞ!」
「おおっ!」と鬨の声が上がる。
「いざ、門を開け!」
この戦いで一度も開かなかった門が開けられる。
能力の向上した五人を先頭に門の前に整列する兵士たち。
僕はラバナルに拡声 の魔法を使ってもらい、数歩進んで口上を述べる。
「やあやあ遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ! 我こそはオグマリー領領主ジャン・ロイ! この首、取れる者なら取ってみよ!!」
「突撃ぃ!!」
ルビレルの号令一下、僕ら騎兵はホルスに鞭をくれる。
ドドドと音を立てて騎兵が敵部隊に突入する。
これまで頑なに門を閉ざして防戦してきた僕らが一転、攻勢に出たことに驚いたのか?
反応が遅れた敵歩兵は自慢の盾を構えるのが間に合わず、騎兵の突入を許す。
まぁ、最初に突入したのが加速の魔法が付与されたホルスに跨るオクサとラビティアなんだから当たり負けも仕方ないかもしれないな。
魔法のご使用は効果的に。
穿たれた穴に突き進む騎兵部隊は敵の陣を割っていく。
能力向上改で普段より一割筋力もスピードも反射神経もよくなっている僕らはホルスを降りて槍を振り回す。
たった一割というなかれ。
僕らは三人ともそもそも一般兵に遅れをとるような戦士じゃない。
それが普段より一割素早く強く動けるんだから一度に三人でも四人でも相手ができる。
大将首と見て群がる敵兵をルビンス、チカマックの二人に背中を預けてバッタバッタと殴り倒すし突き殺す。
チラリと視界の端に入ってきたバニキッタ兄弟は加速ホルスの突進力と能力向上極みの効果で三割り増しの身体能力でまさに蹂躙しているじゃあないですか。
槍で人を突き上げて、文字通り天高く吹っ飛ばすとか、あなたたち本当に現実世界の人間ですか!?
いや、確かにここは異世界ですけども。
…………。
魔法、すげーな……。
とはいえ、戦力差が戦力差である。
連日の戦闘による死傷と奇襲兵に五百は割かれているとしても二千もの兵が残っていたズラカルト軍に対して、我が軍は八百余り。
その八百にしたって四割は魔法部隊と弓兵なんだから、いくら一騎当千の豪傑が活躍しようと歩兵騎兵だけの突撃戦はこちらにずいぶんと分が悪い。
それでも頑張れ、歩兵部隊。
奮戦しているとジャーンと大きな銅鑼の音が響く。
魔法をかけてから半時間が経過したという合図だ。
合図があると残りの五人が魔法をかけてもらうために一時的に戦線を離脱する。
ここがもっとも踏ん張らないといけないところだ。
ここで戦線を持ち堪えなければこの作戦が失敗に終わる。
城壁から魔法部隊の援護射撃が敵後方に向けて発射された。
これで少しは敵の圧力が緩和されるに違いない。
いい判断だ。
指揮をしているのは誰だろう?
「お館様! 戦場で思考を飛ばされますな」
おっとそうだった。
サンキュー、ルビンス。
いやあ、戦場ではほんと大活躍だね。
気を引き締め直したところで、敵の圧が少し弱まる。
来たかっ!
ぐるりと周囲を見回すと、右側でバニキッタ兄弟が相も変わらず敵を薙ぎ倒していたし、左側にはダイモンドが横薙ぎ一振りで三人五人と吹き飛ばしていた。
「お館様」
今日も敵の投石機から打ち出される大きな石が関門の城壁を叩いている。
「指揮官がすべて戦場に討って出て大丈夫なのですか?」
と、心配しているのはルビンスだ。
「大丈夫だ、心配ない」
「むしろ、先陣切って乗り込む大将にこそ兵はついてくると言うものだ」
ダイモンドとオクサが揃ってそう言う。
僕もそう思う。
というか、むしろ肉弾戦中心の戦争で先頭に立たない大将なんか兵卒に信頼されないだろ。
それに、十人全員が一度に能力向上魔法を使うわけじゃない。
先鋒は五人。
僕とルビンス、チカマックが能力向上改で、オクサとラビティアが能力向上極みを使って戦場に殴り込む手筈になっている。
効力が切れる前に残りの五人が乗り込んできて交代するって寸法だ。
この作戦の肝は……
「お館様。サビーから奇襲成功の連絡が入りました」
ナイスタイミング!
この作戦は朝駆けで敵の奇襲部隊を奇襲し、叩いておく必要があった。
グッジョブだよ、サビー、ガーブラ。
「敵将討ち死に。現在、潰走した敗残兵の掃討を行っているそうです。なお、ガーブラが能力向上改を使ったため戦闘不能、本陣に帰投させるとのことです」
「味方の損害は?」
「死者十五名」
「……そうか」
わずか百四十で四百相手に戦ったにしては上出来だろう。
「この戦果を喧伝すれば、敵は撤退しないでしょうか?」
僕もそれは考えた。
けど、
「おそらくルビンスの進言通り、奇襲失敗の報が入れば敵軍の撤退する可能性もおおいにある。だか、予定通り反転攻勢をかける」
「なぜでしょう?」
「我らがこの冬、ズラカルト男爵領に侵攻する予定だったことを忘れたか、ルビンス」
「お館様はこの機に敵兵をおおいに叩いておこうという肚づもりよ」
ダイモンドが槍を
伊達にオルバック軍で三本の指に入る豪傑じゃないってことか。
「なるほど、ただ撤退させてしまうと戦力を多く温存させてしまうことになって、こちらから侵攻する際に大戦力と対峙することになる」
「そうだ。だからお館様は有利な状況で少しでも戦力を削ってしまおうという戦略をお立てになられておるのだ」
「それにしても、お館様は最奥の村の農民の出と聞いているが、まだ若いのに大した軍略家ですな」
オルバック家では作戦の立案にも参加していたというオクサがいう。
それは誉めているのか?
それとも裏があると思っているのか?
まあ、正解は四十過ぎまで歴史オタクとして生きてきた前世持ちってことで。
「お館様。そろそろ投石も止みそうです」
そこに城壁の上から報告が入った。
先陣を切る五人に能力向上の魔法がかけられる。
順番を待っている間に居並ぶ兵卒に向け檄を飛ばす。
「よいか、今日この一戦で勝敗を決するぞ。手柄を立てよ! 立てれば必ずそれに報いて見せようぞ!」
「おおっ!」と鬨の声が上がる。
「いざ、門を開け!」
この戦いで一度も開かなかった門が開けられる。
能力の向上した五人を先頭に門の前に整列する兵士たち。
僕はラバナルに
「やあやあ遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ! 我こそはオグマリー領領主ジャン・ロイ! この首、取れる者なら取ってみよ!!」
「突撃ぃ!!」
ルビレルの号令一下、僕ら騎兵はホルスに鞭をくれる。
ドドドと音を立てて騎兵が敵部隊に突入する。
これまで頑なに門を閉ざして防戦してきた僕らが一転、攻勢に出たことに驚いたのか?
反応が遅れた敵歩兵は自慢の盾を構えるのが間に合わず、騎兵の突入を許す。
まぁ、最初に突入したのが加速の魔法が付与されたホルスに跨るオクサとラビティアなんだから当たり負けも仕方ないかもしれないな。
魔法のご使用は効果的に。
穿たれた穴に突き進む騎兵部隊は敵の陣を割っていく。
能力向上改で普段より一割筋力もスピードも反射神経もよくなっている僕らはホルスを降りて槍を振り回す。
たった一割というなかれ。
僕らは三人ともそもそも一般兵に遅れをとるような戦士じゃない。
それが普段より一割素早く強く動けるんだから一度に三人でも四人でも相手ができる。
大将首と見て群がる敵兵をルビンス、チカマックの二人に背中を預けてバッタバッタと殴り倒すし突き殺す。
チラリと視界の端に入ってきたバニキッタ兄弟は加速ホルスの突進力と能力向上極みの効果で三割り増しの身体能力でまさに蹂躙しているじゃあないですか。
槍で人を突き上げて、文字通り天高く吹っ飛ばすとか、あなたたち本当に現実世界の人間ですか!?
いや、確かにここは異世界ですけども。
…………。
魔法、すげーな……。
とはいえ、戦力差が戦力差である。
連日の戦闘による死傷と奇襲兵に五百は割かれているとしても二千もの兵が残っていたズラカルト軍に対して、我が軍は八百余り。
その八百にしたって四割は魔法部隊と弓兵なんだから、いくら一騎当千の豪傑が活躍しようと歩兵騎兵だけの突撃戦はこちらにずいぶんと分が悪い。
それでも頑張れ、歩兵部隊。
奮戦しているとジャーンと大きな銅鑼の音が響く。
魔法をかけてから半時間が経過したという合図だ。
合図があると残りの五人が魔法をかけてもらうために一時的に戦線を離脱する。
ここがもっとも踏ん張らないといけないところだ。
ここで戦線を持ち堪えなければこの作戦が失敗に終わる。
城壁から魔法部隊の援護射撃が敵後方に向けて発射された。
これで少しは敵の圧力が緩和されるに違いない。
いい判断だ。
指揮をしているのは誰だろう?
「お館様! 戦場で思考を飛ばされますな」
おっとそうだった。
サンキュー、ルビンス。
いやあ、戦場ではほんと大活躍だね。
気を引き締め直したところで、敵の圧が少し弱まる。
来たかっ!
ぐるりと周囲を見回すと、右側でバニキッタ兄弟が相も変わらず敵を薙ぎ倒していたし、左側にはダイモンドが横薙ぎ一振りで三人五人と吹き飛ばしていた。
「お館様」